人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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天空

バザカジール『…来たか』


ボルシャック『バザカジール!来たぜ!!』

ボルメテウス『少し不格好だが、許せ』

ミラルーツ『私はただのカルデアスタッフとして飛んでるー。年齢制限もこれなら平気!』

バザカジール『…ならば、一思いにやるといい。我は抵抗せぬ』

ボルシャック『待て待て。やりたいことはそうじゃねぇ!』

バザカジール『?』

ボルメテウス『皆でやりたいことがある。それは…』

ルゥ『酒盛り!』

バザカジール『…酒盛り…?』




孤独の終わり

「じゃあ、ええね?かるであと、がぁでぃあんどらごんの出会いを祝して〜?」

 

「「かんぱーい!!」」

 

「マジかお前……」

 

温羅がこの上ない程に呆れやドン引きの感情を織り交ぜた呟きも無理はない。酒呑童子が考えたという妙案、バザガジール・ドラゴンを制する秘策を目の当たりにし、心の底から困惑しているのだから。それは勿論、正攻法などではない。ジェットコースターに真正面から挑むというものでもない。ならば、その手段とは一体何か?

 

『おうおう!ジャンジャン騒いで歌え!今回は俺等の背中を貸し切るぜー!』

 

『主砲を壊していたのが幸いだな…今の改修前の姿だからこそ、バザガジールほどではないにせよ…十分に露店の役割は果たせよう』

 

『私の背中でモロコシは食べちゃだめよ。駄目だからね!』

 

そう…ボルシャック、ボルメテウス、そしてニャルの推薦により招かれ乗り気になってくれた祖龍、ルゥと共にバザガジール・ドラゴンの周囲をフライトすることであった。それだけならばむしろロマンチックですらあるのだが…。

 

「これも邪神のツケで!あれも、これも、それも全部ツケでお願いします!」

 

「XX、食べ過ぎで鎧が着れなくなるのは困りますからね?お父さんはいつもカード払いですからきっとツケでも大丈夫…な、筈です」

 

「田村麻呂!ほらあたしとアテルイが選んだたこ焼きと鯛焼き!食べてみ?絶対美味しいからさ!」

 

「あーんや口移しは鈴鹿さんだけに頼んでくださいね。夫婦なのですから」

 

「サンキュー鈴鹿!ありがとよアテルイ!間を取っておめーらが食べさせっこすりゃ完璧じゃねぇの?」

 

「リッカ、どう?イカ焼きとか好き?」

 

「食べれるものはだいたい全部好きだよ!」

 

「流石先輩!全てをエネルギーに変えるのですね!」

 

なんとバザカジールの上で屋台や催しを盛大に開く祭りを開催したのである。飲めや歌え、食って騒げのどんちゃん騒ぎ。ドラゴンの背中で行われる無礼講。ジェットコースターがバザカジールの背中であればこその大いなる破茶滅茶な催しだ。夕暮れに差し掛かる焼けるような橙色が、一同の大騒ぎを照らしていく。

 

「うふふ、どぉ?誰も殺さへん、傷つけん。最適解って言ってもええんちゃう?」

 

それらの目論見は酒呑童子の提案だ。前もって温羅が編み込んでおいたオニキュアの衣装を身に纏い、萃香や勇儀に酒を振る舞っている。余程自信があったのか、胸を張り鼻を鳴らし相当に自慢気に温羅に力説してみせる。

 

「あぁ、予想なんて欠片も出来なかったぜ。まさか倒すべき、或いは乗り越えるべきドラゴンの背中で盛大な祭りをやろうだなんてな…」

 

「せやろ?病は気からって人間は言うんやって。なら竜も同じちゃう?うち、そう思ったんよ。だから…飲んで、歌って、思い切り騒ぐ。そうしたら、ばざがじるはんも元気、出してくれはるんやないの?ねぇ?」

 

