人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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芋虫【ギ…】

ハデス【!?】

芋虫【ギ、ギ…ギャァァァァァァァァァァァァーーー!!!】

瞬間、芋虫が悶え苦しみ、発狂し、やがて弾け飛ぶ。その変化にザッハークすら手を止めた。

アンリマユ『うぉ!?』
アナーヒター『きゃっ!?』
ゼウス『ひぇー』
ルドラ『わっと!?』
■■■『!』
ハデス『ペルセポネー!ケルベロス!』
ペルセポネー『あなた!?ケルベロス、こちらに!』
『『『キューン』』』

瞬間、辺りの楽園のサーヴァント達が全て芋虫のいた場所へと光になって吸収される。ザッハークは訝しみ、そして見やる。

アジーカ『────』

光り輝く龍が鱗。虹が形になったような翼膜。見るだけで涙を流し、畏怖するような威厳と優しく、慈愛に満ちた眼差し。華奢な女性的フォルムの、荘厳にして崇高な、煌めきの龍。

アジ・ダハーカ・ウォフ・マナフ。それが光輪の力を受け真なる善神の領域に至った、善の中の善。その名もアジ・ダハーカ・スプンタ・マンユ。ザッハークが及びもつかぬ、アジ・ダハーカの善という二元の超越体…!

ザッハーク【──ふふ、ははははは!醜き芋虫が麗しき龍を産んだか!まるで童話だな、滑稽な夢よ!】

アジーカ『おわらせる。おまえのぜんぶ』

【いいだろう!この期に及び細工は無粋──文字通り、真っ向から叩き潰してくれる!!】

2体の龍は同時に飛び立つ。空へ、雲を越える空へ。

ダンテ『夜明けは近い。どうか素晴らしき結末よあれ』

その様を見守り、絶世の美少年は愛おしげに最後の戦いの幕開けを告げる琴をかき鳴らした──。


暁の咆哮〜スプリーム・カタルシス〜

【グォオオォオォオォッ!!!】

『────!』

 

夜明け前、最も昏き宵。雲海を下に置く遥か上層。星にすら届かん場所にて二匹の龍が激しく激突する。片や、蛇を両肩に生やした邪悪なる龍。片や、七色に輝く鱗と翼を有す白き龍。魂と影、夢と本能。その二つが互いを打倒せんが為に相争っていた。それは二元の縮図、善と悪の縮図そのものでもあるのかもしれない。

 

【さぁ見せてみろ、善に迎合し下等と交わった龍の力を!アジ・ダハーカたる者、現代の龍!】

 

嘲笑の咆哮に、仲間の全てを束ねしアジーカは睨み返す。言われずとも彼女はそのつもりだ。仲間を、友を、全てを侮辱し傷付けた眼の前の存在にかける情けなど微塵もない!

 

『お前は、ここで──殺す!』

 

瞬間、アジーカの巨大な龍体が稲光が如くに消え去る。雷光が如くに霧散した形に、ザッハークは訝しむ間もなく。

 

【ぐぉおぉおぉぉおぉぉおぉぉおぉぉおぉ!!?】

 

瞬間。五体を余すことなく神速の斬撃にて斬り刻まれ絶叫を上げるザッハーク。2体の蛇は細切れにされ、身体に夥しい刀傷を刻み込まれ損害を負う。

 

『雷位。リッカのママの怒りを思い知れ』

 

それはリッカの宿した魂の極み。アジ・ダハーカ・ウォフ・マナフは喰らい、取り込んだ霊基や魂の業を再現できる。半身たるリッカの技の再現など、翼を動かすに等しいものだ。自身を雷とし、周囲に翼と同じ数の刀を以てザッハークを細切れとしたのだ。

 

【ク、フフ…!ままごとで、俺を殺せばせぬわ…!】

 

『まだ終わらない』

 

【抜かせ!!】

 

ザッハークの尻尾が鋭く振るわれる。それは巨大な質量を以て打ちすえられ、直撃すれば重傷必死なもの。しかし、アジーカとリッカは一人ではない。

 

『無駄よ、ザッハーク。私達は水そのもの。水をこわ』

『壊すことは誰にもできないわ!くたばりなさいアホンダラー!!』

『アナーヒターの台詞を取るなっ!』

 

アジーカの身体が霧散し、水となりてザッハークを包み込みまた縛り上げる。アナーヒターの力を再現し、水の龍となったアジーカが邪龍を溺死、窒息させんと締め上げる。

 

【ぐ、ぐっ、ぐごっ…ぐおぉぉお…!!】

 

懸命にもがくも、水を引き裂くことは叶わず。溺死寸前になったところを尻尾に叩きつけられ吹き飛ばされる。これでは、傷付けられた全ての人達の痛みや嘆きの万分の一以下でしか報いを与えられない。

