?「クラスはガンナー。さぁ、答えてもらう」
ロマニ『あのスナイパーライフル、マシンガン…!リッカ君!マシュ!動いてはいけない!もう君達は即死圏内にいるぞ!』
リッカ「モシン・ナガン…フィンランドの、スナイパー…」
ガンナー「さぁ、答えろ」
マシュ「せんぱ、っ…!」
ガチャリ、と準備される音。次の瞬間には風通しが良くなるだろう。その状況に、リッカは応える。
リッカ「──あなたが望む、姿を見たい!」
ガンナー「!…………」
ロマニ『へぇ!?』
彼女は停止し、しばらく考え込んだ後、構えを解く。
「こっちだ」
それはすなわち、あなたを知りたいとの意味。彼女はリッカに友好を見出した。戦闘をせずに済み、ほっとする二人。
「本気ならもう、死んでたね。私達」
『ら、雷位があるじゃないかい…?』
「倒せても死ぬことに変わりは無かったよ。それくらい…あの人は射撃の名手だよ」
ネロ並みの小柄ながら、絶対的な強者そのものの在り方にリッカは武者震いを隠せない。絶対に、敵対してはならない相手と確信し彼女の招く洞窟へと向かう──。
〜
『戦時中とはいえ、大量殺戮についてどう思われますか?』
『殺人を、楽しんでいたのではないですか?』
『あなたは死神と呼ばれておりましたが、それについてはどう思われましたか?』
〜
「シモ・ヘイヘ。最も一般的な呼び方ではそうなっている。ハユハの方が響きは可愛く好きだ。呼びやすい方で呼んでくれ」
シモ・ヘイヘ。人類史に燦然とその名を残すスナイパーであり、彼女は狙撃者として世界記録たるスコアを残せし人類最高峰のスナイパーだ。ボルトアクションのスナイパーライフルで一分に16発の射撃を可能とし、サブマシンガンとスナイプで数多無数のヨシフの部下をコラー河の肥料にしてきた、まさに『白き死神』の異名に相応しい狙撃者の頂点たる存在と言っていいだろう。
『す、凄い英雄がこんなランダムで来てくれたのか!?で、でもヘイヘは写真も残っていて、女性だなんて聞いた事は一度も…』
「彼は忌み子の私の代わりとして、世界に晒されてくれた者だ。彼は私の記録者でもあり、半身たる男だった」
自らを忌み子と語るヘイヘは、150の小柄に雪のような白髪。そして何より目を引くのは紅蓮の色をしたその眼だ。彼女は自身の風貌を、信頼する仲間以外に誰にも明かさなかったという。
「影武者、だったんだ…!?」
「マシンガンは彼に教えてもらった。…左顎を撃ち抜かれたのは彼で、私は顔の表面を軽く抉られるだけで済んだ。私を庇って、顔は歪んでしまった。それなのに…」
あなたを護りきれずすまない。そう意識を取り戻した際に彼はヘイヘに告げたという。彼は自身より、彼女の無事を案じた。彼女の左顔には傷が付いたが、なんの支障もない程の軽症だったのだ。
「私には…一つの物事を続けられる才能があった。ライフルでカモの目を撃つ練習を毎日続けていたが、彼にその腕を活かしてみないかと言われ従軍した。忌むべき見た目を、誰にも晒さないという条件付きで」
そして彼女は、彼の影としてその技術にてフィンランドを護るために戦い続けた。彼女はその紅蓮の眼の見た目から、知られる事こそが破滅の始まりであったが為に存在は極秘とされ、名前だけを軍に託し戦い続けた。
『ヘイヘはスコープを使わずに300m内の敵は必ずヘッドショットしたとの記録が残っているけど、今で言うアルビノや紅い眼を隠すためだったのか…』
「たしかに、真っ白なフィンランドで紅い眼の狙撃手だなんて目立つことこの上ありませんからね…」
「…だが私は、仲間と身内に恵まれた」
その見た目を疎むことなく、仲間達は自分を受け入れてくれた。背中をいつも護ってくれたことから自身『妖精』と呼び、女性の自分を仲間として尊重してくれたのだとヘイヘは言う。立場も、勲章も賜るたびに仲間達は自身の家でパーティーを開くほど祝ってくれたという。
