人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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        【恐怖の大王】


        【ANGOLMOIS】



降臨

『───ルシファースピアに有されていたであろう、娘を守護するための最終防衛装置。それがかつてのオリュンポスの機体の一つである私の存在を感知し、起動したのだと私は見る。星の審判者として、今の彼女は完成してしまった』

 

空中に浮かび上がり、全てを冷たく見下ろすピア…否。最早ピアでもモアでも無い断罪者。そして、星を破壊する審判者。【恐怖の大王】の降臨をゼウスは冷静に分析する。そこにいつもの陽気さや色ボケの気はない。正しく異常事態、緊急事態という事だ。

 

「困難なのは承知の上だ!今更恐れたり怖気づく何てことは…!」

 

カドックが皆を鼓舞するように声を張り上げる。…しかし。

 

 

【─────審判の刻也】

 

 

ただ、一言。恐怖の大王はたったその言葉を告げる。それは彼女にはなんでもない、定時報告の様なもの。ただ、それだけで。

 

「ッ…!」

「ぁ…!」

 

神を宿すキリシュタリア、恐れを知らないチルノ、そして生者ならぬサーヴァント以外のマスター達…否、生物が震え始める。それは微かに、そしてすぐさま立つことすらできないものへと変わる。

 

「な、んだ…!?この感覚は…!?」

 

その感覚は全ての存在が有すもの。生物的、根源的なもの。

 

「わからない、でも、これは…」

 

それは、生物が逃れ得ぬもの。神なるもの、大いなる意志に消去を、断罪を宣告されたが故のもの。

 

「これって…恐怖、よね…!私達、怖がってるって事…!?」

 

虞美人が言うように、大半のマスターが恐怖に膝を屈する事態が起きる。終焉を、審判を待つ罪人のように、たった一言にて気概が、意志が、心が、恐怖に支配される。

 

「怖い…怖いよ、私…死にたくない…」

 

「アルトリア!しっかりして!」

 

「南極が俺等の死に場所かぁ…オーロラがあって風情あんじゃね?」

「アタシたちには勿体ないくらいのいいロケーションよねェ…」

 

「根源的な恐怖…いや、畏怖か…これには、人では抗いがたいということか…」

 

「ハウッ…で、デイビッドさん…!」

 

最早戦うどころではない。紛れもない神威を、宇宙の摂理を垣間見た者は否応なしに心が折られてしまう。噴火を、大地震を、津波を、天変地異を前にして人が祈るしか出来なかったように。今、人類たる彼等は正真正銘の終幕に立ち会っているのだ。

 

【惑星破壊手段起動。黙示録撃、第一打。執行】

 

「!!」

 

瞬間、恐怖の大王のルシファースピアに大聖杯すらも上回る魔力が一瞬で蓄積される。それは極限まで圧縮され、まるで雫のように煌めく小さな光となって、水滴のように大地にゆっくりと降り立たんと落下していく。

 

『固有結界投射!『人理に寄り添う、希望の華』──!!』

 

瞬間、ロマニとオルガマリーの介入が間一髪で間に合った。南極は一気にオルガマリーの固有結界へと塗り潰され、現実世界より切り離される。魔術の最大奥義にして秘奥、しかしそれすら──

 

【展開規模、1/1。惑星を破壊します】

 

その無機質な言葉が響いた瞬間。

 

「うわぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ─────!?」

 

天が引き裂け、地が砕け、自身の踏み締めてきたものや積み重ねてきたものが全て木っ端微塵に吹き飛んでいく喪失感、絶望感、虚無感。爪先から粒子状に分解され、塵となって消えていくような儚き一瞬の刹那。世界は粉々に砕け、全てが因果地平へと消えていく。

 

……果たしてそれは一瞬だったのか、それとも気の遠くなるような永遠か。地球に生きとし生けるものとして始めて味わった、全ての終末の瞬間。

 

「…ぼ、僕達は…生きているのか…?」

 

見れば吹雪は止み、太陽と赤き星が煌めいている。そこにはカルデアと晴れた山脈、青空が広がっており、先の終末が悪夢であったかのように輝いて───。

 

