人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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離島

モルガン「あれは…魔力の跡」


(あの軌跡と魔力は…妖精?)

「…流石に、バーヴァン・シーではないとは思いますが…気になりますね」

(あり得ないとは思いますが、こちらの妖精ではないことを確かめなくては、いたっ!)

カニ「………」

モルガン「……やりますね」

(…確かめなくては)


春のような心

「確か…この方角だったと思うのですが」

 

特別な縁に召喚され、今は悠々自適に夏草を回っている、白髪と怜悧な蒼色の瞳を有する美女モルガン。かつての世界の導きの縁を辿った彼女は今、とある現象を見かけ該当場所へとやってきていた。砂浜を歩き、島を探索していたところ、よく知る魔力に似た反応を探知した故である。

 

(先の反応、不思議な事に妖精と同じ感覚を感じました。カルデア抱えであるでしょうし、悪意ある存在自体では無いでしょう。…まさかとは思うので、そう。これは念の為です)

 

有していた記憶と記録では、汎人類史に侵攻する計画の下に自らの國を興したモルガン。そこでの結末は語るべくもなく、そして汎人類史に【あの】妖精達がいるとは考えにくいがそれはそれとして、妖精にいい感情など今は持てるはずも無いので。

 

(この平穏を乱す妖精であるならば、始末しなくてはなりません。国が果てた以上、妖精達に温情を見せる理由もない)

 

それを決意したモルガンは、少女の様な浜辺歩きを切り上げて件の魔力跡へと向かう。──自身を遥かに隔絶した魔術による隠蔽術式が施されているため、かろうじて気づけた程度のものだが。モルガンはその場所へと、静かに向かう──。

 

 

「何だお前はぁ!」

「誰だお前はぁ!」

 

探すまでもなく、それらは見つかった。海の品質調査を行う人ならざる存在と、砂の城を懸命に作っている氷の羽の跡が見られる存在。知性と気品の微塵も感じられない無邪気な対応、かの悪辣な妖精とは比べるべくもない能天気さを示したからだ。

 

「む?待てチルノ。コイツの顔はよく見るぞ?楽園カルデアでよく通りすがる顔だ。色素薄めだけど」

 

「そうか?じゃあ味方なのかな?」

 

「サーヴァントの気配です。彼女は…楽園に属した、サーヴァントの様ですね」

 

傍らにいるサーヴァントの存在。そして令呪の気配を見やり至る。信じがたい事に、この妖精はマスターであるのだ。驚きながらも、モルガンは身元を明かす。

 

「私はモルガン。かつてこことは別の世界の女王だったものだ。今は…そうだな。隠居と秘匿、傷心旅行といった体でこのカルデアに招かれた」

 

「オルガン?」

 

「モルガンと言えばアレだ、確かアルトリアの国に嫌がらせしまくった魔女だな。モードレッドの母親でもあり、最終的にキャメロットにハブられ続けた悪役ポジションのやべーやつだ」

 

この妖精はともかく、こちらの変な生物は妙に癪に障る物言いをするとモルガンは片眉を上げる。妖精國だったら殺していた。まぁ今は来賓だし気分がいいから流してやると一人頷く。私はなんと寛容なのか…。

 

「…そのモルガンですが、お前が先の魔力を放った妖精か?妖精は確かにサーヴァントに比肩する力を持つが、まさかマスターとは。どこぞの氏族に類する者か?」

 

「しぞく?あたいはサイキョーの妖精チルノだぞ!で、こっちはブリ!あたいの子分で、こっちはにとり!河童で頭のおかしいやつだ!」

 

「ブリュンヒルデです」

 

「にとりだ!気にするな、科学者は皆頭がおかしいからな!」

 

「オルガン、あたいに会いに来たお前の理由は解るぞ…あたいは天才だ、なんでもわかる!」

 

(ほう…妖精眼を備えるか。確かにあの罪と咎の妖精とは違う様だ)

 

カルデアの妖精、楽園の妖精…即ち肩書的には私と同じか、フフ…だなどと考えるモルガンに、チルノは指を突きつける。

 

「わかったぞ!お前はあたいと友達になりにきたんだな!!」

 

「………………は?」

 

なら当ててみるがいい、と言うまでもなく明後日の方向に飛んでいったチルノの推測に、素でモルガンは首を傾げるのであった…。

 

 

「へー。お前も妖精なんだな。あたいの知る妖精とは全然違うから分からなかったぞ」

 

「それはこちらも同じ事。島国には妖精が住み着くものなのかも知れんが、まさかブリテン以外にもそれ程の神秘を有する場所があるとは」

 

そしてどういう訳か皆で砂の城を作り上げる事となり、四人で土台を固め顔を突き合わす。別に争う理由も特にない、成り行きという緩さだ。

 

