人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


『化粧グッズ』
『ネイルデコ』
『初心者料理実践術』
『刺繍のススメ』


「一先ず、今日はこれをゲットよ・・・まだある、まだあるはず・・・これを!」

『はちまき』 

「まずは私が身に付ける・・・!ただ書いてあるものや道具だけなんて何も身に付かない!私が率先して、解りやすく教えてあげるのよ!よし!やるわよ私!」


『――何故そこまで肩入れする』

「えっと、料理はねこのて・・・」


『――お前は復讐者、その身宿すは怨嗟の炎』


「たま結び?直結結び?」

『世界を救わんとするマスターなどに、何故』


「るっさいわね!!そうよ私はアヴェンジャーよ!世界を憎む復讐者よ!世界なんてどうだっていいわよ!!」

『――』

「でもね、マスターが救いたいなら話は別よ!だってマスターは『私を求めて』くれたマスターよ!世界に一人だけのマスターなの!」

「そんなマスター・・・!『幸せになってほしい』と思うのは当たり前でしょう!!?」 

『――』

「私は他のサーヴァントとは違う。やるだけやって消える甲斐性なしとは違う。マスターが死ぬまで傍にいてみせる。マスターが地獄にまねかれたなら、地獄の果てまでついていく!」


「マスターの為に、マスターの為だけに旗を振るうわ!世界なんてどうでもいい!――ポンコツ弱小サーヴァントなら!力で勝てないのなら!『最もマスターの幸せを願う』ただ一人のサーヴァントになればいいのよ!!」


『――愛するものを害するもの総てへの憤怒と憎悪。――在り方を定めたか、新しき復讐者』



「そうよ!!ってかうるさいわね!誰よアン――」





「・・・あれ?」

『漆黒の招待状』

「・・・何よこれ、あかない!」


おうさまの どくしょ

「おかえりなさい。ゆうしゃごいっこー。おみやげください」

 

 

 

帰還したジキル氏へのアパルトメント。ソファーを占領したフランがアンニュイに歓待する

 

 

「すこーんがいいです」

 

 

 

「そら、ご所望だぞファンブラー。情緒を狂わせし魔性の騎士よ、ヤツをおかしくさせた責任、取ってやるがいい」

 

 

「オレかよ!まぁスコーン買ってきてるけどさぁ!」

 

「うわぁい。はやくはやく。フランはだらだらにいそがしくて、おなかがペコペコなのです。ゆゆしきじたい、ねむい」

 

 

「なんだコイツ!もっかい眠らせた方がいいんじゃね!?」

 

 

『僕は謎のヒーローX!短気はダメだ!拾った生命には責任を持つ!ヒーローとのお約束だ!』

 

 

「また出やがったなヒーローX!テメェのせいで――あら?」

 

「幻覚を見ていないで、ご飯にしますよモードレッド。さっさと荷物を片付けなさい」

 

「オレぇ!?くそっ、父上たちが来てから調子狂いっぱなしだ!」

 

「荷物といえば、そうだ。そこの頭に筋肉を詰めたギリシャ女」

 

「誰だか一発で解っちゃうのが悲しい!どしたの?」

 

「俺の荷物を書斎に運んでくれ。愛と勇気をみっちり詰め込んだ女だ、無力な子供の頼みは断れまい?」

 

「無力な子供は自分の無力を武器にしないと思う!トランク三つかぁ。ほいっと」

 

 

「・・・まさか本当に持ち上げるとは。やはりお前の物語は弱きを助け強きを挫くヒーローもの。冗談混じりにプリキュアに例えたが強ち間違ってもいなかったようだな!」

 

「プリキュア好きだよ!年中内輪揉めしてるライダーと違って仲良しだし!でもさ、オールスターの描写大変そう!ギミックはライダー、変形合体は戦隊ものがいいよね!」

 

 

「女子力は死に絶えているのに、魂の輝きは一丁前に童心を忘れずか。・・・それがお前の人を引き付ける魅力の秘訣なのかもしれんな」

 

「?何か言った?」

 

「何もない。さっさと働け。時間と締め切りは無慈悲に終わりに追い立てるぞ!」

 

 

「膝カックンやニーは止めてぇ!」

 

 

アパルトメントにて警戒を解き、思い思いの時間に浸る一行

 

 

今回は特殊な事例にて、流血沙汰には至らなかったので皆の顔はやや明るい

 

 

・・・ありすとアリス。主人を求めさまよった幻影、そんな彼女を迎えに来た、優しい少女の亡霊

 

 

