人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オーマジオウ【それでは、任せたぞ。私達は夏草に戻るとしよう】

ニャル【はい。私もすぐに。観光をたくさん、楽しみましょうね】

オーマジオウ【…悪意とは悍ましくもあり、哀しくもある。くれぐれも、呑まれぬ様にしなくてはな】

ニャル【勝てるだろうか…闇の誘惑に】

オーマジオウ【フハハ!お前は誘惑する側であろう!】

瞬間、愉快なるオーマジオウはニャルの背中を強く叩く。すると──

【──ゆ、油断しておりました──】

【なんと…】

ビルの最上階付近に叩きつけられ、なすすべなくめり込むニャルであったとさ──

ニャル【これが平成の力か…】

オーマジオウ【すまぬな、すまぬな。ところで何か、土産にできるようなものは無いか?】

【拡張パーツとか漁りましょうか…少なくとも使えるものはあるでしょうから…】

ウォズ「私がかき集めましょう」

【うむ、頼むぞ】



悪意を乗り越えるたくさんの冴えたやり方

悪意とは、それ単体では恐ろしい劇薬であり毒物である。際限なく拡がり他者を巻き込むその様は病原菌、或いは恐ろしき死の風に似ている。しかし、悪意を全て排してしまえばそこに進歩や発展はなくなってしまうだろう。

 

あいつよりいいものを作ろう。よりよい楽をするための工夫をしよう。それらは間違いなく嫉妬や怠惰なれど、確かに其処には素晴らしい発明や発想が導き出される。そう、これから行われる引き継ぎ業務を見れば、善意と悪意が表裏一体である事が解ると言うものである──。

 

 

【こちら、製薬ノウハウの企画書と工程、実験報告書になります。お納めください】

 

まずはグレイブ社が有していた技術を楽園各所に分配。発想は間違いなく人類を考えて作られたものであるが故、同じ人類であるカルデアメンバーに必ず益をもたらすと信じ邪神はその技術を託す。アスクレピオスに渡したのは、新開発薬剤のデータだ。

 

「ほう、これは…大した出来栄えだ。これを基にすればよりよいアンプルや携行薬を作ることもできる。職員達、マスター達の健康や生存率も上がることだろう。よくやったぞ、邪神。ハデスを始末する権利をやろう」

 

【医神の目に止まり何より。技術よろしくお願いします。あとそんなペルセポネー様憤懣案件はおやめください】

 

製薬技術は医神に託し──。

 

「外界を駆け巡って手に入れたのがこれなのかい、邪神君?よっぽど凄い冒険をしてきたんだねぇ。また無茶をしたのかな?」

 

【魔王の協力あればこそです。バイオテクノロジー技術、アンドロイド技術、以下様々な技術をカルデア開発部に。パワードスーツや、宇宙移動の際にも使える技術を有していました。万能の天才ならば、十全に使いこなせるでしょう。ヒューマギア技術も合わせれば、さらなる進化ができるはずでしょう】

 

「分かった!君の頑張り、無駄にはしないよ。張り切って、カルデアの皆のために役立てちゃう!君で実験とか、どう?」

 

【脳味噌は残してくださればなんとか…】

 

パワードスーツ技術、或いはサイボーグによる効率化。技術の広がりは、無類の技術者の手に渡り、よりよい楽園の善性を護るために発展していくことだろう。技術は扱う者により、その意味や表情を変えていくものだからだ。

 

改良技術を天才に任せ──。

 

 

【いつも悪意の講義をありがとうございます。表社会の隠れ蓑、裏社会のコネクション、纏めてお任せするので存分に役立ててください】

 

手にした社長の名誉、地位、立場。会社そのものという蜘蛛の巣を、人類で最も悪を愛する者へと託す。

 

「エンジェルグレイブといえば、裏社会においても大きな地位にいる死の商人にして恐ろしい戦争屋ではないかニャル君。私なんかにお任せして、よろしいのかナ?」

 

裏社会、表社会共に大いなる組織であったエンジェルグレイブと社長の椅子をプレゼントする相手はモリアーティ。彼なりの、自負を込めたベストチョイスだ。

 

【都合よく首脳とスタッフだけを始末できましたのでね。悪辣な社会の闇は人間にして最悪のあなたが適任だと思いました。判断は誤りですかね?】

 

「いやそんな事はないとも!表向きは製薬・アンドロイド技術を推進するクリーンな会社。私達が住む裏側の外面描写はとても私好みだ。亡き社長の遺志、私達が受け継ぎキチンと昇華してあげようじゃあないか。俗物では、無かったんだろう?」

 

【間違いなく傑物でした。うっかり殺したのも惜しかったと思える程に。ここで一つ懸念があるのですが】

 

「何かナ?」

 

【変装し社長に扮する際、ジジくさい素振りやボロはどうか出さぬように】

 

「年寄り扱いは酷いなぁ!?もちろん若々しく!エネルギッシュにくたびれた悲観論者を演じきってみせようとも!大丈夫大丈夫、アラフィフはまだ若いサ!50はまだ働き盛りって言うじゃない!」

 

【まぁ若くは無いでしょうが、それだけの元気があれば大丈夫。任せましたよ、ジェームズ・モリアーティ。ちなみに何かやらかした場合はオルガマリー所長のこちらのボイスが】

 

『臭いのよ、おっさん』

 

「うげはぁあぁっっっっっっ!!!」

 

