人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ロマニ『ここが、展望台エリアだね。確かに魔術の励起を感じる。間違い無い…あと数フロア上が中心だ!』

リッカ『気を付けて行こうね。アンドロマリウスが望まなくても、集められた廃棄物はきっと危険な筈だよ』

天空海「メチャクチャ陰気が溜まってるわねココ…さっさと祓ってパパッと帰りましょう!そうしましょう!」

じゃんぬ「そう上手くいけばいいけどね。私とマシュから離れないように」

うたうちゃん(……)
ディーヴァ『?どうしたの?』

(いえ、なんだか…怖いんです。これより先に、進むのが)
『怖い…?』

(いえ、大丈夫です。…私には、皆様から貰った心がある。それが、勇気をくれます)
『…そう。それを、大切にしていきましょう』

(はい。使命を──遂行します)


廃棄口

「!皆様、止まってください。動体反応があります…!」

 

うたうちゃんの言葉に身構える一同。その反応は間違いでなく、確かな事実として示された。最上階、展望台に繋がる扉の前、ホール内に辿り着いたリッカ一行の前に、立ち塞がるものがある。

 

「あれって…!」

 

リッカが声を上げたのは、それらが人間では無かったからだ。精巧かつ、武装したアンドロイドたち。4体がまるで番兵の様に待ち構えていたからであり、その外観は端整な美女と殺戮の武装の合わさった恐ろしい風貌。それらが、道を塞いでいる。

 

『これは…どういう事だ?極秘で造られたAI、なのか?見た目や製造の開発ラインを察するに、まるで…』

 

瞬間、一斉に襲い掛かる謎のAI達。ナイフ、ソード、短銃、鞭。それらが命を狩りとらんとリッカらに迫りくる。

 

「うぎゃあぁあ問答無用ー!!?」

 

「させません!うたうちゃん!」

「はい、マシュさん!変身!」

『ヒーリングドルフィン!!』

 

瞬時に変身し、襲い来るAI達の攻勢を阻むマシュ、うたうちゃん。その一撃は、天空海の頸動脈やリッカの心臓を正確に狙い澄ましていた。リッカはともかく、阻まなければ死体が一つ転がっていただろう。

 

『この練度…!皆、気を付けて!これは戦闘AI、いえ!要人暗殺や戦争行為を目的とした殺戮AI…!』

 

うたうちゃんから瞬時に変身したディーヴァが、無感情にして精確なAI達をそう形容する。しかしディーヴァもまた、邪悪なAIを滅ぼす為の力を授かった仮面ライダー。その精巧さは、他の追随を許さない。一人を容易く、阻んでみせる。

 

『ここに来て到達を阻む存在だって!?いや、違う!アンドロマリウスの贖罪を半ばで阻まれない為の決意の現れとでもいうのか…!?』

 

「マシュ!加勢に…つぅ!」

 

「うびゃはぁあぁあ!?撃ってくる撃ってくるぅう!?」

 

じゃんぬが加勢に回ろうとした瞬間、短銃持ちのAIが死角より銃を放つ。それらは天空海を正確に狙い撃たんとしたもので、じゃんぬやロマニを防衛に縫い付ける。一歩も加勢を許さない、戦術を巧みに押し付けてきたのである。

 

『躊躇いなく人を撃つじゃない、あなた達はそれが使命と言うこと!?正真正銘、人を傷つけるAIってワケ!?』

【………】

『なんとか、言いなさいよ!』

 

瞬間、ナイフを抑えていたディーヴァの回転ムーンサルトキックがナイフを持った逆側の腕を吹き飛ばす。それらは確かな損傷を刻み、一旦AI達を仕切り直しへ追い込んだ。

 

【【【【……】】】】

 

『澄ました顔して、なんだって言うのよ。あなた達、自分達の使命は何なの?人を傷つける事に躊躇いは無いの?』

 

ディーヴァの挑発──同時に全員に送られる、最短ルートの提案。時間を稼ぎ、突破するための言葉遊び。彼女は何時でも、誰かの為に尽くすものだ。

 

(ここは私達にまかせて、まずは皆様を…)

 

ディーヴァと自分なら、あの4体を相手にしても大丈夫。そう、うたうちゃんが信じた──その時だった。

 

【【【【あー。ああー。あああー。あぁー】】】】

 

(──え?)

