人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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マシュ「よーろれいひー!やっほぉー!!」

早苗「いやっふー!!」

ロマン(マシュ…本当に元気になったね。あの頃の君とは見違えるようだ。いや元気になりすぎた感じもあるにはあるけれど…)

リッカ「あ、いたいた!ロマーン!」

ロマン「おや、リッカ君」

リッカ「一緒にお昼ごはん食べよー!」

ロマン「もちろんいいとも!」

リッカ「あと、ちょっと聞きたい事があるんだけどね…」



無慙「事情聴取の前だが」

「「「はい」」」

「──夏草の美化に協力していただき、感謝する」

無慙(…すまんな。温かい内にコロッケは食えんようだ)


倒錯の愛

「ベリル・ガットって、どんな人だったの?」

 

ロマンとベンチに座り、共にサンドイッチを頬張りながら、ふと問いかけるリッカ。先にマシュから話に触れていたリッカは、なんとなく気になっていたのだ。ロマンは目を白黒させ、驚愕と共に聞き返す。

 

「その名前、誰から聞いたんだい?」

 

「マシュから。そういえばベリルさん、何をやっているのかなぁって言ってた。なんだかぼんやりとしか覚えてないみたいだけど、なんだか妙に気になって。ドクターに聞いてみてってマシュが言ってたから」

 

「あー……となると別にトラウマだとか、印象に残っているって訳でもないのか。それは何よりほっとしたけれど、マシュもなんだかんだでエゲツない反撃をしたなぁ…」

 

そんな風にぼんやりと呟きながら、ロマンはリッカの問に答える。彼が唯一強制排斥という対処を選んだAチームのマスター、ベリルのパーソナリティの一端を。

 

「ベリル・ガット。マリスビリーが集めたAチームのマスターの一人で、彼の仕事はカルデアの脱走兵を始末する名目を担っていたらしい。マリスビリーがAチームに用意していたとされる『大令呪』、その起動の仕方も教えられていたとされる、身内間の掃除屋と言ってもいいかな」

 

「大令呪…?」

 

「マリスビリーが用意していた、人理保障の決め手だよ。命と引き換えにどんな命令も行使する特権、みたいなものかな。もちろん、グランドマスターになった皆からはボクが除去しているから安心してほしい。…結論から言えば、彼はマシュに大令呪が刻まれるのを防いだ人物でもある。彼はどういう訳か、マシュに執着していたからね」

 

執着、という言葉選びをしたロマンから、それは穏やかな関係では無かった事をリッカは把握する。マシュが覚えていない事を、彼は覚えているとも確信しつつ話を聞き及ぶ。

 

「大令呪を刻むことを容認した前の話だ。マシュがまだ、無菌室でただ生きていた頃の話。とある日、Aチームの集まりにベリルだけが来なかった。彼は軽薄で、かつ自由人な気質があることは知っていた。皆はサボタージュだろうと言う程度の認識だったけれど、ボクは予感がした。胸騒ぎ、悪寒と言った類だ」

 

その予感に突き動かされるように、ロマンはベリルを探しカルデアを駆け回った。このまま彼を野放しにしてはいけないと、自分でも良くわからない感情に支配されながら。

 

「手がかりは無かったから、難航したけれどふとボクは思い至った。彼がカルデアに来て、マシュを見た時から…様子がおかしかったと思ったんだ」

 

なんとも言えない、憐れむような、それでいて魅せられたようなあの目を思い出す。その目線の先にいたのはマシュだ。いよいよ以て悪寒は最高潮に達し、マシュのいる医務室に転がり込んだロマンは、その光景を目の当たりにした。

 

「…彼はマシュのいる医務室に忍び込み、彼女の指を一本、折っていたんだ。マシュは悲鳴も、苦痛も外界に示す手段を知らず懸命に堪えていたけれど…」

 

「───────────。」

 

リッカの表情が消え、ロマンは神妙に語る。彼女に行った仕打ちは、彼女を傷付けるものであったと。

 

「その時のボクは、初めて理性や理屈じゃなく勢いで人を殴った。彼をマシュに近付けてはいけない。これ以上マシュに触れ合わせてはいけないと」

 

彼はベリルを殴り付け、取り押さえた。マシュは困惑したように目を白黒させるばかりだった。痛い、苦しいと外界に伝える術を持っていなかったからだ。

 

『ドクター…。邪魔しないでくれよ。オレは今、大切なアプローチをしているんだぜ。頼むよ、これはオレの──』

 

…そのまま、彼は医務室へ近付くのを禁止され、マシュとの接近を絶たれた。その行為は、彼を危険人物とマークさせるには十分だった。そしてその後、彼はマシュの代わりに大令呪を刻まれ正式にAチームのマスターとなった。それが、ベリルがカルデアにいた頃の経緯だよとロマンは言葉を切る。

 

「彼がマシュに何を求めていたかは解らない。だが彼は間違いなく倒錯した異常者だ。あと少し静止が遅かったら、マシュは五体不満足になっていたかもしれない。そんな恐ろしい予想をさせる狂気が、彼にはあった。それが、ボクの知るベリル・ガットの全てだよ」

 

「…マシュの指を折った…侵入して、わざわざ…」

 

煮え滾る怒りと凍てつく殺意を覚えながら、しかし冷静にベリルの行動を推察するリッカ。リッカからしてみれば、男性が無防備な女性にやる行為としては『中途半端』といった印象を受ける。カルデアの職員を欺ける程の隠密技術を持っているなら、やろうと思えばもっとマシュを踏み躙るやり方はいくらでもあった。何故わざわざ、指一本だけを丹念に折ったのだろうか。思案し、予想を組み立て口にする。

