夜勤明けの休日なので眠気がひどく…今日は一先ずおやすみなさい!よい休日を!
「ここは私の行き付け、内緒の美容院みたいなものでね。髪の手入れはいっつもここなワケ。出世払いで専属スタイリストで、実際出世して義理を果たしたってわけ!クシナもノハナも腕利きのスタイリストだから、うたうも是非やってもらいなさいな!クシナ、いつもの!」
「うるさいのは変わらない…でも贔屓にしてもらってるからいい仕事する。うなれ私の櫛。櫛ナーダー」
席に座った天空海の髪に、さくりと櫛を入れ梳いていくクシナと呼ばれし緑の服と黒髪の少女。滑らかな水流の様な、腰をゆうに超える水色の髪が、緑色の櫛を流すようにたなびく。
(凄いわ…!)
(何がです?)
(彼女の髪質が凄いのよ。櫛を梳かれながら、僅かな引っ掛かりもなく流れるように下へと移動していく。相当の手入れとキューティクル仕上げがなければ辿り着けない領域だわ!)
大興奮のディーヴァ、彼女はうたうちゃんの情緒あふれる側面な為、感動や情動を全面に押し出す事を躊躇わない。それほどに、彼女の髪の質と櫛を操るクシナ少女の腕前は隔絶していたのだ。大衆の目を引くのも大いに頷けるというものである。
「艶、コシ、張り、水分…どれも良し。デガワアイドルにしては良くやっている。褒めてあげないでもない」
「そっちこそ見事な審美眼じゃない?言い方や愛想がちょっと足りてないのが玉に瑕だけど。そんなんでまだスサ君と仲良しなわけ?」
「言われる筋合いはない。でも、ありがとう。現役アイドルの太鼓判は励みになる」
クシナ。櫛那 奈多。ノハナの下でスタイリストの修行をしている見習いであり、天空海を練習相手に奮闘する18の少女。ノハナにその腕前を見込まれ、天空海限定でその隔絶した櫛捌きを発揮しており、天空海の美しい髪の鮮度は彼女の尽力ありきな箇所が多い。髪の質が落ちれば櫛のテストで猛烈に苦痛を感じる羽目になるからだ。始めた頃は激烈に櫛が髪の毛を引き抜いていったものである。
「イヤミなくらい綺麗な髪…手入れ冥利に尽きるけど、女性としては羨ましくもあり、妬ましくある」
「何言ってんのよ。あんたのお陰でもあるんだから誇りなさいって。あんた腕前は天下一品なのに人見知りでさー。勿体ないわよー?」
「私を浚いに来てくれる男の人、待ってるからいいの…」
クシナは櫛の扱いはまさに神業であり、夏草の櫛稲田姫命ノ社に伝わりし櫛を自在に扱える巫女でもある。しかし彼女自身は寡黙で厭世的、接客業にまるで向いていないため、社に乗り込んで櫛を使っていた天空海とバチバチにぶつかりあった後に意気投合。専属の髪梳き師になったのだ。
「本当、天空海ちゃんには足を向けて寝られないわ。わざわざここに来て、手入れ代から何まで用意してくれて…」
ノハナ。木野花咲。ノハナ美容院を経営する23才の才女で、木花咲耶ノ社の巫女でもある。ネイル、アイメイク、スキンケア、あらゆる美容の才能を有し、その腕前は知る人ぞ知る名人と評判である。しかし彼女は神事がメインな為、美容院と言えど趣味の範疇であり商売は行っていない。天空海が稼いだお金を自身に関係する人々に還元しているため、それを大切に活用し二足のわらじを履いているのだ。
「ノハナさん、クシナさん…まさかこういった自営業を担っていたとは知りませんでした。巫女としての一面が強かったので」
「ここの商店街に住む人間は大抵何かしらの神格の関係者なのよ、うたうちゃん。ウズノさんも天宇受売命ノ社の関係者だし…案外神様が手助けしてくれているのかもしれないわね」
嫋やかに笑うノハナ。それはまさに咲き誇る桜の様に華やかで可憐だ。ディーヴァの精神領域が激しく感激に震える。
(うたう、せっかくだから手解きを受けてみない?絶対に人間の隣人としてパワーアップできるわ!いいえ、これはもう確信よ!)