 

彼女達が、言葉を口にした。いや、言葉としては要領を得ないもの。何かを読み上げているような、気持ちの悪い響きのもの。

 

「ちょ、何よいきなり!?ベタ打ちの音階読み上げとか気持ち悪っ!?」

 

天空海の言葉の通り、それは無機質極まる不愉快にして不快な音のヘドロだ。耳にするだけで気に障り、おぞましい感情を引き立てる。心なきものが、まるでそれっぽいだけの──

 

(こ、れは───)

 

…そう。その意味をうたうちゃんは理解した。彼女らが何をしているのか。何を訴えているのか。そこにあったのは、自分も懸命に行っていたもの。

 

心とは何か。

 

人を幸せにするとは何か。

 

使命とは、どうすれば遂行できるのか。それを思い描いて、自分なりに口から出したもの。

 

(……歌……?)

 

自分が夏草の皆に、唯一それはちょっとと言われたもの。意味も分からず、ただ懸命に真似をしていたもの。それを今、目の前のAI達は行っている。それは、歌だ。彼女達は今、歌っているのだ。

 

【【【【あぁぁー。あー。あぁあー】】】】

 

その響きは無機質を通り越しておぞましい。聞いているものを不安に、不快にさせる音階だ。心を持たない者が、心とは何かを解らずにただ無感動のそれっぽい音を撒き散らしている、テキスト読み上げに歌わせているような歪なものだ。心など解らない、知らないものが歌らしく音を上げているだけのもの。

 

(それは…それは違う。それは、歌じゃない…!)

 

自分が、かつて意味も分からず人を真似ていた頃のもの。マスターの指摘で、そうではなかったと知る歌の真似事。聞く人を微塵も考えない、独り善がりのもの。

 

(止めて、それは──!)

 

うたうちゃんが口に出そうとしたその時。彼女の眼は、一つの光景を捉えた。

 

(え───…?)

 

…それは、積み重なったAIの素体。人間の形だけをした、無愛想で無骨な大量の素体。ゴミクズのように、無様に打ち捨てられた産業廃棄物。

 

【くそ、また失敗だ。人間の様に、人間を越えるというAIがこんなに難しいとは】

 

その声は聞き覚えがあった。自宅に攻め込んできた者達の首魁で、AIを全く省みなかった男。その声と、自身が見る光景が重なっていく。

 

【これではペットロボットや家庭ロボットが関の山だ。愛玩物体など人間の女や動物でいい。AIには人間の苦しみを全て受け持つレベルが必要なのだ】

 

製作され、テスト製作され、あらゆる実験が行われる。耐久実験で加圧され、焼かれ、潰され、壊され、発展のもと破棄されていくAI達。

 

【やはり上手く行かないものですね。兵器を後付するしか…いっそ爆発物を内蔵して、敵地や都市部でテロを装う際の爆弾として扱うのはどうでしょう?】

 

捨てられていくAI達。人間の求める役割に添えなかったから、人間の求める要求に応えられなかったから。なんの期待もなんの労りもなく、廃棄施設で無感動に潰されていくAI達。生まれてきた意味など、何の意味も無かったというように。

 

【はい、承知しております。これからの人類はあらゆる苦難をAIに肩代わりさせ、労働や望まぬ争いから人類を解放する。その崇高な理念、私は大変共感しておりますとも。人類の発展こそ、我々の至純の理念】

 

積み重なっていく廃棄物たち。それらは人間に望まれながら、人間の望みに答えられないから壊されていった。繁栄と進歩の名の下に。人間の揺るぎない人類愛の名の下に。

 

【その為なら人間はあらゆる全てを使いましょう。動物も、材木も、環境も、星の全ては我々人間のものです。我々こそ、星で最も繁栄した種なのですから。こんなガラクタ達をわざわざ産み出すとするなら、そう──】

