ダンテ【はあ、それにしても怖かったなぁ。リッカちゃんの中にいる誰かがずっと僕を睨みつけてくるんだもん。ドキドキしっぱなしだったよ。彼女はリッカちゃんを傍で強く護っているんだね。そういうの、素敵だなぁ…】
(でも、そのせいでリッカちゃんの母親ポジションの出番を削っちゃったのは反省点だなぁ。ごめんなさいリッカちゃんのお母さん。次はあんまりでしゃばらないから許してね)
【…?あれ、これも旅路の一幕なの?そんなぁ…】
【…あんまり、見ないほうがいいかもだよ?】
【さー、てと。楽園の皆には本当に素晴らしいものを見せてもらったなぁ。立つ鳥跡を濁さず。舞台は速やかに片付けなくっちゃね】
詩人ダンテ…否。あらゆる魔の軍勢にして、比類なき大魔王サタン。現世を偲びし纏い名と役割を今は捨て、輝かしき少年は空を見上げる。
【お疲れ様、ザッハーク。決して勝てない戦いにも、悪の魔王として戦い抜いたその本能。まさに君はまことの悪龍そのものだった】
語りかけ、琴をかき鳴らし、慈しむように目を細め…すると空中からドス黒い塵が舞い散り始め、サタンの眼前に降り積もっていく。最初は小さく少なく、しかしあっという間に人並みに降り積もりをみせる黒き残滓。
【そんなに使い心地が良かったなら、器冥利に尽きるんじゃあないかな?ねえ、『ジャムシード』】
「──げほっ!かはっ、くはっ!はぁ、はぁ…はぁ…!…私、は…」
その場に現れ、何度もえづく姿を見せるは、身体中に黒き刻印が刻まれし気風高き美女。その在り方と佇まいには王たる風格を備えた、立場高き者であることを思わせる者。サタンはそっと背中をさする。
【思い出して。君は喚ばれた筈だ。君を求める声に。召喚に応じて君はやってきたんだろう?】
「…あぁ、そうだ。私は求められた。今度こそ、今度こそあいつを殺める機会を求めて召喚に応じた。私は、私は…今度こそ、あいつを必ず…」
そう、譫言のように呟き続ける彼女にサタンは労いを込めて伝える。
【そうだね。君は殺しても飽き足らない怨敵にして宿敵、アジ・ダハーカ…ザッハークを殺すためにここまで来た「うぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあッ!!!」
瞬間、その名を耳にしたジャムシードなる女性はサタンの首をへし折らんばかりに掴み上げ捻り上げる。先の瞬間とは人が変わったかのような…憎悪の塊。
「その名を口にするな!その名を私の前で口にするな!!そうだ、私はあいつを殺す!殺すためにこうしてここにいる!思い出した!私はあいつを殺す為に召喚に応じたのだ!!」
【いたた…】
「どこだ小僧!言え!!あいつは!ザッハークは!アジ・ダハーカは何処だァァァッ!!」
首に爪が食い込み、血が吹き出し始める。その破滅的な剣幕にも微塵も動揺していないのか、サタンは明朗に語る。
【実はね、ザッハークは一人ではまだ召喚されないんだよ。彼はまだ影であり、肉体も魂も、夢もあちらにあって人理が安定している今じゃあ…せいぜいシャドウサーヴァントが限界なんだ】
「それがどうした!何が言いたい!?」
【だからね、依代がいるんだよ。悪の魔王ザッハークを定着させ、彼を降臨させる霊基の器がさ。僕もこの特異点を『作る』時、どうしようかと頭を悩ませたものさ】
「ならば依代を用意しろ!今すぐヤツを招け!ここで始末をつけてやる!!」
【──言ったね?じゃあどうぞ。無くしていた記憶を君に返してあげる】
瞬間、ジャムシードの頭の中に記憶が流れ込む。記憶の中の自分は、人間とその英霊達を見下ろしており。
「あ…ぁ…」
全てを見下し、蔑み。
「あぁあ…!」
善なる龍に滅ぼされた。まるで──【アジ・ダハーカ】の末路の様に。
「あぁあぁああぁぁあぁあっ!!うぁあぁあぁあぁーーーっ!!!」
