うたうちゃん『電子演出担当者と、調教師の方が不在…イベント遂行の要の方がピンポイントですね』
マリン「よりによって肝心どころもだし、誘導スタッフも足りてない…!夏草の皆様は民度高いけどこの人出だと間違いなく誘導なしじゃけが人が出る!あぁ、どうしよう…!」
〜
リッカ「ジョジョ!そろそろイベント始まるよ!」
承太郎「あぁ」
ゆかな「シャチにペンギン、イルカたち…待っていてくれ」
ルル「楽しみだな」
〜
天空海「サインが終わらない!嬉しい悲鳴ってやつねこれが…!」
?【…イベントにはハプニングが付き物だからね。さて、思い出作りはどうなるだろうねぇ…】
「アカネさん、耳を貸してください。どうやらのっぴきならない状況に陥ってしまっているようです。手短に説明します!」
「のの、のっぴきならない…?」
エルのいつになく真面目な語りに圧倒されつつ、そっと耳を貸す。アカネとエル、見た目と背丈は違えど確かに通じ合った友人同士。この程度を躊躇うほどの心の壁など無い。
(スタッフが足りない…!?え、うそ、なんで…!?)
(天空海先輩とうたうちゃん、そしてショーの開催からスペシャルイベントと触れ込みがあったそうで想像以上の客入りとなったのが原因だそうです。後半の水流ホログラムウォーターショーと調教師という骨子を担う方々がいないため、このままではまずいことになってしまうとか!)
想像以上のまずい自体にアカネは蒼白になる。こういう時に熱狂は怖い。単なる偶然の来訪がこんな相乗効果を齎してしまうのが情報社会の恐ろしいところだ。
(この状況を打開するには何か手を打たなくてはなりません!というわけでアカネさん、ここをお任せします!)
(お任せって…どうする気!?)
しかしエルの不敵な笑みに翳りはない。むしろこの状態を楽しんでいるかの様だ。口にしたそのプランは度肝を抜く。
(帰郷した英雄と、恋人未満の故郷のトラブル!それは逆に考えれば忘れられぬイベントのきっかけ!僕達でこの窮地を忘れられない思い出にします!具体的には足りないメンバーの穴を僕が埋め、イベントをなんとかして開催するのです!シーワールドの動物達はよく人の言葉を理解し、人と触れ合う事を楽しく感じてくださる方々!アドリブにも対応してくれる筈!)
【成程、欠員に対して補充措置をする訳か。榊原先生の教え子たちなら可能だろうねぇ】
相手がいないなら、自分達がやってみせる。エルの胆力から生み出される作戦はそういうものだ。自分達がイベントを続行させる力となってやればいい。大胆不敵極まる提案にアカネは驚愕を隠せない。
(う、運営側に入るって事!?いや無理め、無理めマシマシじゃない…!?)
(何を言うのですアカネさん!魔神柱という不条理を乗り越え、夜の平和を取り戻した僕達に出来ないことはありません!アクシズを押し返したガンダムのように!やってみせるのです!──ですが当然、これは学生としてあまり褒められない行為です。何せスタッフとは無関係ですからね。ですので──)
エルはアカネから離れ背を向ける。その様子は問答無用、有無を言わさずを現していた。
(僕一人で行ってきます!うたうちゃんの経由でこの事実を知るのは僕達のみ!なれば大多数の皆様にとってこのトラブルは起きていない!未然に防ぐまで!)
(エル君!?)
(軍規違反はパイロットの華!人知れず世を護るはヒーローの華!でしょう、アカネさん?怪獣のライバルは、何処までも正しくカッコよくなければならない。アカネさんの歪みながらも真っ直ぐなヒーローへのリスペクト、僕も実践します!それでは!ルル先輩方のモニタリング、お願いしますね!)
(待っ──)
アカネの静止を聞かず、スタッフ通路に飛び込んでいくエル。その後ろ姿を、呆然と見送るしかできないアカネ。
【とんでもない行動力だねぇ。いざとなればロボットよりも大切な者達の為に奮起する。彼はとても仲間を大切にしているようだ】
「…いくら、なんでも…」
…無理だ、と頭によぎってしまう。シーワールドのイベントは精密に利用される噴水機やホログラフの演出と、動物達と職員の息のあったコンビネーションがウリのもの。素人が介入したところで出来ることなどしれている。
【無理無茶無謀、そう言いたいんだねアカネ君。君は夢見る少女の割に随分醒めた物言いをする時があるからねぇ】
(───な)
【な?】
だが──無理だと言って諦めるのが得意ならば、自分は今ここにはいない。あの時、中学生で詰みかけた人生を変えたのは自分だ。そして──
(なめるなよぉ…!リッカ先輩の里帰りも、こんな私の先輩への恩返しもこんな中途半端じゃ終わらせないからなぁ!)
