人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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数刻前

ニャル【はい。ベリルが使ってくる獣の詳細ね。負けちゃダメだよ?】

リッカ「教えていいのニャルパパ!?」

ニャル【万が一にもアレに負ける君なんて見たくないもん。私が応援するのは楽園の皆。その中心の君を依怙贔屓するのは当たり前だろう?】

リッカ「ニャルパパ…」

【魔獣はそんなでもないが、フェンリルはちょっと厄介だね。だが、君にはもう対抗手段がある筈だ。上回ってあげなさい。それと…】

「?」

ニャル【あの時のマシュは、助けも求められず苦痛に耐えていただろうね…。辛かったし、怖かったし、心細かっただろうね…もしかしたら彼女は、一生折られた指を使えなくなったかもしれないんだ。あのベリルの自分勝手な愛情表現のせいで…】

リッカ「───────」

ニャル【頼んだよ、リッカちゃん。あの日のマシュの苦痛、熨斗付けて返してあげておくれ】

リッカ「はい───勿論です…!!」

(素直でほんと可愛いなぁ。さぁて…せいぜい頑張れよ、ベリル…)

リッカ「ふぁっ!?」

ニャル【思うだけでも判定ありなのか昇華…!?】


リッカ討伐クエスト〜グランドマスター級〜

『なんだ、あの鎧は?カルデアの新開発された魔術礼装か?しかしあの魔力…普通じゃあねぇな』

 

グリフォンの形態を使い、空中高く翼で舞い上がったベリル。神話に出てくるドラゴンのような禍々しく、雄々しいフォルムに変化した恋敵たる女から距離を取り観察、分析を行う。見るからに普通の人間からかけ離れた姿、邪神からは何も聞いていなかったが…。

 

『さっきの魔術礼装といい、近くに寄るのはヤバそうだ。悪いが空からボコらせてもらうぜ…!』

 

わざわざ間合いに付き合ってやることも無い。そう判断したベリルは空中にて羽根、鱗を混ぜ込んだ竜巻旋風を発生しリッカを呑み込まんと画策する。風の勢いと、混ぜ込んだ鋭利な物体により、リッカの纏った鎧ごと切り刻んでやろうという攻撃手段である。辺りの全てを消し飛ばす破壊の竜巻が、リッカを覆う。

 

【く…っ】

 

その勢いは猛烈で、叩きつけるような風圧に流石のリッカも釘付けにされる。倒れ込まぬが奇跡の領域の暴風領域。

 

『卑怯で卑劣は得意なんでね。このままズタズタにしてやるよ、後輩!』

 

風の勢いで抑え付け、そして鱗と羽根で切り刻む。一方的な試合運びではあるが、これは尋常な決闘ではない。魔術師同士の殺し合いだ。スポーツマンシップを担いだヤツが後ろから刺される世界だ。見ればリッカは、一歩も動く事が出来ずなすがままだ。

 

あっけない、とすら思った。自身の変容を差し引いても、こんなにもあっさり優劣と雌雄がつくものかとベリルは鼻を鳴らした。

 

『さぁ、目も耳も奪われ平衡感覚も無くした頃合いかな?安心しろよ後輩、苦しめないで仕留めてやるからな』

 

グリフォンの爪、必殺の構えに入るベリル。嵐の音と視界を遮る風により、前後不覚のリッカの首を刈る構えだ。一息に、病院行きは免れないだろう。

 

『マシュに甲斐甲斐しく看病してもらいなよ、後輩──!!』

 

速度を上げて、急降下するベリル。その爪から放たれる一撃は、過たず彼女を害する一撃となる速さとパワーで振り下ろされる筈だった。

 

──だが、ベリルは邪神の悪辣さを忘れていた。ベリルに、リッカの持つ戦闘力と研鑽の成果をタダの一つも教えなかった。全くアドバイスをしなかったのだ。故に…彼は、入ってしまっていたのだ。

 

【────はぁああぁっ!!!】

 