「そして私は…敵からは死神とも呼ばれる事となった」
味方からすれば守護の妖精たりえど、敵からすればまさに悪夢か死神かと謳うも無理からぬ話だろう。彼女の伝説には、『戦車に駆け寄ったら操舵手が既に狙撃済み』という事態すら記されているのだから。
「インタビューを受けた時の言葉が、今も胸に残っている。『いくら敵兵とはいえ、大量の殺人に抵抗は無かったのですか?』『殺しや狙撃を、楽しんでいたのではないですか?』と」
それは、戦争に参加しなかった民衆の愚かな好奇心だったのだろう。彼は毅然と返したが、彼女の心には思いあたりがあったのだ。
「敵を撃ち抜き、祖国を護った際には達成感があった。守り抜けた事への喜びがあった。敵に死をもたらす事への喜びがあった。…それは、死神の考えなのだろうか」
彼女はその答えを見出だせず、晩年はブリーダーとして余生を過ごしたとされる。彼女自身の人生に後悔はない。だが、一つ確かめたい事があり、それが英霊として招かれた要因と認識されたと認識する。
「私の銃は、世界を救う銃足り得るのか。世界の敵を撃ち、マスターを護る守護足り得るのか。或いは、殺戮をもって世界を救う死神であるのか。それを知りたいが故に、私は招かれた」
「ハユハさん…」
「私は『妖精』であるのか、それとも『死神』であるのか。サーヴァントとして招かれた時に、私はどちらが正しい在り方なのか。それを、マスターたる者に問うことを決めている」
彼女はどこまでも生真面目で、実直で、真摯であった。彼女の在り方は、マスターに委ねると決めている。妖精であるならば英雄として、死神であるならば機械として。彼女はマスターたる者へと尋ねるのだ。
「マスター。私はどちらに見える?君にとって私は妖精か?死神か?」
ヘイヘの言葉に、リッカは迷わず答える。いや、迷う事などないのだろう。
「どちらも貴女だよ、ハユハ。妖精として仲間や国を護ったのもあなたで、死神として敵を殺したのもあなた。どっちも、あなたという英雄が紡いだかけがえのないもの。私がどちらかを切り捨てるなんて絶対に間違ってる」
「…!」
「その上で、私はあなたを英雄だと信じる。自分の腕を、世界を護るために振るいたい。その高潔な心が英雄じゃないはず無いと私は思う!」
その言葉は、ヘイヘの瞳を揺らした。当時を生きてきた者の無責任な言葉とは訳が違う。未来に生き、自身を知る子供が、英雄たる自分も死神たる自分も不可欠と断じたのだ。
「私はハユハに背中を預けるよ。大切な仲間として、英雄シモ・ヘイヘを信頼する証として!その眼と腕で、私のこう、鬼が宿ってそうって言われる背中をどうか護ってくれたらうれしいです!」
そしてハユハに、友好の握手を求める。それがリッカの、変わらぬ在り方だからだ。
「……………」
〜
『なんてこった!この娘はキュートなレッド・アイだぜ!』
『宝石みたいなチャーミングさだ。これは内緒にしないと持っていかれちまうな』
『頼むぜ、勝利の妖精!我等と祖国を守り給え!』
『ハユハ、お前は英雄だ!最高だぜ!』
〜
その在り方に──ヘイヘは、かつての仲間達の温もりを見た。彼女はまた、英雄として求められたのだと。
「…………おぉ、マスターよ。私は誓う。君の背中は私が護ろう。必ずだ…」
ヘイヘは感激と共に、少女の手を取った。そしてリッカは更に言葉にする。
「やれと言われた事を、可能な限り果たす!ですよね、ハユハ!」
それは、自身の影武者をしていた彼が毅然と返してくれた質問の答えだ。『やれといわれた事を可能な限り遂行したまで』。その答えは、彼女を生前繋ぎ止めてくれていた救いだった。
「その通り…その通りだ。君達を必ず、守り抜こう。かつて私を守り抜いてくれた祖国のように、仲間達のように…」
(パーフェクトコミュニケーション…!流石は先輩です!)