――王は教えてくれたのだ。ただ武器を手に取り、生命を奪うのが戦いではないと

 

 

相手の価値を見定め、理解し、的確に相手に相応しい『終わり』をもたらす事こそが、戦いであり、裁定であると

 

・・・あの優しい結末を迎えられたのは、マスターと、優しい王様のお陰なのだ

 

 

そして、マスター。女子力について、あまり悲観にならなくてもきっと大丈夫だと思う

 

 

――だって、マスターは泣いていた。二人のアリスの旅立ちの時に、確かに涙を流していた

 

 

『感動』し、涙を流す・・・その姿は確かに儚く、美しかったと自分は思う

 

 

だから・・・ありがとう、マスター

 

マスターが選んでくれた結末は・・・とても素晴らしいものだと、自分は確信している

 

 

――どうか彼女に、素敵な人が見付かりますように

 

 

 

「さて、人間どもが価値を示すか、ヤツが花嫁になるか。どちらが先か見ものだな」

 

 

「・・・英雄王?」

 

「こちらの話よ。さて、我も寝るとするか。湿った霧の都に薄暗い書庫、断続的にやる気を削ぐ徹底ぶりには呆れる他ない」

 

欠伸をしながら部屋に向かう英雄王

 

 

 

 

「え、英雄王!」

 

マシュがそれを呼び止める

 

 

「ん?どうした?」

 

「お疲れ様でした、英雄王!その、やっぱり私は、童話が好きです!例えそれを書き上げたのが皮肉屋で、厭世家で、声が素敵なショタショタだとしても!」

 

「待て、どこのラジオの電波を受信した」

 

 

「私は童話が、だいすきです!・・・あの、えっと」

 

 

マシュが、言い淀んでもじもじしている

 

 

「トイレはあちらだぞ」

 

「そっ、そうではなくて!も、もしよかったら」

 

「・・・読んでみよ、と言うことか?」

 

「はい!こちらに私オススメの『人魚姫』『裸の王様』『マッチ売りの少女』をまとめておきました!英雄王、是非・・・!」

 

「――部員どももそうだが、此度の我が臣下はマメな奴ばかりよな」

 

 

ひょい、とマシュから総集編を受け取る

 

 

「仕方あるまい。日頃のお前の奮闘に免じて読み耽ってやろう。だが、感想は期待するなよ?」

 

「は、はい!おやすみなさい、英雄王!」

 

 

「うむ、貴様も休めよマシュ。次辺りに出番があればよいが」

 

 

ひらひらと手を振り、王は部屋に帰還した

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

ソファーにもたれ掛かり、足を机に投げ出すいつもの読書スタイルに移る英雄王

 

 

「臣下の貢物、無下にはせぬ。我が叙事詩より面白い書物など有り得ぬが・・・まぁ息抜きには良かろう」

 

右手で頬杖をつき、左手で書物を抱える器用な姿だ

 

「慣れぬ事を行うもまた旅の醍醐味。苦悶と苦悩に満ちたヤツの残した童話、見定めてやろうではないか」

 

薄く笑いながら、本を開く器

 

 

・・・ちょっとドキドキする。いつかは読書をしてみようと思ったが、まさかこんなはやく訪れるとは

 

 

――どんな世界が待っているのだろう?

 

 

「『裸の王様』つまり我ではないか。・・・童話作家め、我をモデルにするならば一声かければ良かったものを」

 

 

 

 

 

暖炉とランプの灯りがゆらめくなか、王の読書は幕を開けた

 

 

 

裸の王様・・・『これは魔法の裁縫だ。知恵無きものには宝石に、知恵あるものには無価値に映る』

 

『バカには見えない服』を仕立てあげられ、自慢気にパレードを行う王様。裸の王を、盲目的に賛美する民衆

 

そんな沢山の偽りを、一人の正直者が見抜く

 

『ねぇ、どうしてあの王様は裸なの?』

 

「それはな、一糸纏わぬ裸体こそが至高の美であるからだ。童話作家め、解っているではないか」

 

・・・これは、欺瞞に満ちた世界にも、けして潰えぬ、輝きを失わない真実と勇気が確かに在る、といった物語であろうか

 

少年の勇気と、真実を見抜く洞察力に感服を。『コナン』がいいかな、名前

 

 

「中々に蘊蓄深い話を書く。興味が湧いてきたぞ、次は・・・半魚人でも読んでみるか」

 

――人魚姫、人魚姫です王よ

 

人魚『価値あるものを持ちながら、浅薄な感情で総てを手放し泡に帰った皮肉な悲劇』

 

