人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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道満「ンンンンンン、夏草ですか。藤丸リッカ殿の素晴らしき故郷。観光許可が降りている今、機を逃すわけには参りませぬな!」

道満(そうだ、街角に占い師として構えてみましょうぞ。善なる都市と民とはいえ、細やかな不満や悪心は溜まるもの。それらが爆発せぬよう和らげるのも大切です。拙僧がその助けの一助になれば…)

メイ『道満』

道満「おや、晴明殿?貴方は夏草に行かれるのですかなぁ?良ければ共に観光おすすめスポットをマーキングし…」

メイ『勝負するぞ。時間は一時間、人数が多い方が勝ちだ』

道満「いきなりですな!何を競うと!?」

『何かだと?決まっているだろ。私達の勝負など──』


夏草に示される難解な陰陽

「えぇ、えぇ。記念の品であるならばマグカップなどの日常品がよろしいでしょう。日頃毎日使うものであれば毎日貰った喜びを思い出せます。ペアセットにすればまさに鬼に金棒。あなた様の気持ちを思い出し、あなた様がますます愛おしくなる事、間違いなしであらせます!」

 

「そうですか…!ありがとうございます!芦屋さん!早速見繕ってみますね!」

 

夏草の人角、人通りも少なめな薄暗げな地にてふらりと立ち寄った女性に真摯なアドバイスを贈り送り出す者がある。烏帽子を被り、水晶玉を前にした典型的な占い師スタイルに身を包みし、二メートルはある高身長の美男子、美声の男──そう、蘆屋道満。楽園カルデアお抱えの陰陽師である。

 

「では、こちらの夫婦円満の御守をお持ちなさい。貴方様らの縁を強く強く護ってくださるでしょうぞ。それは強く」

 

「はい!何から何までありがとうございます!」

 

礼を告げ、去っていく女性を笑顔で見送った後…人知れず道満は小さく溜息を漏らす。

 

「全く晴明殿には困ったもの。格付けはとうに終わっていると言うのに、よもやよもや拙僧と『占い対決』などと…」

 

占いしようぜ、負けた方がジャンヌ麻婆な。そんな言葉をかまして始めてしまった陰陽師同士の占い対決。呪詛や恨みが怖いため断る訳にもいかず、道満は勝負するしか無かった。戯れであろうと、晴明の呪詛は黒死の病と同義だ。一国を土地ごと殺すなど訳はない。そんな狼藉を、許すわけにはいかないのだ。

 

「勝ちの解りきった勝負をふっかける程晴明殿の性格は悪く…いや悪い…悪いですがそんなには…ンンン…フォロー、フォローするのです道満…晴明殿は性格が…ンンンンンン…」

 

フォローに唸る道満。そもそも彼は自他共に認める人格破綻者であり性悪であり外道であり嫌がらせの天才だ。彼が陰陽師をしている理由は『他人の言った事に右往左往するバカは見ていて面白いから』である。他人の為に何かをするなどする訳がない。かつて将軍に仕えている理由が何かと尋ねた折には。

 

『男は権力に頭を垂れる。女は権力に股を開く』

 

…と嗤った事があるほど人を人と見ていない非人間なのだ。今は彼はロボット、ヒューマギアとなっているがそれは彼の本質そのものの姿が故なのだろう。彼に、情は一切無い。人の形をした、陰陽師という概念そのものなのだ。

 

「設定された時間で、5人ですか。いやはや、拙僧にしては5人もの力になれたとは喜ばしい」

 

道満は数の多数に拘らない。自分の力で、誰かを幸せにできたならそれで良しとする男だ。苦悩と煩悶を抱え、誰にも言えない苦しみを誰よりも知る男だからだ。

 

『人に優しくするならば、相手の苦しみを理解するのです。人は苦しみの前に声を上げるのですから』

 

そんな彼だからこそ、民に寄り添う陰陽師として活動が出来ている。彼は凡夫ではない。誠心誠意の心と晴明に次ぐ実力を兼ね備える男なのだ。

 

「どれ、ご様子を見に行きましょうぞ。リッカ殿の故郷、悪辣な趣味の発散はなんとしても諌めなくては」

 

いそいそと店じまいをし、晴明が開店した占い店の様子を見に行く道満。彼のライバルたる晴明は、どのように夏草を堪能しているのかを確かめる為に──

 

 

「な、なんとぉ───!?」

 

その地に辿り着いた道満は驚天動地の声を上げる。そこは晴明の占い店。そこには人だかりと行列が出来ていたからだ。

 

「さ、流石は晴明殿…これほど満員御礼とは!しかし一時間の勝負如何にしてこれほどの…?」

 

「あ、ありがとうございました。どうかまたの再会の御縁を、お待ちしております」

 

丁度店じまいの時間に至ったらしい。閉店の報せを告げると同時に、全員に行き渡ったであろうグッズを手にし幸せそうに帰っていく夏草の人々。ごねることも不満もなく、極めて高い民度が伺える中、道満はその声…晴明ではないその声に驚愕する。

 

「む、紫式部殿!?もしや、晴明殿のお手伝いを!?」

 

楽園の図書館を仕切る司書、同年代の英霊である紫式部。道満は理解した。かの占い店が大盛況だった理由…それはこの絶世の美女たる紫式部が占い師を努めていたからだと。

 

「あわわ…道満様、お赦しください…晴明様にどうしてもとお願いされ、弟子としては断れず…」

 

『ありがとう、香子。やはり未亡人というものはいい。儚さといやらしさ、グッとくる感が違う。首尾はどうだ道満。私達の方は何人見たか覚えていないぞ』

 

