(…いつまでも逃げ回るような真似はできない。ピアにも、彼女にも…不誠実だからな)
【…もしもの事があったなら、どうか頼らせてほしい。楽園カルデアの諸君、親愛なる君たちよ…】
目覚め〜恐怖の大王〜
【ナイアとエキドナ、XXは無事だ。このまま帰ってくるだろう。安心してほしい、ピア。君の家族は無事だよ】
「ん。良かった。おっさんの大事な家族だしね」
図書室、人払いを紫式部に頼んだ静寂の空間。そこにいるのはニャルラトホテプと、来訪者ピアのみ。彼は伝える決心をした。そして、その時がやってきたのだ。
「あたし、まぁ普通のやつじゃないってのは解ってたけどさ。あの槍とか、ハルマゲドンとか…ぶっちゃけヤバいやつだよね。薄々思ったりはしたけど」
オガワハイムで披露した、何兆分の一であろうと魂を跡形もなく消し飛ばす威力の一撃。それは人間は愚かサーヴァントの領分すら逸脱していたものだ。意志がある限り、その違和感や驚異には気付くものである。彼女は愚昧では決してないのだ。
「教えて、おっさん。あたしが何者なのか。おっさんが知っててあたしが知らないことを、あたしは知らなくちゃ。知らないままで、ホントの家族にはなれない」
ピアの想いはまっすぐだ。オガワハイムの一件にて、自身にとっての家族の在り方が得難いものと認識した故の決心。その成長をニャルは心から喜び、同時にリッカを取り巻いた一連に父として心を痛める。
【…真実を知る前に、これだけは言わせてもらう。ピア、君は誰の代わりでも誰のバックアップでもない。君という君が生まれた以上、君は一人の生命なんだ。それをどうか、見失わないでほしい】
「…うん」
その言葉には確かな親愛と思慮が詰まっている。今のピアはそれを素直に信じられる。親とは血の繋がりだけじゃない。心の繋がりこそが大切なものなのだから。
【…香子さん。どうかよろしくお願いします】
「かしこまりました。こちらが、御所望の書物にございます」
僅かな逡巡の後、ニャルが意を決して紫式部に頼みの書物を取り寄せてもらう。ピアの前に置かれた、一冊の書物。
「これはとある星占学者が、地球滅亡…それに纏わる事象を予言し一世を風靡した予言を記したもの。そしてそれをもたらすものを示唆した書物」
【そう。1999年7月に人類が滅びるとされた書物…【ノストラダムスの大予言】。そして君を紐解くページは、ここにある】
その目の前に出された書物に、吸い寄せられるように魅入るピア。ニャルはそっと書物を開き、彼女を示唆するページを示す。
〜
1999年7ヶ月 空から恐怖の大王が来たるだろう。
アンゴルモアの大王を蘇らせ
マルスの■■に首尾よく支配するために
〜
「!……ぁ……」
アンゴルモアの大王。恐怖の大王。その名を聞いた刹那、彼女の心には様々な記憶と経験が去来する。
「あたし…ううん、違う…私は、私は……!」
それはピア…否。本来の肉体と力の持ち主である者の記憶。そして此処に至るまで記憶に焼きついた、長い長い旅の記録だった。
〜
『■■よ。我等アンゴル族は決して裁きと断罪を違えてはならぬ。我等の裁きは、星と宙の呼び声に応じて行うものであるからだ』
まだ年端も行かぬ小さき頃、大いなる父からの教えを自身は受けていた。我等が種族は、星の救いを求める声と、宙の大いなる意志に誘われるものなのだと。
『罪には罰が必要だ。そして罰には、赦しが必要だ。■■よ 、我等は罪への罰であり、最早苦しませぬよう解き放つ赦しなのだ。しかし崇高なるは使命にありて我等に非ず。傲ってはならぬぞ、我が娘よ』
その言葉は、一族の使命に誇りを持つ誉れ高き父の自負だ。そんな父を心から尊敬し、自身も罪を抱えきれず苦しむ者を、安らかに眠らせることのできる断罪者にして赦免の化身となる事を夢見た。
…あの日が、来るまでは。
〜
それは突如飛来した。母星の空に浮かぶ彗星、それが滅びの始まりだった。
投射された『尖兵』に、同胞達は成す術なく侵され収穫されていった。精神汚染、侵食を得意とする性質に、精神生命体である我等一族の相性は最早壊滅的だった。
『我が娘よ…!最早、我等は滅びる…!我等もまた、他者を裁量にて裁いてきた報いを受ける日が来たのだ…!来たるべき、終末の日が…!』
街が、人が、平穏にして厳粛な故郷の全てが、そして隣接していた親交の深い星々までもが収穫されていく。笑い合っていた仲間たちが次々と汚染し違うものとなっていく中、生まれ育った星が全て奪われていく中、父は最期にその運命に抗った。
