ギル《では、ここでフォウとしばし待て。案ずるな、すぐに戻る》
──ギル、ですが…
ギル《因果応報というものは真実よな。偉人は戯れに言葉を未来に残さぬと言うことよ。…さて、次なる奮起と奮闘を存分に見せてもらうとするか》
フォウ(あんまり煽るなよな!絶対だからな!)
病室
ナイア「お父さん…何故あんなムチャを…」
ニャル【思えば、私の罪でお前にいらない苦労をたくさんかけた事をずっと悔やんでいた】
ナイア「えっ?」
【親の罪は親のものであり、子にはなんら関係ない。先祖の罪は先祖のものであり、末裔が責められる謂れはない。…だが生き物は、そう達観した目を持っていない。邪神の娘として、かけた苦労を私は忘れていない】
「そんな事は…」
【だから私は示したというだけさ。楽園の皆様はそんなことをしないとはわかっていても…それでも、リッカちゃんにもピアにも、親の確執は関係ないのだと。それを私は、示したんだ】
ナイア「……」
ニャル【だから気に病むな。私はこうして生きているからな。…おや、誰か来たようだな?】
(メッセージは明日以降返信します)
再演
「随分と身体を張ったものよな、邪神。それ故起きる負傷は名誉のものであろうが故、一先ず賛辞を贈っておこう。そら、フルーツバスケットだ。家族と分けて食すがいい」
ニャルの病室に足を運んだ見舞客、それはなんと御機嫌王。臓器や粘膜に生命に別状はない刺激を受けている事を鑑み、見舞いにやってきたと言うところである。ナイアが膝をつこうとするが、それを軽く制しパイプ椅子に腰を下ろす。
【わざわざすみません、王様。自分の言葉の薄っぺらさは自分が一番分かっていますからね。あれくらいはしないと示しがつかんと思いまして】
「日頃の行いというやつは肝心な時に請求をしてくるという教訓にもなったな。魂が爆散しないだけマシに思うがよい。アレはそういう劇物だ」
ナイアのナイフを拝借し、ギルはリンゴを剥き始める。エアは病室に動物禁止の為にフォウと外で待機している。
「星の断罪者…。ゼウスめから仔細のデータが届いており、その一端の把握を行った。どうやら宇宙開拓に赴かんとしていた奴等の制作主は、やつの種族の裁きを受けてチリに還ったらしい」
キリシュタリアに宿るゼウスの知恵を、キリシュタリアの報告という形で受けたギル。それらはギリシャの神々の成り立ちの概要を掴む大いに有益な情報でもあった。
【キリシュタリアに宿るゼウスって確か、汎人類史側の存在では無かったような…】
「機械神、そして全知全能の所以たる自らの演算機能の特性を使い汎人類史のゼウスの情報と同期を測ったと宣っているようだ。まぁ、壊れ果てようが別世界であろうが神は神。人の尺度で測れぬのは貴様が理解していよう」
ギルの言葉に閉口するニャル。そんな理不尽を行使する存在が、こうして地球の嗜好品に半死半生になっているのだから生というのはわからないものだ。
【確かにそうですね。神といえど、本当にあらゆるものを超越した存在というのはレアなものではありますが…】
「生きていれば、いつかそういったものにも出会えるやもしれぬな。ということで喜ぶがいい。貴様の新たなる家族に関わる案件を二つほど持ってきてやったぞ?」
王は別にリンゴを剥くためにやってきたのではなかった(それだけでもよい息抜きになっているのは間違いないが)。そう、楽園カルデアの顔の広さから、依頼と騒動には事欠かない。その報告にニャルは目を向け、せめて王に相対する。
「一つはサーヴァントユニバースの警視総監直々の依頼だ。遊星ヴェルバーの収穫した星を不当に占拠し、自らの拠点としている者共が問題視されているらしい。ヴェルバーは星の収穫者。足取りは未だ掴めぬが活動自体は更地となった星の跡地で判別ができる。火事場泥棒に似た輩の討伐、確保依頼といったところか。ヒロインXXが出撃に志願し、相方はお前の娘を推薦している様だぞ」
【銀河警察からの、狩人としてのナイアへの依頼といったところですか。…確かに星自体は貴重なもの、生命活動が出来ていたかつての星ならテラフォーミングくらいは可能か…】
ナイアに契約の図面が渡される。そこには銀河警察警視総監、エレシュキガルの判子が押されている。後はナイアの了承次第で受けるかどうかが決まる、といった段階だ。
「承知しました。楽園在住の狩人として、この依頼をお受けします」
ナイアの判断は一瞬で決まった。本来なら闇に属するものが関わらぬならば畑違いであるのだが、ナイアの長年のカンにより一つの事例が想定される。
