その者、夏草の礎を作らんと大志に燃えるものなり。
とある折、星空の下にて野宿していた折に、若者は賊に狙われ命を落とさんとす。
あぁ死なん、観念した際に彼の前に金色の毛並み、雷の様に出て賊を屠らん。
かの金色の者こそ、天の金狼。後に若者と夏草の礎を築く、高天ヶ原の遣いなり。若者、金色の威光を御仏の後光とも心得ん。
旅人、感謝と恩義を以て己の兵糧を供物として捧げ奉じん。
意気に感じ入った金狼、旅人と互いを互いの半身とする程の友誼を結べり。
金狼、土地に巡る邪気や陰なる気を祓い住まう民草に清澄をもたらさん。
旅人、金狼の拓いた清澄の地に人を招き交流と集落の祖を築く。
さればかの地に生くる正しく生きる人々の心を乱す邪悪、動乱の種は尽きまじ。
若者、金狼の力をかりてあらゆる邪悪を祓い、鎮め切り捨てん。
その大いなる光輝の姿、人は彼等を『魔を戒める貴士』即ち…
魔戒貴士と呼び讃えり。
やがて夏草の祖が創られし事を認めし貴士、金狼と共に永遠の眠りに付かん。彼に家族はおらず、友は金狼のみなれば、人の営みを見守る故に営みには介さず。
貴士、金狼に感謝を告げ帰天を促すが、金狼は最期に至るまで貴士と命運を共にせん。
その折、自らの牙を剣、血肉を鎧とし魂を宿らせば、貴士の眠りを守護せり。
貴士、永眠すれば。従者で在りし僧に教えと民草の安寧を託す。
それが、後の金狼の寺。後の夏草を見守る貴士の霊地なり。
平穏が保ちし限り、金狼は臥す。かの金狼、力を乞いたくば──
正しき心にて、鎧に触れるべし。貴士、応え平和の為に立ち上がらん
──金狼傳承・金狼寺経典より
「彼女は休みの際、必ずこの寺にやってきておりました。ですが不思議な事に、香を炊き写経を行い、座禅をした後にはぼんやりと空を見上げいつまでもいつまでも寺におったのです。夕暮れ、一番星が空に輝く時刻まで。それはまるで、末期を悟った動物の有様に見えました。とてもうら若き乙女の過ごす一時には、見えなかったのです」
金狼の住職は語る。人を知り、対話を行う少女の噂の本人を見てみればそれは噂に似つかぬ、心あらずな顔であったと。友の供養、参拝を終え一人である際は何もしようとしなかった時期が、リッカにはあったと鎧の前で語る。
「何か、したいことはあるのかと問えば、立香は『なにもない』と答えました。誰かの為、何かのために振る舞えはすれど己の為にする事はない。そんな歪さを、私は感じたのです。花鳥風月を楽しむ境地に至るまで、彼女は如何なる苦厄を味わったのかと。そんな彼女に聞かせたのが、先の傳承。こっそりと見せた、金狼の鎧にてございます」
「この鎧…かつての民草の希望となった者、語っていただいた貴き騎士の傳承か」
「はい。彼女はこのお話と、この鎧に大層魅せられておりました。彼女は憧れたのでしょう。ますます思ったのでしょう。滅私奉公、仁義礼節。人を救う生き方の美徳を、己もと。彼女は巫女とも親交があったそうなので、教えを受けるになんの抵抗も見せませなんだ」
何より住職自身が彼女を慮った。力と理なき人助けは衆生には恐ろしく見ゆるもの。天狼の威光と在った旅人が衆生の希望となったように、絆と心在りて初めて光りたりうるのだと彼は説いたのだ。
「故に、魔を戒る貴士が遺した武術、剣術、弓術の基本の手解きを休みの最中に彼女に授けたのです。身体を動かす理由が、何かをする理由の一端になればと。彼女もまた、誰かの希望になる事を願って」
「秘伝を授けたのですな。成程、リッカの筋の良さの雛形は此処に在った…ますます以て、代わりのおらぬ娘だ」
住職の教えた金狼の兵術と武術、そして心の在り方をリッカはよく学び、よく励んだという。その才覚と向上心もあって、彼女はやがて奥義以外の全ての基本を体得したのだと住職は告げる。奥義は、二十歳を越え肉体が無理なき成長を果たした際に託すと約束したというのだ。
「リッカは時折、指で空に円を書く。それもまた、金狼の貴士の型であったのですな」
「えぇ。人に向けぬ、演舞なるものでありましたが…あなたの物言いからするに、波瀾の道筋を歩んだのですな、彼女は」
その慧眼に、ヘラクレスは頷く。自慢の愛弟子と太鼓判を押しながら。
「この鎧に、金狼の貴士に恥じぬ素晴らしき道筋を歩まれました。あなたや夏草を誇りとする、快活な娘です」
「そうですか…。それは、何よりです。彼女は今、孤高には非ぬのですな」
心底安心した様に頷き、住職は鎧の前にある二振りの刀を手に取る。脇差と小太刀、黄金の鞘が目を引く美麗な品だ。
「立香の師であるあなたに、お頼みします。これらを立香に、お渡ししてくだされ。脇差、小太刀。かの金狼のものであります」
「よろしいのですか?」
「えぇ。貴方様を見れば解ります。彼女はよき縁に恵まれ、帰郷を果たしたと。なれば、これは免許皆伝の証。真の意味で人生を見据えた証として、彼女に。彼女は鎧と、太刀にばかり目を奪われておりましてなぁ」
きらびやかな在り方を求めた彼女に、住職はこの二振りを見せ説いたという。いつかこの二振りを重んじる心を懐ければ、そなたにこれを託すと約束して。小を重んじ、大切に懐に抱ける日が来ればと。
