スザク(ユフィの生きたこの世界を護る。そう口にするのは簡単だけれど貫くのは容易な道じゃない。ここは騎士道に生き、騎士道を全うした先達を見習いたい。会えるといいのだけれど)
?「そこのお兄さん。決意に満ちてどこか哀しいお兄さん。そこの君だよ、そこの君」
スザク「?はい?」
花の魔術師♀「やぁ、こんにちは。見慣れない顔ということはリッカちゃんの知り合いだね。ようこそ、カルデアへ。私は通りすがりの宮廷魔術師。ガーデニングが大好きなかわいいお姉さんさ」
スザク「こんにちは、櫻井スザクです。この度カルデアにスタッフとして配属されることとなり…」
♀「あぁそういう堅苦しいのはなしなし!お互い対等の仲間なんだから、ね?」
スザク「はぁ…」
「見たところ、騎士たちを探しているね?なら道案内を請け負うよ。円卓の騎士…あまさずに出会わせよう。どうかな?」
スザク「…いいのですか?」
♀「勿論♪君の道行きに、花の祝福をもたらそう!」
「この場所は本当に愉快な場所さ。古今東西の英雄英傑、怪物だって一緒に仲良く過ごせる場所さ。だからこそ、そこに円卓の騎士達がいるのは至極当然の事と言えるだろう。君の願いはきっと叶うよ、保証する♪」
軽やかにスザクの前を歩む花の魔術師。その素性はわからないまでも、悪辣な存在ではないと信じるスザクはその歩みに続く。彼の目的は騎士達の生き様から何かを得ること。些事に拘るつもりはないのだ。それが胡散臭い道案内であろうとも。
「さぁ、そんな事を言っている内に早速見えたよ。あれが太陽の騎士ガウェイン、そして叛逆の騎士モードレッドだ!」
示された方向を見れば、そこは食堂の一角。並びに知らぬ者はいない、王の忠実なる騎士とブリテンの終焉を飾った騎士。早速大いなる邂逅に背筋を伸ばすスザク。そして…
「マッシュ♪マッシュ♪マッシュ〜♪新しき仲間達を迎えマッシュ〜♪」
「リッカのダチってんならがっつり食うよなぁ!いっぱい拵えてやろうぜー!このジャガイモをー、はいどーん!!!」
ポテトを潰し、そしてマッシュしていくエプロン姿の騎士二人。積み上がるマッシュポテト。パワフルな騎士料理。遠目から見ても積み重なったポテトの圧は凄まじい。
「……(あ然)」
「ブリテンの料理事情は中々に困窮していてね。あまり拘れないし土地も痩せていたからいい食生活なんて望むべくもなかったのさ。そして生まれたのが強さと力で出来上がる騎士料理!ご覧よ、あの山盛りのマッシュポテトを!君達にいずれ振る舞われる事を楽しみにしておくといい!」
「…は、はい…」
神秘の終わり、滅びの確約されたブリテン。その向き合った問題は並々ならぬものであり、そこに根付き逞しく生きた彼等は料理も大分逞しくなっていたのだ。そう納得する事にしたスザクは、一人思う。
(調味料は用意しておこう…)
マッシュの歌と作り出されるストロングクッキングを打ち破るきっかけとなる調味料を求める決意を固めるのだった…
〜
「騎士を語るなら知らないはずが無いだろうけれど、改めて確認しておこう。トリスタン、ガレス、ランスロット、そしてギャラハッド。彼等もまたアーサー王に付き従う忠実な騎士故カルデアに参加するのは自然の成行きと言えるよね?さぁ、邂逅の為の心の準備は大丈夫かい?」
悲しみのトリスタン。悲劇多き嘆きの騎士。ガレス。狼と謳われた猛き騎士。そして、ランスロットにギャラハッド。最高の騎士にして裏切りの騎士という相反する異名を持ち、そしてその子たる清廉の騎士。
「ギャラハッドは正確にはマシュと一つになっていてね。デミ・サーヴァントという技術で彼女の霊基の核になっている。英霊と人間を融合させるだなんて中々に非人道な実験の成功例なのさ、マシュは」
「彼女がギャラハッド…!?そうか、だからリッカの傍らにいつも仕えていたのか…彼女は当代のギャラハッドであり、リッカの盾…いや、円卓だったんだな…」
その事実に驚きながらもスザクは納得する。彼女が戦い抜けたのは、辛い中頑張ってこれたのはマシュのお陰なんだろう。その力と心は、彼女をあらゆる厄災から守り抜いて来た筈だ。ギャラハッドとはそういった騎士であり、その騎士に選ばれたという事はきっとそういうことなのだから。
「君も、騎士に憧れているのかい?」
魔術師の言葉がスザクに投げかけられる。騎士…即ち真っ直ぐに何かを護る生き方。誇り、忠節、秩序、あるいは主君。正しきものを、か弱きものを守り抜く盾にして剣たる存在。
「…小さい頃に、憧れていました。いつか正しい事を正しく行う。正義と平和を護る騎士になるんだと思っていた事はありました」
「ありました、って…諦めてしまったのかな?」
魔術師の問いは彼の想いを尋ねているかのようだった。彼は自分を騎士だとは思っていない、理想は理想と蓋をしている者であるのかと。
