人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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温羅「ばかやろうっ!」

伊吹「いたぁあぁーいー!?ちょっぴり本気でぶったぁー!?」

温羅「オニキュアの誓いを口にしといて素で喋るとは何事だばか!オニキュアが酒を飲むわけないだろが!」

伊吹「だってぇー!温羅どこにもいないんだもんー!会いたかったんだもーん!」

温羅「それは悪かった!お詫びの瓢箪だ!」

伊吹「やたー!オニキュアショー終わりに乾杯しましょうね♪」

リッカ「温羅ネキ!伊吹ねぇさん!」

伊吹「あ!リッちゃーん!やほー♪」

温羅「リッカ!雲隠れしてすまん!それは説明する!それと先に言っとく!アタシはボルバル、バザガジール、スサノオ、残った最後にしか手を貸せん!」

リッカ「うぇ!?」

桃子『皆に心配かけて、どういう事?リッちゃんに説明して』

温羅「オーナーと…取り決めたんだ」

リッカ「お、オーナー!?」

〜高所

酒吞「…なんや、凄い耳鳴りしたわぁ…なんやったん?あの耳障りなの…」


魔王の盟約

数刻前──

 

【オニキュアの誓い、忘れないでねー!】

 

「あのバカ…公共放送で役者が役名で話すやつがあるか!」

 

急激かつ鮮烈に行われた園内放送。温羅を呼ぶために使われたそれは確かに彼女の下へと伝わっていた。温羅自身は洗脳や監禁されているわけではなく、彼女は彼女としてこの特異点に顕在している。

 

「そういう訳なんだ。アタシは皆の場所に行かにゃならん。…だから送り出しては貰えんかい?」

 

だが、彼女は物理的に赴くことが出来ないでいた。彼女は監禁ではないが動けぬ状態…軟禁、いや『歓待』を受けていたのだから。その相手が、何者かといえば限られる。

 

「バアルさんに、ダンテ。いやさ…サタンだっけか。いつの間にかいた、楽園を取り巻くだれかさんよ」

 

【……】

 

一流のVIPを招く部屋に、向かいに佇む者。執事服に身を包んだ黒き男性。そして…

 

【もう少し!もう少しだけ待ってほしいんだ!そう、ガーディアンドラゴンが最後の一人になるまで!】

 

彼女に頼み込む、詩人衣装の金髪の少年。サタンを名乗る彼は、ドラランド全域を管理するモニタータブレットを所持しており、出来事を異彩把握している。オーナー、といった立場にいることは見て取れた。そんな彼等が、温羅を一人特殊な部屋に招いていたのである。彼女がドラランドのどこにもおらず、呼びかけに答えないのはそういった事情があったのだ。

 

「〜。調子狂うな…洗脳なりなんなりならやりようがあったんだがよ。誠心誠意のお願いとあっちゃぁ無下にはできないしなぁ」

 

そう、温羅はオニキュアとしてリッカ達に合流し皆をオニキュアに巡り合わせるつもりであり、ガーディアン・ドラゴンにも率先して討伐を協力する腹積もりであった。本来であればオニキュア全員でボルシャックに挑む予定だったはずが、彼女にサタンとベルゼブブは接触しこう言った。

 

【少しだけ、僕達のお願いを聞いてもらえないかな?】

【カルデアに必ず理がある提案であるものと、約束する】

 

VIPルームに招かれ、提案された条件は【試練が最後の一人になるまで事態を静観してほしい】とのもの。初手の合流と、特異点での活躍を封じるものだった。当然温羅としては何を温いことをと断ずる提案であったが…カルデアの理になると言われれば、耳を傾けぬわけにもいかず。

 

【良かったぁ。君は本当に話が解る鬼だね。流石は鬼神様!】

 

話してみれば全く邪気もなく、悪意も感じぬ童のような物言いのダンテとやら。だが、直感であり確信として、相容れぬ存在というのを温羅は感じ取りつつサタンに問う。

 

