アカネ「えーと、えーと…」
エル「こっそりお祈りしたい社なら、月読尊ノ社がオススメですよ。一緒に行きましょう」
アカネ「え?あ、詳しいの?」
エル「いっぱいお祈りしていますからね。さあ、ご案内しますよ」
アカネ(…なんだか、エル君…テンション低い…?)
「違うんです、神様懺悔させてください違うんです。私は怪獣と共に生き怪獣と共に歩むと誓った女…!決して、決してヒーローに鞍替えしたわけではない事を声を大にして言いたいです…!皆、裏切ったわけじゃないからね…!」
懺悔、悩み、秘めた想い。それらを吐き出すのに最も適した月読尊ノ社にて一心不乱に祈り続けるアカネ。普段とはうってかわって静かにお参りしているエルと対照的に、アカネの祈りは鬼気迫っている。
「何卒、何卒先のディーヴァグリッドウーマンはお許しください…!私はこれからも怪獣一筋なんですぅ…!」
『ガメラ、とか。モスラ、とか。怪獣でもヒーローはいる…自由に、推していこう…』
「はい!ありが…、………!!?え!?えっ!?」
お告げ!?今のお告げ!?神の玉音!?そんなツクヨミのさり気ないアドバイスに半狂乱になるアカネにも関わらず、エルは黙々と祈りを捧げている。
「…お祈りは終わりました。アカネさんも終わりましたか?それでは、これからの活動の指針と確認も兼ねて休憩しましょうか」
「ね、ねぇ!今の声聞こえた!?私、今!今!!声!?」
「なるほど、アカネさんは感受性が高いのですね。それが幻聴でないことを祈りつつ、社を出ましょう」
エルの神妙な雰囲気にそれ以上二の句を告げられず。今のはまさか…でもそんな…もしかしたら…?半信半疑なアカネと共に深く一礼し、社を後にするエルであった──。
〜
「そうだよね…ガメラとかモスラやゴモラとかヒーロー怪獣だし、敵の敵は味方理論でゴジラが人間を助けたりするし…」
「所属や陣営が大切なのはわかります。ガンダムmark2もエゥーゴカラーやティターンズカラーでガラリと見た目の与えるイメージが違ったりしますから。やはりアカネさんは並々ならぬ拘りを持っている筋金入りのオタクですね」
ベンチに二人座り、片や怪獣性にヒーロー性を見出し片やエルなりに慰めているという珍妙空間の中、二人は買ってきたジュースを開ける。
「よっし、理論武装完了…!時と場合によっては怪獣もヒーローになったりする、よし!…ていうかなんだかエル君、テンション低くない?どうかした?」
「あぁ、いえ。祈っていたので。神様と言うものを僕は信じていますから、それは念入りに念入りに…気合を込めて」
銀髪の少年は感慨深げに、また感無量とばかりに空を見上げる。澄み渡り、突き抜けるような青空に、頂点から傾き始めた太陽。いつもの日常。
「…何をお祈りしてたの?エル君」
その静けさが、あんまりにも珍しいものだったので。アカネはポツリと聞いた。なんだかんだでずっと共にいる、銀色の変人の願いが何なのかを。
「幸せな今が、明日も続くようにと祈っていました。この鮮烈な日々が、これからも続きますようにと」
エルは言葉少なく、それでいて万感の想いを込めた願いを口にした。それは、常に彼が思っている事。
「頼もしい先輩がいて、理解ある友人がいてくれて、趣味に没頭できる今が続いてほしい。僕の夢は、それだけです」
「最強無敵のオリジナルロボットを作りたい、とかじゃなくて?」
「神様にお願いしてどうするのです。僕の作る夢のロボットは、僕の歩んだ人生を設計図にしているのですからそこに他人の介在する余地はありません。いつかその願いは自分で叶えるからいいのです。それよりも…こうしてアカネさんやみなさんと過ごせる時間がいつまでも続いてくれる事こそが、僕の願いなのです。当然の話ですが、ロボットはエンジニアや整備班、メンテナンスがなくてはまともに動きません。怪獣だって魅力的なのは、それを取り巻く環境やヒーローの対応の妙の一面がある筈ですよね?」
アカネは肯定と共に頷く。きぐるみを圧倒的な怪獣に見せるのは、たくさんの人たちがいてこそだ。
「今の僕も同じです。今僕の人生が楽しいのは…アカネさんや榊原先生、先輩の皆様がいてくれるからです。僕の趣味に理解を示してくれる環境があるからです。夏草に来てからずっと、感謝をしなかった日はありません」
そんなに…?トマトジュースを啜るアカネに目線を向けず、エルは言葉にする。
「小学生の頃は気持ち悪がれ、中学生の頃は腫れ物扱い。中学生にもなってロボット遊びの痛いやつ。それが僕でしたから。僕の人生は不理解と偏見に満ちていたものでした。人は知らないもの、解らないものを拒絶し否定せずにはいられない。大多数の人は自分の感じるものが全てなのです。知らないものを知ろうとするより、くだらないものと捨てる方が簡単ですから」
