うたうちゃん「大学…」
榊原『そこにいるのは私の知己で、紛れもない天才よ。…でも、その、なんというか…』
オフィーリア「何か問題があるのでしょうか?もしかして…」
ディーヴァ(AI嫌いとか?)
『むしろ逆、なんだけど…その』
「「その?」」
『雑なの』
〜
沢城「ようこそー!サカキーから話は聞いてるわ!いらっしゃーい!」
うたうちゃん「(視野一部カット)」
オフィーリア「(視野一部カット)」
ディーヴァ(うわぁ………)
「では改めて!榊原から紹介に預かりました沢城了子26歳!言語学と考古学と、あとそれなりに色々独学でやってたりする化学者みたいなものよ。よろしくね、電子の姉妹ちゃん達?」
ズボラな着こなしの白衣、団子のように巻かれた髪型に眼鏡。およそ生活感といったものから遠い印象にいる人当たりのよい淑女に、二人は合流し招かれた。出会ったことはなかったが、榊原…即ち夏草の教師に類する者として、うたうちゃんは丁寧に対応する。
「夏草郷土奉仕AI、うたうちゃんです。こちらはオフィーリア。後輩です」
「よ、よろしくお願いします!」
「もちろん知ってるわよぉ。夏草が生んだ電子のイヴ!実験室にこもりきりだったけれどあなたの事はよく知ってる。人が産み出した、罪の無き生命…」
(…?)
「あぁごめん、こっちの話。オフィーリアちゃんの事もサカキーから聞いてるわ。ソリタリーウェーブの解決法ね。じゃあまずこれを見てくれる?」
素早く情報を察知していた沢城は軽快にキーボードをタップし、モニターに自作で組んだのであろう図解PVを展開する。そこには、オフィーリアがデフォルメされ映し出されていた。
「ソリタリーウェーブ。それは物質が発信している固有の振動の事。オフィーリアの演算でそれを解析し、同じ強力な振動をぶつけることで理論上あらゆる物質を粉砕する。その歌声は森羅万象を滅ぼす歌…歌唱への冒涜よね、これって」
「……ごめんなさい…」
「あぁ違うの、責めてる訳じゃないのよオフェちゃん。問題は製作者の無粋さと悪辣さ。人間じゃないんだから、生まれながらにして罪は持っていないのがあなた達の良いところよん♪対抗策はとっくに確立されているから、安心なさい?」
そうしてイメージボードに新たなイメージが組み込まれる。音波を発しているオフィーリアに、別方向から別の音波がぶつけられている図だ。
「単純的な解決策は、別方向からの振動をぶつけて音を相殺するの。解る?音波そのものを消すのではなく、破滅の歌声をハーモニーへと昇華する。そうすることであなたの歌声は、何も壊すことがなくなるの。一人でだめなら3人で。独唱を合唱に変えれば大丈夫なの!お分かりかしら?」
「一人で駄目なら3人で…つまり…」
(エリザベス達をオフィーリアと一緒に歌唱させるのが鍵。そう言いたいんじゃないかしら?)
ディーヴァの問いは正しいものだった。沢城はオフィーリアのデータを先んじて譲り受けていた。エンジェルグレイブ社長(アラフィフ)から直々にだ。
「オフィーリアに蓄積されている固有振動周波数はそれはもう膨大よ。特に人体、生物に関してはほぼ地球全域の生物の周波数が刻まれている。はっきり言ってこの熱意は普通じゃない。なんというか…愛を感じたわ」
(なんでそこで愛なのよ?)
