敵もなく、味方もなく、繁栄なく、終わりもない。
ただ、残ってしまった。
戦いに悔いはなかったが…
このまま朽ちていく事には無念があった。
そんな折に、現れたのだ。
暗雲を裂き、神々しく輝きを放つ…
神のような、あの少年が。
『これで、幾度の射撃となったか』
私、ボルメテウスは試練となりカルデアへと立ちはだかっている。ヴリトラの考案した試練体系に則り、攻防とルールを厳格に定めた戦いという形にて、自身の火力を振るい彼等を試している。
カムイの黄金により、本来なら一戦に一度たる主砲も驚異的なスパンで発射が可能となっており、数分に一度主砲による攻撃が行える。彼等が防御を過てば、即座に消失する領域の広範囲消失火焔。この世界でも問題なく振るえるようだ。
『幾度なりとも凌いでみせる。流石はカルデアと言った所か』
もう発射回数は5度に渡り、接敵するには半分に差し掛かろうとする距離へと至った。ビルは魔力にて生成され、発射ごとに凌げるギミックは補充される。殺し合いでない、互いに死力を尽くす場がここにある。
『対空を担うサーヴァント達も侮れん。迎撃が遅れればこちらを穿たれる』
人の身の大きさでありながら、自身を穿つ程の力を有するサーヴァントなる存在。サタンとヴリトラが言うにはこの世界の英雄というものらしい。人に使役されその力を振るうようだが、人の従僕に甘んじる理屈はあまり思いつかない。
『歴史を紡いだ先達として、今を生きる者へ力を貸すのは悪い気はしないのだろうな』
そう納得し、自身らとは違う未来を辿った世界へと相対するボルメテウス。もはや自身らの世界はない。自らの焔で焼き払った故だ。
『世界を救う側の存在に仇なすは、不本意に過ぎると思ったが…どうやらあやつらは、彼等を滅ぼす目的には無いらしい』
サタン、並びにヴリトラも独自に目的を有している。それがどういう訳か、必ずやカルデアを滅ぼすという事には繋がらない、不可思議な行動原理を有していることは見て取れた。
『私にもこうして試練を任せている事と矛盾を感じぬでもないが…』
現に彼等は、一度放てば必滅の白熱を幾度も凌いで見せている。心折れず困難に挑む。その気高き意志は確かに感じ取っている。近付かれきれば自らの敗北とさだめてはいるが…
『滅びるのみだった我等、拾われ命を繋いだは事実。ならばこの試練にて義理を果たすぞ』
既にボルシャックは彼等に与したと聞く。あの痛快無比かつ豪快なアイツが力を貸しているという事実が答えのようなものではあるが、どのような真意であれ、サタンと名乗る少年への恩義を返す。それが今、白熱を解禁している理屈の全てだ。
『さぁ、成すがままかカルデアの勇者達よ。私を乗り越えねば残る者らを下すなど夢のまた夢だぞ』
六度の砲撃が、眼前のすべてを消し飛ばす。そろそろチャージ時間や放射時間を見切り始めた頃合いか。
穴熊など得手ではあるまい。世界を救ったその力を見せてくれ。少なくない期待を抱え、私が顔を上げ構えた──その、瞬間だった。
『むっ…ボルシャックか!』
見れば六百メートルから五百メートルの向こう、空中に顕現する巨大な竜の姿がある。鎧と逞しい四肢、あれは間違いない、我等が頭目ボルシャックの威容。
『真に力を貸すことを決めたようだな。ならばこそ、容赦はせん!』
道は違えていない。私もサタンとカルデア、どちらが真に世界を担うものかは誤らぬつもりだ。何よりあのサタンとやらは空恐ろしい。彼の言葉は心が安らぎ、魂が癒やされるのだ。本来ならば我ら全員が諾々と言葉を聞き入れるなどありえない。だが、彼の提案に逆らおうとする意志すら湧かなかったのだ。
【世界を救って】
彼は言動は支離滅裂で破綻しているが、そうするべき、そうでなくてはと確信させる力を有している。彼の下にいるのはまずい。いずれ体も心も、彼の言葉を求めるようになる。
そうはいかん。この身は竜、魂は火だ。ならばこの全ては正しき歩みを成す者の力となるべきなのだ!誰にも私の誇りを奪わせはせん!
