人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「・・・教わるのはいいけど、私も何か出来ることはないかしら・・・頼ってばかりも・・・」


「・・・ん?」


『社交ダンス、ドレスと作法のススメ』


「・・・ダンス・・・」

「・・・女子っぽいわ!」


姫と獣――すごーい!きみは霊長類の抹殺が得意なフレンズなんだね!

「フォウ、そこのスパナとってー」

 

 

 

時間は五時半。部屋にて作業を進める『英雄姫』と、フォウの二人

 

 

 

(はいよっ)

 

 

「ありがと」

 

 

投げられたスパナを受け取り、補修作業を続ける。

 

 

何を直しているかというと・・・ジャック・ザ・リッパーを倒すために大破させた『ギルギルマシン』である

 

バイクの知識がないため、肉体の千里眼や手先を駆使して『どこが壊れているか』『どのように壊れているか』そして『どう直せばいいか』を読み取り、スパナや工具を使って直しているのだ

 

 

財の選別、メンテは自分の役割。壊れた財があるならば、しっかりこちらが補修しなくては

 

 

「しっかり直すからね。器をまたよろしくね、ギルギルマシン」

 

(ずいぶんと思い入れがあるんだね。甲斐甲斐しく直しちゃって。嫉妬しちゃうなぁ)

 

「ふふっ。自分、バイクが好きなんだ。世界を駆け抜ける『愉悦』を感じられるから」

 

――そう。このギルギルマシンの思い入れは特別だ

 

 

これは初めての特異点で、初めて手に取った『財』だから

 

 

(ふふ、そっか。じゃあしっかり直さなきゃだ。あ、ファンレターは届けておいたから安心してね)

 

「ありがとう。・・・でも、良かったのかな」

 

差出人は『ギルガメッシュ』の名を記した。フォウがそうするべきとのアドバイスをくれたからだが・・・

 

無銘、とせめて書き記しておくべきだっただろうか?

 

 

(あの作家に『キミ』の痕跡を渡してはいけない。ボクはそう判断したのさ)

 

「・・・自分の?」

 

不思議に思い返すと、フォウは続けた

 

 

(キミの存在はある意味で切り札だ。ボクと同類の存在を打開する切り札の一つ。だからなるべく、キミの存在は隠しておくべきと思ったのさ。千里眼で、どこのクズ野郎が覗いているかわからないからね。キミがその姿でいるときは、ボクがちょっと細工して、『視え』ないようにしているよ)

 

「・・・自分を守ってくれていたの?」

 

(護るさ。友達だもの)

 

「――――」

 

――今、ちょっとだけ。会話の中で満足げに消滅してしまうフォウの気持ちがわかったかもしれない・・・

 

(キミの魂の強度は強く脆い。冒涜的なアレやそれの干渉なんてもっての他だ。多少はコーティングしてあげなくちゃね。・・・そしてここからが肝要だ)

 

コホンと咳払いする

 

 

(何故名前を使ったかだったね?決まっている『知られない』為さ。いくらファンレターとはいっても、名前の呼称は個人の特定に繋がってしまう。おぼろ気ながらもソイツの身体に寄り添うキミの情報を与えてしまえば、たちどころにあのショタジジィはキミを断定してしまうだろう。キミの存在が露呈し、問い詰められてしまう)

 

 

「――」

 

(無銘、名もなき読者と書いたとしよう。あの作家にその無銘はどこにいるのか?ときっかけを与えてしまう。名もなき読者と書いたとしよう。それはどこにいたのか?隠さなければならない理由とは?どこにいるのか?どんな存在なのかと疑問を持たれ、ソイツに問われてしまうだろう。それはあまり宜しくない。流れた思考、溢れた疑問は止まらない。必ずキミを突き止めるだろう。ノーヒントでキミを嗅ぎ付けたような人種だ。間違いなくね)

 

フォウは続ける。二手と三手を見据えた思考を

 

 

(英雄姫なんて直接なワードはもっての他だ。少し考えるだけでソイツに縁のある存在と感付かれる。アレとソイツの気安さだ。根掘り葉掘り聞いてくるだろう。『英雄姫とはなんだ?この手紙をしたためたのは何者だ?』とね)

 

 

「フォウ・・・」

 

(まぁ、裏切られるなんて考えてはいないけど。疑問と疑惑は不和となり、懐疑と好奇心はキミを追い立て暴きたてる)

 

(その悪意のない弾劾に、キミは堪えられるかい?)