『■■よ、生きるのだ。愛娘よ、生きるのだ…。我にとっての最愛のものよ。使命を忘れてよい。逃げてよい。ただ、この宇宙の何処かにて生きてくれ』
最早父は助からない。魂を九割も汚染され、最早父と呼べるものは頭と右腕しか存在していなかった。
『お前の安寧を心から願う。愛娘、■■よ。どうか生きてくれ──』
自身は父に逃された。星から最期の力で弾き出され、宇宙へと逃れた。最後に見たものは、二つの星が、その何もかもを収穫され、獲得され、覆い尽くしていく終末の光景だった。
そこから、自身の無限の放浪が始まった。頼るべきものも、知るものもいない。自身は最早、一族最後の生き残りだったのだ。
知ったのは、かの星があらゆるものを回収する遊星であったこと。自身の星と隣星は、その遊星に捕食、回収されてしまったのだということ。
逃げて逃げて、逃げ続けた。身を潜め、暗い宇宙をただがむしゃらに逃げ続けた。頼れるものは誰もいない。家族も友人も一族も、皆収穫されてしまった。もう二度と出会えない。
肌寒く、光の射さないデブリの影で一人泣き通す日々。強く優しく抱く腕も、己を慕う者たちも最早どこにもいない日々。宇宙に自身を知るものの無い、たった一人の生き残り。
孤独であった。全て夢だと思いたかった。在りし日の幸せを何度も何度も夢に見て、目が覚めて目の前の闇黒に現実を示される毎日。でも、死ぬわけにはいかなかった。
『生きてくれ』。それが父の願いだったから。それに彼女は考えた。理不尽に奪っていく遊星。あらゆるものを奪い去る星。それは今も、この宇宙で何かをこうして奪っているに違いないと。
こんな哀しい想いをしているのは自分だけでは決してない。あの星がある限り、こんな哀しい想いをしている人はどんどん増えていく。それと同時に、彼女の魂に呼びかけるものがある。
自分達を裁いてほしい。
罪の重さにもう堪えられない。
自分たちを、もう終わらせてほしい。
そんな願いが、声が、堪えず聞こえてくる。それはかつて父が言っていた、罪の赦しを求める声だ。星々の、生きとし生けるものの赦免を求める声。幻聴だと思った。しかしやがて、別の声が聞こえてくる。
『裁きは救いである。断罪を以て、赦免と成せ』
それは、父の言っていた大いなる意志なのやもしれない。自ら滅びを求めるなど信じられなかったが、彼女は宇宙を見やる。
我々が滅び去ってから、宙域の動乱はおぞましい程に増えたという。腐乱する欲望は互いを害する領域にまで及び、罪業は自他共に焼き尽くすまで止まらない。
誰かが終わらせなくてはならない。宇宙に罪が満ちる前に、大いなる意志の代行者が必要だと、この宇宙は求めているのだ。幻覚や、幻聴であったならどれほど楽であっただろう。しかしその声は、変わらず訴えかけてくる。
広がる動乱。消えていく生命。己が為すことを為さなくては宇宙が消え去る。
自身にできるのかと不安だった。父のように、一族のように。正しき安息を迎えられるよう裁きを与える事ができるのかと。しかしそれをやらなくては、宇宙に罪が満ちてしまう。
そして自身にはやるべき事がある。裁きとは、許しとは無縁に何かを奪う者を討ち果たす。この宇宙を乱すものを止めるという自身の使命が。
勇気を以て、一族の使命と己の悲願を果たすために昏き宇宙へと一人飛び立つ事を決心する。寄る辺もない、大海をその身一つで泳ぎきるような蛮行。
それでも、これ以上の悲しみを見過ごせないと。一族の死を無駄にはできないと、自身を鼓舞し宇宙へと漕ぎ出し続ける。
あらゆる生命に安寧と赦しを与える…アンゴル族、最後の生き残りとして。私は…
『アンゴル・モア』は、この宇宙に生きる事を決めたのだ──。
ピア「…アンゴル・モア…思い出した。全部…思い出した」
ニャル【…この宇宙における免疫機構にして、星の断末魔や生命の罪業に応え現れ、裁きと慈悲を与える一族。宇宙の守護者にして、宇宙の意志の代行者。その最後の生き残り】
ピア「…アンゴル族。精神生命体…ヴェルバーに収穫され滅びた一族の、最後の生き残り。そして、その仮想人格…」
ニャル【それが、君だ。ピア。そしてもう一人の人格にして、その肉体の人格。その名がアンゴル・モア。私が出会った、君とは違うもう一人の君なんだ】
その事実を、動揺するわけでも狂乱するわけでもなく。ピアはただ静かに、父の告発を受け入れていた──。
真名開放
『アンゴル・モア/ピア』
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