人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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慈愛の女神エリス様「難しい…とても難しい問題です。神は全能ではないと突き付ける、とても難しい問題…」

アクア「うぅ〜〜〜ん……うぅ〜〜〜〜ん………」


「ま、真面目にお悩みなさるのですね」

「当たり前よ!天空海がもう悩まなくていい答えを探してるんだから邪魔しないでくれる!?」

「す、すみません!」

(一緒に考えてと言ったのは貴女なのにー…)

アクア「神様はなんでもできるもの。じゃあなんで助けられなかったのか…なんでか、なんでか…」

エリス「──あっ!そうです!なんでもできますが…足りないもの、それは!アクアさん、ゴニョゴニョ」

アクア「!エリス!」

「はい!」

「あたしが馬鹿って言いたい訳ぇ!?あぁん!?」

エリス「違います〜〜!?」



アナーヒター『ちょっと荒れそうね。大丈夫、じっとしていて?』

天空海「アナーヒター!」

『大丈夫よ。穏便に終わらせてみせるから。信じてみていてね♪』


この騒がしき駄女神との決着を!〜このダメ〜

「ゴォオッド!!ブロオォオーーッ!!」

 

女神の怒りと悲しみを乗せた鉄拳、ゴッドブローの波動が神域を切り裂きアナーヒターに向けられる。手合わせ、試合などといった規模の生優しさではなく、当たれば即座にチリと吹き飛ぶ程の脅威的な威力なことは容易く見て取れる程の殺意の籠もりっぷりである。

 

「死ね!死ねぇーっ!!」

 

『………』

 

アナーヒターはそれを水の流れの如くにひらりひらりといなしていく。アクアの事を涼しげに見定め、自身からは手を出していない。

 

『天空海ちゃんにとても入れ込んでいるのね。貴女も彼女を助けたいの?』

 

「貰ったぁーっ!!」

 

アナーヒターの問いかけを無視し、顔面に渾身の一撃を叩き込むアクア。誉れはどこにもない。

 

「何くっちゃべってんのよバーカ!偉そうに構えててもこんなもんよね、格の違いを思い知りなさい!」

 

早くも勝負ありか。アクア以外は別に思っていないその思惑は、アクアには不都合な事に外れることとなる。

 

『野蛮ですこと。慎みが足りていないのではなくて?』

「うぇ!?」

 

アナーヒターの頭部は液体化しており、アクアの腕を綺麗にかわしていたのだ。アナーヒターとは最古の信仰の化身、言わば五大元素が一つの頂点。物理法則に則らない自身の定義など容易い。慌てて腕を引き抜き、アクアは息を整える。

 

「へぇ…自分を水そのものにだなんてやるじゃない。私もそれ今度やってみるわ。そうすれば無敵になれるしね!」

 

『程々のところで終わらせましょう、アクア。私達は力を合わせて彼女と世界を護れる筈よ』

 

「護れるかぁー!アンタは油!私は水!交わることのない不倶戴天なのよ!天空海の守護女神は私だけでいいっての!」

 

そう捲し立て、何故かアクアは背を向ける。拳を握り、まさかの退却か──否。

 

「アンタには当てられなくても、この邪教の総本山はどうかしらねぇ!爆裂のぉ!!ゴッドブロー・エクスプロージョン──!!!」

 

彼女が狙っていたのは、アナーヒターの力と権威の象徴たる神殿だったのだ。拳型のエネルギーが神殿に向けて放たれ、着弾した瞬間凄まじい大爆発と大破壊が巻き起こり、神聖なる水を汲み上げていた水瓶が粉々に消し飛び、神殿が崩れ始める。

 

「どーよこのカズマさんタクティクス!頭を狙うな家族を狙え!このままじゃ神様として、あんたを信じるやつが誰もいなくなっちゃうわよほらほらほらぁ!!」

 

立て続けに放たれるゴッドブロー・エクスプロージョン。着弾爆発の鉄拳は、アナーヒターの神殿に爆撃のごとく降り注ぐ。その苛烈な破壊はまさに敵対者に容赦のない神そのものだ。

 

