人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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セーフティエリア

ハデス【もしもし、閻魔殿ですか?そちら預かりの藤丸■■■と藤丸■■■の魂なのですが…】

ペルセポネー【かすめ取られたというのは真実でして?どうなっていますの!?】

鬼灯【すみません、上司に変わりまして私が。失態、不祥事もいいところなのですが、確かにその魂が日本の地獄から異動しています。しかし…】

ペルセポネー【しかし!?】

【…異動はなぜか、正式な手続きを踏まれておりまして。うちの上司も【いつの間にあちらに明け渡したかわからない】などとほざいております】

ハデス【まさか…】

(先のダンテの、絶対命令権…?閻魔にすら効くというのか…)

ペルセポネー【どこに!何処に移されましたの!?】

鬼灯【…阿鼻地獄より、コキュートスへ。受取人は、ルシファーとありました】

ペルセポネー【…ルシファー…ですって?】

ハデス【…あの詩人と、いったいどのような関係だというのだ…】




大神の腹を割ったお話

『やぁ、この出会いに乾杯しようじゃないか麗しの美女。黄昏ている今、話し相手に天空神コンビはいかがかな?』

 

エレベーターを出た先すぐのセーフティルームにて、一行は休息を取る。そんな中、突如現れた重篤な拘束を施されし存在に向けコンタクトを取る者があった。言うまでもなく、ゼウスとキリシュタリアのコンビである。互いに制御しているのかしていないのか微妙なところの、自由なる者達だ。窓から月を見上げる彼女に、臆する事なく話しかける。

 

 

「…よく、私が女性だと分かったわね」

 

そう訝しむ彼女の疑問は最もだった。頭の端からつま先まで、肌の一部も見せることなく拘束具で覆われている。髪も見えず、肌も見えず、見えるのはギラリと鋭い瞳のみ。その異様さは、人であるかどうかすら疑問視させるやもしれぬ領域にあったが…。

 

『簡単な話さ。私は女性全てを愛しているからね。どれだけ隠されていても、その仕草やボディラインを見間違うなどありえない。全知全能として、女性との出会いは外さないのさ♪』

(ははは、妻持ちとは思えない発言だねゼウス!)

 

女好きを憚ることないゼウスからしてみれば、そんな隠蔽は無意味だっただけの話。その力と下半神ぶりに、彼女は呆れたように首を振る。

 

「噂に違わぬ好色ぶりね。申し出はありがたいけれど…遠慮しておくわ」

 

『そんなー。何か私にご不満が?』

 

「いいえ、大神ゼウス。あなたの妻の嫉妬が怖いのよ」

 

何も言い返せん…。口を噤んでしまうゼウス。これでも大分マイルドになった方なのだ。普段のゼウスなら無粋な拘束具なぞ無理矢理引っ剥がすくらいの事はする。好色ナンパじいさんに落ち着いているのはキリシュタリアの存在あればこそだ。

 

「ゼウスへのカウンター、お見事です。すっかり沈黙してしまわれた」

 

「やはり女神ヘラとの関係は変わらないのね。仲睦まじくて何よりだわ。…それなら、私の正体くらいには見当はついていそうなものだけど」

 

まるで世界から弾き出されたような厳重な拘束に、およそ全ての個性を封じられているかのような制限。しかしそれでも隠せなかった女性としての魅力。落ち着き払った彼女の言葉に、キリシュタリアは告げる。

 

「いえ、全く」

 

「あら…」

 

「しかし大神は言っていました。『彼女は男性絡みで酷い目にあった筈だ、そういう独特のオーラを感じる』などと。それが真偽かはともかく…あなたの事を放っておけない理由にはなったようです」

 

キリシュタリアもゼウスも、理由の違いはあれ彼女を気にかけていたのだ。それがワケアリの女性というなら尚更である。その紳士的なのか獣慾的なのかわからない動機に彼女の瞳が愉快に歪む。

 

「噂に違わぬ、というか噂以上の変人ね。メチャクチャだけれど真理は衝く。厄介だけど、裏表のない誠実な態度…」

 

『楽園の私は誠実さ重点だよ。少なくとも無理矢理や変身詐称とかは封印だ。ボディもこちらのキリシュタリアだから高貴にして才能ある血統の優良種の保証付き。少なくとも、女性を家庭の貧困などで不幸にはさせない誓いはできるよ』

 

ゼウスの問いに女性は目を細めた。その物言いは、女性への気遣いが見えたからだ。

 

『男女が結ばれたならば、必ず幸せになるべきだと私は思う。現界して得た知識でそれはもう衝撃的だったのが、家庭の貧困問題や出生率の低下、そして資金難や望まぬ子への処置…現代において、結婚や男女付き合いは必ず幸せに繋がるものではないのだと知ってそれはもう私は嘆いたね』

 

彼なりに、現世を見て思うところはあったのだという。愛し合い、子を為し、育むという行為が幸福という行為ではないという事実そのもの。その認識にゼウスは嘆いたという。

 

『そうなってしまうのには色々あるが、間違いなく男性側のだらしなさにも原因はあると私は思うよ。経済面や金銭面の裕福さや余裕がなく、伴侶や子を護れる強さのない男性が後先考えずに家庭や関係を持ってしまったりする例があったりするようだからね。というか私というキングオブ男性からすれば不備を女性には求めない。だって女性を尊敬しているからね』

 

「あら、意外。女性は駄菓子か何かと思っているかのようなだらしなさな貴方にしてはロマンチストな考え」

 

『こ、後世からしてみれば下半神だと言われるのもやむなしかもしれないが、私は女性を軽んじた事はないのだよ。いや、これは本当。妻だって好きだし、人妻だって好きだ。淑女だって老婆だって幼女だって、別け隔てなく私は大好きだ』

 

(間違いなく現代社会では数え切れないくらい警察の世話になる価値観だ、ゼウス!)