辛いことはいつまでも引きずるものではない。悼み、偲び、そしていつか乗り越えて受け入れる。素面や普段では難しいのなら、美味しい酒やお祭りはきっとそれを助けてくれる。オニキュアとしてか、それとも最強の鬼たる風格か、酒呑童子は選択したのだ。忘れるのもいい。騒ぐのもいい。だが、それが終わったら歩き出せ…と。

 

「少なくとも、バザカジールの旦那をそのままぶん殴って万事解決!…よりはめちゃくちゃアタシ好みだぜ。アタシってか、楽園好みってやつか」

 

「うっふふふ。せやろ?はぁ、良かった。毎度毎度温羅はんにまとわりつく靄も今はおらんし、出し抜きしてやったりって感じやねぇ。うふふ」

 

何故か猛烈に上機嫌な酒呑童子に水を射す理由もない。温羅はリッカや同郷のドラゴン達を信じ、そしてあまりに高い標高から落下する者を出さないよう、酒は飲まず素面に徹する。

 

『たかーい』

 

「待てカグツチ、待て!身を乗り出すな、流石にこの高さから落ちては助からぬ!吾から離れるな!離れるでないぞ!よいな!」

 

【イザナギとの國造を思い出す…】

 

『どの世界であろうと、自然の持つ魅力というものは変わらぬな。母よ』

 

「ほら、見てみ?茨木や温羅はんの親御さんも楽しそうにしてはって…少しはうち、やるやろ?せやからあんなようわからん靄やのうてもっとうちを頼り?」

 

「お前…あぁ、そうか。ギルガメッシュ王の幼年と青年みたいなもんか」

 

酒呑童子の言う『もや』。伊吹童子が何度も口にした『じっとりとしたもの』。その関係性に得心が行く温羅。なんとも不思議な事があったものだと仕切りに頷く。

 

「おーいうらー!酒をつげー!つぐんだぞー!」

 

「おかわり頼めるかーい?どうか頼むよ、せっかくこんな高い場所で飲むんだ、とびきりの酒が飲みたいねぇ!あんたの桃源神酒とかさー!」

 

「ほら、行かんでええん?酒切れたらあれ、終いには多暴れるするんやないやろか?」

 

「そりゃやべぇ!紫とアイツの分をさっさと確保して向かわなきゃな!」

 

温羅は一度剣と拳を売り子として封印し、広大な背中の露店を生かすための奮闘に映ることとなる。

 

「ちょっとぐらいは、癒やされてくれたらいいよな…」

 

願わくば、かの魔剣が収まるべき所に収まらんことを。温羅はただ、散っていった者達に正しく報いる選択をバザカジールが選ぶことを、祈るばかりであった。

 

 

『……………懐かしい、な』

 

背中で繰り広げられるどんちゃん騒ぎ、或いは喧騒。その賑やかさにバザカジールは一言を漏らす。

 

『あぁ。戦勝の宴も日頃の触れ合いの時も、お前の背中は大人気だったもんな。こっちの皆も、陽気さではいい勝負かもな?』

 

雄大なバザカジールと、その周囲を飛ぶボルシャックとボルメテウス。彼等はこうして飛んだことが何度もある。戦いのあとの宴は、いつだってバザカジールの背中が賑わっていた。

 

 

『かつての喧騒…この世界における喧騒…どちらも得難いものだ。お前達は、この活気を護ることを選んだのだな』

 

バザカジールの言葉に、ボルシャックとボルメテウスは強く頷く。それが、異聞帯の客人たる自身が成すべき事であると。

 

『オレらは滅びた世界からやってきた。もうオレらの世界は無かった事にはならん。あの悲しみも痛みも苦しみも、ずっとずっとオレらの中で痛み続ける』

 

『だからこそだ、バザカジール。だからこそ我々には出来ることがあるはずだ。この世界にて知った希望にあふれる者たち。そんな彼等の笑顔と幸福に、我等の二の轍を踏ませないという役割が』

 

ボルシャックも、ボルメテウスも、やり直しは望んでいない。失われたものは失われたものであり、今ある世界に持ち込んではならない。そう考えた彼等は導きに報いようとしている。即ち、この世界の救済だ。

 

『…お前たちの言葉は理解できる。…だが、我はもう…』

 