香子の肩に置かれた式神がひらひらと語り出す。晴明ははじめからこのつもりだったのだろう。愛弟子の紫式部を客寄せに使い、大量の顧客を招く事を。

 

 

「5人です。拙僧が見た人間は5人」

 

『キチンと見た人間を覚えているんだな。だが発想力が足りんよ。別に助っ人無しとも言っていない勝負だろう?』

 

「せ、晴明様…」

 

「えぇ、あなた様の発想にはいつも驚かされまする。此度の勝負も、拙僧の惨敗。…しかし晴明殿、拙僧は糺さねばならぬやもしれませぬぞ」

 

その様子に道満は決意を懐いた。香子を巻き込んだ事でもあり、そしてもう一つの大事に向けての決意。

 

「よもや晴明殿!民達に出鱈目や虚言を吹き込み、リッカ殿の故郷、善良なる夏草の民達を食い物にしてはおりませぬな!」

 

そう、ここはカルデアのマスターである藤丸リッカの故郷。善き人々が集まる地だ。先の理路整然とした行列、閉店の報せに粛々と従う姿からもそれが見て取れる。彼等を、趣味や感性の慰みに使ったのならば──道満は、それを追求する。善を弄べばそれは紛れもなく外道の所業。看過はできない。

 

『最もらしい事を言う。流石は民草の陰陽師、人間味に溢れているな』

 

「質問に答えていただきたい。記録を読むばかりではありますが、ここはかの少女が昇華された街。弄んではならぬ聖地ですぞ…!」

 

道満の追求に小さく鼻を鳴らす晴明。彼は式神から冷たく告げる。

 

『それがなんだ?確かにマスターは大切だ。リッカちゃんも大事だ。だが民草全員と仲良しという訳でもないだろ?彼女に無関係な相手ならどうでもいいだろ?』

 

「よくありませぬ!人は繋がっているのです、無関係な人間などいませぬ、リッカ殿の友人が、知人が拡げた輪に必ずや彼等はいらっしゃる!」

 

『だとしても、私には知った事じゃないな。確かに民度はとてもとても高かった。だが、私にとって彼等は京の民と大して変わらなかったよ』

 

「故に弄んで良いと!?我等が大恩あるマスターがありながらお気は確かか!?」

 

「あわわ、どうかふたりとも抑え、抑えて…」

 

道満と晴明は睨み合う。京の陰口を叩いていた者達とは訳が違う。失望を向けていい相手ではない者への仕打ちを、道満は諌める。

 

『フン、やはりお前と話していると楽しいが疲れるな。香子、付き合ってくれてありがとう。そこの大男を連れて喫茶店で休憩しよう』

 

「は、はい。晴明様!」

 

『という訳だ。お前も来いよ道満。私に直接言いたい事があるならな?』

 

それだけ告げ、式神は物言わぬ紙切れとなる。晴明は恐らく占いだけを遠隔でやっていたのだろう。その隔絶した腕前と、人とまともに向き合わぬ悪辣さに地団駄を踏む道満。

 

「ンンンンンン晴明あなたと言う人は!物事を理解できない事と理解しない事は違うのですぞ!恩人の心の憩いを涜す事など許されぬ!許されぬ事なのです!」

 

道満をトコトンにまでコケにし、あまつさえ夏草の民まで弄んだ。大恩あるグランドマスター、全ての縁の中心たる彼女の故郷を穢した彼へ、義憤に燃える道満。そのが怒りが、夏草に響き渡る刹那──

 

「…あの、道満様。これは、口止めされているのですが…お聴きください」

 

紫式部がおずおずと、彼の行為の一端を示す。或いはそれも、織り込み済みなのやもしれぬとしても──




紫式部「これは、晴明様が手作りなされた配布の御守です。一人一人に作られた、あの人お手製の」

道満「なんと!?」

(晴明殿が手作りを!?将軍様くらいにしか作らぬと豪語していた護符を!?)

紫式部「魔除け、厄除け、良縁成就。あの方は丹念に丹念に祈っておりました。夏草の民一人一人に、幸福を願って」

道満「…なんと…」

紫式部「相手にかける言葉や、悩みへの告げ方も優しく、解りやすく私を導いてくださったのです。あの御方は、私に鍛錬を行ってくださったのだと思います。そして、こうも言っておりました。『あいつがいないとこんな事をする理由もない』と。これはつまり…」

そう、夏草の民、リッカの故郷にしてやる事などない。どうでもいいものはどうでもいい。

しかし──『ライバルとの競い合い』ならば、そこには全力で取り組む理由が生まれる。丹念に誰かを幸せにする理由が生まれる。弟子を鍛える場も生まれる。

何より──自分勝手に振る舞う自身へ、善なる義憤を懐くライバルの滑稽な勇姿が見られる。何も知らぬ薄っぺらくも確かな善が見られる。それを含めて、全て見通して晴明はふっかけたのだ。夏草で、自分なりの観光をするために。

『占いの勝負をしよう』

それは、ライバルがいなければできない『世界への向き合い』。自身という外道と対立すると信じるが故の、傍若無人の隠れ蓑。彼は、道満と弟子を通じて夏草に善なる陽を示したのである。

「……晴明殿…あなたはなんと…」

その、透徹した視点と手の込んだ彼なりの『人助け』の仕方に…

「──なんと、面倒くさい御方であるのかァ!」

紫式部「で、ですよねー!」

…後に晴明の奢りで夏草の茶をしばく二人の声が、夏草の空へと吸い込まれるのであった──

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