人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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クリームヒルト「それでは、お願いします。きっとうまくやってくださいね?」 

?「きひひ、任せるがよいわ。楽しく苦しく愉快な試練。それでよかろう?」

クリームヒルト「万事任せます」

サタン【へー、何やるつもりなの?】

クリームヒルト「縊り殺す前に…偵察をしておこうかと」

サタン【へー。やっぱり復讐に関してはなんでもやるしできるんだね!】

クリームヒルト「嫌味はやめてください反吐が出ます。眩しいので早急にさっさとどこかに行って私のマスター」

サタン【酷いなぁ。じゃあこっちも色々やっとくね!】

クリームヒルト「…おぞましい人。何をするにも自身が一番だなんて」

(…私は違う。きっと、違う筈だから…)


極北開園ドラランド〜オニキュアオールスターと超絶無比のドラゴンズ〜
帰郷〜孝行鬼神〜


「ほう…。外の世界でも暴れることなく、理性をもって振る舞っているようだな。何よりだ、温羅」

 

源氏の騒乱、紫から秘宝を預かった温羅は夏草を一旦離れ、自らの故郷へと足を運んでいた。一年中花が咲き乱れ、桜が舞い散る風流明媚の桃源郷…彼女が終生の故郷としている、その名の通りの理想郷。人の善性が集う場所だ。

 

「あのなぁ、アタシは一度も理性を手放した事ぁねぇよ。そうだから散々苦労したんだろうが」

 

温羅の抗議に、炊きたての飯をよそりながら肩をすくめるのは温羅の親に当たる存在、アマノザコである。かつて異聞帯を代表し楽園と壮絶な死闘を繰り広げた妖怪の主にして、神そのもの。今は神の座を手放し、この桃源郷にて彼女の母と過ごしている。そう…異聞帯における死の女神、伊耶那美命とだ。

 

異聞帯におけるイザナミは、夫の不義理に世界を呪った事で世界を魑魅魍魎の魔界と変えた。そこは人は家畜以下の消耗品である阿鼻叫喚の地獄そのもの。アマノザコは母たるイザナミの為に世界を手に入れんと、温羅を作り自らすらも若返らせた。

 

だが…最後にアマノザコは母への親愛を認識し、彼女を慮った伊耶那美命が敗北を認めたが故に敗退。王の裁定により、この桃源郷にて隠居し静かに暮らしている。ここは、居場所なき者や弱きものを優しく受け入れる場所である。それ故、神の座を降りた彼女らがこの場所にて穏やかに暮らしているのだ。

 

「苦労した原因は理性ではないな。こうして我等に会いに来る世話焼きぶりがお前を苦労させるのだ」

 

「あー、それならいいんだ。誰かの力になるのを苦労と感じたこたあねぇからな」

 

アマノザコと伊耶那美命は、異聞帯の住人たる温羅の数少ない同郷の存在である。だからこそ、それは家族と言えるべきものであろう。温羅を助けてくれた家族は別にいるが、それはそれとして…血の繋がりは確かに存在するのが彼女らなのだから。

 

「ふ…ならば奮闘し続けるといい。愚痴くらいはいつでも聞いてやる」

 

「おー、じゃあ頼むわ。紫の奴がついつい本心を隠そうとする癖があるとか、そういう色々な話を持ってきたからさー」

 

温羅は紫の扇子を使い、帰郷を果たしている。手回しのいいことに、温羅が使えばそれはどこであろうと桃源郷へと繋がる機能を有していた。景清に奪われ、想定外の事態となってはいたが…彼女は友人にだけは、嘘は言わなかったということだ。

 

「あぁ、聞かせてもらうとしよう。お前の人生の事象を」

 

温羅の前に料理を出し、向かい合って聞き手に徹するアマノザコ。彼女は汎人類史の発明、特に美食を心から愛しあっという間に料理技術を確立させていたのだ。彼女は汎人類史の多様性、そして何よりも「美食」に心奪われた。彼女の世界では食事や糧とは弱肉であり、料理は愚か食という概念すら無かった。だか汎人類史の美徳、即ち美味しさに触れ…そこに真理と人類愛を見出したが故。彼女は料理というもの、ひいては汎人類史というものを美味なる歴史と呼んでいるのだ。

 

「おうよ。でさー。何遍言っても胡散臭さが抜けきらないもんだから本人も気にしてるのか、聞いてきたんだよ。逆にどうしたらいいと思う?ってさ。いやそれを考えるのはお前じゃないのかい!って思わず突っ込んじまったよ」

 

「ふふ…そうか」

 

自らが作り上げ、そして唯一生まれた魂であるがままに振る舞う温羅。彼女は星の全てを束ねつくられた鬼神である。本来ならば汎人類史を狂わせ破壊する存在の筈だった。

 