「(了解)ノハナさん。もしよろしければ…施術をお願いしてもよろしいでしょうか?」
その為に呼んだのよ、とばかりに頷く天空海にくすりと笑い、ノハナは笑う。桃色の髪の美女はうたうを席に誘った。
「夏草の誇る美人二人、片方は電子の歌姫に腕前を振るえるなんて光栄の至りね。この出会いに感謝して、全力で請け負わせてもらいますね」
「ノハナ、やる気…」
「今の自分にサヨナラしなさい?ノハナの腕前はまさに新生ってやつよ、新生!」
「新生…どうぞお手柔らかにお願いします」
(関節可動が狭まっているわ。緊張してる?)
「大丈夫よ、楽にして。心を込めて、すぐに終わらせるからね──」
その言葉の通り、ノハナのメイクアップは十分から十五分で完遂する。自動でスキン修復や自己回復が備わっているうたうちゃんが体感したことが少ない手触りに、戸惑いながらも受け止めていた十数分であった。
(終わりました?終わりましたか?)
(そんなキツく目を閉じる必要は無かったんじゃない?)
(自らの動作で手落ちをもたらしたくなかったので、完璧に停止していました。身体の機能をカットするほどに)
「はい、うたうちゃん。鏡で出来映えをごらんになって?」
ノハナに促され鏡を見たうたうちゃんは、目の前にいる自身の姿に感銘を受ける事となる。そこには──人間がいた。人間そのものなうたうちゃんがいたのだ。
「これ、は…」
完全に再現された人肌、ほんのりと紅潮している頬。更にくっきりとした二重、艶やかな紅の唇。機械のレンズの瞳と人間の肌そのものな顔立ちの完璧なバランスに、うたうちゃんは驚愕を隠せない。
「人間と寄り添い、人間に近づいていくあなたに私からの応援といったところかしら。ふふっ、こうしてみると本当にそっくりね、あなたたち」
「じ、自己修復機能を遥かに越えるナノマシンスキンの可動を確認。メンテナンス機能も無しに、これ程の…」
神業。人にしか見えない神業にうたうちゃんは激しく心を揺さぶれる。嬉しげに微笑むノハナは、うたうちゃんに化粧やメイクアップの肝要を説く。
「美しさや美徳は備わるもの。だけどそれは磨くこともできる。望む限り、どこまでもね。そこには人も機械も関係ない…あなただって、どこまでも美しくなる資格があるの」
「私にも、私達にも。AIである私達にも…キレイになる資格がある」
「天空海が連れてきたなら内面は問題ないでしょうし、これは私からの夏草の皆が懐く感謝の気持ち…のつもりでメイクアップさせていただいたわ。うふふ、お気に召したかしら?」
「ノハナ姉様、流石…」
「人間の美しさを見出させたら負け知らずよね、相変わらず。ま、それが狙いだったんだけど」
うたうちゃんには更に情緒の成長を進めた。世の中には最新鋭の技術と比肩、或いは上回る程の人の技術の進歩が存在しているのだと。何より──
「…凄いです。キレイになった自分を見ていると、脳内タスクの消化効率が上がっていくような気がします」
」
「綺麗になったと自信がついたの。美を誇示するは醜悪、美を秘めて醸すは美徳。うたうちゃん、良かったら是非またいらっしゃい。人にもAIにも神にも悪魔にも、等しく仕立て上げの腕前を振るわせていただくわ」
(凄いわ!良かったわねうたう!私としても大歓迎よ!)
様々な場所から向けられる称賛やアドバイスを受け止めながらも、一生自分には縁がない、人のものと思っていた技術が自身にも確かに受け入れてもらえるものとしり…
「──良かったね、ディーヴァ」
鏡の中の自分に語りかけるうたうちゃん。
──鏡の中の自分は、幸せそうにはにかんでいた。
クシナ「また来てね」
ノハナ「無理はだめよー?」
天空海「腕、なまらせないでよねー!どだった?化粧初体験!」
うたうちゃん「動力部分が、いつもより不規則に動いています。まるで自分が、興奮しているような」
天空海「してるのよ、興奮!やっぱり間違って無かったわね、連れてきて!いい?女の子っていうのは化粧すると生まれ変わるの。自分以上の自分にね!あんたも解ったでしょ?キレイになる喜び!」
ディーヴァ(天空海さんの言う通りよ。どう?今の気持ちは!)
ディーヴァの声もまた、弾んでいる。──彼女の情緒は、女子の本質に触れ更に著しく進んだ。
「──はい!おしゃれ、素敵です!」
そういううたうちゃんの笑顔は、化粧負けしない程に晴れやかであった。天空海の導きは、図らずともうたうちゃんの心身をより人へと導いていく──
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