「……えぇ。間違いなく、今の彼女は此を大切にするでしょう。人を斬り捨てる太刀ばかりでなく、縛られた縄や悪縁を断ち切る、人を救う刃として」
「えぇ、よろしくお願い致します。そして気が向いたなら立派になった姿を見せにきなさい、とも。彼女は稽古の後の精進料理を何よりも楽しみにしていましたから」
それは勿論、とヘラクレスは二振りの刀を受け取る。龍と雷光の太刀に、金狼の小太刀。彼女は夏草にて更に盤石に近づいたのやもしれぬと内心喜びを感じながら。
「しかし、人助けの鎧ですか。やはり日本は素晴らしい。武具にも人を救う、助ける由来が伝わる。我が故郷、ギリシャにはあまりない概念です」
「遠き異国の御方でしたか。かの大英雄、ヘラクレスは獅子を締め殺し皮を剥ぎ外套にし、恐ろしき毒蛇の肝の毒を活用したとか。質実剛健の化身、武士ではなく戦士の在り方なのでしょう」
「ははは…どの武具も欲望と名声の為に造られたものばかり。求むるのは栄光と神の祝福。かの国では、民は神の玩具。命を懸けて護る信念は芽生えなかった」
かつてのリッカと同じ様に、まじまじと金の鎧を見つめるヘラクレス。牙を剥く黒き瞳の狼の意匠を象りし、金色の鎧。傍らに置かれた白銀の太刀と相俟って、息を呑むほどに雄々しく、美しい。
「その鎧は、正しき行いを成さんとする者に力を与え、蘇るとも伝わります。お触れになりますかな?」
「よろしいので?御本尊に触れるのは…」
「一般公開している御本尊は金狼の像です故、心配はありませぬ。むしろこちらは待っているのです。新たに、希望の鬨を吼える瞬間を…」
住職の言葉に頷き、姿勢を正し一礼し、鎧にそっと触れる。渦巻く神秘、何より神気が指より伝わる──その時だった。
「ぬ───!?」
瞬間、鎧より黄金の輝きが溢れ、ヘラクレスを包み込む。本堂に輝きが満ち溢れ、やがて眩く煌めきそれが収まった刹那、そこには息を呑む光景が拡がっていた。
『これは…』
金色の鎧──否、それを纏ったヘラクレスが悠然と立ち竦む。身体のサイズが合わなかった筈の鎧は、ヘラクレスの筋骨隆々の肉体にピッタリと合わさり、背中にはかつてのヘラクレスの愛剣、エクスカリバーを上回る剛剣とされるマルミアドワーズに姿を変えた剣がマウントされている。そこに在りしは、雄々しき人型の金狼そのものだった。変化は、それだけではない。
『クラスが、セイバーになっている…?』
霊基すらも変容を起こし、アーチャーとセイバーのダブルクラスを得たことを実感する。彼はこの様に格式立った鎧を着た機会は少ない。故にこそ、その筋肉に盛り上げられた雄々しき獅子と狼を重ね合わせた姿に住職は感銘を表す。
「おぉ…!かつての貴士が如き威容がここに…!貴方様を、新たなる英雄と認めましたか!」
『住職殿、やはりこの鎧は正しく神仏の由来。我が身にて、その真作を証明する事になりましたな』
「よもや立香の師であると知り、もしやと思えば…私の目に狂いはありませなんだ。どうか、その鎧をお持ちください…!」
その申し出に流石に言い淀むヘラクレス。これは金狼寺の本尊、やすやすと持ち出して良いものでは無いはずだと辞退しようとするが、霊基を改変する程に馴染んだ鎧、はからずも脱ぎ捨てられぬ事に気付く。
「よろしいのです。それは民草、衆生に希望をもたらすもの。立香が希望を求める旅路を歩んでいるならば、それは夏草の希望たるその鎧が駆けるに相応しき旅路でしょう。私はその為に、鎧を護り続けたのですから」
「住職殿…」
「どうぞ金狼の秘宝を、何よりも立香をよろしくお願い致します。彼女の心に邪悪なるもの芽生えぬ様、その輝きで御守りくださいませ、お師匠殿」
『──心得た。この鎧、二振りの小太刀、あなたの心。確かに私が預かり余さず衆生の為に振るいましょう』
リッカの仁と、武の始まりの地にてその想いを受け取ったヘラクレス。新たなる貴士となりし大英雄は、深々とその頭を下げたのだった。歴史に、──伝わりし想いに。
イアソン「ヘラクレスー!いるかー!?」
ヘラクレス『イアソン!?何故ここに…』
「うわお前ヘラクレスか!?なんだそのキンキラ鎧!?ギルガメッシュリスペクトか!?」
住職「お知り合いですかな?…ヘラクレス?」
ヘラクレス『お、親が英雄フリークでして…』
「なるほど」
ヘラクレス(何故ここにいる?キャバクラに行くのではなかったか?)
イアソン(朝からやってなかったし楽園よりかわいい娘いないことに気づいてな、やめた!)
(お前というやつは…)
イアソン(それよりなんだお前、鎧なんて着るのか!貰ったのか?いいなー!なんか俺にも無いのかよ!)
『…。住職殿。着心地を試したい』
「こちらに。鎧を着こなす空間を表す水晶です」
イアソン「お!黒水晶ってやつか!見せろ見せろ!」
ヘラクレス『迂闊に触るな、馬鹿者──』
イアソンが黒水晶に触れた瞬間──
「でぇえぇえぇえぇえ!?」
ヘラクレス『むう!?』
瞬間、黒水晶より無数の黒き靄が解き放たれ本殿を包み込む──
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