『ボルシャックよ。鳴り物入りはよいがこの距離でなんとするか。お前のレンジは接近戦。私との噛み合わせは良くあるまい!』
何を企んでいるのかは知らぬが、ボルシャックキャノンは近距離制圧の火力武装ゆえ射程は短い。我が主砲をかき消すにはやや飛距離が足りぬ。むしろこちらの対空砲の餌食となるが関の山よ。だが、我等がボルシャックは単純なれど愚かに非ず。必ずや何かあるはずだ。
『さぁ、何をする気かお手並みを…何っ!?』
瞬間、なんとボルシャックが輝き出したのだ。紅き焔を纏い、まるで再び登る旭のように。全身を、灼熱の光が照らしていく。
『何をする気だ…?だが、安々とはやらせん!』
少なくとも見掛け倒しはありえまい。ならば当然指を加えて見るはずもない。対空砲を総動員し、ボルシャックを阻む弾幕を有す。
『なんと!』
しかしそれらはなんと、蒼き斬撃や十字架を示した防護により阻まれてしまったのだ。人の身で対空砲なれども打ち払うことを叶うとは。まさに英雄、英傑の働きに他ならない。こんな局面において、称賛と礼賛を浮かべてしまうは自身の悪癖だろう。
『あの、姿は…!?』
そして、光が収まった頃合いに再び現れたボルシャック。しかしその姿は、自身が知るものとはあまりにかけ離れていた。アーマー…鎧。見たこともないような鎧を有し、両手にブレードを握った、威風堂々たる姿。黒刀、将軍の様な出で立ちの、新たなるボルシャック。
『力を手にしたのか、カルデアにて!』
その言葉と同時に、ボルシャックが斬撃を振るうのを認める。それらはボルシャックファイアに通ずるほどの超絶火力の斬撃。対空では防ぎ得ない一撃だ。
選択を迫られる。主砲にて迎撃するか、あえて受け主砲を温存するか。一瞬にも満たぬ思案の末──
『ボルシャック!お前の新なる力、受け止めるが礼儀と言うもの!』
即座にエネルギーをフルチャージし、ボルシャックの斬撃を主砲にて迎撃することを選択した。ビル群からやや上、ボルシャックのみを狙い、斬撃を軌道に入れた最大照射。
『さぁ見せてみろ!刹那的でない、勝利のための戦いを!』
激突、爆発。その余波にて吹き飛ぶ全て。驚くべき事に、ボルシャックは遠距離においても無双の火力を手に入れたのだ。主砲すらも斬り伏せる、火炎の斬撃を。
『このままではチャージタイムに抜かれる。だが、させん!』
ボルシャックとの友誼、カルデアへの期待、そして自らを掬い上げたサタンと自由意志を認めたヴリトラ。それらに全て応えるために私は即断する。
『ぬぅう…!』
肩のキャノンを破棄し、その火力を全て主砲チャージに回す。ここに来て掟破りの主砲連射を私は選択した。止めるにはまだ時間がかかる距離、これは防げまい。試練とは、全霊をかけねば務まるまい…!
『カルデアよ、受けてみるがいい…!これが最後の白熱…!』
臨界寸前にまで、エネルギーをチャージ。後は防御が勝るか攻撃が勝るか、といった局面──その時だった。
『な──』
ボルシャックが、振りかぶった。何かを握り、大きく勢いをつけるかのように振りかぶったのだ。なんだ?なんの真似だ?何をしている?
…私の思考が空白になった瞬間を、ボルシャックは逃さなかった。彼は全身全霊で『ソレ』を投げたのだ。ある意味それは、距離など意味を介さぬ起死回生の最適解。
『なん、だと──!?』
投げたのは『人』だ。人間だ。白き鎧に身を包んだ、龍たる者。それらを抱えるように、蒼き鎧の麗人が姿勢制御に随伴しているのか。まさかこれは──!
『特攻だと!?馬鹿な…!』
有り得ぬ、まずあれは間違いなくカルデアのマスターだ。万が一にも白熱に晒されれば消え去る生身、鎧など意味を成さぬは理解しているはずだ。サーヴァントの背後にて、彼等を繋ぎ止める要石に徹するべき存在のはずだ。そんな輩がボルシャックに投げられ、サーヴァントに抱えられ音速を超えこちらに何を──
『まさか!!』
まさか、まさか!『討ち果たせるというのか』!?その手段があるというのか、人間なるその身に、竜を打ち払う手段が!?
私はもはや尋常な思考を維持できなかった。その奇策はあまりに鮮烈で、意外で、蛮勇で、何よりも──
『チェエェエェエェエストォオォオォオォオォオォオッ!!!!』
その人龍が抜き放った紫電の一撃は、我らが体躯をも断ち切らんばかりの威容となって私の主砲を切り裂いた。回避叶わぬ、神速の一閃。
『ぐあっ───!!!』
何よりも───勇敢であった。自らを貫く衝撃すら、及ばぬ程に。
『筋金入りの、バカだったか…』
倒れ伏しながら、合理性の欠片もない秘策に私は、最大限の称賛を贈ったのだった──。
きっと驚くよ。君の力を振るう場所にピッタリだからさ!
だから戦ってみて、何が凄いのか、絶対わかるはずだから!
──あぁ、骨の髄まで。
とびきりの、そして筋金入りの…勇者と書いて馬鹿と読む輩達だよ──
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