【──ほう。やる気かな、アカネ君】
またケツを叩こうか。そんな考えすら越えてきたアカネにニヤリと笑うアレクシス。彼女は造形、或いはプリンタ技術やホログラム、プログラミング技術は群を抜いている。彼女が勇気を出せば、光明が見出だせるトラブルでもある。奇跡的に、彼女は今やる気を出しているのだ。
【でもいいのかい?スタッフルームの侵入や勝手な協力は、見咎められてしまうかもしれないねぇ。もしかしたら下手をして、シーワールドの信頼や客足にも影響を出してしまうかもだ】
(ぐっ…そ、それは…)
【怖くないかい?君の勇気は、果たして勇気かな?それとも、蛮勇かな?】
アレクシスの言葉に押し黙るアカネ。そう、彼は定めている。その場のノリでの愚行か、はたまた違う動機かを。
(……………わ、私は)
アレクシスの問いに、アカネは答えた。口に出し、言葉にしたのだ。
(私は大丈夫だと思う!だってこれ、だってこれ…私の気まぐれとかじゃない!根拠あるし!)
【ほう?根拠とは?】
(エル君がなんとかするって向かって、うたうちゃんも向こうにいて、天空海先輩もスタッフ側!私だけがやらかすなら失敗確定だけど、私にはその、ああと、えぇと…)
【…………】
(………た、たよっ!頼れる仲間が!いるんだよぉ!私はもう非リアじゃない!仲間と友達出来たリア充なんだぞぉ!)
アレクシスは──笑った。嘲笑じゃない。仲間を、友人を信じ前を向いたアカネの清廉な『情動』に感じ入ったのだ。
【それだよ、アカネ君。一人じゃ駄目なら仲間を、誰かを頼る。君にはそんな選択をしてほしかったんだよねぇ】
(アレクシス…そんな気ぶりを私に…?)
【うんうん。自信が無いなら論外だし、自意識過剰でも困ったけれど。その産まれたての子鹿の様な勇気があるなら大丈夫だ。私も応援するよアカネ君。ショー、素敵なものにしようねぇ】
全肯定アレクシスの言葉を受け、アカネは息を吐く。誰かを信じ、誰かのために自分から何かをする。それは、責任が伴う怖い事だけど。
(いつまでも、誰かに頼って任せきりじゃ生きてる意味がない…!どれだけみっともなくたって、私の人生の主役は私なんだぞぉ!気合い入れろアカネ!やれる!いや、やれ!アカネぇ!)
それでも──自分を変えたいと神様の座から降りたのだから。手探りだって道を進むのは自分の選択なんだから。それが、自分の大切な人のためならば。
(やってやる!やってやるぞ!だから、だから──止まれ私の脚の震えー!ちくしょう、動けよぉ〜!)
【おやおや、身体が付いてきて無いようだねぇ】
その気高い決意を前にして、身体が追従しないアレクシスは笑い──
【では…頑張れコールをしてもらおうねぇ】
そんなふうに呟き、アレクシスはスマホにアクセスする。するとアカネのスマホから、声が響く。
『はいもしもし、六花だけど。久しぶりじゃん、アカネ』
「!!!?り、り、六花…!?」
中学生時代の、唯一無二の親友。甘えてしまいそうで怖かった為、長らく連絡をしていなかった六花に電話が繋がったのだ。アカネはアレクシスを困惑の極みで睨みつけるが…
【さぁ、勇気を出す為に最後のピースを使おうねぇ。ホラホラ、悪戯電話になっちゃうよ?】
『もしもし?もしもーし?聴こえてるー?』
「あわ、あわわ…く、くそぅ!自分が立派になるまで電話したくなかったのにぃ!」
意を決し、震えながらも応答する。アカネの事を知る、離れていてもつながる友達との対話の為に──
アカネ「お、おひさだね、六花。ごめんね、いきなり…」
六花『むしろ遅い。いつ掛けてくるか待ってた。待たせすぎ』
アカネ「ご、ごめん…!立派になったら、って決めてて…」
『は?なら毎日電話してよ』
アカネ「へ?な、なんで…?」
『学校行ってる?』
アカネ「う、うん」
『友達できた?』
「……うん」
『悪い事してない?』
「う、うん」
『立派じゃん。ちゃんと自分の人生生きてる。立派だよ、アカネ』
「…立派、なのかな」
『うん。真面目に生きること以上の立派、ないよ』
「…それ、教えてくれたの…六花だもん」
『実践してるのはアンタ。自信持て、上田アカネ!』
「はひっ!」
『ん。…何迷ってるのか知らないけどさ』
「!」
『アンタにしかできないこと、やりな。アンタなら、できるよ。私の親友でしょ?』
「……まだ、親友?」
『ずっと親友。言わせんな、ばか』
「………」
『でも、私は近くにいない。近くにいる大事なものはアンタがアンタで守ること。やるときは、やってやる。いい?アンタはできるよ』
「……一人で?」
『皆で。同盟みたいなもの、頼りにしな』
「……」
『解った?じゃあ、切るよ。アンタの愚痴長いからさー』
「六花!」
『ん?』
「ありがと。いつか…会いに行くね。大事な仲間と、一緒に」
『…期待して待ってたげるよ。じゃ、またね』
「うん、また」
アレクシス【気合は入ったかな?】
アカネ「…やる。先輩達のため、エルくんとやる!」
アレクシス【よし──じゃ、頑張ろうね】
アレクシスと共に、アカネは躊躇いなくスタッフルームへと駆け出す。自分の仲間たちを、助ける為に──
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