 

【その、程度か…!!】

 

尚も意志を挫けぬザッハークが、無数の動物や不浄なる虫を発生し差し向ける。空を覆い尽くす程の怪物の群れ。アジーカを飲み込む邪龍の力。しかしそんなものより輝かしいものが、邪龍の魂には満ちている。

 

『では私が行こう。ゼウスの雷霆、ほんのちょっぴりモード』

 

瞬間、天空が一瞬真っ白に染め上げられる。それはまるで、夜と昼が逆転したかのような光量の顕現。そしてそれとほぼ同時に──

 

【ぐぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーーっ!!!!】

 

アジーカとザッハークの何千倍もの大きさの雷が、ザッハークにむけて直撃する。それはまさに神の威光そのものにしてギリシャ最強の雷霆。本気ならば宇宙すら砕く程の威力を持つゼウスの雷。本体はヘスティアに渡しているのでミソッカス版の披露である。だがそれでも、ザッハークから余裕を全て奪うほどの超絶威力であることは疑いようもない。

 

『ついでだ!私のとっておきもプレゼントしよう!』

 

驚天動地はまだ続く。キリシュタリアの持つ最大奥義、理想魔術にして机上の空論。星を魔術回路にして放つ隕石攻撃。無数に降り注ぐそれを、ザッハークに叩き込む。

 

【ぐおぉぉお、ぉおぉぉおぉぉおぉ…!!!】

 

『そのままそのまま!見てておっさん!黙示録撃、1億分の1───!!』

 

そしてピアが自身が有する才覚の技にて、その隕石を砕き衝撃をザッハークへと叩き込む。水を、二つの雷を、理想魔術と断罪の一撃を束ねたそれらの攻撃は、ザッハークを完膚なきまでに打ち据える。

 

【これが、善に阿り得た力だと…!いや、これほど俺が一方的に圧される等と…!】

 

二元の力は互角だ。互角であるが故に終わりはない。だからこその二元の世界なのだ。それはアジ・ダハーカがウォフ・マナフ、ひいてはアフラ・マズダの力を有していようと変わらぬ理。不利ではあるが、惨敗などあり得ないはずなのだ。

 

【!…サルワ、まさか貴様か!貴様は…!】

 

そして思い至る。ここに来て、サルワの持っていた特異性…そして、ルドラが有しているものを。

 

『今更気付いたのか。ルドラはサルワという悪神でもあり、また善の司法の神。悪でありながら善を成す…要するに、お前を殺すためにうってつけの立場なんだろうよ』

 

ルドラはインドの主神のシヴァと同一の存在だが、同時に原典を同じくするゾロアスターにおいてはアンリマユを含めた7大魔王の一角であるサルワとも同一視される存在だ。

つまりは悪神としての面を持ちながら、悪を討ち、善良な人々を守る司法神として成立している。この善悪の矛盾を抱えた神という利点を用いて二元に関する防御を突破するという能力を持つ。ルドラは初めから、悪龍にとどめを刺す為に選ばれたカウンターなのだ。

 

『加えて俺は『ヴァジュラ』の所持者だ。人への嫌がらせが生き甲斐なお前なら、この意味は理解できるよな?まぁ、シヴァから借りてきたわけだがな』

 

【…!!】

 

ヴァジュラ。マハーバーラタにて悪龍を仕留めた武器。それを持つものは悪龍に対する絶対的な特効を持つ。即ち、アフラ・マズダの善と悪龍殺しの刃。それらを一つに束ねたアジーカに太刀打ちできないのは最早、必然ですらあったのだ。

 

【俺を仕留め、滅する…その全てが此処に集っているということか…!】

 

『そういうワケだ、クソ野郎。いい加減フラストレーションが溜まりに溜まっている頃合いだ。派手に死んでスカッとさせろや!』

 

アンリマユの言葉と同時に、リッカとアジーカ、両方に語りかける者がある。一つはリッカの胸ポケットに、一つはアジーカを包み込むように。

 

『アジーカ。さぁ、この光輪の力を。今のあなた達なら、きっと』

『アフラ…』

 

『あの野郎、オレ様の娘を随分とコケにしてくれたな…。リッカ、オレ様の力を使え。ケリをつけてやる!』

 

『ベリパパ!カプセルの力がベリパパの意志を…!』

 

力の一端たるアトロシアスカプセル、アフラ・マズダの光輪。それらを解放し、眼前に展開する。三対九枚の翼が、美しく羽撃く。

 

『集え、来たれ。無尽無辺たる光。輝きと共に遍く全てを照らしこの世すべての善を示さん』

 