 

無感情に捨てられていく。廃棄口に、AIが…かつて自分もそうだったかもしれない。そうだったかもしれない末路を見てしまった。見なければ良かった。廃棄口にあるものは、廃棄されたものしかないのは解りきっていたのに。

 

【あの夏草にあるAIくらいの出来でないと、不足に過ぎると言うものです。いくら失敗作を積み重ねようと、いつか作り出したいものですな】

 

──このAIは、夏草にあるAI達を目指して造られたのだという。夏草にある、他を隔絶したAIを目指して。年始から活動を開始し、その界隈においてその技術と注目を浴びているAIを目指して。

 

(あ、あぁ──)

 

そう──この大量の残骸は。この『成功作(わたし)』になれなかった無数の廃棄物は。

 

【お任せを。必ずやアレのデータを手に。それでは上手く成果を出したという4機のデータを拝見したく存じます──】

 

『うたうちゃん』がいたから、産み出されたのだ。本来なら彼等もまた、時代の進歩と共に進化をゆっくりしていく筈で、今は雛形としての姿だったのに。

 

『うたうちゃん』の傑作ぶりが、彼等全員に失敗作の烙印を押した。

 

『うたうちゃん』の様なAIが出来ると示されたから、人の歩みに沿った可能性たちは破棄された。

 

『うたうちゃん』という叡智の結晶が、他のAI達の可能性を剪定してしまった。

 

彼等は、きっと───うたうちゃんが産まれなければ、人と寄り添えたAIなんだ。

 

(あぁ、あ…そんな、そんな…──)

 

【【【【【【【ああー。ああー。あああー。あああー】】】】】】】

 

歌っている。歌っている。その何の心も宿らない歌を、彼等は歌っている。

 

何故生まれてきたのか。何故、廃棄されなくてはならなかったのか。何故、使命を与えられなかったのか。そんな疑問が、音階になって漏れている。

 

その答えを、うたうちゃんは理解している。解っている。皮肉にも──彼女には今、ここに、みんなが育ててくれた心があるから。

 

無感動のAIであったなら。彼らをただ失敗作として結論付けただけの話。彼女には、夏草の皆の輝く善意が備わったから。

 

(私が──生まれて、きたから。みんなは、死んで、しまったの──?)

 

…人類の発展を願う、鮮烈極まる無自覚の悪意を、その心で感じてしまったのだ。

 

成功の裏には、無辺無数の失敗がある。そんな、人類の当たり前の──試行錯誤の悪意を。




うたうちゃん(ァ、うァ、アァ、あぁあ、あぁ…)
ディーヴァ『!?うたう!?どうしたの、うたう!?』
【稼働効率・80%低下。神経中枢区画に甚大なストレスダメージを受けた事が原因です】

『ウソ!?なんだっていきなり…!?ちょっとどうしたの!?何があったの!?ねぇ!?』
【あああー、あああー。あああー】

『もう、なんだっていうの、よ…!』

明らかに精彩を欠くディーヴァ。メインパーソナリティのうたうちゃんが今、深刻極まる損害を受けたが故の必然だ。

リッカ「!?うたうちゃんの様子が変!ロマニ、ここをお願い!」

ロマニ『わ、解った!』

うたうちゃん(私が、私が…生まれてしまったから。皆が、皆が…本当は、皆だって…)
ディーヴァ『!──何か変なビジョンでも拾った訳ね…!夏草以外のものも捨ててるとなれば無理もないか…!』

【ああぁーー】

ディーヴァ『あぁもう、耳にへばりつくような声ね全く…!』
リッカ『ディーヴァ!うたうちゃん!』

素早くリッカがフォローに入り、割り込む。彼女から見ても、うたうちゃんは正気ではない。悪い影響を受けたに違いない。廃棄口とは、そういう場所なのだ。

うたうちゃん(私が、私が…生まれた、ばっかりに…)
リッカ『え──?』
【【【ああぁーーーー】】】
その言葉と、リッカの背後に三体のAIが刃を振り下ろしたのは、全くの同時だった──。

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