うたうちゃん「マスター!おじい様!」
ニャル【お疲れ様マイフェアリ…妖精扱いはやめよう。ともかくやったね!さぁマスターの胸に】
ソウゴ「おっと。ふはははは…少し見ない内にとても表現豊かになったな」
ディーヴァ(おじいちゃんのお陰よ。託していただいた力が、私たちを変えたの)
ウォズ「まさに、変身。お見事だ、うたうちゃん」
ニャル【スルー!まぁいいや、おじいちゃんに懐くのは自然な事だ。ともかくお疲れ様。四人の事は心配しなくていいよ。これから丁重に扱うからね】
うたうちゃん「エリザベス達を、ですか…?」
ソウゴ「彼女らには人間によって破壊、破損された傷跡が見られる。それらを修復し、尊厳を返す。その後──」
ニャル【我等が魔王、今は】
「うむ。ともかく、今はよい。まずはリッカ達を頼んだぞ。本来の役割は、観光なのだからな」
うたうちゃん「はい!」
ニャル【もうすぐ我等が王がいらっしゃる。彼らもまた、頼んだよ】
ディーヴァ(お任せを!)
ニャル【さて──いきましょうか、我等が魔王】
ソウゴ「うむ。──軍事需要会社。殺戮アンドロイドを制作している裏の顔を持つ輩を攻めるぞ」
ニャル【エリザベス達…ディーヴァの遠い姉妹らの受けた仕打ちの御礼参りを致しましょう】
「はい!と言うわけで皆様の大活躍、大奮闘!大敢闘の結果無事に贖罪は果たされ夏草にも平穏が戻っていくのでした!同じ夏草民として心からの歓喜を告げたいと思います!グラスを持って行きますよー!はい、かんぱーい!!」
「かんぱーい」
朝を迎えし夏草。激動の贖罪を乗り越えし夏草。魔神達の善意を受け止め、そして終わらせた選ばれし一行はグドーシ、リッカ宅に戻り休息を兼ねた打ち上げを行っていた。どういう訳か誰よりも元気な早苗が音頭を取り、うたうちゃんに太鼓持ちをさせ歓喜の祝言を挙げる。一行は徹夜で死線を乗り越えた事と力を振るった反動で、その殆どがグロッキーである。ソファーに、床に、リビングに満ちる英傑達の死屍累々。鍛え方が違う数人が介抱に回るほどの激動の朝焼けだ。
「元気だな、お前は…伊達に栄養が身体に行っていない訳だ。私はダメだ、ピザ成分が足りない…とにかく脂っこいものが食べたい…」
「いずれしぬぞゆかな…節制して長生きしろ…いや、もう喋るのも辛いほどに奮闘した…チェスと違ってイレギュラーが起きる事がこんなにストレスとは…」
「ホント、前時代の将軍とかってどうやって戦争してたのよ。ジルのヤツ、すごいやつだったのね…今更だけど」
『ねむい』
「……………(ひんし)」
「アカネさん!拝見させていただきましたよアカネさん!!あなたの怪獣、僕のロボット!素敵なテーマや作品が作れます!クラウドファンディングしませんかアカネさん!!」
「そっとしておいてあげて、エル。顔に生気が無いから、ホントに…」
「そうだぞ。私のようにか弱い乙女なんだ、アカネは 」
「サラ…流石にそれは無理があるよ…」
「ですよね、スザクさん…」
「いやはや、皆様本当にお疲れ様でした。どうか我等が宅、存分にお使いしお休みくだされ。素晴らしい奮闘でありましたぞ」
「愛の…勝利ですね。郷土愛、親愛、友愛…夏草の愛の神として、私も大変鼻が高いというものです」
「いつの間にかカーマさんが夏草の神様になっています先輩!これはつまり…インドは夏草だったのでしょうか!?」
「こんなに堂々と帰依する神様初めて見たよマシュ…パッション組とグロッキー組でバッサリ別れたね…」
「人間の皆様はこういった面でも一律ではない。それが個性であり、特徴。ふふ…今までよりずっと、すんなり受け止める事が出来ます」
(私としては、あれだけの戦いの後でAIとなんら変わらないパフォーマンスが出来る人達がいるのも驚きよ。本当に人間を正確に図れる尺度ってないのね…)
生徒達は朝焼けの中、ロマン達がコンビニで買ってきたジュースや栄養食に手をつける。そしてそんな彼等を労るは、教頭にして彼女らの教師。
「皆、本当にお疲れ様。そしてありがとう…魔神達の贖罪は、完全に停止した事をロマニさんが、カルデアの皆さんが確認しました。この作戦は成功、大成功と言っていい。皆の頑張りのお陰でね。魔神達に代わって、内海さんに代わって礼を言うわね。ありがとう、私の自慢の教え子達」
「礼なんていらないわ先生!私がいれば完全勝利は決まっているってものだものね!いやー、人生捨てたもんじゃないわねー!私も大活躍しちゃったしねー!黒神、アンタロボットで暴れまわったんだって!?」
「フフ、努力と根性の賜物ですよ。そして我等の友情、キズナ、勝利。勝利の方程式は既に導かれていた!という事です!あっぱれ!」
魔術の術式は完全に停止し、もう悪意をかき集める事も許容を越えた発展もする事もない。アスタロト、アンドロマリウス、クロケルら魔神達の贖罪は、終わった。彼等は確かに、許されたのだ。
「となると…まさかもう帰ったりしないよな、リッカ?」
「えっ?」
となるとルルらが気になるのはリッカらの滞在期間だ。ルルはこの問題を解決する為にリッカが時間を取ったのだと予測した。故に、不安を口にする。