【666通り、娘の反抗期ボイスがぶつけられる事を伝えておきます】

 

「素晴らしい…素晴らしい抑止力だ…でももう聞かせないで死んじゃう…」

 

『親ガチャ失敗したわ』

 

「ごげはぁっっっ!!」

 

【手が滑りました】

 

悪意の坩堝となる空間は、悪のナポレオンに管理と維持を任せ──。

 

「はぁ、はぁ…ようやく、解放なさってくださいましたね…」

 

【気が変わってな。お前の契約を受けてやろう。契約特典としてお前にエンジェルグレイブ社の子会社、NFFサービスの取り仕切りの地位をくれてやる】

 

表社会の情報や情勢を把握する子飼い、並びに裏社会の連中を手玉に取らせる役割をコヤンスカヤに担わせる。馬鹿とハサミと同じ様に、妖艶な女狐…いや、雌兎は使いようなのだ。

 

【人間社会において上手く立ち回り、カルデアの皆様に報いられる資金源とマネーロンダリングの確保をしてもらおうか。なぁに、経営の手腕には自信があるんだろう?上手くやってくれ、というかやってもらう】

 

「それはまぁ、願ってもいないといいますか私が持ちかけたかった契約ではありますが…それでは契約、私のキュートな命乞いキャンペーンと言うことで超絶長期契約とさせていただきます」

 

【随分素直だな。皮肉や毒舌は品切れなのか?】

 

「…正直、雑に行かれる拷問から抜け出せて地位も確保されるなら受けない理由はありません。安倍も朕もまるで容赦がないのでそれはそれはもう私は酷い目に…ブツブツ…」

 

【その様子なら離反する、裏切るといった懸念は無用だな。人類を愛玩する獣、果たしてそれが今のお前なのかはたまた別人なのか…根本的にはどうでもいい】

 

そう、邪神的にはとてもどうでもいいのである。必要なのは、楽園の皆の益になるかどうか。それだけ。

 

【お前が獣であったならいずれ彼等が狩るだろう。お前が獣で無かったならお前が受けた痛みを全て獣たるお前にぶつけよう。どちらにせよ契約している身だ。お互いに契約は履行しようじゃないか。ビジネスパートナーとして、私達はお前を歓迎するよ】

 

「…その物言いに思うところが無いではありませんが、契約を持ちかけたのは私、多少の罵詈雑言や理不尽は涙を呑んでお仕えします。だけど無闇に虐めたら…泣いちゃうゾ♪」

 

【朕様、メイ殿。ご出陣を】

 

「そなた割と余裕あるな?よし、妲己めには多少では不足だったようだな」

『マナービデオ百選を見せるアプローチで参りましょう』

 

「いやちょっと拷問まだ続くのですか!?いやちょっと待って下さい肉体的ではなく精神的なアプローチを為さろうとしているんですけど!?」

 

【綺麗なコヤンスカヤになって帰ってこい。そう、人類愛に目覚めた証──光の、コヤンスカヤとして…】

 

「なんですかそのやっつけ極まる名称!?光に目覚めるにしてももう少し何かございません!?あぁあ嫌です!拷問室も拷問も金輪際御免ですぅー!!おーたーすーけー!?」

 

契約を結び、よりよいビジネスパートナーとして関係を築き上げ始めた邪神。グレイブ社が持っていた悪は、こうして人類を護る組織に組み込まれ人を愛する側面へと変わる。

 

【悪意は消し去るものじゃない。受け入れて認め、昇華するものだ。──その破綻した選択と結末に敬意をもたらし、君の技術は王に献上させてもらうよ】

 

それこそが、悪意の乗り越え方。自分一人だけでは無いからこそ、深淵を覗こうとも誰かが引き上げてくれるものだ。少なくとも彼は、そう信じている。

 

【さぁて、御機嫌王に渡す報告書を製作するとしよう。魔王様にも感謝の平成ボードを御献上しなくては】

 

少なくとも、悪意がもたらすものは必ずしも最悪なものではない。エンジェルグレイブにて悪意に染まったAI達を、またこうして地道な活動で還元していく。

 

【次の礼装の名前は…カルデア機構礼装…ギリシャモチーフの未来的礼装とかかな?】

 

自身が愛する、自身を焼く美徳と善性の業火。余すことなく全身を焼かれながら、その輝きを美しいと信じるが故に、彼は悪意を楽園に持ち帰ったのだ。愛する善性が、悪意を乗り越えると信じて──。




カービィ「ポヨイ!」

ニャル【うわぁびっくりしたぁ!?カービィか…どうした?私を吸い込みに来たなら邪心の全身全霊、渾身の命乞いを見せてやるが…】

「ポヨ!」

『電話』

【…あー、なるほど】
「ポヨイ!」

その意味を受け止めたニャルは、そっとダイヤルを図り──

【あ、ナイア?家族みんなで夏草観光しないか?絶対楽しいはずだからさ。…解った。じゃあ、また後でな──】

「…ポヨ?」

【…ありがとう、カービィ。気遣ってくれて】

「ポヨイ!」

【心配しないで、君が敵になったら僕が必ずやっつけるから…。重ね重ね本当にありがとう。これからも私の目の上のたんこぶならぬ目の上の星として、私を見ていておくれ】

なんだかんだで面倒を見てくれる天敵に、苦笑交じりの感謝を告げる邪神であった。

【ベリルも就職してもらうか】

「ポヨイ!」

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