 

『詳しい手段は全年齢向けだから省くとして、私は女性を男として幸せにしてあげたいと常日頃考えている。美しい女性も美しくない女性も、女性というだけで私が庇護し心を揺さぶられる鮮烈な存在なんだ。昔にはケンタウロス、現代には性暴力被害という女性を女性とも思わないケダモノがいる。私はその暴力に襲われ涙する女性の嘆きを根絶したいと考えているんだ。望まぬ子という概念を無くしたい。リッカちゃんのような、親を選べぬ子の悲劇を無くしたい。その為に私は全ての女性に問い続けるのだよ!『私と一夜どうだろうか!』とね!私と血縁になれば、財政血統生活水準諸々全てが心配いらなくなる!ゼウスの恋人、ゼウスの子というこの上ない証明が与えられるのだから!』

 

「差し引きヘラの嫉妬でぜんぶチャラ、むしろマイナス寄りよね」

(確かに)

 

そんなぁ。ゼウスはしゅんと縮こまってしまう。ゼウスの子ならば幸せという世迷言はヘラクレスにかけた迷惑の数だけ謝ってから宣ってもらいたい。

 

「ふふ、あはははっ。でもそんな風に自信に満ち溢れた男性は素敵だと思うわ。少なくとも、私の元夫よりはずっとね」

 

しかし、ジョークの類としてみれば大ウケだったようで女性は愉快げに笑う。これならば、ゼウス渾身の自虐ブーメラントークにも意味はあったのだろう。

 

『どんな方だったのかな、その男性は。反面教師として教えてもらっても?あと連絡先を教えてもらっても?』

 

(あなたは本当に挫けないな、ゼウス…)

 

「…あなたと違って、とても小さい男だったわ。最初に聞くけれど、ゼウス。あなたは女性は組み敷く事しか認めないタイプかしら?」

 

『?ベッドの話?うーん、そうだなぁ。基本は生娘に手解きしたり欲求不満な人妻のお相手がメインだったからリードが多かったけれど、私的には『ベッドの上ではダイモン(下級悪魔)なのね』と囁かれながらペース握られるのも全然好きだね!』

 

何の話をしているのか意味不明じみているが、これは女性の内面に踏み込むとても大事なトークである。未成年や人妻に手を出している事はギリシャなのでキリシュタリアは懸命にスルーする。

 

「私の前の夫は、私を下にしか認めなかった。自分が上で、私の下にはなりたくないと言った。どれだけ交渉しても、意見を変えはしなかった。だから私は嫌になって逃げたのよ。狭量な夫から…ね」

 

『なんてケツの穴の小さい輩だ…私なら積極的でウェルカムだというのに…むしろ私をケラウノスしてもらうのに…』

(…その逸話、エピソードには覚えがある!まさか、貴女は…!)

 

ゼウスとは裏腹に、彼女の正体や真名に至らんとしたキリシュタリアを、女性は指で制する。

 

「私の名前は、もうこの世界にあってはいけないもの。呼んではダメよ。楽園の子」

(!)

 

「いつか、私の名前を呼んでも大丈夫な場所でまた会いましょう。そこならきっと、あなたたちの覚えのない罪はなくなるでしょうから」

 

それだけを告げ、女性は歩き去っていく。彼女はまだ、素性を明かす気はないらしい。

 

『夫との確執、出奔にして放浪者、女性…これだけそろえば真名看破には充分だね、キリシュタリア』

 

(!まさかはじめからそのつもりで…?)

 

『フフ…私がただのスケベ神だと思ったかな?カルデアの一員として、やるべきことはやるのさ』

 

先の本音トークは、彼女の謎に迫るためであった。そう豪語するゼウス…自身の相棒に、キリシュタリアは頷く。

 

(他のギリシャ組には聞かせられないな…)

 

一つの情報を得るために、自分のあらゆるものをさらけ出す豪快ぶり。この破天荒な相棒の㊙エピソードは胸にしまう決意をしたキリシュタリアでありましたとさ。

 

 




『キリシュタリア。しかしこの情報は、彼女と本格的に事を構えるまで秘密にしておこう』

キリシュタリア(おや、その心は)

『彼女はまだ、何者でもない。本来ならまだ出会うべきではない女性だ。素性を暴くのは無礼だろう。今は出会えた奇跡、それだけで良しとしよう』

(ゼウス…)

『私は彼女の笑顔が見たかっただけさ。楽園を追放された彼女の心を、ほんの少しでも癒やしたかった。愛と天空の神、ゼウスとしてね』

彼なりに、出会った彼女を慮っていた。こういうところが、彼を性犯罪者と分かつ一因なのやもしれない。キリシュタリアもまた、ゼウスの意を汲みそっと胸にしまうのであった。

〜カルデア

マーモットカーマ「アアアアァーーーーッッッ!!!」

グドーシ「カーマ殿、落着き、落着きなさりませ。どうかお気持ちを」

「アアアアァーーーーッッッ!!!」

よりにもよってゼウスに愛の神を名乗られるヘイトスピーチっぷりに、カーマはカルデアの中心でマーモットのコスプレを行い大絶叫したのだった…

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