人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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〜かつての、時間神殿

アスタロト『レメゲトン。…ありがとう。そして、心からの謝罪を。あの塔にて、貴女に行った事の全てに』

エア『いいのです、アスタロト。あなたは理解してもらいたかった。共感してほしかった。あなたたちの行った事に、こんな悲劇をこれ以上繰り返してほしくないと。ちゃんと、伝わっています』

アスタロト『レメゲトン…。…貴女がそういった方だからこそ、私は礼讃を懐いた。見事だった。素晴らしかった。貴女も、彼女も、人類も』

エア『ありがとう。──忘れません。あなたたちの頑張りを、存在を』

アスタロト『ありがとう。本当に──』

(──だが、どうか赦してほしい。これは…私の、私達の『我儘』なのだ──)

アスタロト 勇退。しかし──?


礼讃と、贖罪の在処

『この映像を見ている方を、人理を救う組織機関…かの『人理焼却式』を棄却し世界を救った組織…リッカを大切にしてくれた善き人々である事を信じ、この記録媒体に私の知った可能な限りの真実を残し、お伝えします。私は榊原処凛。夏草の教師にして、人とは少し違う…『誤解なく相手を理解できる異能』を有した者です』

 

カルデアに、ロマンから大慌てで送られてきた記録を管制室にて目の当たりにする首脳チーム。血相を変えすぎて何事かと言う程の剣幕にて伝えられた程の情報を、オルガマリー以下所長陣は聞き及ぶ事になる。

 

『私の家系は魔術とは関わりのない、一般的なものでした。先祖返りというわけでもない、突然変異としか言い様のないもの…。空間把握能力、超絶的な直感、擬似的な未来予知、反応速度の上昇…それらの要素が、16歳を過ぎた辺りから私に開花していた事を先んじてお伝えします。この能力の一端にて…あなたたちの活躍を『彼等』から聞き及びましたから』

 

「彼等?…魔神柱の事である可能性が高いけれど…」

 

『彼等…『ゲーティア』と名乗った彼等の総体の一部、アスタロト以下、数多の魔神とされるもの。貴方達に倒された…いえ。答えを貰い、昇華を選んだ者達。私に備わった能力の一つ…『死者の念との交信』により、彼等と対話した私は、半年の空白…人理焼却に纏わる全てを彼等より教えられました』

 

それらは驚くべき事実だった。魔神柱達は昇華の間際に自我を得て、自らの命題をエアと対話し昇華されていった。歓喜のうちに消えたもの。嘆きをエアに寄り添われたもの。怒りを以てエアと訣別したもの。それらは様々だ。それらの魔神柱の一部が、榊原に…いや、夏草における誰かに念を伝えていたという。

 

『本題に入る前に…どうか、貴方達に救われた世界の住人として御礼を言わせてください。夏草の未来ある命を、彼等が生きる世界を、何より…リッカを更生させてくださり本当にありがとうございました。私は、貴方達に無上の感謝を捧げます。誰に記憶されない旅路では決して無いことを、覚えていただけたなら』

 

「信頼できる人ね」

 

「早くないかね所長!?」

 

「きちんと御礼を言える人、誰かに感謝できる人を信じられなくなったなら終わりですわ、副所長」

 

う、うぅむと閉口する副所長。それは天才英傑が集う楽園において、トゥールが絶対に忘れるなと釘を刺してきた絶対的な自身の規範だからだ。否定できるはずも無い。

 

『私に接触してきた魔神たち。代表として私に対話を持ちかけてきたのは『アスタロト』と名乗る魔神でした。彼等の昇華の間際、懐いた念に私は感応し、彼等と対話を行う事となったのです。その仔細こそ、夏草の発展と黄昏の原典。私と魔神を発端とした、リッカの故郷に捧げられた想いの源泉。それらを皆様に、可能な限りお話いたします』

 

そして、語られる榊原と魔神の交わした意見の交合。それらに悪意は微塵も無く、ただ…いくつもの『信念』があったことを、榊原は伝える──

 

 

『我等はレメゲトンの結論と言葉、尊重を受け入れた。彼女の想いを胸に、我等の命題を完了するものとした。しかし、我等には成さねばならぬ事がある。どうか、どうか聞き届けてほしい。肉体ではなく精神に変革をもたらせしものよ』

 

始まりの交信は、その言葉より始まった。焼却は、昇華を受け入れた時点で破棄されていた。彼等は、昇華の間際に意志を榊原に飛ばした者達だった。

 

『我等には成すべき事がある。どうか、我等の声に耳を傾けてほしい。かの龍の師に当たるものよ。我等の意志を、受け止めてほしい』

 

それは何か、と彼女は聞いた。その言葉に、悪意は感じ取れなったからだ。彼らは、いや、代表者である魔神『アスタロト』は答えた。

 

『それらは『礼賛』だ。私達を乗り越え、勝利した者達に私達は心からのものを贈りたい。それらは『贖罪』だ。私達は偉業の為、『藤丸立香』の生を弄び、地獄へと落とした。その事への心からの償いを行いたい。それらは『郷愁』だ。私達に帰る場所は存在しないが、私達を討ち果たしたかの少女が、世界から排斥される未来だけは回避したい。彼女は、一生…否。全ての悪の分だけ苦しんだ。いや、我等が苦しませた。これ以上は無用だ。彼女から奪った、幸福を少しでも返したい』

 

それらを受け、榊原は堪えた。リッカを滅茶苦茶にし人生を踏み躙った者達への憤懣も、苦しめられた者達の悲嘆への弾劾も。だって彼等は、至上の福音を齎された中『リッカを気にかけた』者達だったから。