彼女の、必殺の間合い。そして『敵意』を剥き出しにするというリッカと戦う際にしてはならない愚行中の愚行を犯してしまったのだ。黒と白の剣閃が、間合いに入ったベリルの両翼を瞬時に両断したのだ。

 

『ぐぉあぁあぁああぁあ!!?な、なんだって…嘘だろ、オイ…!?』

 

回転し、血を撒き散らしながら地べたへとへばりつきもんどり打つ。カウンターでしか出せぬと高を括った一閃。なんら問題なく行使したのだ。

 

ベリルからしてみれば意外どころか不条理にすぎる。目を潰し、動きを止め、完全なるトドメだった。事もあろうに居合で斬って捨てるなど、自身が反撃されるなど思ってすらいなかった。羽根をもぎ取られ、地面を転げ回るベリル。

 

【すぅ───っ】

 

残心するリッカの両手には、紫電纏う刀と黒き刀身の赤き紋様走る刀が握られている。噂の二刀流、曲芸によりグリフォンは討ち果たされたのだ。最早同じ技は通用しない。キズ一つつかぬ鎧がそれを証明している。

 

『とんだバケモンじゃねぇか…こりゃあ形振り構っていられねぇなぁ!』

【!】

 

同時にベリルの身体が盛り上がり、4足の人食い怪物へと姿を変えていく。彼が備えた怪物の一つ、『マンティコア』の力を解放したのだ。リッカの二周りも巨大となったそのフォルムは、彼女に警戒の構えを取らせるに十分であるほどに異形であった。

 

『捻り潰してやるぜ、泥棒猫ォ!!』

 

前脚の振り上げの一撃を見据え、リッカは刀をしまう。そのまま彼女は構えを取り───

 

【ぐっう───ぉおぉおおぉっ!!!】

『何ィ…!?』

 

ベリルの驚嘆が漏れる。受け止めた。受け止めたのだ。巨大なマンティコアとなった一撃を。リッカは鎧を通じて魔力を全身に送り、魔力障壁を作り上げ真っ向から受け止めたのである。それは、無尽の勇気なくては取れない正面突破。

 

【うぉおぉおぉぉおぉぉおぉりゃあぁあぁあぁッ!!!!】

『うぉお、ぉおぉおぉ!?』

 

そのまま、障壁が手に…龍の拳に変わりマンティコアの前足をガッシリと掴む。そして気迫と共にリッカの行った投げ技…ジャイアントスイングにて、巨体もろともベリルが縦横無尽に振り回される。

 

【だらぁあぁああぁっ!!!】

『うごがぁあぁあっ!!?』

 

そのまま勢い良く背中から壁に叩き付けられ、肺の空気を全て絞り出す事となるベリル。

 

【オラァ!!】

 

『げふぁっ!!』

 

【オラァ!!】

 

そのまま飛びつき、ベリルの顔目掛け鉄拳の乱打を見舞うリッカ。打撃はオルガマリーとの特訓で磨き上げている。彼女程でなくても、承太郎との特訓によりラッシュの冴えは研ぎ澄まされている。

 

【オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!】

 

その無茶苦茶な突破法は、流石の自分も戦慄を隠せない。

 

『がぶぁ、げふがっ───!!!ど、どうなってるんだよ…今の『普通』って概念は…』

 

ニャルが言うには、一般枠のマスターと聞いていた。修羅場は潜ってきただろうがそれにしても一年しか期間は無かった。一年で一般人がこんなになれるのか?どんな地獄だったんだよ、カルデアの挑んだ旅路はと悪態と動揺を隠せぬベリル。今の衝撃で骨がいくつかへし折れた様だ、とぼんやり自己分析に逃避するほど、目の前の存在は不可解だ。

 

【オラァーッ!!!】

 

そしてジャイアントスイングの要領で投げ飛ばされるベリル。だが、それだけでは終わらない。

 

『───!!』

 

リッカは矢を番え、追い討ちをかけんとばかりに魔力を練っている。その質量はリッカの周囲を蒼銀に染め上げる程に濃縮された魔力の矢。当たれば、放たれれば無事では済まないだろう。