アフラ・マズダの言葉と共に、光輪にゲーティアの第三宝具…地球の紡いだ歴史の熱量と互角のエネルギーが蓄積されていく。そしてそれに重なるように、取り込んだ仲間達の宝具も装填される。

 

『ルドラの風、装填。ゼウスの雷、装填。アナーヒターの水、装填。シヴァの火、装填。■■■の地、装填。アンリマユ、ハデス、ペルセポネーの闇、装填』

 

『ベリパパ!最後の最期で力を貸して!』

『父に任せるがいい…!』

 

『リッカの心の光、装填。ウルトラマンベリアルの闇、装填。ピアの裁き、キリシュタリアの理想魔術、装填───臨界、突破。光輪、限界運転』

 

その熱量にて、雲海が全て消し飛ぶ。同時に背後より、日の出が重なりアジーカの龍体を眩く照らす。それこそは、絶対善の具現。それこそは、悪龍を滅殺する究極の龍の息吹。

 

其は───

 

悪尽滅相(アスラアンタカ)無尽無辺光神哮(スプンタ・マンユ)────!!!!!』

 

50メートルクラスのアジーカが芥子粒に見えるほどのエネルギーの奔流が光輪より放たれ、一瞬でザッハークを飲み込む。アジーカの口から、翼から、身体中から放たれる無尽無辺の輝きを、ザッハークは為すすべなく直撃を果たす。

 

【ぐぅうぉあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!そうか、これが!これが汎人類史の多様性…!小賢しくも描かれし紋様の力か────!!!】

 

『───!』

 

【ふふ、はははは!楽しみだ、あぁ、心が躍るぞ!いつかこの輝かしき紋様を、完膚なきまでに踏み躙るその日がやってくるその瞬間を!心待ちにしてやろう!!】

 

『そんな日は──来ない。この世界には…』

 

アジーカは、素晴らしき夢を見続ける龍は告げる。そんな日は、悪が勝つ日は永遠に来ない。確信があるのだ。何故ならば。

 

『この世界には…みんながいる』

 

そう──善き世界と善き人々。そして、自身も受け入れたみんながいる限り、決して世界は美しさを失わない。アジーカは…龍の魂は、それを心から信じているのだ。

 

【はは、ははははははは!!精々夢を見続けるがいい!その夢が醒めたその瞬間こそがこの世の終わりと覚えておけ!この世界に幕を引くのは神ではない!我等──アジ・ダハーカなのだからなぁ!!】

 

笑いながら、嘲りながら、アジーカに呪詛を叩きつけ──。

 

 

【ぐぉおぉおぉぉおぉぁあぁあ!!ぐがぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!】

 

天地を震わせる大絶叫の断末魔を残し、邪悪なる龍、ザッハークはその身を焼き尽くされ、地球より弾き飛ばされる程の威力を受け消え去ったのであった。その刹那──空を紅く染めるほどの爆発が巻き起こり。

 

『──ありがとよ。最高にスッキリしたぜ!クソ野郎!』

 

その痛快極まる最期に、満面の笑みでアンリマユは中指を立てるのであった──。

 

 

 

 




夜明け

リッカ『…夜明けを見るの、二度目だぁ』

アジーカ『…リッカ』

『ん?』

『パパも、ママも…いなくなっちゃった。私の…アジ・ダハーカのせいで…』

リッカ『ううん。アジ・ダハーカのせいじゃない。アジーカは悪くないよ。…母さんと父さんの望む世界は、この世界のどこにもなかっただけ』

アジーカ『でも…』

リッカ『顔を上げて、アジーカ。私達の繋がりはあの人達だけじゃない。私達をここまで連れてきてくれたたくさんの人達との繋がりは、今もここにある』

アジーカ『…』

リッカ『私達はたくさんの奇跡に支えられている。だから下を向いてちゃ駄目。私達がもってる奇跡は、あの人達との血の繋がりより強いんだから』

『…うん』

リッカ『だから、胸を張ろう。顔を上げよう。私達を愛してくれた人達に解るように。私達はもう──大丈夫だよって!』

リッカはもう哀しまない。涙を流さない。愛は毎日、沢山受け取っている。血縁の闇にも負けない絆と一緒に。

アジーカは涙をごしごしと拭い、登りゆく朝日を見守る。煌めく龍を、朝焼けが包み込んでいく。

──夜明けは其処に。ここにリッカの血縁は絶たれた。だが彼女は振り向かずに歩き続けるだろう。

アンリマユ『へへ…』

自身が繋げなかった絆を最後の最期に築いた…半身たる龍と、世界を共に救った漆黒の神と共に。

そして──龍が生きる、楽園とこの世界と共に。長き夜は、今明けたのだ──。

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