アジーカ『むしり』
『ぎゃー!?』
ペルセポネー【お見事ですわ!流石はリッカの半身ですわね!】
ゼウス『いでで…ヘスティア姉上も呼ぼう』
アフラ・マズダ『えらい、えらい』
アジーカ『ファッ』
アンリマユ【……】
リッカ『あの子、気になる?』
【…あー、まぁな。…いつかになるかも分からんし、昔話…聞くか?】
リッカ『聞く!』
【大した話でも、ないんだけどな…】
『なぁ、お前それ楽しい?』
私…まぁ、アンリマユになっちまった『誰か』はそんなふうに質問した事があるんだよ。もう名前も喋り方も覚えてないから、この回想は前私が被った事あるヤツの真似な。本人じゃないのは了承頼むぜ。
そいつは…生まれてすぐに神殿に捧げられた存在だった。村で生まれて、年端もいかない内に村の奴らに祀り上げられた。なんでも金髪やら透き通った肌やらがあんまりにも綺麗だったから、そこに信仰してた神様と自分たちが『善い者』である事を示したかったんだと。で、親からすらも喜んでアフラ・マズダに捧げられたって訳だ。アイツの名前はアフラ・マズダ。なにせ、そうあれと望まれそうあれと捧げられたんだ。アイツと私は同じだ。あるのが呪いか、祝いかってだけ。
結論から言うと、アイツは人間扱いされなかった。神様の供物として、善への証明として崇められ、持て囃され、遠巻きにされ、友達も家族も何も与えられなかった。自身らの善を証明するための身勝手な願いの受け皿として…アイツはずっと過ごしていたんだよ。
誤算だったのが、アイツはマジに神の器持ちだったところだな。魂のスケールがデカすぎて、まともに周りを認識できてなかった。大体そういうのは人付き合いでスケールダウンするか気味悪がって埋められるもんだが、アイツの顛末は今話したとおり。白紙の聖女は白紙のままで、崇められ続けた。これまた誤算で、アイツの魂は筋金入りの善性も付いてきてた。
幸福あれ、平穏あれ、慈悲あれ、善よあれ。初めて口に出した言葉がそれなんだ、なにかに縋らなきゃ生きていけない奴らにとっちゃまさにうってつけなわけ。あの連中は、誰かに何かを見出してもらわなきゃ生きていけなかったんだ。
そんな場所で生まれた誰でもない何か、なんの因果か世話係を申し付けられさぁ大変。そんな恐れ多い神様なんぞに見合うパンピーだったんでそりゃあ慌てに慌てましたよ。えぇ。でもまぁ、村のクソなところはしきたりに従わなきゃ村八分で家族も危ない。私はやるしかなかったんだわな。
食べ物と衣服を持って神殿に来て、私が見たもの…そりゃあ美しく、そしてどうしても『納得できない』ものだった。
『こんにちは』
そう告げたアイツは痩せ細りに痩せ細り、押したら砕けちまうようなガラス細工みたいだった。髪は伸び放題、自分でまともに歩けるかも解らないくらいの衰弱ぶり。それでもって、善を示す刻印は焼きごてでご丁寧に刻まれてやがった。
手足が繋がれた、神への供物…。それが私が目の当たりにした、最初のアイツの姿だった。そんで私は、最初の問いに戻るわけだな。
楽しいのかと。そんな痩せに痩せて、何も食わず何も飲まず。誰かに触れ合うこともなく誰かと語ることもなく、ただいるかも解らない神様に祈ってこんな事をやらせる奴等の平穏を祈り続けて。私は尋ねずにはいられなかった。そうでなきゃ…せっかく生まれた命が勿体ないと思ったからだ。
『ありがとう』
まともな言葉は話せてなかったが、不思議と言葉と表情で言いたいことは分かった。ありがとうだなんて抜かしやがった。お前に全部押し付けて生きてる奴等の仲間に。自分達は善なるものと宣う奴らの仲間なんかによ。
『ありがとう、じゃねぇよ。恨み言ぐらい言えよ、聞いてやるからよ。言えってば!』
私は無性に腹が立った。肩を掴んだら、羽根みたいに軽かった。白い肌に刻まれた烙印があんまりにも痛々しくて涙が出た。こんな事をやらせる奴等のどこが善だと思った。でも、アイツは言ったんだ。
『なかないで』
泣かないで、だとさ。自分は泣くことどころか動くことも話すこともできないくせに。とことんまで都合のいいやつだった。誰かを疑うこともできない…
『おかしいよ、お前』
…そこからは、私は毎日アイツのとこに通ったわけだ。世話役として、アイツにできることはなんでもした。
そりゃそうだろ?コイツが来てから村は平和そのものだ。平和はこいつのおかげだ。なら、その分の感謝とか恩とかはコイツに還らなきゃいけない。顔も知らない神様じゃねぇ、祈ったコイツにだ。
文字を教えて、読み書き教えて、言葉を教えて、栄養与えて。マジに介護だった。しんどかった。目を盗んでやらなくていい世話もやってたからな。だけど、しんどいっちゃしんどかったが…
