人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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今回の話と、六周年の記念を受けて…この小説においても記念イラストを御用意させていただきました。

最早言葉で語るなど無粋、かの極点の神殿にて披露されたただ一度の星の輝きを思い出しながら目の当たりにしていただけたら幸いです。


【挿絵表示】



このイラストは、彼に捧げたシーンにも挿絵として掲載します、どうかご堪能いただけたなら、こんなに嬉しい事はありません。

重ね重ね、この小説に関わる皆さまへ尽きぬ感謝を。本当に、ありがとうございます。


そしてこのイラストを描き上げてくださったtatinami様と、出逢いをもたらしてくださったSKIMA様に至上の感謝を──



トイレ

ロマン「アスタロト…お前達、本当にエアちゃんの事が大好きだったんだなぁ…」

シバ『あなた、彼等は私達にとても有益な情報を与えてくれましたわ。──カルデア式召喚システムの弊害です』

ロマン「あぁ、流石は魔術式。ボクらでは見落としていた穴を埋めてくれていた。この一件が無かったら、リッカ君の強靭さにて気付けなかっただろう。リッカ君側でなく、英霊側の澱みや穢れがリッカ君側に溜まる可能性は盲点だった。知らないことは対処できないが、知っているならいくらでも対処できる!」

シバ『こうしてみると本当に、彼等は人類の為の術式なのでございますねぇ。リッカちゃんをこうして助けてくださいました!そのファインプレー、値千金!』

ロマン「彼等と本当の意味で解り合えたのはエア姫だけ、対等に戦ったのはリッカ君だけだから、ボクとあいつらは最後まで不理解のままだったからね…でも、ようやくボクもあいつらの主としてのアクションが取れ──」

その時。トイレの扉が無造作に開かれ──

うたうちゃん「?ロックを何故つけずに排泄を?」

ロマン「────え、なんで、AI?」

「ここは一番情報処理効率が上がる空間ですので、今日得た情報を把握しようと…」

ロマン「き──」

きゃーーーー!!三十路の既婚者である男の甲高い悲鳴が、うたうちゃん宅に響き渡った──




魔神達の遺した命題

「そんな事を…魔神達が榊原先生に…!?」

 

「うん。色々…いえ、全部教えてもらったよ。アスタロト達魔神達がやったこと、どうして半年の間、皆の記憶が無かったのか…そして、リッカがどれだけ頑張っていたのかを。流石にグドーシ君と再会していたのは凄く驚いたけどね」

 

3階の、展望テラスにて語り合うリッカと榊原。リッカは完全に沈みゆく夕陽を見届けたいとパーティーを抜け出し、町並みを見ていた榊原とばったり顔を合わせ今に至る。そして榊原は、リッカに先に齎した情報を全てリッカに伝えた。この土地の事、そこにもたらされた魔神達の想い、善意、願いを包み隠さず。

 

「まず、これは私の所感であり感想であるんだけど…魔神達、いえあえてゲーティアと呼ばれた人類悪と定義して。私は彼等のやったことは認められないし、許せない。それが死を超えるため、人類を愛しているから起こした偉業だとしても。世界中の人々を殺して燃料にして、貴女を地獄に落とした事を容認することは出来ない。それは間違い無く、今ある人類の行いを否定した所業だから。私は魔神達の行った事…未来ある子供達を殺したゲーティアを認めない」

 

酒は直感が鈍ると嗜まない榊原が、そっとコップに目を落とす。なすすべなく殺された者として、今を生きる者として、先生として。どんな大義があろうとゲーティアの行いを悪と断じた。

 

「…私も、ゲーティアとは信念っていうか…お互いを潰し合う事で決着をつけました。どうしても、どうしても許せなかったんです。先生や、皆の未来を奪ったゲーティアが。当たり前の未来を奪った人類悪としての彼が許せなくて、それで…」

 