「止めのゴッドブロー!!あははははどう!?これであんたは神を名乗れなくなっちゃったわねぇ!アンタの家、ブッ壊してやったわ!あんたが悪いのよ?私に素直に殴られないか、ら…」

 

アクアが自慢げに振り向くと、アナーヒターは水瓶に座り足を組み、頬杖を付いていた。強がりか、やせ我慢か。いや、彼女にとってこんなものはダメージにすらなっていない。一息付いた事を確認し、パチリと指を鳴らす。

 

「え、ちょ、はぁあぁ!?」

 

すると、吹き飛んだ神殿の瓦礫や水瓶が水へと戻り、天に渦巻く水柱の中で一つとなる。やがて螺旋の水柱が弾け飛ぶと、そこには傷一つ付いていない神殿の威容と、聖なる水を湛える水瓶が何事も無かったかのように再生していたのだ。

 

『水に決まった形はなく、水を破壊することは誰にも出来ない。水の女神としての常識を忘れていたかしら?』

 

「……(ピキピキ)」

 

『お気の済むまで壊してもらって構わないわ。さっきの魔法…とても凄い威力で見応え抜群。いいものを見せてもらったわ』

 

アナーヒターの揺らがぬ態度に、女神の青筋が数本切れる音がする。コケにされた──そう受け取ったアクアは遂に本気を出す事を決意する。

 

「あは、あはは、あはははは…よーし!もう殺す!!」

 

アクアが空へと飛び上がり、手を翳す。すると大洪水クラスの水量がアクアの下へと集まり、意志を持つかのようにうねり狂う。

 

「本気出すなんていつぶりだけど、力加減なんていいわよね!天空海はあんたが護ってるわけだし!一切合切洗い流してやるわ!」

 

『あなた…やはり格は高いのね?私の領域でこれ程の水を操れるなんて』

 

「えぇ、少なくともアンタよりはねぇ!!滅び去りなさい!イノセント・ジャッジ・ヴォルテックス──!!!」

 

アナーヒターに向けて叩きつける大瀑布の渦巻き。神話の大洪水を彷彿とさせる神罰の奔流は、アナーヒターがいる足場を瞬く間に飲み込み、瞬時に洗い流していく。水圧、勢い、意志持つ大蛇の如きその洪水には流石のアナーヒターすらも堪えられない──

 

「あははははははは!これが水の女神の本当の実力よ!アクシズ教のトップの私が、あんたみたいなドマイナー神話出身の精霊崩れの神様なんかに負けるわけ、な──」

 

勝利を確信し、高笑いするアクア。…しかし

 

『やはり…あなたは素晴らしい力をお持ちのようね』

 

アナーヒターの声にアクアは驚愕の表情を浮かべる他なかった。なんとアナーヒターは自身を水の球体で覆い、ヴォルテックスを受け流していたのだ。怒涛の勢いに、ただそこに在るという凪で返す。アクアは確かに水の女神。だが──アナーヒターは最早水という概念そのものであったのだ。

 

『優劣を付けなければ納得しないと言うなら、これで決めましょうか。あなたの望んだ結末かは保証しないけれど』

 

そう言って立ち上がったアナーヒターは掌に小さな水の珠を作り、アクアに向けてふっと吹き放つ。アクアはそれを払いのけようとしたが、その球体は破裂し、アクアの『頭部』をすっぽりと覆う。

 

「がぼっ!ごぼぼっ!?ごぼぼぼっ!!」

 

顔面の穴を一瞬で塞がれもがくも、アナーヒターの領域たる水は腕を貫通してしまい、振り払う事も叶わない。神格として彼女を圧倒すらも叶わず、あとはただ、溺れゆくのを待つのみ。つまり──

 

「ごぼっ、ごぼっ…ぐぼぼっ…!!」

 

顔を赤く青くしながらのたうち回るアクアに対し、あくまでアナーヒターは礼節を以て対応する。同じ神として、敬意を懐いた振る舞いを。

 

『落ち着くまでいくらでも私は待ちましょう。頭を冷やす水には事欠かないわ』

 