『一度やり過ごしただけよ、カドック!前を見なさい!私達への審判はまだ終わっていない!』

 

オルガマリーの言葉に、正気に引き戻される。世界は木っ端微塵に吹き飛ばされた。確かに世界は終焉を迎えたのだ。──オルガマリーの固有結界でなければ、この星は宇宙の塵と化していた。

 

「二重層式の固有結界…!それで世界の崩壊を凌いだのか!流石だロード・アニムスフィア!やはりマリスビリーの娘たる君は素晴らしき魔術師でないはずがなかったね!」

 

かつての劣等感と絶望、リッカ達と逢ってからの幸福と希望。それらが生み出した世にも珍しき二重層固有結界。先の一撃は、その表皮に当たる部分を消し飛ばしたのだ。ギルの乖離剣以外に破壊されたという事実はオルガマリーにとって大いなる屈辱となったが、歯噛みしている余裕などない。

 

『今のうちに戦えなくなったマスター達を転移させるわ。すぐにメンタルケアをしないと精神に異常をきたしてしまう恐れがある!──来るわよ!』

 

【破壊、成功。しかし生命体の活動を確認。裁きの完遂、未達成】

 

そう。これはあくまで一時凌ぎでしかない。恐怖の大王は無機質な声にて報告し、醒めた目で全てを見下ろす。

 

『本来ならハルマゲドンで片付くのだが、私達はこうして生存した。無罪放免と判断してほしいが、私達は最早脅威認定されてしまったからね…』

「ゼウス、それはつまり!」

 

『二撃目が、来るということだ』

 

【内部核に干渉する黙示録撃の成果、認められず。内部からの破壊から、地表に存在する全てを一掃する形式に変更】

 

恐怖の大王が手を上げる。その瞬間──紅き星が煌めく空に無数の光が瞬き始める。

 

『あ、ぁあ…あ…』

 

『どうしたのだねボイルド君!報告したまえ!』

 

『い、隕石だ…隕石が落っこちてくる…!一つや二つじゃない、何十、何百も…!』

 

『隕石群、どれらも最低1キロを観測!そ、それらが無数に、固有結界の内部に生成されました!』

 

『い、1キロ…?mの、数え間違いではなく、あの1キロかね…?』

 

ゴルドルフの震えた声は、そうであってくれといった願いが込められていた。しかし、現実は残酷なまでに事実を述べる。それらのどれもが今、南極に着弾すれば巨大極まるクレーターを穿つ超巨大隕石の流星群。それらは、恐怖の大王にて生み出されたもの。地表と星を、確実な死に至らしめるもの。

 

【『隕石・黙示録撃(メテオ・ハルマゲドン)』発動。地表の全てを焼き払い、生命活動と生存環境を完全破壊します】

 

アンゴル族・究極奥義。無数の隕石を生成し、押し潰し、破壊し尽くす超絶質量攻撃。対軍宝具は愚か、対国宝具クラスで拮抗できるか否かの隕石群が今、オルガマリーの固有結界へと押し寄せてくる。

 

『ロマニ!全員の令呪一画を強制発動!楽園内部に強制収容して!無防備なまま受けていい攻撃ではないわ!』

 

『了解です、オルガマリー!死んでしまってはなんにもなりませんものね!皆、ここは戦略的撤退だ!』

 

「くそっ…!こんな、事で…!」

 

カドック以下、根源的畏怖にて動けなくなったマスター達を瞬時に回収していく。争い、戦いとは同じレベルでようやく起きるもの。最早その規模は、戦いとすら呼べるものですらなくなってしまった。今は生存を第一にする事こそ、勝利への道が途切れぬ絶望の逃走。

 

「キリシュタリア、あなたも!作戦を練り直すわ、少なくとも彼女の力を抑えるようなものを何か──!」

 

その判断は極めて賢明だ。指揮官として、撤退のタイミングを過つことは許されない。動けない仲間を、動ける仲間が回収転移していく中で、キリシュタリアにも当然勧告がかかる。

 

「────あぁ、撤退と作戦の練り直しはともかく…」

 

…ただし。ここにいるキリシュタリアという人物は。

 

「──別に。あれを真正面からなんとかしてしまっても構わないだろう?」

 