 

「ひょっとしたら、その行動は…『親愛』とか『求愛』の類だったんじゃないかな。ベリルさんは、マシュに並ならぬ感情を懐いていた。相手を傷つける行為でないと、その感情を伝えられない破綻者だと考えるなら…」

 

「彼が…マシュに惚れていたって事かい!?いや、そんな…、あぁ、でもそれならアプローチっていうのはそういう…?確かにマシュの意志は極めて希薄だった。やろうと思えば首を絞める事も、目を潰す事も、殺すこともできた筈だ。それがわざわざ指だけを…そういう、事なのか…?」

 

ロマンが愕然と思案し、そして頭を抱える。そのあまりにも歪んだ愛情表現の仕方に、人間としてのロマニが理解を拒んだからだ。彼はシバと二人きりの際は様々な愛情表現を試みているが、断じて相手を傷つけるような手段は取っていない。

 

「……もし、そうだとしても。彼の気持ちが本当に愛なのだとしても…それを示す手段が他者を傷つけることでしか示せないのなら、ボクはそれを理解する訳にはいかない。いや、きっと…理解してはいけないのだと思う」

 

だからこそ、カルデアにベリルが来る日があらば。なんとしても目を光らせ、警戒しなくてはならないだろう。どんな理由があれ…

 

「『他人を一方的に傷つけて愛を感じる、なんて手段を認める訳にはいかない。』でしょ?愛の気持ちが真っ直ぐであっても、その手段が歪なら…周りの誰かが、止めなくちゃいけない」

 

「その通りだ、リッカ君。さっきも言ったように、下手をすればマシュは指を一本喪っていた。楽園に来るのはボクが決めることじゃないとして、またマシュにそういった執着を見せるなら、ボクらはベリルを止めなければいけない。例えそれがどれ程純粋な気持ちであろうとも…」

 

「その愛は、誰にも理解されない。…マシュも、それが愛だとは解っていたのかな。解っていなかったのかな」

 

彼女自身は、すっかりその事を忘れていた。それは求愛した側からすれば、自身は何も残せなかったと同義の宣言である。果たしてマシュは、知ってか知らずかに彼の行為を忘れ去ったのか。

 

「だけど、どうか君も気を付けてほしい、リッカ君。君はマシュの在り方を大きく変えた。ボクや皆にとっては、それは喜ばしく素晴らしい変化であるけれど…」

 

ロマンの言わんとする事を理解する。無菌室で何も知らぬ無垢な生き方のマシュに惚れたとするならば、今のいきりなすびと化したマシュは別人も別人、解釈違いも甚だしい成れの果てぶりだろう。──彼が、マシュを変質した根源の対象にどんな感情を懐くかは想像に難くないからだ。

 

「解ってる。むしろ、望むところだよ」

 

本来なら、そんな道理はないかもしれない。人の恋路を邪魔する資格もないかもしれない。

 

ただ───自分はもう、マシュのマスターであり。マシュは自分にとって、大切な逆鱗(こうはい)だから。

 

「あの時、助けてとも叫べなかったマシュの苦痛と不安…10000倍にして返すつもり」

 

誇りと決意に満ちた戦い以外で彼女を傷つけるものを、自分の都合で誰かを傷つけるものを、彼女は絶対に許さない。

 

「───逢える日を楽しみにしています。ベリル先輩」

 

今──逆鱗に触れられていた事を認識した人理の龍は、故郷の地で震える程の決意を抱いた。




ジャングルジム

カーマ「愛、ですね。破綻者、倒錯者によくあるパターンです。大抵そういう輩は一般的な…普遍的な愛、美徳が解らないパターンが多いです。ベリルなんとかという方も例に漏れないでしょう」

リッカ「なんで好きなのに、傷付けるんだろうね」

カーマ「所有する愛、残したい愛。そういった類の存在の愛は『傷つける』事でしか認識、実感できないものなんですよ。楽しいからでなく、憎いからでもなく。大切だから傷つける。愛しているから、愛するために傷をつけるんです。きれいなものが台無しになって、傷物になって、傷物にして。ようやく自分が愛した、愛せたと感じる。きっと、そういう類の破綻者だったんでしょう。その気持ちを、いずれ美しくなる醜いものだったマシュさんを見て実感したんじゃないんでしょうか」

リッカ「──そっか。マシュが好きって気持ちは、どうあれ否定する気はないよ。私より先輩だしね」

カーマ「まぁ忘れられている辺り、脈ナシもいいところですが。…リッカさん、もしその方と会ったら…」

リッカ「大丈夫。私も同じ。憎しみや恨みで、ベリル先輩を傷付けたり殺したりしないよ。仲間になるんだったら、尚更ね」

カーマ「では…?」

「ベリル先輩だって、大切な先輩。大事に敬うし、頼るよ。皆で一緒に世界を救う。うん、大切だから。その気持ちを伝えるために、ベリル先輩に、その愛は破綻してるよって知ってもらうためにも…」

「……──」

「【無事な骨は残さない】」

リッカの静かな決意に、カーマはそっと連絡を取り─


アマテラス『ワフ、ワフ!ゥ〜』
リッカ「あぁ〜、あぁ〜。あまこー、あぁ〜」

カーマ(ひとまずメンタルケアは忘れずに、夏草で殺気立ってはだめですよ、リッカさん)

アマテラスを呼び、ひたすらモフってもらいメンタル安定をさせるカーマであった──。

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