人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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茶室

ゴッホ「け、結構な御手前…ハウッ!!」

デイビッド「どうした?」

「ゴッホ、ゴッホスタン…足が痺れました…」

デイビッド「そっとしよう…ん?」

『掛け軸』

「……」

『武士の本懐スイッチ』

デイビッド「…?」


頼朝の一念

「牛若丸!鬼一法眼さん!」

 

天守閣、即ち中枢に飛び込んだ一番槍、リッカとカドック。そこは厳かな格式の部屋であり、中央に頼朝は認められた。…異様な儀式めいた状態に、二人は目を奪われる。

 

「義経…さん…!?」

 

「…………」

 

義経は鎧を脇に置き、白装束を着て鎮座していた。眼の前には…白く静かに光る、白刃。かつて堺井仁から教えを受けていたカドックは、その儀式の意味をいち早く把握する。

 

「切腹か…!?」

 

「鋭いな、カドック・ゼムルプス。今、この愚妹と景清の首を土産にしようとしていたところだ。せめてもの情けとして、介錯だけは受け持ってな」

 

頼朝は変わらずに泰然と刀を構えている。彼にとって、義経の自刃に思うところは何もないらしい。その徹底した冷血ぶりは、人の暖かみというものを微塵も見出だせない。

 

「どうしてそこまでする…!?義経と景清はもう戦闘不能だ、聖杯も回収した!お前の苛烈さはもう無用なものだ!」

 

「そう思うか?事はそう単純ではない。これはそなたらが王と仰ぐ者の体面と面子の問題なのだ。祭りと冠した催し、それらの失敗は決して赦されぬ。責任の所在は不可欠だ」

 

頼朝は言う。これは私人としてではなく、公人として絶対不可欠な行いにして償いであると。

 

「祭りとは人を治める際、あるいは人を束ねる際には決して失敗してはならぬ行事だ。準備、計画、歓楽、運行。あらゆる人員と計画が緻密に絡み合い、そして成功を治め自治体、国を始めとした集落は更なる結束を深める」

 

「──頼朝さんは、ギルやオルガマリーの体面を重要視してくれているって事?」

 

…頼朝はリッカの言葉に好感を懐いたのか、僅かに口角を緩める。本質をつく聡明なる者。それは頼朝が信を置くものだ。

 

「祭りが破算と相成る、或いは覆される。それは国の、統治者の永遠の汚点となる。ギルガメッシュの、カルデアの名声は地に落ち…人理を護る使命にも翳りが生まれる。この愚妹の浅はかな行いは汎人類史を危機に…存亡に関わる破滅的な損害を与えるところだったのだ。己が願いのため、現実すらも歪めんとした」

 

それは仮にも幕府創設者、政に関わる者として断じて許せるものではなかったという。反英霊に堕すはよい。首を落とせば事足りる。浅はかな願いに奔走するはよい。討滅すれば事足りる。

 

だが──人理を護る者達の使命を、その奮闘を涜す事は断じて赦されぬと頼朝は憤った。人の情などではない。世界を護り、運用する組織への損害と狼藉にこそ彼は憤ったのだ。そこに関わるすべての者への冒涜。それを起こしたのが義経であるという事実に彼は何よりも、誰よりも憤慨していたのだ。

 

「…見ているものが、違いすぎるな…」

 

カドックはそう苦々しく呟くことしか出来なかった。義経が許せないとか、彼女らを取り戻すとか、命をもって償うなどといったものは彼にとって『些事』なのだ。

 

大事なのは、どう責任を取るか。誰に償いを行うか。どう事態を収集するか。彼が見ているのはそれだけだった。その過程で、肉親の腹を斬らせるなど顔色一つ変えるものではない程の事なのだ。人の考えをしていない、彼はそう判断するしか無かったのだ。

 

源頼朝とは、人間ではない。限りなく超越的に近い視座を持つ、意志持つ政権であった。そう判断することが、カドックの限界だった。

 

「──なら、鎌倉幕府を展開したのはどうして?なぜ、混乱を広げるようなことをあなたが?」

 

リッカの問いに、頼朝は答えた。これもまた、愚妹の果たせぬ贖いであると。

 

「いくら償おうと、いくら贖おうと、犯した罪は消えぬ。義経と景清の動乱は汚点として残る。それでは償いと贖いの意味はない。『解決策』が必要なのだ。『供物』が必要なのだ。これ以上ない戦果が。これ以上ない御印が」

 

「それが…鎌倉幕府…?」

 

「そうだ、カルデアのマスター。『義経の呼び出した頼朝が、カルデア全てに仇なす』。それらを征伐せしめ、カルデアへの禊が終わる。祭りを乱した者等を、カルデアが討ち果たす事により」

 

頼朝は義経と景清により呼び出され、夏草とカルデアに牙を剥く。そうする事でカルデアは自らの不始末を見事払拭し、汚点は汚点でなくなる。頼朝は呼び出された瞬間、これを考えついたのだ。