 

「貴方達は、何を行うの?」

 

先生として…自我に芽生えたばかりの彼らを拒絶する事は出来なかった。そして彼等は、驚くべき事を口にした。

 

『かの少女の魂に溜まる澱みを、破棄するための土地を有したい。かの少女の故郷を、かの少女を受け入れる懐の深い土地にしたい。その為に、我等魔術式はその力の全てを…夏草に託したい』

 

アンドロマリウスは伝えた。リッカは数多の英雄と繋がっている。しかし英雄達は清廉なものばかりではない。反英雄、全く異なる文化、属性を持つ者達がリッカの魂に結び付くのがカルデアの術式であると伝えた。その過程で、英雄達が有した澱みが、少なくない量が確実にリッカの魂に溜まるのだと。それはこの世全ての悪ではない、契約する上で必ずもたらされる『穢れ』であると。

 

『この穢れを、私は引き受ける。夏草の土地を借り『廃棄口』たる術式となりて、彼女の魂を御祓する土地に夏草を変える。さすれば、彼女の魂に宿る力と復讐者達が対応できる量となり得るだろう』

 

『我々には隠されたもの、隠された財、知識を見つけ出す力を有する。それらをかの土地に生きる者達に有益になる様に、かの土地にのみ作用する力としたい。この力を受け取れる傑物という条件はあるが…我等の力が、かの少女の故郷をより素晴らしいものに出来る事を願っている』

 

『かの土地の欺瞞を暴き、発展を促す。我等の叡智を、我等の力を、かの地の進歩と健やかなる進化の一助としてほしい』

 

それらは、善意による切なる願い。それらは心からの、自分を討ち果たした者に贈る礼賛。自らが弄んだ者に贈る『贖罪』。魔神達は、包み隠さず榊原にその意図と、願いを託した。──しかし。

 

『我等は間もなく昇華する。レメゲトンの齎した慈悲と答えに背く事は出来ない。我等の自意識は、彼女の中にのみ存在を容認されるものとなる』

 

『サカキハラ。お前に願う。我等が昇華されし後の、我等の術式の是非を見届けてほしい。正しく願いが果たされているか、正しく発展は促されているか。…藤丸立香が、再び夏草に訪れるその日まで見届けてほしい。我等の願いが、想いが、悪辣なものに成り果てていないかを見届けてほしい』

 

彼女は託された。彼等の願いが、想いが、彼等自身の願いのままに遂行される事を。

 

『どうか、夏草の地に安寧と平穏を。我等が傷つけた彼女の魂への贖罪を。もし、この願いが夏草にとって、藤丸立香の害悪になるものとなったのなら』

 

『その時は、お前が私達の願いを終わらせてほしい。藤丸立香が来たりし時、彼女の魂に溜まった澱みは全て形となり吐き出されるだろう。それらもろとも、私達の術式を終わらせてほしい。これは、私達の末期の遺言を受け取ってくれたお前への、願いでもある』

 

夏草の発展、そしてリッカへの贖罪と礼讃による献身。それが、榊原に託されたもの。魔神達の、最期の願い。自らも拾われるなど思わなかった、末期の夢。

 

『お前の判断を信じている。我等の願いを、正しき側に導いてくれ。不要に、害悪になったのならば終わらせてくれ。私達は、死の安寧を破棄し一人の少女への責任を果たす。これが、レメゲトンの想いへの…背信となってしまったとしても。それでも、どうしても行いたい事なのだ。レメゲトンを受け入れ、共に歩んでくれた少女へ、少しでも。我等を乗り越えた者が、邪悪なものではない者と示すために、少しでも…』

 

それらを、榊原に託し──

 

『我らが末期の我儘を聞き遂げたお前に、感謝を。どうか夏草が──彼女が取り戻した平和を彩る場所であれ──』

 

アスタロト達は、レメゲトンの昇華と共に…無へと至っていった──




『…以上が、私がアスタロト達から受け取った記録の全てです。リッカが帰ってくるその日まで、私は彼等の術式を受けた夏草を見守ってきました。今の発展は、紛れもなく彼らの善意のお陰です。夏草の地を利用した御祓も、私が夜に行っていました』

シオン「魔戒騎士の陰我を断つのと似たような感じでしょうか?リッカさんを、助けていたんですね…」

『彼等の善意は、夏草を良くしてくれた。しかし、その善意は数多の悪意を招く結果にもなってしまった。かの発展を、技術を我が物にしようとする者達すら招く事になってしまった。彼等は、自我を得たばかりと聞きました。善意が何をもたらすかには疎かった。その悪意は、アンドロマリウスの廃棄口に増幅され…善意の美しき夏草と、悪意と私利私欲渦巻く夏草という相反した土地とさせてしまった。──私は、判断しました。『今の夏草は、暴走している』。彼らの最期の願いを、果たす時が来たのだと』

オルガマリー「それは、つまり…」

『夏草にリッカが里帰りした事を契機に、彼等が残した術式を破棄します。悪意を招く発展と進歩…、彼女の澱みを取り除く術式を残して。…彼等の想いに反する事が、これ以上起こらぬように。──どうか、力を貸してください。カルデアの皆様』

榊原は告げた。彼等は魔神なれど、もう他人ではない。夏草の未来を願った、大切な隣人なのだ。

『彼等の願いを、尊厳を。穢さぬように、夏草の未来を護るために。──どうか、心より。お願いします…』

その言葉を最後に、記録は終わる。魔神達の念を受け入れた、慈愛を懐く者の嘆願…その余韻を遺して──

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