人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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?『おう■■、ここら一帯におもしれぇやつが殴り込んできたぞ』

?『……』


『見りゃあ半端もんやチンピラを片っ端からブチのめしてるらしい。ゴミ清掃業者よりキレイな人はいねぇだのなんだの…無鉄砲な若者もいたもんだ』

『……』

『会いに行くのか?今のやつは行く先行く先トラブルに巻き込まれて公園でダウンしてるぜ。土産でも持ってけ』

『……』

『…なんだと?まぁ、構わねぇが…』

『……』

『……ったく。年甲斐にもなく触発されやがって。…坂上田村麻呂か…大将軍と同姓同名とはよ』

(こりゃあ、もしかしたらもしかするかもしれねぇな…)


生き様

「ふぃー………」

 

一度決め、そして立ち上がった田村麻呂は強かった。強く、強く、漲るエネルギーと共に神室町を驀進し、チンピラや悪党を蹴散らし吹き飛ばし、虐げられる者達を助け、所持金を賄い様々なプレイスポットで遊び倒し、フードコーナーで様々なものを食べ漁った。

 

バッティングセンター、ゲーセン、ジャンクフードから高級焼肉。ポケサーなるミニ四駆のエンジョイからパチスロ等も大いにプレイした。裸一貫の奮闘劇は終わることを知らなかった。むしろ続きすぎた。

 

「刺戟的すぎだぜ、神室町…」

 

田村麻呂は公園のベンチでぼんやりと空を見上げている。まるで疲れ果てた戦士のようだが、その形容はまるで間違っていない。そう、生温いアトラクションパークの何倍もの密度で様々な出来事が襲いかかって来たため、一息つかねば流石の大将軍もキャパオーバーだったのだ。

 

何せ、悪さをする輩とプレイスポットがワンセットなのだ。メシを食べていれば店内で暴れてる奴が現れる。バッティングセンターやミニ四駆に精を出していればマナーを守らない奴が現れる。それらを田村麻呂は一切見逃さずにぶっ飛ばし、ぶちのめし、そして弱きものを助けてここまでやってきた。

 

勿論街を歩いているだけでもヤクザ、チンピラの諍いに巻き込まれ、アスファルトやビルにチンピラヤクザが突き刺さりが繰り返されるのは当たり前。ここまでくると歓楽の楽しみよりも疲弊が先に来るのは無理からぬ話であろう。彼は今、ぼんやりと空を眺めベンチでうなだれていた。

 

「こうして無頼漢をやったのはいつ以来だろうな〜…地位も名誉も関係なく、ひたすらに自分一つで成り上がるっていう感覚は久し振りだぜ…」

 

目指すもの、そして這い上がるもの。それらを考えずにひたすらにおのれの力を信じる道を突き進む。男としての憧れであり、そして何よりも田村麻呂は負けなかった。しかし、安らぎを知る男にはいつまでも修羅道にいられるほど空虚ではいられなかったのだ。

 

「楽しい思い出と血腥い喧嘩三昧。それでも警察がいっさい来ねぇかつての乱世の血を色濃く遺す街、神室町…極めるにはまだまだかかりそうだぜ…」

 

神室町のネオンと喧騒をぼんやりと眺めながら、また一丁気合いを込めんと身体を起こす田村麻呂。すると、そんな彼に不意に声をかけるものがある。

 

「やるよ。飲みな」

 

「お?」

 

顔をあげると、目の前に差し出されたのは珈琲だった。なんのことはない缶コーヒー。しかし、田村麻呂がこの街に来て初めて受けた無償の物品であったのだ。見ると、肩幅1メートルはありそうな、スーツを着た男が優しげな目で差し出してくれている。

 

「くれんのか!?マジか!くー!!ありがてー!!大切に飲ませてもらうぜ!ふぃー!うめー!!」

 

「おいおい、珈琲で随分大げさだな…」

 

田村麻呂からしてみれば、随分と久し振りにすら感じる善意というものに触れたゆえ、無理からぬ話であろう。味わいながらもあっという間に飲み干した大将軍。その珈琲は神室町のどんな食事よりも美味しいと断言できるものだった。

 

「ありがとうな!なんかこう…人の優しさってのが染み渡った感じがしたぜ!すげぇ美味かった!えっと、あー…」

 

「カズマだ。カズマでいい。名乗るほどの者じゃないんでな」

 

「そうか!ありがとな、カズマ!珈琲、めっちゃ美味かったぜ!」

 

そのままベンチに二人で座り、互いの成り行きを話し合う。二十代前半、或いは半ばに見える田村麻呂とは、二周り以上歳が離れているカズマなる人物は田村麻呂をずっと見ていたという。

 

「あんた、何かする度に面倒な奴らに突っかかっていってたなぁ。腕っぷしは買うが、いくらなんでも疲れなかったか?」

 

「人を助けるのには疲れてねぇし見捨てねぇ!だがとにかく頻度が高くて疲れたな!こんなピカピカな街なのに、困ってるやつも困らせてるやつもワンサカいやがる!」

 

だが、それでもあくまで疲れただけだと田村麻呂は答える。それでも充分に刺戟的で、まだまだ挑みがいのある街だと。最初の目的はきっと覚えていないだろう。田村麻呂とはそういう男である。

 

「だからまた俺は飛び込みに行くぜ!ネオンと欲望渦巻くこの神室町にな!空気と民度はちっとイマイチだが、それでも男を磨くにはうってつけな事は間違いねぇ!」

 

