榊原「こちらこそ、リッカをあれほど素晴らしい娘にしてくださり感謝しかありません。本当に、ありがとうございました。ドクターロマン」
ロマン「いやいや、リッカ君には僕達が助けてもらってばかりですから。彼女が道を踏み外さなかったのは、夏草の皆のお陰です」
榊原「ふふ、ではお互いの功績…という事で」
ロマン「また是非、皆で来ようと思います!でも…リッカちゃんは大丈夫かな。もうカルデアには戻りたくない、なんて言ったりして…」
榊原「それなら、きっと大丈夫です。だって彼女は…」
ロマン「──はい。何故なら彼女は、みんなは…」
「早いなぁ。もう一週間のうち半分が過ぎちゃったかぁ…」
ホテル自室、海が一望できるテラスにて。潮風に当たりながら時の過ぎ去る速さを思い耽る者、藤丸リッカが夜の夏草を見つめる。海の流れはどこまでも穏やかで、自身の言葉を吸い込む様に広く大きかった。悲しい訳でも、苦しい訳でもない。むしろ楽しいからこその時の流れに一抹の寂しさを覚えていたのだ。 隣には、じゃんぬとマシュが共に海を眺めている。
「あなたの故郷が激烈なのは嬉しい事だけど、騒がしすぎてお休みになっているのか不安になるレベルなのよね個人的には。人も設備も濃ゆすぎよ。まだ四日も残ってるのだなんて考えたりするくらいには濃いわ…凄いわね、夏草…」
「私も外界にやってきたのは初めてなのですが、あまりにも刺激に満ちていて一日の時間があまりにも足りません!まだまだ巡りきった気がしないのは決して気の所為ではない筈です!夏草、なんと恐ろしい場所…!」
「あはは、ありがとう二人共。正直私も想像できなかったくらいに進歩してて凄くびっくりしたくらいだもん。そりゃあそうなるよね」
二人の畏怖や感激に笑いながら、リッカは振り返る。この平穏と安らぎこそ、自分達が護り抜いた平和そのものであり、宝であるのだと。
「夢中になって駆け抜けた旅路で、楽園には何でもあるから忘れかけてたけど…そうだよね。平和な世界ってこんなに楽しくて、素敵なものだったんだよね」
「カルデアから一歩出たら世界が終わっていた、なんて特殊も特殊な状況…よくも乗り越えたものです。改めて聞くとホント異常事態だったわね、この案件」
笑っている友達も、街の営みも、空の青さや海の広さも残らず焼き捨てられていた。その大いなる殺人の恐ろしさは、こうして改めて平和に身を置くことで痛感できたとリッカとじゃんぬは振り返る。帰るべき場所も、全ての未来も失われていた世界。身震いするほどの凄惨な出来事から、自身らは未来を勝ち取り勝利することが出来たのだ。
「ですが先輩、じゃんぬさん。不思議な事にですね、旅路を振り返ってみると辛いことや苦しかったなどの思い出すのに苦痛な記憶というものがまるで無いのです。これは私だけなのでしょうか?いえ、きっと違う筈です!」
マシュの言う事は、楽園で過ごしていた時間が鮮烈極まる事もまた鮮明に示していた。味方のほぼいない孤軍奮闘なる状況から、豪華に勝利を掴み取ってみせた。その旅路は、何度でも振り返りたくなるようなものであることになんら異論は存在しないと、二人は頷く。
「ギルや皆が帰郷を赦してくれたのって、こうして日常や平穏の大切さを思い出す為だったんだと思う。ただ世界を助ける、世界を護るってだけじゃ気持ちがついていかない時だってあるかもしれないし」
リッカはそう確信を思い描く。自身の護るべきものはなんなのか、自身が護りたいものはなんなのか。漠然とした指針、理想ではなく地に足のついた現実を見せることにより、より一層の奮起を促す。その目論見は、正しく実を結んでいる。
「これから何が攻めてこようと、夏草の皆やこの街、今の平和な時間を護り抜いてやるって気持ちになってるよ私!いつか平和な時代で、皆が生きていく場所の大切さが凄くよく解ったからね!」
リッカは今までも手を抜いていた訳ではなく全身全霊であったが、そこにさらなる気合と決意が漲っている事を実感している。自身は幸福な世界で生きており、それらを護る誇らしき使命を懐いている。その決心を抱かせてくれた夏草の皆と、機会をくれたカルデアの皆に感謝を捧げながら彼女は揺るがぬ瞳で前を見据える。
「サーヴァントシステムっていう仕掛けも、悪いことばかりじゃないのよね。私みたいなちょっと特殊なやつでも、昔に生きたヤツでも今の世界に触れることが出来て、その時代の人間や世界の力になる。ロマンチックすぎるかもだけど、いいマスターに出会えたなら全然悪くないわね」
