人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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楽園 エントランスルーム


一同(((唖然)))

オルガマリー「ようこそ、楽園カルデアへ。歓迎するわ、リッカの友人たち」


ルル(南極に神殿…どういう立地だ…!?)

ゆかな(ソロモン王が建てたエルサレム神殿ですよ)

「これから見学に入るのだけど…あら、天空海さんは?」

飛鳥「なんか具合悪いってメディカルルームに行きましたよ?」

オルガマリー「メディカルルーム…」

(…気になるわね)

メディカルルーム


天空海「なんだか…呼ばれてる、ような気がするのよね…すみません、ベッド貸してもらいます…」

アスクレピオス(…魔術回路も無い一般人の筈だ、なんだこの魔力の質は?夏草で何を連れてきたのだ、カルデアは…)

天空海「みんな…後で…むにゃむにゃ…」



中庸清廉なる水の女神

「もう何なのよホントに…アクア、もう答え見つけたの?言っとくけど、祈りが足りなかったとかじゃ納得できな…」

 

カルデアに着き眠気に襲われ、再び異なる場所へと招かれた事を感じ取った天空海。立て続けにも程があると目を開けば…そこに広がっている光景は、先程の夜空の如き空間とは何もかもが異なっていた。そこはまさに神域…人間が立ち入れる場所でないことを天の魂に示していた。天空に浮かび上がる、突き抜ける蒼穹を反射するかのような白き神殿。その神殿と空中に浮かび上がる無限に湧き出、滝を形作る7つの水瓶。七色の水泡が湧き上がり、穢れなど微塵も見当たらない、清潔と清廉が具現化したかのような流転と流麗の極地。自身が立つ場所には波紋が足場となり、天と地の狭間に天空海を立たせている。

 

『──私は先の女神とは別の存在よ、雨宮天空海。はじめまして。私は、あなたにずっと会いたかった』

 

天上の楽器から奏でる玉音のような、麗しく清らかな声。それと同時に神域に変化が起こる。水瓶が上向きになり、神殿が眩く輝き出し、空に向けて放たれた聖水が天空を駆け回り、やがて、その神体を形作る。流麗なる水のような肌の輝きに、大地がもたらす恵みが如き豊満なる肢体。白き神依を纏い、空の青さを編み込んだ様な長髪。絶対的な神格を証明する、金色の瞳。

 

『はじめまして。私はアナーヒター。古きペルシャにて信仰を集める水の女神。改めて、あなたに出逢えた事に無上の感謝を告げさせていただくわ。当代における──水を宿すあなた』

 

女神アナーヒター。その声音と振る舞いは柔らかで、天空海を見下すことも、へりくだることもない。ただ対等に話しかけ、出会いを喜び笑みを浮かべており、その様子は自然体そのものだ。

 

『突然言われても困っちゃうかしら?私の神話体系はそんなに有名ではないから、驚かせてしまったかもしれないわね』

 

「アナーヒター!?ゾロアスター教でアフラ・マズダ、アンリマユと同格レベルの信仰を集める多産、戦い、恵み、豊穣、安寧を司る神じゃない!そのあまりの加護の多彩さと御利益の素晴らしさからとても篤く敬われて、確かラクシュミーとかサラスヴァティー、弁財天とも謳われた最高クラスの神格…!!何、死ぬの!?私死ぬの!?」

 

説明から入ろうとするアナーヒターの出鼻を挫くあまりの博識ぶりに、女神自身が面食らい驚きを浮かべる。信仰の薄れた現世で、自身はそれほど有名ではないと覚悟していた彼女には嬉しい誤算であった。

 

『知っていてくれたのね!ありがとう!でも…随分詳しいのね?』

 

「ゾロアスター教は絶対知ってるのが高校生なのよ、アナーヒター。それにしてもホントに凄い神様が私に会いに来たわね…これ、私どうなっちゃうのよ…?」

 

悪神アンリマユ、善神アフラ・マズダ。それに肩を並べる水神アナーヒター。神を信じぬ天空海であろうと礼儀は知っている。先のアクアのように茶化していい存在ではないことを理解し、彼女は全霊にて礼を尽くさんとするが…。

 

『あぁ、いいの。楽にして。私があなたを訪ねたのだから、あなたに礼を求めるのは違うでしょう?』

 