「まあよくある話よな。身分、いや異種の恋愛などにハッピーエンドが待っているものか。友であろうとそうなのだ。フワワの一件で学べ、作家ども。人類最古のベストセラー、侮るでないわ。大抵の発想は我が源流だ」

 

 

・・・声を失い、優雅な脚を失い、最後は生命すら喪い泡になった人魚姫

 

笑う気にはなれなかった。その哀しみに任せ、ナイフで彼を殺すことだって出来た人魚姫は、それを選ばずただ、泡になることを選んだ

 

――その哀しくも美しい心に敬服を。自分も、こんな美しい心になりたいと、切に思う

 

 

「雑種どもは無償の献身が好みよな。こんなもの、押し倒し自らの魅力で陥落させてしまえば済む話であろう。これだから草食系というやつは・・・」

 

――そして、いつか自分が消え去るときが来たとしても

 

誰も憐れまず、誰とも自分の生きざまを比較せず、回帰を望まず、その結末を受け入れよう

 

かけがえのない、大切な思い出だけを胸に懐いて

 

 

「さて、本命か」

 

 

――最後に手に取るのは『マッチ売りの少女』

 

 

「手垢のついた古典と言うが、これにヤツの人生が詰まっていよう。張り切って見定めてやろうではないか」

 

 

――アンデルセンの半生。どのようなものなのだろうか

 

 

マッチ売りの少女『いつか、春が来る。いつか、幸福が訪れると』

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

――・・・・・・・・・

 

 

器も自分も、読了後に閉口する

 

 

救いがない、と言うのだろうか。マッチ売りの少女のマッチは売れず、瀕死に至りマッチを燃やし、暖を取る

 

その炎に揺られ、少女は幻覚を見る。暖かな暖炉、たくさんの食事。笑い合う家族・・・

 

「・・・・・・・・・・・・我と出会っていたならば、在庫ごと買い取ってやったものを。・・・嗚呼、惜しい。これほど献身的な幼児ならば、大人になればよき補佐役となっていた筈だ。我が身柄を引き取ってやりたかったものを・・・シドゥリと名付けるか・・・」

 

目を潤ませ、目頭を抑える器

 

 

――アンデルセンの、人生観だろうか

 

『人は、究極的には死でしか幸せになれない』。瀕死な女の子が、最後に見たのは、手に入らない幸福への憧憬だった

 

自分がこの作品で感じたことは何か?誰も彼女を助けなかった『憤慨』か?見殺しにした世界への『哀しみ』か?

 

・・・自分は『美しさ』を感じた。一人の少女に、そのあり方に尊さを感じていた

 

 

理不尽な現実に、呪詛ひとつもらさず懸命に生命を全うした少女。末期にあっても怨嗟ひとつもらさず、マッチの暖かさに幸福を見いだした少女

 

 

その在り方は、嘆きと哀しみの中に確かに輝く、『人間の美』を、なにより鮮烈に書き記していたのだ

 

 

 

『いつか、春が来ると』

 

 

――今

 

 

『いつか、幸福が訪れると』

 

 

――此処にあらぬ、確かな宝の声を、耳にした気がした

 

 

・・・物語は、ここで終わりだ。本を畳む器

 

 

「肩書きに偽りなしよな・・・中々に興じさせる一時であった」

 

全く同感だ。マシュが夢中になるのも頷ける

 

・・・文字の羅列に、感情と魂を込めれば、そこには『世界』が生まれる

 

アンデルセンの産み出した世界に、敬服を。確かにこれは、世界を魅了するに相応しい物語だった

 

 

「マリアめに読み聞かせを所望してみるか。さぞかし聞き応えのある劇になろうよ。ふはは、王妃に語らせる贅沢を果たすは我しかいまい!さて、アンデルセンめに我をモチーフにした通りすがりの王に少女を引き取らせ、市場を席巻し流通の女王となる『マッチ売りのシドゥリ』を書かせねばな」

 

フハハ、と笑いながら本をしまう器

 

・・・言葉はこんなに、力を持つ

 

 

・・・――ならば・・・自分にも

 

 

 

 

 

 

 

みんなが寝静まった深夜二時

 

 

(よんだかい?英雄姫サマ)

 

ピョコンと、美しき獣、フォウが現れる

 

 

「ごめんね、こんな夜更けに」

 

――『王』は眠りにつき、『姫』が部屋に顕れる

 

 

ペンを持ち、紙に向かい合う形で椅子に座っている、黄金にして無垢なる英雄姫が顕現していた

 

 

(全くだ。夜更かしはお肌の大敵。ボクを抱きしめてはやく寝ないと)

 

「ちょっとだけ、ね?実はね、手紙をしたためたいんだけど・・・」

 

(手紙?)

