人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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担い手の伝承

かつて、無心に剣を振るう少年がいた。

日が昇り、沈むまで、彼は剣を振るい続けた。

徒労だ、と笑う者がいた。

酔狂だ、と呆れるものもいた。

何を言われようと、何を思われようと、彼はただ剣を振るい続けた。

そこには、曖昧ながらも確信があった。

自分はこの為に生まれ、この為に生きるのだと。


そして彼が少年から青年になる頃──

空から滅びの巨人が現れ。世界の全ては消え去らんとしていた。

全ての人々が絶望し、挫けて惑う中でただ一人。

青年は、決意と共に滅びを真っ直ぐに見据えていた。




担い手

「…あれ?私達は…」

 

マスターアルトリア、並びにガレスは、花園に佇んでいた。そこは争いはなく、騒乱なく、特異点とは思えぬ程に清澄であった。自分達が迷い込んだ場所が、何かしら神聖なる場所なのだとの直感はそこにあれど。そこがなんであるかは思い至れぬ。そういった、感覚に訴えるものだ。

 

「ここは…マーリンの幽閉されたとされる『アヴァロン』でしょうか?その雰囲気、その格式…伝え聞いた場所と似通うものを感じます」

 

ガレスの言う通り、そこには花々が咲き乱れ優しい風が頬を撫でる。空は青く雲は純白。誰もが思い描くような『楽園』の体を為す事は明白だった。ならばここは、アヴァロンに繋がったと言うのであろうか?

 

「──ここは、アヴァロンの一角。人知れぬ慰霊の碑。人類史の為、勇気を示した6人の偉業を称え、そしてその魂を鎮める為の空間だ」

 

そんな困惑する二人に、説き伏せるような声が響く。見れば花に彩られ、手入れが行き届いた墓標が6つ。中心に建てられた慰霊碑が一つ。そこに花を添える…青年が声の主だ。

 

「あなたは…」

「え!?あ、あなたは!?」

 

マスターアルトリア、並びにガレスが同時に困惑の声を投げる。その人物の見た目は非常によく見知った者と似通っていた。金髪碧眼、しかし飾り気のない民族衣装。ただ、背負った鞘と剣の意匠、見間違えられる筈もない。

 

「エクスカリバー!並びにその鞘、アヴァロン…!で、ではあなたは、貴方様は…!」

 

「アーサー・ペンドラゴン…なのですか?」

 

ガレスとアルトリアの言葉を背中に受け、花束を起き立ち上がる。そこにある全てが、彼を彩るように舞い上がる。

 

「違う。俺に名前はない。強いて言うなら…ケルヌンノス、並びにその巫女。そして…六人の勇者達が産み出した、勇気の担い手だ」

 

飾り気のない衣装なれど、その輝きは翳ることはない。彼は、静かに石碑を見上げる。

 

「この汎人類史に、巨人が現れた時…六人の妖精達は使命を帯びた。世界の滅びを打ち払う星の聖剣、それを創り出すという使命を。それは、六人にしかできないもの。命と引き換えに果たす大義にして使命だった」

 

その声音は、静かに染み入るようだ。剣と鞘、それしか有しておらぬ其の身には、誠意と決意が満ちていた。

 

「妖精達は怠け者で、悪戯好きで、それでいて臆病だった。地球の危機に関してもなお、死に行く決断が叶わなかった。…当然だ。彼等は英雄でも神でもない。使命に殉ぜられないのは、個として当たり前だ」

 

青年は語る。ここに祀られし、六人の妖精達を。誰もが知らぬ、汎人類史の救世主達を。

 

「しかし、彼等は決断した。友が連れてきた巫女、その身を案ずる友の嘆き。彼等は世界の為ではなく、大切な友が生きていく世界を護るためにその身を使命に殉じさせた。そしてその剣は…巨人を討ち果たし、世界を救った」

 

だが…妖精達は死に、帰らぬ者となった。彼等は自身らに漲らせた勇気を星に捧げ、その美しき魂と願いを星に託し、一振りの聖剣を鋳造した。

 

「その剣の名は、エクスカリバー。後に、常勝の剣の名を授かるもの。──破滅の白き巨人を、討ち果たした聖剣だ」

 

「では、あなたが背負っている剣は…まさか…」

 

それ以上の言葉は無かった。彼が有している剣は、まやかしでも類似品でもなんでもない。その輝きは、尊き願いそのものだった。

 

「始まりの六人に、救いあれ。始まりの六人に、報いあれ。友と巫女の未来に、希望あれ。──悪戯好きの夢魔が刻み作った、祝福の石碑だ。そしてその願いは…果たされていると俺は信じる」

 

彼は遠くに在る喧騒を幻視していた。彼の目には映っていたのだ。もさもさで鈍重な心優しい祭神と、それをからかいながらも共にある六人の妖精。その、今は失われた…いや、世界のために捧げた在りし日の記憶を。