じゃんぬもまた、平和や平穏の素晴らしさと言うものを夏草の数日で掴んだ一人だ。復讐と憎悪に満ちた魂はそれに補填する生き甲斐と運命を見定め、自身の在り方を変革させた奇跡に連なるサーヴァントとしての使命に、決意の炎を燃え上がらせる。
「私は楽園が故郷であり、カルデアが家の様なもので帰る場所はあそこにしかありません。ですがそれなら楽園の皆さまをまるごと守護する盾となれば良いのですよね!夏草の皆様のパワフルさを盾に込めてより一層の奮起を誓います!」
マシュもまた、強く触発され心を奮い立たせている者の一人であった。故郷、帰るべき場所の素晴らしさを示された事により、ますます以てその盾は強度を増し、高みへと至るだろう。
「強くなるっていうのは、力をつけたり魔術回路を増やすばっかりじゃない…こうして自分の始まりに立ち返る事だって、大切な事なんだね」
リッカの言葉に二人は頷く。この数日余りの帰郷にて、ますます彼女達は力をつけ強くなったであろう。それは世界を救うという使命が、自身の中でさらなる具体的な目標となり、指針となったからである為だ。
愛する人達の未来を護る。
当たり前に来る明日の素晴らしさを忘れない。
帰るべき場所のかけがえのなさ、尊さを噛みしめる。
それらを期待し、この時間を取ったと言うならば。楽園の目論見は大成功と言えるだろう。彼女達の決心と覚悟は、来る前とは比べ物にならない程に研ぎ澄まされていたのだ。善意の満ち溢れる、この夏草という場所によって。
「よし!それじゃあ残り3日か4日!全力で楽しみぬいてカルデアに帰るぞー!私達の一年休暇はまだ半分も残ってるんだからね!」
「もうリッカと会った日が遠い昔の様なのに、あと半分もあるのね…上等じゃない。人生最高の一年間にしてやるわ!」
「まだまだ楽園のイベントも、巡っていないスポットも目白押しです!楽しみに楽しみ、ヘトヘトになるくらいに遊び倒して!思い出と決意を持ち帰りましょう!これからの戦いを、強く雄々しく勇気を以て乗り越えることが出来るように!」
「よーし!今はとりあえず3人だけで!頑張るぞ!おーっ!」
「「おーっ!!」」
夏草の帰郷が半分を過ぎたところで、改めて帰郷にも使命にも全力を尽くすことを誓う三人。その決心は、安寧に堕落することも使命に縛られることなく自由なものである。
(それで良いのです、皆様方。世界があなた達に救いを求めるのではなく、あなた方が世界を愛する。世界を護るという事はそういう事なのですから。善哉、善哉…)
(あと四日…悔いなく時間を過ごしてもらいたいですね。だってカルデアに戻れば楽しいとはいえ、夏から冬までイベントが目白押しなのですから)
そう、カルデアに戻れば世界の異常や突然生まれた特異点、大いなるぐだぐだイベントなどの案件が目白押しであるのだ。また暫く、日常や平穏とは離れて行く事となるは明白である。しかし、今更それを疎うかどうかなどは愚問であり杞憂である。
(えぇ。いつか世を平定するその日まで、彼女達は奮起し続ける事でしょう。いつまでも、その決意を以て。我等はその奮闘と頑張りを見守り、手助けを行うと致しましょうぞ)
(これからリッカさんを狙う輩が増えない筈が無いので、夏草の愛の神としても気合を入れなくては…グドーシさん、リッカさんとここを巡ってみてはどうです?この商店街エリア、なんだか神気が凄いんですが…)
思い思いの感傷を懐きながら、平穏の帰郷の半分は終わりを告げる。いよいよ、非日常への帰還が見え始める。それは豪華絢爛なる叙事詩の紡ぎが再開するという事に他ならない──
はくのん「ウノやろう」
リッカ「唐突なはくのん!はくのんも来てたんだ!?」
はくのん「たまには娑婆の空気を吸っときたいなと思いまして。日本人モチーフの生まれですので」
マシュ「いいですね…ビリが皆のお菓子とおやつを買うなんてどうでしょう!」
じゃんぬ「平和な賭けね…寝る前にいっちょやってやりましょうか!」
グドーシ「おや、それでは我々も参加いたしましょう。皆が太らないためのお菓子を買うためにも」
カーマ「それでは、本気でお相手いたしますね?皆さまを夜食の堕落から護るために!」
はくのん「マーラとは」
リッカ「よし!それじゃあマシュ!ウノ開始の宣言をしろぉ!」
マシュ「ウノ開始ぃー!!」
そうして半分過ぎる最後の夜を、一同はウノにて過ごした…
〜
カーマ「まさか私がボロ負けとは…さすがはリッカさんたちですね…」
マシュ「すみません!そちらからそちらを!」
仲良く二人はボロ負けした。
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