『いつも、ありがとう』
そう言って、アイツは笑ってた。祈る以外に、自分の意志で告げる言葉はいつだって感謝だった。自分ってのはもうとっくに無かったんだ。誰かに感謝しか示せないやつなんだ、もうコイツは。
でも、その笑顔とか、声は普通に好きだった。誰かさんはなんの取り柄も無かったからな。ソイツにそう言われるだけで、なんていうか…
生きててよかったなって思えた。
〜
そっからは、まぁあんまり楽しい話じゃない。善は証明できたが、奴らは次に悪を恐れた。
【自分達の中に悪はない】【悪である全てが必要だ】【悪たる者が必要だ】
そんなクソッタレな思い付きで、この世全ての悪の製造が始まったわけだ。生贄として誰かを【貶めていい誰か】にしようって儀式だった。それに私…誰かさんは選ばれた。
それがアイツの世話係の領分を逸脱した故の罰だったのかはわからん。善の神の反対にするに相応しい存在として、私すらも生贄に捧げられたのかも、今でも分かってない。ただ結論として、私はその悪の集め先にされた訳だ。
そこから先はもうぼんやりだ。名前は呪術で取られて、昨日まで一緒に笑ってたダチに指を切られて、親だった奴に目をくり抜かれた瞬間、頭がおかしくなって発狂したからな。そこからはこの世のありとあらゆる苦痛を受けて、アンリマユ(劣化)の出来上がりって訳さ。拙い儀式だから真作に通ずる贋作にすらなってなかった。ただの呪いがこびりついた訳だ。
色々考えて、色々思いもした。憎しみやら、恨みやら、哀しみやら、怒りやら。でもそれは自分という存在が生み出す発露だ。私はもう誰でもないから、必ず枕にこれがついた。
『これは誰の願いだったっけ?』
もう誰でもない、浮かんでは消えるだけのもの。怒りも憎しみも長くは続かない。そうあれと願われたから、漂うようにそこにいるだけだ。ただ…
『あいつ、大丈夫かな』
自分の事じゃないアイツ。もう宿敵になっちまったアイツのことは思い出せた。そう、いつもニコニコしてるアイツは大丈夫だろうか。世話役はいるんだろうか。大丈夫かな?
──様子を見てみたら、アイツは泣いてた。嗚咽しながら、ずっと誰かに謝ってた。
誰に謝ってたのかはもうわからん。よっぽど大事だったんだろう。よっぽど哀しかったんだろう。だがもう、そいつはこの世にいない。いるのは悪である存在となった呪い、こびりついた染みだけだ。
【泣くなよ、みっともない】
そんなアイツにかける言葉はもう無かった。自分は呪いとして焼き付いた、幽霊みたいなものだ。だから、もう世話役として何もできることは無くて。
…その次の瞬間には、世話役なんて単語の意味すら解らなくなってた。ただ、そいつが気になってたから見ていただけだ。
そのすぐ後に、村は滅んだ。火災だか、竜巻だか、奴等の住んでた村はまとめて薙ぎ払われた。山の天辺近くなのに、水害なんてのもあった気がする。なんなんだろうな。
アイツも…長くなかった。誰も世話をしてくれないから、飢え死にするだけだ。もう誰も、アイツに何もしてやれない。
ただ、アイツは死ぬ寸前まで祈っていた。願っていた。なんだか不思議な事を、祈ってた。
『幸せでありますように』
…それは、報われない自分の生が素敵なものでありますようにみたいな願いだったのだと思った。それにしては必死だったから、よっぽど嫌だったんだなと思った。今の人生が。
ただ──死ぬ、ほんの刹那の瞬間。
『──■■■』
誰かの名前を呼んで…アイツは動かなくなった。
その名前が誰のものかはもう分からん。知るよしもない。ただ死んだ瞬間、あいつの身体は光りに包まれ消えてなくなってた。
残されたのは、呪いだけ。もう何も無くなっていた。
【…それで良かったのかよ、お前は】
ずっとそれを問い続ける日々を、ずっと繰り返したが…もう誰も、返すやつはいなかった。
それが、アイツとの腐れ縁。あったようで無かった…ただの一幕の全部さ
リッカ『………』
アンリマユ【誰にも言うなよ。きっと、アイツも覚えてないからな】
リッカ『……うん』
アンリマユ【さ、行くか。今回の主役は、あの『まじめにふまじめ』娘だからな】
『アンリ』
【ん?】
『でも…私に、人類に力を貸してくれて、ありがとうね』
【…そりゃあ、私みたいなドブからアイツや、お前さんが生まれる面白い生き物だ。助けんのは当たり前だろ?】
リッカ『…ありがとう』
【気にすんなって!行くか相棒!あいつも護りつつな!】
アフラ『美味しい!』
アジーカ『味がしない…金箔味』
──それは、誰でもない誰かのかつての思い出。
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