 

「――・・・」

 

ゆっくりと首を振る

 

(だろう?キミが誰かに知られるときは、キミが誰かに『識られたい』と思った瞬間であるべきだ。ソイツではなく、キミという魂を害する存在をボクは赦さない。無垢であり、無限の可能性であるキミを暴こうとし、方向性を与えようとする輩をボクは認めない)

 

ピョコンと肩にのる

 

 

(キミの在り方はキミだけのものだ。姫様のお願いと、キミのやりたいことを両方やるには、あそこでギルガメッシュと書くのが一番だったのさ。ほら、コイツなら何をしても『まぁギルガメッシュだし』と思われるし。何より・・・)

 

クスクスとイタズラっぽく笑う

 

(あの童話作家がビックリ仰天して転げ回る反応は最高のショーだったからね!あぁ、ボクは本当に面白いものを見た!ついでにソイツがあんな丁寧な手紙を書いたという事実は抱腹絶倒モノだよ!キミにも後で見せてあげるからね!これは大冒険日記表紙決まったかな!)

 

「・・・もう。悪戯好きな友達を持っちゃったなぁ」

 

苦笑しながら、フォウの頭を撫でる

 

 

(ペットは飼い主に似るっていうだろう?これもそれもあれもどれも全部、あの引きこもりクソ野郎が悪いのさ)

 

グルルル、とマスコット的に出しちゃいけない声をあげるフォウ

 

 

「どうどう、どうどう」 

 

(ハッ、またビーストになりかけていた・・・だきしめてー。ボクをだきしめてー)

 

「はいはい。修理も終わったからね」

 

ヒョイ、とフォウを抱き抱える

 

(あぁ~・・・今回のカルデア大冒険日記はキミ専用になるかもしれない・・・)

 

「・・・それ、売れ残らない?王様に申し訳ないよ・・・」

 

 

(何を言うんだ!マナプリ5000でも完売するはずさ!今までのキミの振る舞いはそれだけの価値がある!売れ残ったらボクが全部買い取るから大丈夫。あと買わなかった奴等をマーダーしに行く)

 

 

「そんなに・・・?でも、そうだよね。この姿、凄く綺麗だから。きっと大人気になるよ」

 

――至高の芸術と豪語されし器だ。当然写真集なんて完売するだろう。自分も欲しいくらいだ

 

 

・・・そこが本物の英雄王の魂だったらなぁ、と見る人にはガッカリされてしまうだろうけど

 

 

(いや、それはキミだからいい。キミだからこそいいのさ)

 

「・・・そう?」

 

(保証する。断言しよう。キミ『だから』英雄姫は素晴らしいんだ)

 

「――・・・あ、ありがとう・・・」

 

 

・・・照れてしまう

 

無銘の自分に・・・口が上手いな、この友達は・・・

 

(ふふっ。照れ顔は写真にしないでおこーっと。ボクだけの特権だ!わぁい!)

 

「そうして。・・・恥ずかしいから」

 

(うんうん。だから、安心していいよ。キミに触れようとする無礼者の手は、ボクが払う。安心してキミは、やりたいことをやるといい)

 

ふんす、と胸を張るフォウ

 

 

(姫と呼ばれるにはキミは貞淑にして無欲すぎる。もうちょっとワガママになってもいいんだよ?大抵のワガママならボクが叶えてあげるからさ)

 

――いや

 

「ううん。これ以上はいいよ、フォウ」

 

(?)