「あのなぁ…別にアタシは盤上を荒らしたいわけじゃないし、ドラゴンを皆殺しにしたいわけじゃない。単にオニキュアって催しを、とびきりの舞台でやりたいってだけだ。お前さんらが楽しみにしてるカルデアの踏ん張りを取り上げるつもりなんてさらさらないし、特異点自体をブッ壊すつもりだってない。道理は弁えてるつもりだなんだがな」

 

そう、彼女が招かれた理由は唯一つ。『強すぎる』一点に尽きるのだ。彼女が率先する可能性、それは即ちサタンが望む楽園が挑み紡ぐ足跡が破壊されてしまう可能性に他ならない。故に温羅は、サタンが持ち込んだ願いに足止めされていたのだ

 

【それは解ってるつもりだよ。でも、君はちょっと他の鬼とか、サーヴァントとか、生き物とかと別次元の存在すぎるからさ。ちょっとの間違いで、せっかく皆が頑張って築いたものを壊しちゃったら嫌でしょ?僕にとっても、君にとってもさ】

 

「アタシがそんなに考え無しの馬鹿に見えるのかい?」

 

【思わない思わない!でもさ、『鬼』ってそういう、やりたいことしかやらないお馬鹿さんばかりだから、一番強い君がそうだと困るかなって思って】

 

随分と同族を貶してくれるが、悪意が微塵もないが故に挑発の意味合いもないと判断し気を荒立てぬ温羅。そしてそれで、彼の人物像を掴む。

 

(生き物を種族単位で見下すことをなんとも思ってないのな…伝承の大魔王の前身は傲慢の悪魔か。納得だな)

 

そんな傲慢の大魔王が、何故カルデアに固執するのか。敵対者の立場でありながら、何故カルデアに対する行為が穏便かつ友好的なものばかりなのか。読めぬ箇所はいくつかあるが、彼女としては立ち塞がらなければ倒す理由もない。

 

(案外、カルデアが気に入ってるってだけなのかもしれないがらなぁ)

 

そんな、あり得る可能性を思えば実力行使をする気にもならず、ひとまず穏便にしていると、サタンなるものは提案を寄越す。

 

【でも友達が呼んでるんだよね?ならいいよ!行ってあげて!】

 

「お、おぉ…?」

 

ここまで引っ張っといていきなり放逐かい!あまりに無秩序かつ無軌道な思考回路がまるで読めぬ温羅は困惑を隠せない。なんだこいつは?何がしたい?

 

【サタン様、しかしそれでは…】

 

【いいんだよ、ベルゼブブ。僕達の意志は伝えた。ならきっと、彼女は汲み取ってくれる筈さ】

 

彼が言わんとしていること。合流しても、最後の一体になるまで力は貸さない。全部一人で解決しない。そういった、楽園における戦略兵器戦力に相当する者への願い。ロマニ、ギルガメッシュに連なる姫や英雄神とは違う、絶対強者故の最強の暴力装置たりえる温羅への意見。

 

【皆と力を合わせてほしい。至らないからといって君がやってあげず、皆で乗り越えてほしいんだ。どうにもならない時に君が力を振るってあげてほしい。僕等のお願い、聞いてくれる?】

 

「勿論だ。というか、頼まれるまでもねぇよ」

 

そもそも自分は楽園の一員なのだ。端からそんな出過ぎた真似などする筈もない。この旅路は皆が織り成すもので、自分の武勇伝になどしていいはずがない。

 

【良かったぁ!じゃあ行ってあげて。皆によろし…】

【内密に頼む。せめて、オーナーと話を付けていたと】

 

【ベルゼブブの言うとおりにお願いね!じゃあ、はい!】

 

サタンがぱん、と手を叩く。すると…独りでに『空間が裂ける』

 

「温羅!無事かしら!」

「紫!」

 

そこから慌てたように出てきたのは紫であった。汗をかいて慌てている様子から、音信不通になった温羅を血眼になって探していたのだろう。

 