理解も対話も、全て姫に任せる形で。自分は未来と明日を懸け、怒りのままに憐憫の獣を討ち果たした。生きる為に、当たり前の明日を取り戻す為に。それは、譲ることの出来ない一線であり信念であったから。殺し合う事しか、選ばなかった。

 

「気に病まなくてもいいよ。きっと、この世界に生きる人達は皆ゲーティアを許す事は出来ないだろうし、ゲーティア自身も許しなんて必要としていなかった筈。彼等は彼等なりに、本気で人類の苦しみを…人類の抱えた変えられない運命を変えようと足掻いていた。正しいかどうかは二の次で、あなたたちカルデアも、ゲーティアも。自分の信じる正しさを貫いただけ」

 

そこには、ただ純粋な願いがあったのだと。誰に肯定されなくてもいい、ただ、乗り越えたいものと取り返したいものがあっただけ。だからこそ…

 

「だからこそ、レメゲトンさんの『ありがとう』が効いたんだね。私には…ううん。この世界の人間には出来なかったと思う。彼等の頑張りに、真っすぐありがとうと言う事は。加害者と被害者の関係の私達には。そして、それは一生懸命頑張ってきたゲーティアにとって、凄く凄く嬉しかったんだね」

 

極点を目指す旅。人の哀しみを乗り越える為の偉業。人類が必要だった。哀しみを救うために今の人類を焼き払った。それは悪魔の所業。ソレは最悪の殺人だった。全人類は被害者だ。許せる筈もない。

 

ただ──世界で一人だけ。彼等の想いを、愛を受け止めた人がいた。願いに寄り添った人がいた。それがゲーティアの、三千年の頑張りのたった一つの報酬になった。

 

 

【止めろ!全能の座を、我等の為に手放すというのか!?】

 

彼等はその瞬間、自身の死よりも、かの魂の決断を制止した。慌てふためき、必死に止めたのだ。

 

【ソレは死よりも恐ろしき事だ!それだけの力を得るためにどれ程の時間がいる!?どれ程の研鑽がいる!?】

 

怨敵、宿敵であるならば嘲笑った筈だ。無様、滑稽、愚か、愚昧と心からの罵倒を送った筈だ。しかしゲーティアは違った。

 

【止めろ!レメゲトン!その座は、お前の辿り着いた答えは!こんな所で捨て去っていいものでは──!】

 

彼等は狼狽すらしながら、自身らの希望を止めた。自らと同じ位置に来た魂を心から心配していた。最大の障害が、自ら弱体化するなど歓迎すらするべき事態だろうに。

 

…彼等は結局、邪悪では無かったのだ。ただ、悲劇と哀しみを、死と断絶を乗り越えたかったのだ。その偉業を、誰か一人でもいい。ただ──認めてほしかった。

 

『──ありがとう』

 

その願いを…極点に至った魂は。60億の一の魂は、全てを捧げ叶えたのだ。

 

 

「そんな風に自我を得た魂が、あなたに償いをしたいだなんて言い出したものだから。私は罵倒する気にも怒る気にもなれなくて…正直困っちゃった。だって、言っちゃえば付きたての物心でしたいことが「ごめんなさい」だよ?大人として、先生として…きちんと受け止めてあげたいな、って思っちゃたんだ」

 

甘いよね、と苦笑する榊原。彼女は教師だ。自分に「ごめんなさいをしたいです」と乞うてきた魂を突き放す事は、どうしても出来なかった。

 

「リッカを誰よりも苦しめた相手なのに、私は受け入れちゃった。あなたの敵だった相手の力を、私は受け止めてしまった。…幻滅、した?」

 

裏切り、利敵行為とされても仕方ない。魔神達の力を借りて発展した今の夏草の真実を、榊原はリッカに伝えた。

 

「──しないよ。するわけない。先生にも、魔神の皆にも。私は今、凄く嬉しいって思ってる」

 

だが、リッカの成長と進歩は今更そんなもので揺らぎはしない。夏草を…そこに生きる人たちを応援したいとした魔神達に抱く感情が、悪いものである筈がない。

 