瞬間、彼女は狂乱の極地に陥り発狂し、身悶え、絶望に頭を抱え跪く。彼女は聡明なる者だ。ジャムシードとは、千年の光を導いた比類なき聖王だ。
「嘘だ、私は、そんな、嘘だ、嘘、こんなの嘘だ!いや、嫌、嫌ぁあぁあっ!!」
【解ってくれたかい?そうだよ、ジャムシード。この特異点では君が『依代』だったんだ。君がザッハークとして振る舞い、君が善と希望の集いし輝けるカルデアへと敵対した…逸話の通りだね?『傲慢』のジャムシード?】
にこやかにサタンは語る。そう、彼女ははぐれサーヴァントの一騎だった。ザッハークを、アジ・ダハーカを滅する為のもう一つのカウンターとして用意された、善なる聖王。
本来ならばアフラ・マズダに出遭い懺悔の機会もあっただろう。善なる者として、人理の為に戦う道もあっただろう。ザッハークに復讐を果たせる機会もあっただろう。しかし──
【流石、ザッハークに身も心も捧げただけはあるね。あんなにノリノリで、あんなに楽しそうにザッハークになってみせた。もうすっかり君の全ては、ザッハークのものになっているんだね♪】
「嫌あああぁぁぁっ!!やめろ、やめろ!やめて、お願い…!私は、私は!私は…!!」
【君が教えてと言ったんじゃないか。誇っていいよ?君とザッハークの頑張りのお陰で、アジーカちゃんとアフラちゃん、そしてセーヴァーはまとめて救われた。僕が失敗した出し物も挽回してくれたね。リッカちゃんの血縁者はもう二度と現れない。最高の結末に彼女達は至ってくれたんだ。なんて素晴らしい!】
詩人の演目のように謳い上げるサタン。その言葉は、楽園の全てへの心からの賛美と賛辞と…
【だから、ゆっくり休むといいよ。君の出番はおしまいだ。復讐したい相手に心も身体も乗っ取られて、悪の極地として滅ぼされた傲慢なる聖王。君は誰にも覚えられず、誰とも縁を結べず。一人寂しく消えるんだ】
「あぁぁ……あぁぁあぁぁっ…!!私は、私はなんという…なんという事を…!!」
【今の君の気持ちは理解できる。死んだほうがマシなくらいに恥ずかしいだろうし、屈辱的だろうね?安心してね、僕は優しいから──願いを、叶えてあげるからね】
瞬間、六つの『翼』がジャムシードを刺し貫く。霊核を丁寧に射抜いた、必殺の一撃だ。
「がっ…………!!!」
【これからも愛しのザッハークに会わせてあげる。彼がいる限り、君の心も身体も、魂の欠片まで彼に奉仕する事になるんだ。嬉しいでしょ?何せザッハークのために全てを、光輪まで捨てた君なんだから】
「嫌、嫌だ…もう、私を、辱めないで…」
【それは無理かなぁ。ザッハークはアジ・ダハーカの影。今生にてアジ・ダハーカに選ばれし少女『藤丸リッカ』ちゃんがいる限り君はずっとずっとザッハークとして現れる事になると思うよ?カルデアの敵として、ね】
瞬間、消えかけていたジャムシードの焔が燃え盛る。憤懣の真紅と、憎悪の漆黒にだ。
「…ろす、殺す!殺す、殺す、殺す殺す殺す!アジ・ダハーカも!ザッハークも!!それを有する組織も皆皆!私が全部殺してやる!!」
【いいのかい?それは正真正銘、人類の敵となる道だよ?】
「構うものか!!私は許さない…!アジ・ダハーカを!ザッハークを!!何よりも自分自身を許さない!!」
その端整なる美貌は鬼相に歪み、気炎はまさに吹き荒れる劫火の様だ。消え去る瞬間まで、ジャムシードは怒りと絶望を吐き出し続ける。
「お前さえ、お前さえいなければ!!呪ってやる…!!幾万幾億の時が経とうともお前を許さない!!お前に纏わるすべてをこの世から!消し去ってやるうぅぅぅっ!!!」
【頑張ってね。ザッハークの【■■■】さん♪】
「ザッハークゥウゥウゥウゥウゥウゥウゥウ!!!うぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーーーーッッッッッッ!!!!!」
