(予想になるが、恐らくこの生命体の飛来は大きく関わっては来ないだろう。Ⅰの獣が顕れた以上、終末の獣は必ず現れる。それは宇宙人の介入があろうが無かろうが、決まっている事なのだろうからな)
【ならば地球に『宇宙人』を招いた事で詰みとなる可能性も見えてくる。そうならない為に、少し異空間で彷徨っていてもらうとしよう】
(そもそも人理漂白は宇宙人を招いた時点で不可避でした、ともなればこちらの手落ちだ。終末の獣との全面戦争が避けられない以上、先手と布石は打つに限る)
【──さて、ではリッカちゃんにほんの少しだけ、御足労願うとしようかな…】
「おぉ、おぉ!うぉおぉおぉおぉおぉお!!」
ベリル・ガットは叫んでいた。叫び、奮戦していた。これほど騒ぎ、喚き立てるのは彼の人生数えるほどしか無く、それは最近無貌の狩人に追いたてられた事がそうであるのだが…第二カルデア支部の秘密基地のシミュレーションルームにて、彼はとにかく迫真の叫びを上げていたのだ。何故かと言うと…
【【【グガァァアアァアァ!!!】】】
彼のパワーアップパーツとなる、魔獣や幻獣の『肝』を組み込まれた怪物達が一目散にベリルを貪り尽くそうと暴れ狂っているからである。ベリルの魔術の特性上、その生き物の肝を取り込めばその力を手に入れられる。それ故にニャルは良さげな肝を用意したのだが…当然、お気に入りでもない輩に簡単単純に渡すわけもなく。ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられんの精神でベリルに差し向けている。強化ガラスの向こうで、邪神は退屈げにワインを嗜んでいる。
【出来の悪いアンチヘイト創作じゃないんだから、その程度さっさと始末してみせろよ。お前を虐めるのはとっくに飽きているんだから、さっさとキリシュタリア達のレベルにまで来てくれないか】
「いや待ってくれよ旦那!確かにアンタは無慈悲でとんでもないけどそれにしたっていっぺんに来させるなんて殺す気としか思えねぇよ!?」
【別に死んでも構わないもん】
端的にベリルの評価を下し頬杖を付くニャル。心の底からの本音に引き攣った笑みしか浮かべられないベリル。ニャルからしてみれば貴重な臓器を提供している立場、礼の一つも欲しいくらいである。グリフォン、マンティコア、サーペント…どれらも、並の魔術師が使役叶わぬレベルの個体となっていはするがそれは期待の裏返しである。きっと。
「そんなあんまりな事をはっきりと──ぐわぁあぁあぁ!!」
瞬間、ベリルをグリフォンの爪が引き裂いた。傍目から見てわかる傷の深さ、そしてお見せできない切創の惨状。誰が見ても致命傷である有様をニャルは認め、魔獣達を下がらせる。
【何をやっているんだか…電気代もタダじゃないんだぞ。いつまでもお前に注ぎ込めるリソースは無いんだ、ちゃんとやれちゃんと】
「………。………………」
しかしベリルは答えない。傷があまりに深く、致命傷にすら達する程の一撃を受け生死の境を彷徨っているからだ。いつ死のうと構わないが、今は困る。せめて用済みになってから処分するつもりなのだから。まだ利用価値があるうちは壊れてほしくないのだ。
【おや、多少はマズそうだな。仕方ない、私からの慈悲タイムだ。お前みたいな自他共に認めるクズでも人類の役に立てると証明してやろうぜ】
故に、ニャルはベリルに数多無数の薬品を投与する。それは楽園、そして基地内で進められた新薬、特効薬、並びに臨床実験をまだ済ませていない劇薬の数々だ。楽園が作り上げている日々形となっている最先端の薬品…モルモットやマウスを飛ばしてベリルという人間で試しているのだ。人体実験というやつである。
「うぉお!?し、死んだかと思ったぜ…旦那、わざわざ助けてくれたのかい?」
【あぁそうさ。やはり危ないものは他人で試すに限るよな、ベリル。さぁ続きだ。さっさと力を手に入れて使い物になれ】
「無茶振りがすぎるぜ──ぐわぁあぁあぁあ!?」
瞬間、マンティコアがベリルへと噛みつき縦横無尽にベリルを振り回す。そしてグリフォン、サーペントがそれらに続き…
【べ、ベリルーっ】
哀れにも、ベリルは貪り尽くされ魔獣達の糧となってしまった。そのあまりの悲劇に、ニャルの悲痛極まりない慟哭が木霊した──。
〜
「──はっ!?」
ベリルはやがて弾かれたように飛び起きる。まず確認した事は、自身の五体の無事であり健在かどうかであった。
「俺の脚、腕、身体…!あ、ある、か…良かった…助かったぜ…」
【助かったと思うのか?それは甘い認識だぞ、甘い甘い】