やんわりと無礼講を告げるアナーヒター。その人格が柔和で温和であることを伺わせる物言い…天空海が好感を懐くも無理からぬ神格である。

 

『今日は、あなたにお願いをしにやってきたの。アンリマユ、そして…アジ・ダハーカを有するカルデアの組織。その手助けをするために、あなたに力を貸してもらいたいの』

 

「アジ・ダハーカ…リッカの事よね?…まさか!アフラ・マズダ側の刺客として!?」

 

『ち、違うわ!私はかの二元において善でも悪でもない、けれど善と悪の狭間に唯一在る者。私はただ、絶対悪を有した彼女を見護りたいの』

 

身構える天空海を、慌てて制するアナーヒター。自身はあくまで、今を護りし悪たる少女を近くにて見守る役割を担うのだと説明を行う。

 

『アンリ・マユ、そしてアフラ・マズダ。それらは絶対悪と絶対善。何が有ろうと互いが変転することはなく、何が起ころうと互いに相容れる事はない。絶対なる価値観にして、至純たる決まり。それが私達の神格…その筈だった』

 

「だった?」

 

『カルデアは絶対悪であるはずのアンリマユ、そしてアジ・ダハーカを受け入れ、世界を救うという善行を果たした。悪である者に善の光を宿す奇跡を起こしたの。ここまではあなたも知るところ…でしょう?』

 

天空海は頷く。アンリマユはゲーティアが再現した、この世全ての悪を霊基、人間の形で起動させたもの。サーヴァントの枠に収まった絶対悪そのものと言っていい。しかし、それを宿したリッカが行った事は悪ではなく、世界救済という善行である。天空海は頷いた。資料にて知った事だ。

 

『その事実を受けた私達、神霊の座にある虚ろな神たちは衝撃を受けたわ。現代に顕現した悪が、善を果たした。絶対に有りえないはずの変転が起きた事実はこう結論付けたの。神話は、塗り替えられたと』

 

「神話が…カルデアは凄いことやったってことね?」

 

『それはもう、天地がひっくり返るほどにね。もたらされた衝撃も大きかった。悪側はアンリマユが光を手にし、戦いに勝利したともう大騒ぎ。アジ・ダハーカとアンリマユ…そして当代の担い手を讃える声が尽きる事は無かった』

 

それにてかの悪側の勢力は沈黙したのだが、善側の動きは不明瞭だとアナーヒターは告げる。何しろ、自身らが絶対の善であるといった前提が突き崩されたのだ。動揺は隠せないほどに大きかったという。問題はここからだと彼女は憂う。

 

『悪が善を成し、善は悪を静観した。この揺らぎは波紋となって確実に影響をカルデアの旅路にもたらす…悪を有するカルデアこそを真の【悪】とみなす事もあり得るかもしれない』

 

「善側…アフラ・マズダがカルデアの敵に回るって事!?」

 

『えぇ。悪と善は流転した。魔術王がもたらした変転は、やがて世界を担う善悪をも揺るがす恐れがある。善なるアフラ・マズダが、アンリマユとアジ・ダハーカに世界を【征された】と判断すれば…かの善側は、カルデアに立ちはだかるでしょう』

 

善悪の流転。即ちアンリマユが世界を救った事実は【悪】の手に世界を貶めたとし、アフラ・マズダが粛清と浄化の『善』を執行するという危惧。アナーヒターは両者に染まらぬ中庸として、天空海にコンタクトを取ったのだと告げる。

 

『私はアンリマユを宿したアジ・ダハーカが世界を支配した等と考えてはいないわ。彼女はこの世全ての悪を、正しき心にて振るっていると感じている』

 

「そうよ!私の後輩はこの世全ての悪なんかに染まる程ヤワじゃないわ!その3倍は用意しなくちゃ!」

 

『えぇ、だからこそ私はカルデアへと赴きたい。かの悪を宿す少女を見守り、善なる者達との調和を取り持つ為に。そのためには神の座ではなく、人の視座にて全てを見る必要がある』

 

だが、神代は終わっている。もう神そのものは世界に現れることは叶わない。だからこそ、自身と波長の合う魂を自身の神居に招き、対等の礼を取り懇願しにやってきたのだ。

 