楽園という、自身にとって最高の仲間と環境を手にした彼は。底抜けの自信家であり、楽観的であり、不敵であり。

 

 

『な、なんだって…!?』

『…キリシュタリア、まさかあなた…!』

 

「私の半身が導いた混迷、祓うは同じく半身たる私。道理は通っている。ならば私は皆が下がる後ろではなく前に撤退する!そう、これこそ!『桐之助の退き口』!!」

 

『というわけで、神威を見ちゃった皆をよろしくお願い致します。──ここは私と、キリシュタリアでなんとかしよう』

 

 

逃れられぬ滅びに──楽園の旅路を何よりも楽しむ男と、大いなる天空の神が真っ向から仲間を庇い仁王立つ──!

 




恐怖の大王【…………………】


ゼウス『君に星をやらせるわけにはいかない。ここは君の終着、流浪の終わりの地となるだろう。私達、オリュンポスの神々がそうであったように』

キリシュタリア「君を今護らんとしているは父の遺志。そして君の生存を願うは父の意志。──君は愛されている。そしてこれからは、その愛の中で生き続けるんだ。彼処は、カルデアは。そういう場所なんだよ」

ノリでコートを投げ捨てるキリシュタリア。かつての枯れ木のような貧相さは見る影もない細く引き絞られた筋肉の鎧、胸に刻まれた千年を経た魔術刻印と、身体中を駆け巡る天空神の魔術回路。魔術師として、隔絶した位置にいることの証明。

『雷霆の他に、私はこういう事も出来る。天空神だからね。──宝具発動。『全能なるや天空の神』。ゼウス・クリロノミア、完全開放』

イニス(大神ゼウス、何を…!?)

瞬間、ゼウスの威光たるクリロノミアが、固有結界を満たし尽くしていく。その宝具は、ゼウスの権能の再現。即ち支配領域、神代ギリシャの環境再現。現代では枯渇したはずの、真エーテルが満ち溢れる。

ゼウス『本来ならば神霊や私達の神体を強化するための支援技でしかない。雷霆撃ったほうが速いからね。…しかし、これとキリシュタリアを掛け合せると、果たしてどうなる?』

オルガマリー「───理想、魔術…」

ロマニ『あの机上の空論の!?まさか、本気でやるつもりなのかい!?いくらゼウスの助けがあっても、そんなこと出来るはずが──!』

かつて宇宙には魔力が満ちていた。そして魔術は、宇宙より力を授かるものだった。

神代より古き時代、星占術の基礎ともなったそれ。現代では果たせようはずもない、遥か昔の宇宙。当然、この現代では使えるはずもない机上の空論。

キリシュタリア「これは私の力だけでは不可能なものだ。盟友ゼウス、そしてマリスビリーの娘たるオルガマリー。二人がいて、初めて行使が可能となる」

現実世界で振るえば間違いなく退去となる、ゼウスの天空神の権能行使。

それらを誤魔化す、固有結界という世界を塗りつぶす常識の上塗り。

その二つにて、そこは即ち『理想魔術』を果たすための場所となる。キリシュタリアの思い描いた魔術は、二人の比類なき仲間によって現実となった。

「恐怖の大王よ。今──人智の決起を宣言する」

かつての挑戦で、自身は不覚を取った。

「眼は煌めき、手足は逞しく、未来は輝く」

そして、一人の少女に世界を背負わせてしまった。

「今を生きる人間として、数多の悲劇、幾多の断絶、全ての絶望をここに否と断じよう」

もうその轍を踏みはしない。今度こそ皆と、仲間と、人理を護る。

「この一撃をもって、裁きは覆される」

これはそのための足がかり。自身から『彼女』へと繋げるほんの細やかな一手に過ぎない。


「愛と希望の───轍を刻め!!」

未来を護る惑星轟。人為による惑星直列。それらを魔術回路にて発動する、キリシュタリアの最強魔術。


その名も────

冠位指定(グランドオーダー)人理保障天球(アニマ・アニムスフィア)────!!!!!』

断罪の流星群を真っ向から相殺、粉砕せんとする…キリシュタリア・ヴォーダイム最大最強の『魔術』である──!!

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