『これでもう攫われるとか不意討ちとかの線は消えたなぁ…!専属スナイパーが豪華すぎるぞリッカ君!』
そして、僅かなる時間で硬い信頼関係を結んだヘイヘであるが、気掛かりなことをロマンは尋ねる。
『あれえ?そういえば敵性エネミーを見なかったかい?君の実力を図るために用意された筈なんだけど…』
それに対し、ヘイヘは言う。
「見れば解る」
「見れば解る、ですか?それはどん、……──」
「お、おっほ……」
吹雪が止み、視界が明瞭となる。──するとそこには、雪を白く染め上げる赤。キメラ、人型、ゴーレムやバイコーンといったそれら全ての眉間に穴空きの死体。
『喚ばれた時点で…一仕事終えていたんだね…』
「たった一人で、この人数を…」
マシュとロマニが戦慄している中、リッカは確信と信頼の籠もった言葉で問う。
「ズバリ!狙撃の秘訣は!」
その言葉に、軽く笑みをこぼしながらたった一言ヘイヘは告げる。
「練習だ」
──ここに、人類最高峰のスナイパーが味方となった瞬間であった。
シモ・ヘイヘ伝説
「わずか32人のフィンランド兵なら大丈夫だろう!」と4000人のソ連軍を突撃させたら撃退された。
ヘイヘがいるという林の中に足を踏み入れたら1時間後に小隊が全滅した。
攻撃させたのに、やけに静かだと探索してみたら赤軍兵の遺体が散らばっていた。
気をつけろと叫んだ兵士が、次の瞬間「こめかみ」をブチ抜かれて死んでいた。
スコープもない旧式モシンナガン小銃で攻撃、というか距離300m以内なら確実にヘッドショットされる。
「ボルトアクション」でいとも簡単に一分間に150mの距離から16発の射撃に成功した。
戦車と合流すれば安全だろうと駆け寄ったら、戦車長をヘイヘが狙撃済みだった。
戦車の中なら大丈夫だろうと思ったら覗き穴から狙撃された。
赤軍の3/100がヘイヘからの狙撃経験者、しかも白い死神という伝説から「積雪期や夜間ほど危ない」
「そんな奴いるわけがない」といって攻撃しに行った25名の小隊が、1日で全員死体になって発見された
「サブマシンガンなら狙撃されないから安全」と雪原に突撃した兵士が穴だらけの原型を止めない状態で発見された
足元がヤケに柔らかいので雪を掘ったら、ドタマをブチ抜かれた兵士の死体が大量に出てきた。
五階級特進で少尉となったヘイヘに狙撃の秘訣を尋ねると、ただ一言「練習だ」と答えたという。
コラー河付近はヘイヘに殺される確率は150%。一度狙撃されて負傷する確率が100%なのと、あまりの寒さに凍死する確率が50%の意味。
彼が狙撃で殺害したと判明している数は505人、サブマシンガンで倒した数は正式なものだけで200名以上。
さらに、開戦当初は狙撃やサブマシンガンでも殺害数をカウントしていなかった為、もっと増える。
ヘイヘ抹殺指令を受けたソ連兵はその晩、遺書を書いた。
ソ連兵が夜営中にコイントスで賭け事をしていたらコインが狙撃され、身構える隙もなく、2人とも狙撃された。
リッカ「ちなみにカルデアに来てからは記録する?」
ヘイヘ「うーむ…」
フィンランドでは『赤眼の妖精』としてキャラクターが独り歩きしているという。(オリジナル設定)
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