『ゲーティアがかの魂に悪を宿した様に、私もまたあなたの心と身体に流れる水となりて人理の旅に参じたいと決意し、こうしてやってきた…どうかお願いするわ、天空海。私を宿し、かの善悪を有した少女を支え、見守る使命を懐いてはくれないかしら』

 

膝を付き、サーヴァントとしての礼を見せるアナーヒター。先のアクアとは比べ物にすらならぬ気品、神としての責任感、人に侍り、阿る事を恥と微塵も感じぬ気高さ。それら全てが、最高の位にある神たる事実を示していた。

 

『──そして、あなたが懐いていた疑問にも答えを用意してきたわ。聞いてくださる?』

 

「えっ…」

 

リッカを護るためならばと、二つ返事で受けようとしていた天空海に告げる、アナーヒター。

 

『何故、あなたを助けてくれなかったのか。何故あなたを助ける神がいなかったのか。その答えは──』

 

「───」

 

『──私が、あなたを見つけることが出来なかったから。あなたの人生が不幸であったのは、私が神として力不足だったからに他ならない。これ程までに近しい魂を、私は今に至るまで見つけることが叶わなかった。本来なら私が、あなたを支えるべきだったのに』

 

強く、そして気高き心を有したのは神を捨てた瞬間からだった。そして皮肉にも、そこでやっとアナーヒターは自身の依代を見出す事ができた。そこに至るまでの苦難は、全て己の不徳が成した事だと彼女は告げたのだ。

 

『あなたが不幸であったのは私のせいよ、雨宮天空海。──本当に、ごめんなさい。私はあなたを、見つけることが出来なかった』

 

「アナーヒター…」

 

…神が人に謝罪する意味など、語るまでもなく重い。そして天空海も、アナーヒターが全て悪いだなどと微塵も感じていない。

 

「…顔を上げて、アナーヒター。この質問、別に正解とか無いのよね」

 

『天空海…』

 

そう、彼女はただ神が『どう答えるか』を知りたかっただけ。別に神を恨んでも、憎んでもいない。ただ彼女は神様に聞いてみたかっただけ。生まれも育ちも不幸でも、今は幸せだから問題はない。天空海はとっくに割り切っている。

 

それなのに、アナーヒターは全て自分が悪い、自身の力不足とまで言ってくれた。憎まれること、疎まれることすら覚悟しただろう。だが──その答えは何よりも誠実で、感銘を受けるほどに清廉だと感じた。心の中の神への冷淡が、雪解けのように溶ける思いだった。

 

「あなたは私を本気で考えて、労って、私の心を神様として受け止めようとしてくれた。信じられないけど──神様って、こんなに誠実だったのね」

 

ならばもう迷いはない。そもそも迷う気もなかったのだ。前のアクアと同じように、答えさえ聞かせてくれれば後は共に在るのみ。

 

「私の方こそお願いさせてください、アナーヒター。一緒に…後輩と世界を助けましょう!」

 

『…ありがとう、天空海。お世話になるわね』

 

天空海とアナーヒターの心は重なり、新たなる水のサーヴァントが誕生する──その瞬間。

 

「ちょーーっと待ったぁあぁあ!!!」

 

『──!?』

 

アナーヒターの神域に、力付くで割り込まんとする規格外の存在が来たる──。




アクア「何横から掠め取ろうとしてんのよマイナー女神!大体水の女神って何!だだかぶりじゃない!!」

アナーヒター『アクア…だったわね?先に契約していたの?』

「今からするの!!私だってカルデア行きたいんだから!その子取られちゃ困るのよ!」

アナーヒター『……天空海?』

天空海「答え、持ってきたかしら?」

アクア「持ってきたわ!絶対納得するやつ!だけどその前に…!」

アナーヒター『…!』

「そこのマイナー泥棒女神をぶっ潰すのが先よ!!」

天空海「あんたねぇ…」

『止めましょう、アクア。アークプリーストならば、私達はどちらも浄化する側でしょう?』

アクア「そうよ!だから浄化するんだわ…今から水の女神を騙る不届き者のアンタをねぇ!!」

神と神。アナーヒタの神居にて、天空海は神話の光景を目にする(不本意)──。

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