 

『う、ぉおっ!クソッタレが…!!』

 

素早く変化し、サーペントの力を借り地面に潜り込みリッカの追い打ちから逃れる。サーペントは蛇の怪物。ウミヘビとしての力を使用すれば、どこだろうと潜り込めるのだ。その力で、地下を泳ぎ回るベリル。

 

『なんだってんだアイツは…ただのマスターじゃねぇのか!?怪物になったオレにサーヴァントもつけずに対処してくるとかまじに人間かよ!?』

【今の貴方に言われたくないよ、それ】

 

何ッ──リッカの言葉に対処する事より早く、辺りの環境が激変する。そう、それはまさに驚天動地と呼ぶ他無き天変地異が巻き起こったのだ。

 

『うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!??』

 

掻き回されていた。洗濯機に放り込まれた洗濯物の様に、ベリル・サーペントは掻き回されていたのだ。上下左右すら分からなくなるほどの超絶的なかき混ぜにより、ベリルは縦横無尽に振り回され、感覚を潰されていく。

 

(嘘だろ、どうなってんだ…!海ならともかく俺が潜り込んだのは地面だぞ、なに綿あめみてーに掻き回してんだ、どうなってるんだオイ…!)

 

見れば、リッカの手には槍が握られている。それは、地面に深々と突き刺さり辺りの大地を掻き回していた。天変地異、地殻変動とも形容できる、神の御業としか呼べぬ奇跡を起こしていたのだ。

 

『や、槍ってそんな使い道はねぇだろ…』

 

ベリルには預かり知らぬ事だが。あれは日本の創造神イザナミにより託された日本創生の槍、天沼矛であり大地を攪拌、自在に地形を変えるなど容易き力を持つ最高神の神器の一つなのだ。それを知らずわざわざ地形を利用するなど自殺行為に等しい。更にリッカの力として使い魔にして眷属である黒き泥竜達を使役も出来るが、今はイザナミの権能で事足りたのは明白。

 

【トドメ、刺させてもらうね】

 

『───!』

 

陸に上げられ、空中に跳ね上げられ人間に戻ったベリルに素早く取り付き、首にニードロップの構えを取り、そのまま一気に急降下する必殺の一撃。

 

【ナインライブズ・ラストワン───獣の断頭台】

 

『何、だと…ぉ!?』

 

その勢いは、魔力を質量に変えて放たれる必殺のニードロップにして師匠から学んだ必殺技。初見でありダメージを負った彼に、避けることも、耐えることも叶わない。そしてそのまま、成すすべなく──

 

『ぐわはぁっ──────!!!!!』

【─────!!】

 

リッカの奥の手の一つが大地に叩きつけられる。辺りのすべてを吹き飛ばすと同時に、ベリルに致命的なダメージが叩き込まれ決着するのだった──

 

 




ベリル『驚い、たぜ…本当に、人間かよ…お前さん…』

リッカ【人間だよ。そう思ってくれる皆が、いる限り】

ベリル『違うね…怪物が人間に倒される筈がねぇ。お前さんは、人間とはとっくに言えたもんじゃねぇだろうよ…カッコいいくらいに鮮烈だがね…』

リッカ【あなたが怪物?…どこが?】

ベリル『は?』

【好きな人の為に戦える貴方は、人間だとおもうけど】

ベリル『……言ってくれるぜ。ならオレも敬意を払って──』

リッカ【!?】

『全力で──相手をしねぇとな…!!』

瞬間、爆発的な魔力の高まりにリッカは飛び退く。そして目の前のベリルが変容していくと共に…

【!固有結界…いや違う!黄金劇場みたいな自前の空間!】

燃え盛る空間へと変貌していく地下空間。今こそベリルの本懐が示される。

───しかし。それはリッカも同じ事。

リッカ【………】

彼女は静かに、左手を見やる。

左手に握られた──小さな【櫛】を。

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