「そうか。……なぁ、一つ聞いていいか?」

 

カズマは田村麻呂の破天荒さを笑いながら、タバコに火を付ける。そしてその煙を空に吐き出し、ぽつりと尋ねる。

 

「正しい生き方、自分を張った生き方ってのが…もし、どうしようもなくなっちまった場合。あんたはどうする?」

 

「?」

 

「あんたみたいに、真っ直ぐな生き方を貫く事。そして、仁義や道理を貫き続けること。誰もがそう生きていけりゃいい。だが…世の中はそう、甘くねぇんだ」

 

喧騒がやけに遠く聞こえる。カズマは口数は多くはないが、少なくともその言葉には耳を傾けさせる重さがあった。

 

「アンタは…自分の生き方ってやつを、どこまでも貫き通せる覚悟ってヤツを持ってるのか?」

 

カズマの問いに、きっと正解は無いのだろう。彼はきっと、田村麻呂の生き方はなんたるものかと説いているのだ。神室町の先達として。ならば…答えは決まっている。

 

「当たり前よ。古今東西、今に繋がる過去を生きてきた英雄英傑は皆そうやって生きてきたんだぜ、カズマ君。何も特別なことじゃねぇ」

 

「え?」

 

「自分を貫くってのは、腕っぷしや頭の良さじゃねぇんだよ。自分のため、てめぇの為に頑張れるってのはそりゃあすげぇが、限界が来る。さっきのオレみたいにな。俺には一日中抱いても疲れねぇ嫁がいるんだが、そばにいたらベンチ休みなんかしなかったぜ」

 

惚気と決意を同時に示す田村麻呂。当然、カズマは面食らう。

 

「どういう事だ?」

 

「要するに、譲れないもんは自分の中にだけあるもんじゃねぇんだよ。守るための後ろに、一緒に戦う横に、掴み取りたい前にあるもんだ。そいつを護ったり、未来を掴んだりするときに初めて気合は入るってもんよ。大将軍の俺様も、一人じゃただの将軍だからな!解るか、カズマ君!」

 

「つまり…何が言いてぇんだ?」

 

「難しく考えるなって事だ!誰かを愛せ、人を愛せ!お前さんの人生に大切にしたいもんはきっと生まれる!自分の為じゃピンとこないなら、いつか生まれる大事なもんに命を張ってみろって!」

 

「……難しい事を、言ってくれるなぁ」

 

「出来るだろ!日本男児たるものな!!」

 

断言すらしてみせた田村麻呂に、カズマは苦笑する。田村麻呂は立ち上がり、また神室町に消えんとする中、カズマはとあるものを渡す。

 

 

「だが、いい話を聞かせてもらった。これはその礼だ」

 

「ん?なんだこれ?」

 

それは、招待状のようなものであった。右上の公衆トイレのような場所に○がついてある、地図も付いている。

 

「あんたの生き様、そこで肌で感じてみてぇ。…来るも来ないも自由だが、俺は待ってるぜ。田村麻呂」

 

「カズマ君…」

 

「あんたを見てると…無鉄砲だった頃を思い出す。しがらみも何もない、本気のあんたと一度やってみてぇ。…またな、田村麻呂」

 

そしてカズマは神室町へと一足先に早く消えていく。その後ろ姿は、すぐさま見えなくなってしまった。

 

「…招待状…」

 

そこに、並々ならない思いが込められていることを知り…田村麻呂は行かねばならぬという確信に似た気概を懐き、立ち上がるのであった…。




チンピラ「ひゅー!せーの!!」

猫「フニャッ…!?」

田村麻呂「あ?」

チンピラ「ばーか、ちゃんと当てろって」

チンピラ「内臓行けよ、内臓」

猫「にー…にー…」

チンピラ「かわいそー、震えてんじゃん」

チンピラ「憂さ晴らしに最適じゃん?野良猫一匹くらい石ころで殺しても、誰も困んねーじゃんよっ!」

猫「〜!」

田村麻呂「っと…!」

チンピラ「あ?」

田村麻呂「ケガ、ねぇか?カワイイ耳しやがって…オレの嫁の血迷いにそっくりだ」
猫「ふにー…」

「よし、今日からオメーはスズカだ。オレが護ってやるからな、スズカ」
「にー」

チンピラ「誰よ、おっさん。邪魔しないでほしいんだけど」

田村麻呂「……オメーら、こんなでけぇ石をスズカにぶつけようとしたんか。こんな風によぉ!!」

チンピラ「ぶげべっ!!?」

チンピラ「よ、ヨシちゃん!?」

チンピラ「テメェ…」

田村麻呂「いつもなら説教コースだが、コイツはオレの嫁にそっくりだった。つまりテメェらは…オレの嫁を害したって事だ」
猫「にー」

チンピラ「何いってんの、こいつ…?」

チンピラ「頭おかしいんじゃね?」

田村麻呂「要するに……運が悪かったな、テメェらァ!!!!



ヨシちゃん「う、く、…え、えぇ…!?」

『30人のチンピラタワー』

田村麻呂「よーしよし!じゃあ行こうな、スズカー!」
スズカ「ふにー」

ヨシちゃん「な、なんだよ…あのオッサン…ぶべっ!?」

田村麻呂「一応言っとくが…今のオレは24な!!」

ヨシちゃん(ガクッ)

こうして田村麻呂とスズカは二人で、地下施設へと向かう──

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