 

そうだ、アンデルセンに向けた手紙『ファンレター』を書き上げたい

 

 

こんな素敵な物語を楽しませてくれた作家に、僅ながらも恩返しがしたいのだ

 

精一杯に、真心を込めて。そうすればきっと、想いは僅かでも届くと信じて

 

 

「いい書き方を教えて欲しいんだ。無礼な物言いになったりしないように、しっかりと気持ちが伝わるように書いてみたいから」

 

(なるほどなるほど。そこでボクを頼るのはいい判断だ)

 

「うん。フォウは自分の、大切な友達だから」

 

(――――)

 

「今度、読み聞かせてあげるね。膝の上でも胸の間でも、好きな場所にいていいよ。一緒に読めば、もっともっと素敵な時間になると思うんだ。・・・大袈裟かもだけど」

 

 

ひょい、とフォウを抱き上げる

 

「ずっと傍にいてね。大切な友達が消えたら・・・嫌だよ・・・?」

 

 

・・・それは、全員に言えることだ 

 

英雄王にも、マスターにも、カルデアの皆も、誰一人欠けてほしくない

 

 

――この物語は、ハッピーエンドで終わってほしい。自分の、切なる願いだ

 

 

(――お)

 

「お?」

 

(――おめでとう、無垢なる英雄姫。いつものように、ボクはキミの尊さに倒された――)

 

「フォウ――!?」

 

――正直な気持ちを伝えたら、フォウは消えてしまうのか・・・!?どうして・・・!?

 

 

――一度消滅したフォウは単独顕現で事なきを得て

 

 

(ボクに任せておくれよ。アンデルセンが感動で転げ回る文を知っているからね)

 

 

「ホント?」

 

(キミを守護する獣に任せておくれ。バッチリなファンレター、ボクが届けてあげるからね。いいかい・・・――?)

 

 

――深夜の、他愛ないやり取り

 

 

無垢なる姫と獣の会合は、こっそり続いた・・・




「朝は冷え込むな。物書きには厳しい寒さだ。かじかんで手先が狂う。暖かいシチューでも欲しいところだが・・・ん?」


『できたてのシチュー』 
『手紙』 


「――・・・これは・・・俺にか?」

『あなたの物語を読みました、と書かれている』


「・・・まさかこんな状況で読書に精を出す物好きがいるとはな。ファンレターにシチューまで添えるとは。殊勝な読者もいたものだ。よし、ちょうど冷えていたところだ。暖かいシチュー、ありがたくいただいてやろう。どれ、味は」


「・・・――・・・・・・美味い・・・」


「くっ、俺としたことが批評の一つも下せんとは!温度、具の量、味付け!昨日の晩飯から好みを読まれたか!?作家から盗むとは!『俺に食べてもらうために作られたシチュー!』真心という伏線!あぁもう、悔しいが美味い!手が止まらん!」



「…美味だった・・・いつ以来だ、こんな満たされた食事は・・・あの野蛮人でもプリキュアでもあるまい。あの白紙のお嬢さんでも有り得まい。ジキルのやつめ、いつのまに三ツ星シェフを雇っていた?・・・まあいい」

「ファンレターで心を満たすとするか。ネットの便所の落書きに劣る下らん評価よりずっと価値のある生の声、目を通さぬは作家の名折れだ、どれ・・・?」

「・・・名がない、な。まぁ悪い輩ではないだろう」



『いまや、あなたはわたしのファンレターを読んでくださいましたね』


「――――――――――――」



『あなたがぐっすり眠っている夜、私は貴方が書き記してくださった物語に、とても感動し、胸を打たれているのです』


「・・・・・・」


『あなたが幸せになりますように。そして、貴方の物語に虜になった誰かのことは、どうか忘れてください』



「もういい!解った!悪かった!許してくれ、お前の気持ちは伝わった!心を熱いナイフで抉るのは止めてもらおう!あぁ、顔から火を出させるとはろくでもないファンがいたものだ!」


『はらりと落ちる一枚の紙』


「ん?」

『あなたの物語が 大好きです ギルガメッシュ』

「――――!!!!!???」


直後にアンデルセンはスッ転び、全身を打ちソファーの住人になった


「ようこそ、にーとのせかいへ」

「お前と一緒にするな・・・天地がひっくり返ったんだこっちは・・・」

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