 

景清、義経、そして頼朝。鎌倉幕府の全てを今回の狼藉の償いとする。義経や景清の罪を呑み込むほどの大逆を以てして、全ての責任を精算する。それが、頼朝の考えた此度の祭りへの返礼であったのだ。

 

「幻想郷、夏草、そしてカルデア。この愚妹より話は聞いた。最早多方面にかけた迷惑は計り知れん。源氏として、この不始末はなんとしても償わなくてはならぬ」

 

「…………はい、兄上」

 

「首は残せぬが、確かな討伐は果たしたと確認できる記録は残してほしい。故に、この場を借りて…」

 

「兄妹揃って大馬鹿だな!お前たちは!」

 

しかし、その頼朝の言葉に鬼一法眼は喝破する。そう、その思案は一見完璧なようでいて、欠点があるのだ。

 

「血なまぐさい!とにかく血なまぐさい!祭りを邪魔したからした輩の首をもってお詫びします?やっぱりお前たちは兄妹だ!発想がそっくりすぎる!」

 

「…なんと」

 

「いいか?あらゆる運行にトラブルやハプニングは付き物だ。確かに祭りは大切だ、大事だ。失敗は許されない。だがその失敗とは運営側の手落ちの場合だろう!」

 

そう、中止、催しの停止、スケジュール遅延。許されないのはそういったミスだ。今回のミスはそうではない。完璧な運営、スケジュール運行。それを悪質な輩が殴り込んできただけだ。

 

「頭が硬すぎて視野狭窄気味な兄よ。はっきり言ってやろう!馬鹿弟子の首なんて誰も欲しがらないぞ!」

 

「お師匠様!それは酷いです!?」

 

「…それは確かに」

 

「兄上!?」

 

そう、ギルガメッシュが本当に憤慨しているのならば自ら首を取りに来る。その確信がリッカにはある。

 

「頼朝さん。ギルやカルデアを普通の国や組織として考えたのがあなたのミスだよ。カルデアが、ギルが求める償いはそんなんじゃない!」

 

そう、リッカは伝える。頼朝の合理の判断に、真っ直ぐ否を突き付ける。

 

「きっとギルはこう言うよ!『罰として貴様ら源氏、まとめて祭りに参列せよ!確執を越えて新たな関係を築き、過去を乗り越える克己を以て不問とする!』ってね!」

 

愉快痛快な御機嫌王が、血塗れの首を求めるはずがない。いいから祭りを楽しめ。恨み辛みも乗り越えろ。ずっと先頭を走り続ける王様の背中に誰もが付いていくのは、きっとそういう王様だったからだ。誰もが笑顔になる王道は、きっとそういう豪快なものだから。

 

「牛若丸!あなたからも言っちゃえ!あなたがしたいこと、やりたいことを!」

 

「は、はい!…あ、兄上!」

 

牛若丸も背中を押され、意を決して口にする牛若丸。話をしたかった彼女は告げる。

 

「お願いします!私や、義経。景清と一緒に…このお祭りを楽しんでくださいませんか!たくさん、たくさん謝った後に!」

 

「…兄上…」

 

義経、そして牛若丸は兄を恨んでいる。だがそれ以上に、だがそれより遥かに…彼女らは、頼朝を愛しているのだ。

 

「……………」

 

その言葉を、頼朝は受ける。沈黙、長い長い沈黙の果てに…

 

「うむ、一緒に祭りは普通に嫌だ」

 

「「兄上!?」」

 

初めて垣間見せた人間性、それは義経や牛若丸への人並みの嫌悪。要するに彼、妹を当たり前の人間性の範疇で普通に嫌いなのである。

 

(な、なぁリッカ。こう言うストレートにキライですって場合はどうするべきなんだ…?)

 

(は、腹を割って妥協して折り合いをつける…かなぁ…?)

 

人間性を引き出した結果、『普通にお前が嫌いです』問題にぶち当たったリッカ達、ある意味単純明快なフェルマーの最終定理クラスの問題に顔を見合わせてしまうのであった…

 

 




頼朝「義経や牛若丸と祭などまっぴらだ。まっぴらだが…それが罰なら納得できる。最大限の重さだからな」

義経「そこまで…そこまで…」

牛若丸「兄上ぇえ〜!」

鬼一法眼「そこまで嫌いか…」

頼朝「なので、カルデアの皆様。すまないが──」

瞬間──頼朝が武装する。現れし、緋色の武者。

『全力で抵抗する。このわからず屋を義経や牛若丸達と共に力づくで解らせてくれ。私は、絶対に、嫌なので』

((そんなに!?))

『さぁ──頼朝は抵抗するぞ、刀でな』

妹と祭りするくらいなら死んだほうがマシ。──図らずとも、義経と牛若丸、景清がカルデアと轡を並べる理由を知ってか知らずか作り、敵対する頼朝であった──。

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