理解している。竜たるものであるなら、彼等のように勇壮に、雄々しく、堂々と立ち上がるべきなのだと。

 

しかし、喪失の瑕疵が手から、心から、力を奪う。護りきれると告げられぬ。再びの別離の恐怖が、バザカジールを蝕み続ける。

 

『おーい、ちょっといいかしらー』

 

そんなとき、間延びした自然体たる一声がかけられる。純白の身体に四つ角、真紅の瞳を持つ流麗かつ美麗なドラゴン…ミラルーツが首を伸ばす。

 

『お、スサノオと雰囲気そっくりなドラゴン様。どうした?』

 

『無礼だぞ、ボルシャック。この御方は龍の原始体。我等の上位種でもあるのだ』

 

『いいのいいの、人間社会でそんな立場どうでも。バザカジールくんだっけ?リッカから伝言あるの。聞いて?』

 

ミラルーツはリッカより言葉を託されていた。透き通るような声音とあどけなさと無邪気さを兼ね合わせたその有り様は、不思議と愛らしさと親しみやすさを孕む。

 

『えっとね。『バザカジールさんへ。あなたにはカルデアに来てほしいです。それは戦うためじゃなくて、あなたが大切に思う全てを悼み、弔うために』』

 

『!』

 

『『カルデアに求められるのは強さだけじゃありません。弱いものを護り、失ったものを悼めるあなたのような優しさは、世界を救う戦いにおいて忘れてはいけないものだから』』

 

『……そう言ってくれるのか…』

 

『『そして、もし来てくださるなら…一緒に悼ませてください。滅びてしまった者たちへ。あなたが護りたかった者たちへ。私達は、ただ戦うために集められたわけじゃありません。あなたの苦しみを、分かち合わせてはくれませんか?』』

 

リッカの伝言…それはこっそりエアと考えたものだ。誰かを尊び、重んじる。死に尊厳は宿る。それを、リッカはエアの力を借りて伝えたのだ。

 

『メッセージおわり!どう?ちゃんと言えてた?』

 

『バッチリだぜルゥちゃん様!』

 

『見事な玉音でした。感謝いたします』

 

『良かったぁ。気が向いたらまたメッセージ呼んであげるね』

 

ムフ、と鼻を鳴らす祖龍。バザカジールはただ、面を伏せていた。

 

『…私は…』

 

強さではなく、優しさを。かつての世界では彼と周囲だけしか持たなかったものを、この世界の者たちは持っている。

 

バザカジールは揺らいでいた。傷と、使命。もう一度──弱者を護らんとする決意の狭間で。




ルゥ『あ、そうだ。ドラランド回ってたらね、カードショップあったの。そこの店長、ザキーラって人から預かりものあるんだった』

ボルシャック『預かりものぉ?』

ルゥ『見せるね。はい』

そして差し出されたものに──バザカジール、並びにボルシャック、ボルメテウスは瞠目する。

バザカジール『…ファイアー、バードたち…!』

それは、ドラゴンの友たる種族ファイアーバード。かつて共にあった弱きものたちが、カードの枠であの日の姿で記されていたのだ。

ボルシャック『ルピアじゃねぇか!あぁそうか、こっちにはいるよなぁ!』

ボルメテウス『そうか。カードとして…こちらではたしかに存在していたのか』

ルゥ『うん。どう?カルデアの戦いは、このカードに宿る魂も護る戦いだよ』

バザカジール『……、……』

ルゥ『二度目の守護、皆で成功させられたなら…素敵じゃない?』

バザカジール『……ルピア。皆……』

…バザカジールは静かに涙を流した。体は震わせず、伏して泣いた。泣き続けた。

どのような形であれ、彼等は存在している。人々と共に、生きているのだから。

ボルメテウス『………』
ボルシャック『相変わらず、泣き虫だよなぁ…』

バザカジールの涙は、月が顔を出してもなお止まらなかった。そう…パレードが始まる頃合いになるまで、いつまでも。

バザカジールは…魂の再会に、涙を流し続けた…。

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