女性にかける最低最悪にして下劣極まる言葉をかけ、絶望と憤怒のままに霧散するジャムシード。それを見たサタンは、哀しげに眉を顰め…
【戯曲──『負け犬の遠吠え』】
次は善き出会いに恵まれますように、と…涙すら流し、彼女の顛末を飾ったのだった。
「…あら、終わりましたの?私、今回は出遅れてしまいましたのね」
次に現れしは、喪服を纏ったサーヴァント。一縷も乱れもない着こなしで顔や姿は見えないが、ジャムシードとは対象的に落ち着き払った声音でサタンに問う。
【ちょっと素材の仕込みをしていて呼ぶのが遅れてしまってね。はい、これが望みのザッハークの塵だよ】
なんでもないことのように、ザッハークの残滓を纏めクリームヒルトへと渡す。これもまた、サタンの演目の一つ。
「助かりました。これで、私の目的の完遂に近づきましたわ」
【粗悪品なのはごめんね。だってアジーカちゃんやリッカちゃんをこの手で傷つけるなんて、したくなかっ──】
瞬間、サタンを無数の『竜の部位』が襲う。爪、牙、尾…それをサタンは、自らの羽根で受け止めている。間一髪か、はたまた遊んでいたのか。
【ちょっと、何するのさ!】
「いえ、あなたはもう用済みなので。せっかくなので死んでもらおうかと」
【…一応僕がマスターだから、殺したら君もすぐに退去だよ?】
「それが何か?」
【目的、やり直しになっちゃうんじゃない?】
「それが何か?」
【………】
「そういえば、ジャムシードさんも残念でしたね。死ねだの殺すだの、はしたない。そういうものは言う前に行うもの。あなたも彼女も汎人類史。速やかに殺してあげましたのに」
【君、怖いよね…まぁいいや。君には期待しているよ、『クリームヒルト』。楽園カルデアを輝かせる逸材として、いっぱい頑張ってね!】
サタンは満足気に頷き、右手を見やる。リッカと握手した、その右手を。
【…こんな僕にも理解を示してくれた君に、僕は僕なりのやり方で報いよう。君達の旅路を、輝かしい出会いと困難で満たしてみせる。それを乗り越えた君達は、今日みたいに眩く輝いてくれると解ったから。あの明けの明星のように】
その過程で何千、何万の人々が踏み躙られようと、何億の犠牲が出ようと彼は一顧だにしない。彼にとって自身の目的と、彼が愛する愉しみ以外は等しく塵屑以下にしかみていないのだから。
【どうか善き旅を、楽園の皆。僕も僕なりのやり方で、君達を心から応援させてもらうからね──】
彼が邪悪なのだとすれば、それは自身を微塵も邪悪だと思っていない事。欠片も邪悪と思い至らない事。
…地獄の大魔王にして、輝ける明けの明星。サタンは誇らしげに、登る朝日を見守っていた──。
クリームヒルト「お疲れ様でした」
ダンテ【え、もう行くの!?おーい!?…おかしいなぁ、僕のスキル効いてなかったのかなぁ?】
(まぁいいや。僕は僕で、楽園カルデアが輝く舞台や演目を仕入れに行こうっと)
【…そういえば、行き止まりのデッドエンドの事をロストベルトって言うんだっけ。えーっと、僕の翅を使えばひー、ふー、みー、よー、いつ、む…】
(六つくらいは拾えそうだ!よーし、来年はこれにきーめた!)
【それではカルデアの皆、よき休暇を!来年か年末には、とても素敵なプレゼントが待っているからね──!】
〜
女性「…あら?」
(また、夢遊で変なところに…ちゃんと挨拶も出来なかったわ)
「…さて、私も私の旅に戻らなくちゃ」
(フィーネ。私は必ず見つけるわ。赦免の楽園を)
…こうして、オガワハイムを巡る再びの戦いは完全に幕を下ろす。
サタン【あ、そうだ。聖杯聖杯。トロフィーは大事だもんね。翅を一枚むしって、と。カルデアにとーどけ!】
絶対悪と、純悪の邂逅を経て。
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