「そういった占拠者の傾向は、単なる賊の他にも新興宗教や邪教の団体が活動拠点を求めて行う可能性もあります。まだ未定ではありますが、もしそれが人身御供や邪なる者を崇拝する害悪ならば、私の出番です」
【やってくれるか、我が娘】
「勿論です。頼りにしてくださる方の願いと手を決して振り払う事はしない。これが私の狩人としての絶対のモットーでもありますから」
誰に言われるまでもなく、ナイアはそれを了承した。正直なところ、確かな理由などなくとも手を貸すのが彼女の中での決定事項だ。友人の推薦も重なり、困っている人を見過ごすことは彼女の魂には選択すら浮かび上がっていなかったからだ。
【では、彼女の意見の通りです。私はオペレーターとして彼女らをサポートする形でアシストさせていただきますよ】
「よし。ではブリーフィングルームに赴き、XXめと合流し座標を聞き及ぶがいい。カップラーメンばかり食うのはやめておけと小言も忘れずにな」
「はい!では王様、そしてお父さん。行ってまいります!」
素早く立ち上がり、病室を後にするナイアを見送る二人。彼女とXXならば失敗はしないだろう。これはケイオスカルデアの預かりとして処理される運びとなることを王は見通し、席に座る。
「貴様が身体を張るに相応しい勤勉と善良ぶりよな。しかし真逆の属性ばかり集まるのはまた、皮肉というよりも運命の悪辣を感じるものよ」
【ダイスの女神が爆笑しながら見ているんでしょうな…カルデアに来ないかな、アイツ。一回殴りたいですよマジに】
邪神すら及ばぬ女神の力に悪態をつくニャル。ひとしきり笑ったあと、王はふと口を開く。
「こちらの依頼は問題はなかろう。知っての通り派遣者二人は精鋭だ。銀河警察と貴様の支援があるならば失敗するほうが難しい。まぁ何事も絶対はないが…そこは運以外の要素を排し備える他ないがな。人事尽くしてと言うやつよ」
【…となると、王様が危惧していらっしゃるのはもう一件の方ですか?】
わざわざ任務の依頼の伝達であるならば、それは王の仕事ではない。職員にやらせればいいものだ。しかしそうしない以上、何か秘密にしなくてはならない事があるということだ。
「フッ、聡いな。悪意とは常に他者の弱点を嗅ぎ分けるものだが、往々にして自らを亡ぼす諸刃でもある。では前振りは無く単刀直入に告げてやろう」
天の鎖の先のモチーフにリンゴを切り分け終わり、ギルはニャルに告げる。その情報の概要を。
「先程な、我に極秘に特異点発見の報が届いた。聖杯が関与しているものではない極小、残滓のような特異点。しかしその場所や規模から、カルデア全体の問題にするのはまずいとロマニとオルガマリーめの判断よ」
【……まさか、それは。場所は『日本』ですか?】
ニャルの戦慄の問いに、王は静かにデータを投げ渡す。そこに書いてある座標を目の当たりにし、邪神は口許を抑える。
「貴様の想像している通りの場所であり、貴様の想定した最悪の展開であろう?だが、残滓とはいえ特異点は特異点。解決せねばならぬのだ。解るな?父よ」
【……こんな事が…】
「既に準備は秘密裏に行われている。貴様には一つ選択権をくれてやる。マスターを誰にするか…それを決めて我に伝えに来るがいい」
それだけを告げ、王はその場を後にする。リンゴとフルーツバスケットを入れた容器は当然ながら黄金だが、乱雑に王は放置するのみだ。
「贖罪の道とは容易なものではないな、邪神。或いは一連の出来事は、貴様を生きながらに裁く為に宇宙が用意したものなのやも知れぬ。その引金を引いたのが新たな愛娘とは、悪辣無比にも程がある」
【……】
「意地を見せるか、いつでも降りるかは貴様次第だ。我がマスターと密接に関わる以上、我等も見てみぬフリはせぬ。手を貸してほしければいつでも告げよ」
それだけを告げ、王は病室を出る。
「贖罪の道は示されているぞ、邪神。これ以上無いほど明確にな」
その言葉にかつて、悩める者へ告げた妖しさは微塵もなく…。ただ、燃え盛り茨茂る道へ進まんとする者への…無言の激励が備わっていた。
ニャル【………】
邪神は、ただの一言も発せられなかった。
『発生地点、日本』
その運命の悪辣さに、ただ目を覆うばかりだった。
『名称──オガワハイム』
贖罪の道を歩く彼には…家族と楽園以外の慈悲は微塵も与えられないのだ。
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