人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ヴリトラ【そろそろ試練も大詰めじゃ。カルデアめ、やはり見ていて楽しいのぅ】

クリームヒルト【最後にとびきり野蛮なのが残ったわね…】

ヴリトラ【うむ、うむ。最後の竜に全てをひっくり返される可能性も大いにある。油断せず、まだまだ見させてもらうとしよう】

クリームヒルト【…最後になられたら困るわ。非常に困るわ】

ヴリトラ【まぁ、そうはならんじゃろう。難しいことはない。ただ──勝てばよいだけなのじゃから。き、ひ、ひ…!】


竜の厄災

『ぐはは、ようやくのお出ましかカルデアの者達、並びに我が朋友ども、そしてオニキュアよ。大々的な宣言をぶち上げてやっただけあり、総力を集わせてきたようだな!大変結構!それでこそ立ち塞がりがいがある!!』

 

ドラランドの中心、パレードロード。誰もが目を奪われる絢爛豪華な行列が進むその道は、たった二つの存在に占拠されていた。パレードのガーディアン・ドラゴン…殿堂王ボルバルザーク。それに対抗する、カルデア勢力。まどろっこしい試煉や段取りは全て排されているため、彼に挑むことを残すのみ。暴虐にして無双たる彼の計らいは、ただ闘争と勝利にのみ注がれていた。到来した最高の好敵手に、彼は剥き出しの闘志を向ける。

 

『さぁやるぞ!!俺様か、貴様らか!勝った者が未来を築き明日を作る!!俺様らが果たせなかった創生、未来への闘争!ここに開幕を告げるのだ!!』

 

『ちょっと待て!!』

 

『んん!?』

 

待ったをかけるボルシャック。ボルバルザークは意外げにつんのめりながらも言葉を聞く姿勢を見せる。彼は極めて荒々しく粗暴だが、仲間である者の言葉は聞き届ける程度の自制と理性は持ち合わせていた。

 

『ボルバルザーク。尋ねるがお前はあのスサノオドラゴンがどういうものかを理解しているか?アレが俺らの世界にとって、どういう意味を持ちどういう結果をもたらすのか』

 

それはカルデアの意向である確認、世界を巡る戦いに部外者を作らぬ計らいだ。彼が何のために戦うのか、世界を取り戻す事を望むのか。確認は絶対に必要な事項であるが故の確認。

 

『空想樹という、俺様らの世界を汎人類史に変えうるもの。サタンとやらが用意した異聞帯救済装置。それがどうかしたか?』

 

驚くべき事に、ボルバルザークはその事を委細把握していた。それがどういったもので、どう作用し何をもたらし、世界に何を起こすのか。完全に理解していたのだ。

 

『全部解ってるのかお前…!ならお前は望むのか?俺らの世界が正しい歴史になることを。空想から現実になることを』

 

ボルシャック、いや…カルデアからの問いに再びボルバルザークは首を傾げる。何をわけの解からんことを、と心底言いたげな態度で。

 

『滅びた世界、わざわざ墓を掘り返してなんとする。敗れ去り敗北したのであれば、そんなものを蘇らせたところで邪魔になるだけであろうが、ボルシャック』

 

『お前…』

 

『よく聞け者共よ。この世界の真理とは闘争だ。戦い、勝ち取り、負けた者は消え去る。そのシンプルにて絶対の理こそが嘘も偽りもない純粋な真理であり、俺様はそのように戦ってきた。勝利し、制覇し、奮起し、手にした!その果てに俺様らの世界が滅びたのであれば、それは勝者に与えられた勲章であり必然だ!我等の世界は闘争と勝利の果てに滅び去ったのだ!その事実を覆すということは、俺様らの奮闘と戦いを否定し無に返すも同じ!故にこそ!悩む余地など何処にもないし揺らぐ理由が俺様にはよく解からん!何を悩む必要などがある!?』

 

ボルバルザークもまたドラゴンだ。その精神性は人間と一線を画している。彼は闘争と勝利の果ての全てを信奉していた。その果てに齎されたものが滅亡、剪定であろうと。彼はその無慈悲な王冠を誇りと掲げていたのだから。

 

『俺様らの世界の戦いが、俺様らの世界の滅びが勝利の果てにあるとするならばそれは栄光なのだ!闘争と勝利、もたらされしものに疑問や不満の交じる余地などどこにもない!勝利の果ての結論であるならば俺様らの世界の滅びは真理であり帰結!異論の余地などどこにもない!お前たちもそうだと思っていたが何を悩んでいたのだ?俺様と栄誉を同じくせし同胞にして覇者よ!』

 

『いやまぁ、それはそうなんだが。お前は俺達以上に迷うことも悩む事もなかったわけか…』

 