「楽園の妖精だなんて奇遇だな!あたいもカルデアの妖精だ!カルデアは、えーと、マンゴリラ!って呼ばれているから一緒だな!」

 

「マスター、シャングリラです…」

 

「ロストベルトで女王やってたのかー。うちのカルデアもロストベルトの戦いは経験あるから、知恵を借りる日が来るかもしれないな!」

 

モルガンとしては妖精眼をチルノが有していると勘違いしているため大抵の真実を開示し、ブリュンヒルデはチルノの補佐に終止しているため難しい事は追求しない。にとりはロストベルトの重大さがピンときておらず、チルノは難しい事はわからない。結果、最重要機密が飛び交う砂のお城作り。

 

「フフ…まさかこうやって妖精と無邪気に遊ぶ日が来るとは思いもしなかった。お前は愉快な妖精ですね、チルノ」

 

「ユカイ?あたいはサイキョーだ!おまえんとこの妖精が束になってもかなわない、とてもサイキョーな妖精なんだ!」

 

(悪に染まらない妖精、咎のない妖精とはこういうものなのですね。あの輩達は自らの咎を背負いきれない罪人だった。こうまで無垢な妖精を輩出できるとは…)

 

やりますね、汎人類史…一人頷いていると、にとりにとある問を投げかけられる。

 

「なぁモルガン。興味があるんだが、そっちの妖精はどんなんだったんだ?皆このチルノみたいに頭の足りないヤバいやつしかいなかったか?」

 

「…………」

 

モルガンはその問いに、なんと返すか悩みに悩んだ。かの妖精達は、滅びるしかない生き物であったと断言されても文句は言えない。その存在を口に出すことすら、この無垢な者達に告げることすら憚られた。

 

「…そうですね。強いて言うなら…ほんの一握り。ほんの一握りだけ…チルノ、あなたと似た妖精がいましたよ。無邪気で、嘘偽らず、脳天気な妖精が」

 

それでも。それでも全てを拒絶し疎うばかりではなかった。愛に苦しみ、律しようとしたもの。虐げられるしかなかった善。麗しきものに救われたもの。それらは、紛れもなく美しかったであろうと信じている。

 

「いたのかー!サイキョーの妖精が一握りも!危なかったな、あたいがいたら国がひっくり返ってたな!」

 

「いや、チルノクラスの妖精が一握りもいたら割と真面目にやべー案件だよな。知恵的にも力的にも」

 

「そうだろうそうだろう!あたいが味方で良かったな、オルガン!」

 

「…フッ、そうですね。少なくとも…あなたが私の知る妖精と似ていなくて良かったとは思います」

 

思えば、こうして無防備に、無邪気に、無垢に言葉を告げる者達と触れ合ったのは久方ぶりだった。妖精とは気まぐれで残酷であり、一つ間違えば容易くこちらに牙を剥く。

 

「チルノ、お前は善き妖精なのですね。その在り方をどうか忘れないように」

 

「勿論だ!あたいはどこに行ってもサイキョーだからな!きっと楽園でもサイキョーのマスターだろうし、サイキョーのサーヴァントにもなれるぞ!サイキョーだからな!」

 

「フフ…サーヴァントとして、鼻が高いです。マスター」

 

(…駆け引きや腹芸を抜きにした会話というものは、楽しく気楽なものですね)

 

汎人類史にて巡り合った不思議な同族との一時に、頬を緩めるモルガン。そして彼女の胸中に未だ残る、一割の真作の輝きを放っていた妖精達の事を思い馳せるきっかけをもたらしたチルノに、少なからず感謝の念を懐くのであった──。

 

 




『見上げる程の砂の城』

チルノ「すげー!!」
にとり「やべー!!」

モルガン「興が乗ってしまったな。すごいのを建ててしまった」
ブリュンヒルデ「ルーンまで使うのは、やりすぎでしたでしょうか…」

モルガン「良かろう。こういうものはインパクトが大切だからな」

(…マシュの宝具は、これ以上に立派でしたからね)

チルノ「オルガ、えぇと!モルガン!」

モルガン「?」

チルノ「ありがとな!すげぇ楽しかったぞ!」

モルガン「────」



『ありがとう。こんな私に良くしてくれて』



モルガン「────チルノ、頭を出しなさい」

チルノ「んぁ?こうか?」

「えぇ。……よろしい」

チルノ「頭を撫でた?おまじないか?」

モルガン「えぇ。あなたの心が曇らないように」

チルノ「それなら大丈夫だな!あたいはいつもキラキラだ!」

にとり「おーい!そろそろ引き上げだー!」

チルノ「じゃあまたな!次はカルデアでお前を子分にしてやる!ばいばーい!」

チルノの後ろ姿を、モルガンは優しく見送る。

「…実に、よい場所ですね。カルデアは」

善の妖精の価値を噛みしめるモルガンを、沈みゆく夕陽は優しく照らしていた──


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