アナーヒターの場所に辿り着くこともなく、アクアは意識が遠退いていく。これは神の神殿を破壊した事と同じ、あるいはそれを遥かに上回る尊厳破壊。

 

「ごぼ、ぼ…ぼっ……」

 

自らの司る属性に為す術もなく制され敗れる。女神の自信も、神としての威光も、完膚なきまでに破壊し尽くしどちらが序列の上位かを叩き込む、アナーヒターの神の一手。

 

「───ぶへぇっ…!!」

 

最後に白眼を向き、女神として出してはいけない声と共に溺れる瞬間、アナーヒターは水を解除しアクアを救出する。

 

『どちらが上かなんてどうでもいいの、私は。ただ私は流れ行くのみ。上にも下にも、必要であれば流れるだけよ』

 

そう告げるアナーヒターの声は、アクアには届いていなかった。自慢の蘇生魔法も、意識を保てなければ発動すらできない。それは即ち、アークプリーストとしての腕前すら披露できずに倒されたという完封負けの様相。

 

『天空海ちゃん、お待たせ。降りていらっしゃ~い』

 

アクアをそっとおんぶしながら、安全地帯へと避難させていた天空海を呼び寄せるアナーヒター。水の女神同士の優劣は、これ以上ないほど明白に付けられたと言っていいだろう。

 

 

即ち──原初の拝火教が水の女神の完全勝利である。そしてようやく、彼女達は対話を行う…。




アクア「あへぇえへぇ〜〜〜!ウェえぇぇぅえぅぇうぇ〜〜!あひぃいひぃいぁあうぁぁあぁ〜〜!!」

天空海「うるさっ!よくそんな恥も外聞もなく泣き喚けるわね…神のプライドはどこ行ったのよ?」

アクア「あんなのズルよ尊厳破壊よイカサマよ!私だけ本気出してなんでアイツだけわぁあぁあぁぁ〜!!」

天空海「あーもう、悔しいのは解ったから!話が進まないでしょうがこの駄女神!」

アクア「ずでないでぇえぇ!!天空海私をずでないでぇぇえーー!!」

天空海「離しなさいってもー!!」

アナーヒター『天空海ちゃん、今回は彼女のアークプリーストとしての力は見れなかったけれど、恐らく回復と蘇生、浄化魔法は私以上よ』

「えっ!?」

アナーヒター『人は溺れてこんなに元気に動けないわ。自分にかけた魔法で完全回復しているの。支援で言えばきっと私を越えているわ』

天空海「うそ…」

アクア「考えてきたの!答え考えてきたのぉ!答えるから捨てないでよぉ!もう貧乏とお金持ちの行き来もアンデッドに負われるのも嫌なのぉ〜!!」

天空海「…解ったわよ。じゃあ答えを聞かせてくれる?」

アクア「聞きたい?ほんとぉ?」

天空海(イラッ) 

「しょうがないわね〜。じゃあよく聞いてね!何故あなたを助けられなかったのか!それは!!」

「『それは?』」

「私があなたを知らなかったからよ!!私があなたを見つけられていたら絶対辛い目に合わせなかったもの!私が親代わりになって、あなたをきちんと愛情たっぷりにそだてたわ!これが答え!私があなたを、見つけられていなかった!」

「『…………』」

アクア「…え?何?なに?間違えた?えっ?」

アナーヒター『これは…』

天空海「…受け入れるしかない、かぁ」

「???」

「よーく解ったわ水の女神!それがあなたの答えなら、これからはずっと私をそばで支えてもらうから!」

アクア「えっ?えっ?」

「納得したって言ってんの!(アナーヒターだけでも良かったけど)これからはまとめて!私に宿っちゃいなさい!」

アクア「──いいのぉ!?やったぁー!!え!アナーヒターも一緒なのぉ!?やだぁー!!」

アナーヒター『そう言わずに。これから頑張りましょう?』

アクア「私だけでいいじゃないのよぉー!!」

天空海「絶!対!!嫌!!!」

「なぁんでよぉおぉおーーー!!!」


水晶玉

慈愛の女神エリス様「良かった…雨宮天空海さん、どうかあなたに祝福を…。えっと、プレゼントボックスプレゼントボックス…」

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