「スキマをこんなに酷使したのは久し振りよ…。私に黙っていなくなるなんてどういうつもり?もう!」

 

「悪い悪い。ちょっと…」

「?」

 

「───オーナーと、話してたのさ」

 

もう既に、サタンとベルゼブブは空間から消えていた。だが消え去る刹那にサタンは微笑んでいた。

 

【約束、守ってくれたね。ありがとう!】

 

なんの邪気も感じられない、なんの掴み所もない、それでいて…紫の能力も、あらゆる感知や干渉もすり抜ける驚異的な力を示し消えた、あの少年のいた場所を見やる温羅。

 

「オーナーと?どういうことかしら。ショー会場の交渉?」

 

「そんなところだ。じゃあ伊吹のおバカに役者としての常を教えてカルデアと合流を…ん?」

 

いつの間にか、机に置かれたデータUSBメモリを温羅は手に取る。

 

「失われた文明技術一覧…?」

「それもオーナーの置土産かしら。あなたに復興させてほしい文明があるんじゃない?」

 

紫の言葉、温羅はそれを正解と信じ懐にしまう。あの輩、どうやらカルデアに纏わることに嘘はつかないことはなんとなく読み取れたのだから…きっとこれは、拘束料か何かなのだろう。

 

「そういう事なら預かるさ。悪い紫、皆のとこに連れてってくれ!それと、必死に探してくれてありがとな!」

「必死にもなるわよ。あなたは私の親友だし、妖怪皆の希望なのだから」

 

「へへ…同じ気持ちだぜ!」

 

そして彼女は帰参する。カルデアの参列者として、またオニキュアとして。

 

…彼と交わした約束を、得も言われぬ不気味さと共に抱えながら。




管理室

サタン【げ、ほっ】

クリームヒルト「どういう事?何故ジークフリートがあの特異点にいるの?あなた言ったじゃない。ジークフリートは入らせないって?どうしてなのかしら?何故?なんで?」

サタン【だって、おはなし、したほうがいいかなって…】

サタンは、魔剣で身体を真っ二つに寸断されていた。いや…五体はまともな人体を保てていなかった。

ベルゼブブ【……】

クリームヒルト「えぇそうねあなたはそうよマスターとは名ばかりで私の邪魔ばかり何故なのどうしてなのなにゆえとかいて何故と読むのねぇどうして!!」

サタン【かふ、──っ】

「お願いだから邪魔をしないで何もしないで私の要石以外の役目をしないで目障りなのよ鬱陶しいのよ本当に不快よ不愉快なのよ解る!?解るわよね!?ねぇ!?」

惨殺。そう呼称しかできない惨劇に起きながらもサタンは告げる。

サタン【お話、できた?】

「────」

【仲良くしてほしいと、思ったんだけどなぁ…】

「──それはあなたが、勝手に!思っただけでしょう!!自分の思いが一番で、他の事なんて何も考えてないくせに!!」

ベルゼブブ【クリームヒルト】

クリームヒルト「何っ!?」

ベルゼブブ【死んでいる】

クリームヒルト「……。…………」

…サタンの亡骸を後に、クリームヒルトは立つ。何もなかったかのように。

クリームヒルト「お見苦しいところをお見せしました」

ベルゼブブ【気にするな。私程ではない】

クリームヒルト「ジェットコースターに乗ってきます」

クリームヒルトを見送り。一息おいて…

サタン【ん〜。何で怒ってるんだろう】

バラバラの五体を翼が包み、サタンは何事もないように語る。心臓も、霊格も、脳すらもバルムンクで引き裂かれながらも彼は微塵も揺らがない。

サタン【僕がいいと思ったなら、いいに決まってるのになぁ…?】
ベルゼブブ【カルシウムが足りないのでしょう】

サタン【そっかぁ…】

サタンとベルゼブブは再び傍観に戻る。ヴリトラとクリームヒルトに、ただただ特異点を放任しながら。

──全ては、楽園の絢爛なる旅路の為に。


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