「確かに私、ゲーティアに酷いことはされたかもだけど…でも、それが無かったら今の私はなかったから。カルデアに来ることも無かったし、皆にも会えなかった。誰でもない何かで、なにも出来ないで人生を終わらせてたかもしれない。…人類悪でもなんでも、ゲーティアが私を選んでくれたから、大切な人達と皆に愛されてる私がいる。だから…」

 

だから、ゲーティアは恨み、憎しむ相手ではない。奪われた怒りを乗り越えたなら、こう言うべき相手なのだ。

 

「だから、姫様みたいに言うべきだと思うんだ。私を選んでくれてありがとうって。貴方のお陰で…私の人生はとても素晴らしいものになれたって。今は…凄く感謝してるんだ」

 

「───」

 

地獄に落とされた恨みも、世界を奪われた憎しみも及ばない程に、懐く小さくも確かな想いがある。それらは全て取り返した。だから、残った気持ちは姫と同じ想い。彼が自分を見出した事によりもたらされた、希望の全て。だからこそ。

 

「だからこそ、魔神達が残した想いを汚される訳にも、傷付けられる訳にもいかない。アスタロトや皆は、夏草の皆の事を応援して助けてくれた。そんな皆の想いを護って受け止められるのは私達だけなんだから!もう敵同士じゃない、夏草に一緒に生きる者同士だもんね!」

 

「…じゃあ、力を貸してくれるのね?彼等の願いを、正しい方へと導く事を…」

 

もちろん!サムズアップと共に夕陽に照らされるリッカの表情は、かつて目の当たりにした不安定な笑顔のエミュレートとはまるで違う輝きを備えていて。

 

「一緒にやってやろうよ、先生!夏草はもう大丈夫だよって、もう頑張り続ける必要はないよって伝えに行こうよ!私の事、忘れないでくれていた魔神の皆に!」

 

「──えぇ。一緒に行きましょう。アスタロト達の頑張りを労りに。夏草を支えてくれた魔神達に、感謝の一つも送らなくちゃ嘘だものね」

 

頷き合う二人。リッカはとっくに…いや、最初から憎んでも恨んでもいなかった。ただ、怒りのままに討ち果たしただけ。だからこそ、こうして魔神が遺したものを受け止める事を厭わない。彼女にとって、ゲーティアは、魔神達はもう怨敵などではないのだ。

 

(本当に、立派になって…)

 

それは、末期において礼賛を懐いたアスタロト達でもあり、半年、一年の間に大きく羽ばたいたリッカへの言葉でもある。

あり、半年、一年の間に大きく羽ばたいたリッカへの言葉でもある。

 

「──少しは手間かけさせなさいっての、もう」

「ふぁー!?」

 

 

先生の立場がないなぁ、と。リッカの頭を優しくわしわしと撫で満足げに笑う榊原であった──

 




榊原『…内海さん。以前より話していた機が来ました。実行に移します』

内海『うむ。民を虐げる発展に未来無し。夏草発展の立役者にして功労者を…丁重にもてなしてやってほしい。任せたぞ、榊原』

榊原『賢明なご判断、感謝します。貴方が協力してくれた事、私の誇りです』

内海『気が早かろう。魔神達の支援が無くなった先こそ、夏草の真価が試される。…今、うたうの家か?ならば気をつけろ、うたうから目を離すな』

榊原『…?』

内海『彼女を手にせんとする企みがある。今夜にでも仕掛けてくるぞ』

榊原『…解りました。そちらも、お気をつけて』

リッカ「先生?」

榊原「リッカ。…あなたたちの組織はこういった事態のプロフェッショナルな事は解っている。だからこそ…」

榊原は、リッカに向き直り…

「この一件、私達夏草の市民にも協力させてほしいの」

リッカ「え?先生達が…!?」

一つの驚くべき提案を、リッカに伝える──

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