無事を確認したベリルの首筋に、鎌が当てられる。その形は、まさに命を刈り取る死神の鎌だ。ベリルが顔を上げると──
「う、おぉ──」
自身は跪き、花畑の中にて首を差し出していた。燃え盛る屋敷、薄暗い空。血染めの月と幻想と禍々しさが同居した空間で、ベリルの首筋にニャルは刃を構え立っている。
【ここは私の持つドリームランドの一角『狩人の夢』。冒涜を働いた人間を未来永劫捉える永遠の夢さ。お前は死んだ…が、その瞬間魂と死んだ事実をここが捕らえた。曖昧で未来が定まらぬ虚数空間…目標を果たすまで何度でも生き返ってもらうぞ。何度でもな】
「し、死んだ…だ、だが旦那、俺はこうして自分が自分だって認識してるぜ?その夢って話もまるで意味が──」
【寝る度に首を狩られたく無かったら、さっさと目標を果たす事だな】
ベリルの言葉に耳を貸さず、断罪の鎌を振り下ろすニャル。血しぶき一つあげず、ベリルの首は静かに花畑へと転がり落ちるのであった…───。
……そこからと言うもの、ベリルへの特訓、個性を活かすための修行に三匹の幻獣クラスと弄れさせ、死ねば夢に捕らえ首を刎ね、シミュレーションで本来の戦いを行わせ、生きていれば新薬の投与を繰り返す生命の全く無駄のない活用法にてベリルを鍛え上げた。彼が死ねば死ぬほど、傷つけば傷付くほど医療やシミュレーターの技術が上がっていく。楽園に貢献も叶い、ベリルの育成も可能といい事ずくめな一時をニャルは悠々自適に過ごしてゆく。
「なぁ、旦那…もし、もし勘違いや間違いでも怒らないでくれよな?」
【お喋りな奴は早死にするが…遺言代わりだ、言いたいことを言ってみるといい】
「…一見こうして、血も涙もないように見える仕打ちをするあんただが…少なからず旦那は俺を気にかけてくれていると感じているのは、果たして俺の気の所為かい?」
【それは勿論。お前にも分かりやすく、そして丁寧にやっているつもりだからな。むしろ漸く気付いたのかと文句を言ってやりたい気分だぞ、人狼】
「あぁ、やっぱりか。道理でどこか、心当たりのある態度だと思ったぜ」
【あぁ──お前の苦しむ姿を見るのが楽しいんだ。お前の言う愛情ってやつは、そうやって伝えるもんなんなんだろう?】
全てに合点が行ったとしながら、現実と夢の狭間…死線を何度も何度も彷徨うベリル。ニャルの徹底的な愛情表現により、死に、夢に囚われ、また現実へと戻る。終わるともしれないそれが、魔獣達の断末魔が響き渡る時。ついに──
「や…やったぜ。やってやったぜ…俺は、俺はやったんだ…!」
横たわる獣達、そして血塗れながらも自身の脚で立つベリル。その手には──血塗れに躍動する、魔獣の肝。
【おめでとう、ベリル。これで漸く楽園での立ち位置を確立できたな。その肝は私からの餞別であり、お前自身の力だ。精々大切にするといい。そう何度もストックは無いのだからな】
ニャルなりの賛辞を贈られ、ベリルは薄く微笑む。言葉や態度だけの薄っぺらいものでない、剥き出しで、鮮烈極まる『愛情表現』を受け取った彼は理解したからだ。彼が自身に、どれほど期待しているかをだ。
「助かったぜ、旦那。これで俺は漸くケジメを付けられる。自分の恋路や、マシュを攫っていった奴に向けられる力…それを成す為の力をな」
【それは何よりだ。さぁ、さっさと肝を取り込んで力とするがいい。そんなものは序の口であり、入り口にしか過ぎない。もっと凄いものを、特別にプレゼントととしてくれてやる】
おいおい、これより上となりゃぁ…その言葉に、ベリルは心から胸を躍らせ──
「それじゃあ、いただきますか──」
口を開け、狩りの果てに得た肝を口から取り込む。こうしてニャルの思惑通り、彼は力を手にするのだった──
ニャル【ようやく形になったか。これで少しはマシになったと言えるだろう。…さて、ここからが本番だぞ】
『脈動する生肝』
ベリル「こ、こいつは…」
ニャル【私の秘蔵の品の一つ…『フェンリルの生肝』だ。今のお前が逆立ちしても勝てる相手じゃないからな。特別にプレゼントだ。取り込んだ瞬間五体がバラバラになるかもだが…どうする?】
ニャルの問いはただのポーズ。やるしかないことも、バラバラになろうが一向に構わないと思っていることも既に理解できた。その上で──
「勿論──答えは、こうさ」
ベリルは肝を鷲掴み、意を決して貪り食う。そして──
【──────】
愉快げな表情を浮かべるニャルの前で、人ならざる者へと変容していくベリル。その純情なる覚悟をニャルは静かに見つめていた──
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