 

「敵を排せよ、等という令など俺には関係ない。この剣は、この願いは、正しきもののために振るわれるべき輝きだ。──カルデアのマスター、アルトリア」

 

「は、はい」

 

「問おう。お前達の戦いは正しいのか?お前達の世界は、礎となった妖精達が望んだ世界と同じものか?それだけを、この場で聞かせてほしい」

 

彼の身なりは、酷く質素だ。しかしその言葉と振る舞いは力強く、目には決意が漲っている。その問いに、アルトリアは困窮しながらも答える。

 

「…リッカさんじゃないので、はっきりとは言えないんですけど…少なくとも、私は今の世界はいいな、と思います。お腹いっぱい食べられるし、布団で眠れるし、好きなお洋服着れるし…」

 

「………」

 

「そして正しいのかどうかは…わからないんですが。でも私は、私の知るみんなは『正しくあろう』としていることだけははっきりと言えます。みんな、正しい道を一生懸命探してる。一生懸命、正しい道を歩むために力を合わせてると思います」

 

星見の道とは、星の輝きに導かれる道だ。星が示す道は、人には歩めぬ道かもしれない。

 

しかし、それを皆で歩めば迷わないとアルトリアは言う。わからないこと、恐ろしいことを皆で乗り越えていく。星を目指す中で、休んだり交代したりしながら、遠い星をめざしていく。それが、自分達が歩んでいる道だと彼女は告げる。

 

「正しい道、とは自信を持って言っちゃだめかな、とは思います。それだけが正しい道なら、旅じゃなくて義務だから。寄り道したり、時には止まったり。そういうのを私達は楽しんでいたりするので…だから、最後には正しかったらいいね、みたいな旅なんだと思います。一般市民観点からの感覚で言えば!」

 

「………。そうか。それが、今を生きる者の答えの一つか」

 

正しい道を歩む。正しくあろうと迷う。それもまた、正しい在り方の一つなのだろう。かの剣士は静かに頷いた。そしてそれは、彼が知る六人もまた同じだった。

 

正しいからそうするのではなく、正しいと信じるから歩みを進める。その道には、きっと希望に満ちた未来がある。彼等はそう信じていただろう。そう信じただろうから、勇気を出すことが出来たのだろう。

 

彼は確信した。騎士の模範たる王が、その生き様そのものを騎士道として王道にしたように、妖精達の勇気は今もなお、この世界で生き続けている。

 

故に───カルデアに勇気と希望あり。星の聖剣を預けるに値する組織であると彼は信じ、決断した。

 

「ありがとう。その答えに感銘を受けた。故に俺は捧げよう。この剣を、六人の妖精達の勇気と願いと共に。では…問わなくてはならない言葉が一つある」

 

ガレスはその言葉を受け、そっと下がった。彼は王ではなく、彼は英雄ではない。だが、だからこそ一般市民たる彼女にこそ相応しい存在だとガレスは信じたのだ。

 

「我が名、ウーサー・コールブランド。君を、主と呼ばせてはもらえないだろうか」

 

「え、あ、私を?あの…は、はい。私で、良かったら…」

 

「ありがとう。六人の勇気ある者達にかけ、君を守り抜こう。そこの騎士も、どうかよろしく頼む」

 

「はい、勿論です!私はガレス、どうぞ遠慮なく頼りにしてください!」

 

そして、担い手たる剣士はアルトリアとの契約を結ぶ。彼は、通常の召喚では出逢うはずのない存在だった。

 

「では、今少し時間をくれ。この場に在る彼等に、報告をしなければならないからな」

 

或いは、それは秘宝が起こすべきであった奇跡そのものであったのかもしれない。彼が有す聖剣こそは…

 

「ケルヌンノスよ、妖精達よ。君達に…勝利を誓わん」

 

──かつてセファールを討ち果たした、常勝の剣の名が付く前の剣。世界を救うという概念が結晶となった、星と妖精達の願いそのものだったのだから。




青年は逃げず、挫けず、その身一つで巨人を見ていた。

己の全ては、このために。

世界を救う、その為に。

滅びゆく世界の中、ただ一人のみが未来を諦めなかった。

その時、彼の手に一振りの剣が舞い降りた。

それは勇気の聖剣であり、臆病な妖精達の命をかけた願いであった。

『せかいを、すくって』

彼はその声を耳にした。そして、その願いを星の光として束ね──

青年は、滅びの巨人を討ち果たした。六人の妖精達の、勇気と共に。

青年は旅に出る際、口ずさんだという。 

始まりの六人に救いあれ。

始まりの六人に報いあれ。

星と希望の光よ、彼等を永劫照らし給え。

世に希望ある限り、我もまた担い手たらん。


──彼の名を知るものは無い。故にこれは、担い手の伝承とされる。ただし、この伝承は示している。 

妖精達の勇気と、その願いに応えた勇者の魂を。

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