それが今、こうして汎人類史に巡り合い、自らの生き方を定義している。彼女は理性を手放さなかったと告げたが、それは決して過ちでも誇大主張でもなんでもない。狂える存在と産み出されながら、ただの一度も狂乱に落ちなかったもの。それが一番の狂乱であると世界に認められるほどの徹底した理性と思案の鬼。それが、目の前にいる存在である。

 

そんな彼女が、楽しげに自らの体験談や隣人関係、汎人類史における居場所を見出しその事柄を伝えに来る。その事実が、何よりもアマノザコの心を湧き立たせた。

 

「でな、夏草って場所は桃源郷に負けず劣らずいい場所なんだよ。今度皆で遊びに行こうや!」

 

「簡単に出入りできたら、幽閉の意味がないだろう」

 

「心配すんなって、許してもらうまで王様に土下座だ土下座!それに、今更世界をどうこうすることなんかないだろ?」

 

話題を見つけ、会話を繋げ、場をもり立てる。一足前には殺し合いをしていた仲だ。すぐに完璧な家族…というわけにはいかない。

 

しかし、彼女が…私利私欲と都合で生み出された彼女が自分を母と、家族と呼んでくれていること。気を遣い、そして労りをもってやってきたこと。そして、彼女自身が楽しげと言うこと。老醜の呪いを受けていた醜女の頃とは何もかもが違う、その奇跡こそを彼女は噛み締めていた。たとえ不慣れな家族への話題の提供が、いまいち下手だったとしても。

 

「あぁ。その時…許されたその時。必ずや一緒に行こう。私と、母上と…お前とで」

 

「そこに桃子とお供、カルデアの皆も入れといてくれよな?一生忘れられなくしてやるから覚悟しとけ!」

 

その他愛ない、なんのとりとめもない会話にアマノザコは幸福を見出す。そして感謝を。自分と母が生きているのは、娘が人生を謳歌しているのは、この美味なる歴史の深さあればこそだと。

 

「あぁ。母ともども…楽しみにしておこう」

 

それがなんの意味も含めず、単なる約束であっても。それはかけがえのない母子の絆となる。アマノザコは、自らの娘のさらなる奮闘と躍進を祈っていた。

 

「そういやぁ、伊耶那美さんはどこに行ったんだ?姿が見えないけどよ」

 

誤解を招かぬように振り返ると、伊耶那美命は二人いる。カルデアにいる愉快なおばばを自称する生命の女神たるイザナミ。そしてこちらは死と黄泉を支配する伊耶那美命。分岐したのは、自らのいない世界を憎悪したか否かである。

 

「そう簡単に家事をやらせたりしていい存在ではないからな。普段は自室にいてもらっているが…」

 

大きな違いをあえて伝えるなら、イザナミは肝心なときにしか役に立たない女神であるが、伊耶那美命は肝心な時にやらかしてしまう女神…といったところがある。

 

【アマノザコ!た、たいへんだ…!】

 

そうして慌てて2階から端末を持ってせわしなくやってきた伊耶那美命を見れば、しかし根っこは同じと理解できるだろう。彼女は血相を変え、まくしたてる。

 

【汎人類史の私が…初の写真集を出すという…!おばば女神イザナミ、年寄りの冷や水…などと!】

 

「う、うむ…大した行動力だな」

 

「あのお婆ちゃん日本で一番偉い片割れの一人なんだよな…?」

 

【破廉恥なポーズや映り込みとか、あるのか…?私、大丈夫なんだろうか…?不安で夜しか眠れぬぞ…!】

 

尊大な物言いだが、言っていることやニュアンスはだいたい同じである。要するに、生来争いなどには無縁な存在なのだ。

 

「大丈夫だ、母よ。イザナミはきっとうまくやるだろう」

 

「お、おう!女神の中でもずば抜けて美人なんだから行けるって!絶対やれるさ!八百万の皆もそう言ってる!」

 

【そうかな…?そうかも…?】

 

後押しする二人、首を傾げる当事者の並行存在ら、この二人が、温羅の血縁とも呼ぶべき存在である。

 

(すまんな、温羅)

 

(まー気にすんな。イザナミお婆ちゃんがあんなんなのはよく知ってるからさ。こっちも割とそうなのか?)

 

(こちらほどひどくはないが…片鱗は、ある)

 

(そっかー…ま、そこんとこもしっかり見せてもらうわ!)

 

【部屋着はジャージとかで良いではないか…えっ、そんなの着るの…!?】

 

自分の破天荒に振り回される祖母の姿に、苦笑交じりに約束を取り付ける温羅であった。

 

彼女もまた、敬うべき家族。そして温羅は次なる計画…何をするかという問題を思案するのであった…──

 




自室

温羅「とは言ったものの、夏草は最近騒がせすぎたからな…なんなら専用の特異点でも出りゃあ話は早いんだがな…」

(いやいや、特異点なんぞ親孝行どこじゃ無くなるだろうが。もっと平和で、もっと穏やかでいいんだよ…ん?)

温羅「…ん?」

(巻物)

「なんだこりゃ?」

『鬼救痾』

「…オニキュアぁ?」

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