 

 

「大切な仲間がいて、親身になってくれる友達がいて――魂だけだった自分に、こんな素敵な身体をくれた王様がいてくれる。ワガママなんて、これ以上言えるもんか」

 

頭を撫でる

 

「何度言っても、感謝の気持ちって無くならないんだね。――キミが教えてくれたんだ」

 

(――)

 

「いつも、本当にありがとう。フォウ――」

 

(・・・とうと)

 

「おっと、消させないぞー?」

 

くりくりと頭を撫でる

 

(読まれた・・・!まぁいいや。後でひっそり消滅しよ。・・・全く。獣のボクをこんなに倒すのはキミくらいだぞぅ。こう見えてボク、霊長類最強なんだからね)

 

「そうなの?」

 

(そうとも。質も、量も凄いんだ。本気を出せばソイツだって勝てるかどうか)

 

 

「すごぉい・・・!」

 

――マスコットこそが最強だったのか・・・!スゴいぞフォウ!

 

 

(スケベなばかりじゃないんだよ。・・・まぁ)

 

ふにゅ、と胸に身体を埋める

 

(キミに倒されるなら、望むところだ)

 

「ふふ、何回倒したっけ?」

 

(数えてないやぁ)

 

「自分も。・・・よし、完成!」

 

 

貯蓄された素材と備品を掛け合わせ、ギルギルマシンが新生する

 

輝きはより強く。駆動音はよりたくましく。エンジンは鼓動のように唸っている

 

 

(無銘!早朝!早朝!)

 

 

――しまった!そうだった!

 

「あわわ!オフ、オフ!」

 

あわててエンジンを切る

 

 

「(ふぅ~)」

 

(・・・バイク、好き?)

 

「うん。大好き。いつか、平和な世界になったら一緒にツーリングしようね」

 

(・・・)

 

「・・・フォウ?」

 

(・・・勿論さ。ライダースーツも用意しておく。ボクの席はここさ)

 

ふにゅふにゅと谷間で身体をよじるフォウ

 

「・・・君、胸本当に好きだよね」

 

(嫌いなヤツはいないとおもう!)

 

 

「そうなんだ・・・よし。何か食べようか?」

 

(ミートパイ!)

 

「解ったよ。楽しみにしてて」

 

そんな穏やかな時間は

 

 

 

「ギル!起きてる!?」

 

 

マスターの声で遮られる

 

フォウを下ろし、左指を鳴らす

 

瞬時に『姫』と『王』が切り替わる

 

 

「何事か!」

 

 

「ああ良かった!朝にごめんね!下に降りてこれる!?」

 

「忙しないな!敵襲か!?」

 

「そんな感じ!なのかな?」

 

 

「要領を得ぬな。王を急かすのだ、委細を述べよ!」

 

そう言いながらギルギルマシンを回収し、鎧を着用する

 

「う、うん!・・・サーヴァントが!」

 

――サーヴァント?

 

 

「サーヴァントが来たの!パラケルススとかいう綺麗な人!」

 

 

――なんだって・・・!?

 

「――このタイミング、軍門に下りに来たわけではあるまい」

 

ニヤリと笑う器

 

「どのような腹積もりで我等の前に姿を晒したか――よいぞ、この下らぬ特異点にも骨のある雑種が残っていたようだ!」

 

 

――いったい、何者だ・・・?

 

 

疑問を抱えながら、器は部屋を後にした・・・




「・・・まさか、直々に計画の首謀者の一人がお越しになるとは思いませんでした」


「ええ、さぞ驚きになりましたでしょう。では、改めまして」


「・・・うさんくさい」

「だな。殺した方が早いんじゃね?」

「黙っていなさい」


「私は、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。・・・Pと御呼びください」

「・・・何者ですか、貴方は」

「ええ、私は悪逆を為すもの。あなた方正しき英雄に、倒されるものです――」

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