彼はとうに、滅びも剪定も受け入れていた。彼としてはすべての文明を消し去った事は闘争の誉れであるのだろう。故に、世界の行く末などは彼にとっては些末な事だったのだ。

 

『理解したようだな、ボルシャック。俺様にとって必要なことは闘争の結果、帰結、勝利のみ!他の事など些事、些末!俺様が命果て、倒れ伏した世界こそが覇を掴むべき歴史であり、それは今より決定する!なァ、カルデアよ。虹の文明よ』

 

「!」

 

ボルバルザークは闘争と勝利にのみ意味と価値を見出す。自らの世界において勝利により世界を塗り潰した。光と闇を除く水、自然を全て叩き潰した彼が見ていたもの。それは──。

 

『ボルシャックにボルメテウスが宣っていた虹の文明。見聞を飛ばしてみればなるほどこの世界の多様性は素晴らしい。兵器、闘争、戦争、同種族の殺し合い!我等の世界など及びもつかぬ戦いに満ち満ちており、お前たちもその文明にて新たなる力を見出した!そうだな!!』

 

「将軍ドラゴンや、イカルガドラゴンの事を…!」

 

『水も、自然も、闇も、光も、全て俺様達が勝ち踏み潰してきた文明だ!今更そんな者らを蘇らせたところで見知った戦いの再演となるだけだ!誰がそんなつまらん結末を取り戻したいものか!過ぎ去った過去に用はない。何故なら今!この瞬間に!!俺様が挑むべきものが、文明が存在しているのだから!!』

 

『ボルバルザーク、貴様…!』

 

ボルメテウスは理解した。ボルシャックやバザカジールが虹の文明の明るい陽の部分に感銘を受けたのであるならば、ボルバルザークは陰の部分に共鳴したのだと。

 

『今この瞬間にも殺戮と闘争の純度を研ぎ澄ます虹の文明よ!俺様はそんな研鑽された貴様らの全てに挑む腹積もりだ!老若男女、森羅万象、大小の区別なく貴様ら全てに挑み!戦い!そして勝ってくれよう!!』

 

今なお生きる歴史への闘争。彼が見出した救いとは鉄風雷火の暴風が如き闘志であった。世界の全てを滅ぼし尽くした様に、闘争の果てをこの世界でも見ようというのが彼の理論であった。

 

『生き残った者が歴史の覇者を名乗るがいい!ボルシャックよ、貴様らが虹の文明を護ると言うならば、俺様はそれら全てに敵対しよう!お前たちとは味方であるゆえ、稚拙な小競り合いしかしてこなかった!心置きなく面白い戦いができそうだからなァ!』

 

「なら───あなたを真正面から叩きのめせば、私達がその先に進むべきって認めてくれるんだね」

 

『ぐははははは!そういう事だカルデアの人間!そもそもこんな会話こそ煩わしい、歴史の行く末、世界の覇権など口先で決められる筈があろうか!少なくとも俺様は知らぬ、それ故に世界は劫火に包まれ滅んだのだからなぁ!』

 

ボルバルザークから荒れ狂う魔力の奔流。竜の形をした汎人類史にとっての厄災が、目覚める。

 

『さぁ、十分に語らったな?対話で互いを分かり合えるという概念は否定はせん。不倶戴天を痛感するという結末は互いを理解したが故に起こりうるものよ!まどろこしいおためごかしなど捨て置け、意志を通すならば帰結するはこれのみよ!!』

 

最早戦う他に道はない。ボルバルザークは相互理解に戦いを求める、何よりも荒々しい業火そのものだ。虹の文明に仇なす焔そのものなのだ。

 

『ボルシャック!ボルメテウス!バザカジール!貴様らが護りたいと願うならば立ち塞がるがいい!望み通り占ってやろう、生き残るべきは火か!虹か!!』

 

『あぁ───どうやらぶん殴って止めるべきはテメェって事がよぉく解った。この世界で俺等の愚行を再現するってんなら、まずはテメェを潰す!!』

 

「皆、行くよ!目標──殿堂王ボルバルザーク!!」

 

『生き残りし者が!歴史の覇者よ!さぁ──行くぞ!!』

 

今ここに、破滅の種火を消し去る戦いが始まる!

 

 




ボルバルザーク『ぬぅうぁあああああああああああ!!!』


ロマニ『なんだ!?ボルバルザークの魔力が爆発的に高まっていく!?これは、まさか…!』

瞬間、世界が書き変わる。なんの障害もない赤く染まった空に大地。どこまでも広がる戦いの場。

ボルバルザーク『虚飾も不備も不要だ!さぁ戦うぞ…我等が世界にてなぁ!!』

ロマニ『固有結界だって──!?』

魔術の秘奥すら披露するボルバルザーク。それはまさに、最大の決戦の始まりを意味していた──!

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