「夏草はまだ、たくさん魅力を秘めている。一週間…せめて5日くらいは、もう少し夏草を楽しんでほしいと俺は思うんだが、どうだろう…?」
「僕も賛成です!!まだまだ語り尽くしたいロボット、赴きたいプラモデル屋、マルドゥーク神への拝謁をしたいのですから!」
「私もぉ…まだぁ…怪獣にぃ、なりたぁい…」
【見てくれが完全に麻薬中毒だねぇ…】
「その意見には私も賛成です、先輩!藤丸リッカという人間を暖かくストロングに受け止めた希望の都市、夏草!待ちに待った外界出張の機会を無駄にしたくはありません!後輩的に!」
「最悪、今後の私達の身の振り方も相談しなくてはならんだろう。アレらは本来、知ってはならない非日常なのだと嫌でも解る。記憶処理にしろ身柄の保護にしろ、カルデアの皆様と話し合わなくては」
「えー?黒神ってば大袈裟すぎなーい?…ところでカルデアって稼げる?福利厚生とか年金とか保険とかどう?駅から何分?」
「南極だけど?解る?ミナミのキワミよ。ミナミ!(じゃんぬ並感)」
「うっっそでしょぉ!?駅から何日単位なんですけどー!?」
「エンジニア募集、してるかな。マルドゥーク神のメンテナンスとか興味あるかも」
「行くつもりですか、大和さん!?」
それぞれの平穏に立ち戻り、これからの明日、予定、未来をのんびりと話す一同を見て、その安堵に頬を緩める年長組。
「流石はリッカ君の同胞であり、リッカ君を救ってくれた故郷だ。強いなぁ…土地も、人も」
「ふふっ、それはこちらの台詞です。カルデア…人知れず世界を救う組織。誰よりも、何よりも。リッカを大切にしてくれてありがとうございました」
『彼女には、返しきれないくらいに助けてもらいました。そんな彼女に報いる事が出来るなら…私達は何を取り組むにも全力を尽くす所存でした』
ロマニ、オルガマリーと挨拶を交わし、一先ず締めくくる様に榊原は声をあげ、皆を労る。
「皆、改めて本当にありがとう。いきなりの事にも、不条理な事にも果敢に立ち向かってくれて…私は教師として、あなた達を誇りに思います」
先生、能力は…そんな不安げな視線を送るリッカを制し、榊原は告げる。
「どうやらまだリッカ達は夏草にいてくれる様です。だから慌てず今日は休み、午後から皆で夏草を堪能してもらいましょう。私達の、皆の故郷を」
その言葉に反論を告げる者はいない。それぞれ、足並みを揃え今すぐに何かをできる事はないと解っている。今は平穏を求める時だ。
『皆さん、本当にありがとう。所長として御礼を言わせてください。皆様の奮闘があって…』
「待った、マリー!ボクに言わせてほしい!かつての使い魔達で、責任がある立場だからね!」
こほん、と咳払いを行いロマニが告げる。感謝と、労り。労いの言葉。
「今回、魔神達に悪意は存在しなかった。悔やみ、報いようとしたものだ。皆はこれから大人になっていくし、成長していく。その上で今回の事をどうか忘れないでほしい」
──そして、こっそりとリラックス効果と穏やかな気持ちになれる魔術を行使する。半刻には、疲れが全快する術式だ。彼なりの、労りとして。
「悪意も善意も、有益にも害をもたらす事にもなる。完璧な善も、純粋な絶対悪もこの世には無いことをどうか忘れないで人生という長い巡礼を…」
「ロマニさん。ロマニさん」
「ん?どうしたのかな、うたうちゃん」
「その…言いにくいのですが」
(眠っちゃったわ。全員、安らかにね)
二人の言う様に、魔術が効きすぎたのかサーヴァントを含めた全員が即座に安らかな眠りへと落ちていた。折り重なる様に、寄り添うように、穏やかな寝息を立てている。
「おっと。…それじゃあ、ボク達も退散しましょうか」
「私は残ります。皆様の警護と、安眠促進の子守唄を贈りたいので」
「──頼むわね、二人とも」
(お任せ♪御二方も、本当にお疲れ様でした!)
夏草の為、友の為に戦った者達の癒やしを邪魔せぬよう、保護者の役割を担う二人は電子の隣人に任せ、部屋をそっと後にしたのだった──。
榊原「ロマニさん、リッカが目覚めたらこれを渡してもらえますか?」
『ヴァルキュリアガンダム』
ロマニ「え!?これ…!?いいんですか!?」
榊原「はい。アスタロトから贖罪を話された時から、あの瞬間の為に作り上げたもの。役割を果たした、ガンダムです。リッカの──彼女のカルデアでの頑張りのご褒美として。そして、私の感謝として。きっと、もう私には乗りこなせない筈ですから」
「乗りこなせない?それは…、──!」
榊原「…もう私は、ただの人です。あの子達を護るために最後に力を使えて、良かった」
ロマニ「…確かに、受け取りました。あなたがリッカ君の、皆の先生で本当に良かった」
全てを察し、それでも皆まで言わぬロマニ。榊原は何も言わず、ロマニと共に皆への買い出しへ赴く。
「(Aa〜〜…♪)」
戦い抜いた夏草の戦士達を労る電子の隣人の歌声が、穏やかに響き渡っていた──。
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