瞬間、アカネは見た。その落胆、そして落ち込みと目の淀み。それは──自分だ。自分そのものだった。
「それでも僕は、自分の好きを捨てられなかった。自分の大好きなロボットを捨てるくらいならと、僕はそれ以外の全てを捨てました。成績や通信簿は嘘を付きません。紙面の点数を見れば俗物は満足します。理解されなくてもいい、自分も誰も理解しないと。そう考えていた自分を──この夏草は、救ってくれたんです」
…それは、隣町の隣町、つまり夏草にプラモデルを買いに来た時の事。彼は静かに人生を悟っていた。
(自分は、好きな事だけを極めて生きていく。一人で生きていくんだ。それでいいんだ)
貯めに貯めた小遣いを使い、やっと買えたプラモデル。プラモデルはいい。ロボットはいい。否定しない、偏見をしないのだ。
(あぁ、幸せだなぁ。どうせなら、自分もロボットに生まれたかった)
傷だらけの腕に目を落とし、何処にも居場所がない孤独な少年が、土手に座り込みプラモデルを見つめていた。帰る場所は無い。安息の場所はない。趣味を止めろと、言われるお前にも問題がある。味方はいない。
「ロボットに、なりたかったな…」
そんな言葉を、聞き及んだのか。はたまたそうでないのか。彼の隣に、巨漢が突如座り込んだ。
「ロボット、好きなのかな?」
「えっ、あ…」
はちきれんばかりの筋肉に、スーツ。一目で解るオーラ。モビルアーマーが動き出したかのような迫力を、彼は今も覚えている。
「その割には買ったものを見て俯いている。もっと嬉しい気持ちになったりはしないのかな?」
「…僕には、これしか無いですから」
エルは不思議と、その巨漢と話した。人間は誰も信じない。そんな妄念が、不思議と薄れていた。
「いいや、君にはある。そのプラモデルと共に掴める未来が。高橋エル君」
「!…なんで…」
なんで名前を。そうして彼は、写真を出した。中学生の図画工作展示作品プロモデラーすらうならせた、そして数日後心無い者に壊されたフルスクラッチプラモデル作品の写真を。彼は知っていたのだ。エルの魂を。
「私はこの夏草を素晴らしい都市にしたい。その為に君の素晴らしい才能を逃したくない。どうだろう。君の好きで、自分の未来を切り拓いてみないか?」
そして男はエルに渡したのだ。文学工芸推薦枠。多彩な感性と素晴らしき技術を持ち、成績などの資格を全て免除し趣味に没頭できる権利をかけた白紙の用紙を。
「大人の私でも十年かけても作れないものを、君は作った。君は素晴らしい人間なんだよ、高橋くん。君の素晴らしさ…この夏草でもっともっと磨いてみないか?」
そして、名刺を渡し巨漢の男はその手で優しくエルの頭を撫で、去っていった。答えは、いずれ解ると言うように。
「待っているよ、高橋くん。いつか君の凄いを、私にも見せてくれ」
「………ぁ…」
…認められることがこんなにも嬉しい。認められることがこんなにも誇らしい。死んでいた彼の魂が、生まれ変わったのがこの時だ。
「──ありがとう。うつみ、さん」
内海羅王。その人物と、自分を待っている夏草という場所で自分の人生を始めたい。そう決めた瞬間から、そう人生を決めた瞬間から、彼は生まれ変わったのだ。
今の自分は何も変わっていない。変わったのは周りの環境だ。自分の趣味を呆れたり、呆気に取られたりすることはあれど、真っ向から否定された事はない。素晴らしい人達ばかりだ。
だからこそ、エルは知っている。好きを好きと言える場所こそ、自分を出せる場所があることこそが奇跡だと。
だからこそ、エルは祈っている。自分を受け入れてくれた大切な人達が幸せでありますように。自分の周りの全てが恵まれていますように。
彼はいつだって、何よりも大切に思っているのだ。自分の夢を受け入れてくれる世界こそが、最高の奇跡だと。だから、彼は祈るのだ。
『この一時がいつまでも続きますように』と。生まれ変わった、この愛すべき日々が、と。だってそれは──
エル「僕を取り巻く大切な人々の幸せ。願う事といえばそれだけです。だからこそ、僕はルルさんとゆかなさんを全力で応援しているのですから」
アカネ「…エル君、実はすごくいい子?」
エル「ロボットオタクですよ。さぁ!センチは終わりです!ルルさんとゆかなさんをサポートに参りましょう!」
アカネ「え、あ!切り替えが早すぎるんだけど私の同期!?」
エル(…あの日、僕は救われました。だから僕も、出来る限り誰かを助けたいと願います。…内海市長。あなたがそうしてくれたように──)
想いを胸に秘めながら、エルは自分の退屈を救ってくれたこの地へ報いる為に駆け出すのだった──
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