「大量虐殺、殺戮ならそもそももっとシンプルで楽な手段はいくらでもある。それこそ、姉妹型の3機で事足りるくらいにね。でもわざわざ殺す相手や悪い相手の身長体重、好みや着ている服だなんて調べたりする?それをやっているのが、この膨大な固有振動周波数のデータなの。丹念に、丁寧に…その発声が、地球上のあらゆる場所に届く事を願ってでもなければこんな気の遠くなるような作業はできないわ。そうね…新しい霊長類にでもしたかった、とか?あなた達AIを」
「新しい、霊長類…」
エンジェルグレイブ、天使の墓。天使が誰を指し、何を意味しているのか。AIが星を満たしたとき、人の制作したものが残るのだとしたら。それは何の墓標なのか。かの社長が何を目指し、何を遺していたのかを彼女は推察したのだ。
「ま、頭のおかしい同士シンパシーとセンチメンタリズムが化学反応起こしたってだけ。忘れてちょうだい?それとオフィーリア、あなたはちゃんと歌えるようになるわ。私が保証する」
「本当、ですか!?」
「えぇ。ちょーっと時間はかかるけど、いつかソロライブだって出来るようにしてあげるわ♪うたうちゃんも、姉妹も皆一緒に明るい未来を進めるようにしてあげる。それが、あなた達という存在を産み出した人間の隣人としての責任だもの。具体的には、固有振動数が声帯のどの筋肉の収縮に関連しているかを解析しなきゃいけない時間ね。それさえ出来たら、晴れて殺戮AIからは卒業よ♪私ならできちゃうのよねぇ、これが!」
類に漏れず、夏草の住人である彼女もまた比類なき才女であったのだ。見えた光明に、二人は揃って頭を下げる。
「「ありがとうございます!沢城教授!」」
「いいのいいの♪人類愛凄いんだから、こう見えて。AIと人間は全面戦争が相場、だなんてジンクスは私達で終わりにしちゃいましょ♪早速設備や必要な資料を制作するから、首を長くして待っていて?」
「いえ、お世話になりっぱなしというのもいけません。何か手伝わせてください」
「はい!恩人であるあなたに、恩返しがしたいんです!」
その提案を聞き、待っていましたとばかりに眼鏡を上げる沢城。
「よくぞ言ってくれました!それじゃあ!」
「「はい!」」
「…この汚部屋、なんとかしてもらえるかしら?」
……必死に目を逸らしていた問題。うず高く詰まれたゴミ袋、捨てられたカップ麺やエナジードリンクの廃棄物。乱雑に放り捨てられた下着や靴下。荷物置き場と化しているベッド、ツイスターゲームができそうな足場を埋め尽くす資料の群れ、摩天楼もかくやにうず高く詰まれた分厚い資料ファイル。
「サカキーに言われてるんだけど中々直らなくて〜…どうかちょっとでいいの!ちょっとだけキレイにしてくれたらいいから!ね、おねがーい!」
ちょっとだけキレイにしろと言われても、一から十まで真っ黒なこの部屋の何処から綺麗にすればいいというのか。
(…世の中に、完璧な存在はいないっていう事ね)
「「…頑張ります!」」
この時ばかりは、自身の高度に発達した精神性、つまり心に不憫な想いを懐かずにはいられない3つの命でありましたとさ。
…そこからの作業の風景は、なんとも言えないシュールなもので。
「これは、燃えるごみ。これも、燃えるごみ。これも燃えるごみですね」
(うっそ、保存食やおやつの袋賞味期限とっくに切れてるじゃない?どういう生活スパンしてたのかしらこの人…?)
「オフェちゃーん!ボイスデータサンプリングするからこっちに来てくれるー!?」
「は、はい!でもゴミの選別がまだ…!」
「ここは私達に任せて、オフィーリア。あなたはあなたの使命を全うする事を考えるの。それが私の幸せにも繋がるから」
(うたう、うたう!ゴミ、ゴミ崩れてくる!)
「先輩…!解りました!よろしくお願い致します!!」
「うん。負けないで、オフィ───」
(うたうーー!?)
ゴミの嵐に呑み込まれるうたうちゃん、涙を堪えて走り出すオフィーリア。これ業者案件でしょと頭を抱えるディーヴァ。最終日にして、原初の奉仕活動…ゴミ清掃に奔走する最新鋭の電子の隣人でしたとさ。
「大丈夫です。うたうちゃんのボディは最新鋭素材の塊、百人乗っても大丈夫なうたうちゃんです」
(大丈夫?言動がなんか変よ?ホントに大丈夫?)
「心配いりません、モーマンタイで(ツルッ)」
(うたうーー!?あーもう、ゴミ部屋で大破なんて末代までの恥!生き延びるわ!生き延びるわようたう!!)
「マスター…おじい様、皆様…私は生誕に感謝しかありません…」
(ゴミに塗れながら召されるのはやめてー!?いやー!こんなのが私の半身の消失だなんて認めないんだからー!!)
ある意味、労働の真髄を知った。ディーヴァは後にこう振り返るのであった──。
数十分後
仮面ライダーディーヴァ『ぜー、はー、ぜー…』
うたうちゃん(流石はディーヴァ。流れるような掃除パフォーマンスでした。ほら、床がこんなにくっきり)
仮面ライダーディーヴァ『正義の力を私欲に使うなんて…おじい様になんて説明すればいいのよぉ…』
(ヒーローに雑務。これが尊厳破壊なのですか)
『いらんこと覚えない!もー怒った。生活矯正プログラム作って実践させ…ん?』
その時、ディーヴァは資料を見つける。タンスの間に挟まっていた、資料ファイルを。
『これ…』
『共通言語と歌唱、相互理解と原罪の相互関係』
そう書かれたファイルの、次のページをめくる。
『無垢なる生命、人の罪を赦すもの』
そう始まる資料群に、ディーヴァとうたうちゃんは顔を見合わせ──。
『……沢城さんに提出しましょう』
(そうですね)
アダムとイブのニの轍は踏まなかったのだった。
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