「はい。僕が小さい頃に想いを寄せた人はもう、この世にはいないので。…その人こそ、全てを捧げて護るべき人でした。もう、彼女は思い出のあの日にしかいない。支える事も、尽くすことももう出来ない」
ユフィと呼んでいた少女は、きっと失意のうちに世を去ったのだ。彼女と過ごした日々を忘れることはできない。だがいくら想っても、二度と彼女が帰ることはない。
「…。愛する人はもうこの世にはいない。ならば君は何を目的に戦うのかな?君は何を成し遂げ、何を護るために戦うんだい?」
魔術師の言葉に、彼は小さくも確かに答える。失ったものは取り戻せない。なら、過去を思い何を成すのか。
「…彼女が生きた世界を護ります。もう彼女はいなくても、ここは彼女が生きていた世界だ。だからこそ、誰にも滅ぼされるわけにはいかない。僕が、彼女の生きた証を護ってみせる。皆と共に」
その決心は揺るがないとスザクは決意している。彼は失う痛みと悲しみを知りながらも、前に進むことが大切だと信じていた。それがきっと彼女に報いる道であると。
「それはとても立派な志だ。騎士が貫き、示していく道筋そのものでもある。…だけどね、少年」
彼女はその答えを聞き、彼にそっと手渡す。その手に握られていた花を見たスザクは息を呑んだ。それは──
「…ユフィが好きだった、…花…」
ルルとスザク、ユフィが秘密で会っていた屋敷の庭園。そこに咲いていた花が今手許にある。あの日から辛い別離の象徴として見なかった、いや、見れなかった花。
「後ろ向きすぎるのも良くないと私は思うよ。かつての思い出に殉じ、その全てを捧げる。それは素晴らしい美談だろう。だけど目的とは達成するものであり、全てを捧げるものでは決してないと思うな。ほら、殉教の道は茨って言うだろう?」
「……」
「今は生きている君も、その咲く花も。いつかきっと死ぬし枯れる。君も必ず君の大切な人の下へと向かう日がやってくる。その時に、何か気の利いた話も出来ない人生を送ってしまうのは勿体ないと思わないかな?使命と過去に尽くした人生は、未来に繋いだり人生の終わりに何かを実らせるようには出来ていないと私は思う」
スザクはその花と、魔術師の言葉を聞き入れていた。そういえば…この花の名前はどんなものだったのか、彼女はこの花の何が好きだったのか。最近は、思い返す事すらしていなかったように思える。
「そして未来と過去ではなく、君は今を生きている。君の周りにはかけがえのない誰かはいないかな?そんな人達を蔑ろにして、自身に何かは残るかい?」
それは親友と、親友が愛するもの。そして仲間達。彼は思い至る。自身は全て喪った訳ではないのだと。
「若者よ。悲しみや苦しみ、思い出を忘れろとは言わない。誰かを悼む事は素晴らしい心の発露だ。でも何かを守りたい、救いたいと願うなら…その心は前を向いてないといけないよ」
「…あなたは…」
「別離と悲しみは消えてなくなったりはしない。古傷となって疼き続ける。だからこそ、人はそこに絆創膏を貼ったり、薬を塗ったりする。希望という名のね。君には君の人生がある。死者に囚われすぎてはいけないよ。私との約束だ、いいね?」
魔術師の言葉は軽いようでいて、とても真に迫ったものだ。ならばその言葉を受け、自身はどう変わるべきか。
「…すみません。行き先を変えてもいいでしょうか」
「いいとも。どこだい?」
「…図書室へ。彼女の好きだったこの花を…調べます」
過去の騎士達からの教訓から、自身の人生に起きたものへの追憶へ。スザクの目的の変化に、花の魔術師は静かに微笑み頷いた──。
図書室
スザク「……」
『花の図鑑』
(ユフィ、ここは素晴らしいところだ。自身の悩みや迷いに、早くも手を差し伸べてもらったよ)
「…僕は君を忘れないだろう。だけどそれは、もういない君を戦う言い訳にすることじゃない」
(いつか生き抜いて、君に会った時…沢山の土産話を伝えられる生き方をする。今を、未来を生きることだ。君という過去を懐きながら)
「君にいつか会いにいく。だからどうか、見ていてほしい。僕は今、僕の今を生きているんだから…」
♀(ふふ、これで捨て鉢や無茶をすることはなくなるだろう。そして騎士達を見て幻滅することもなくなるはずだ。人妻キラーとかどうかと思うしね!)
♀「いい夢を、櫻井くん。そしてそれが美味しいものでありますように!」
フォウ(最後で台無しだコイツ!)
♀「あいた──!?」
スザク「さて、次の本は…」
黒騎士【■■■】
スザク「!」
『ガーデニング図鑑』
「…ありがとう、ございます」
黒騎士(グッ)
彼は彼なりに、楽園で人生と向き合い続ける。追憶の騎士として、自身の生命を彩るために…。
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