人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『気持ち悪いんだよ!僕の事、なんでもかんでも知った様に言って!』



『退屈なんだよ、先生。なんの為に生きてるのか、わからないんだ』




『親御さんから苦情が来ているわ…。子供がなんでもかんでも見られているみたいで怖がって学校に来たがらないって。そんなの、あなたのせいじゃないのにねぇ…?』



『先生に何が解るの!私の悩みや苦しみなんて、これっぽっちも解らないくせに!大丈夫だなんて、無責任なこと言わないで!』

『誰も人の心なんて分からないのに、自分だけはそんな事ないみたいな顔をして!人の気持ちを解ったみたいな、知ったような事言わないで!この…!』

『偽善者──!!』



榊原「…!!…また、同じ夢を見るのね」

(…子供達は悪くない。繊細で傷つきやすい心に土足で踏み込んだ私が悪いのだから)

「…リッカ。あなたなら教えてくれるのかしら。人の心に寄り添って、誰も傷付けない方法を」

(あなたが夏草にいる時までには…聞いてみたいものね)

店員「いらっしゃいませー」


一方理解の女傑

「やっぱりこういうショップって、見て回るだけでも楽しいんだよねぇ。特になにか買わなくても、あんまり見ないレア物とかを見つけるとテンション上がっちゃうものなんだ。エルキドゥのリサイクルショップ周りが好きっていうの、解るなぁ…」

 

調査に乗り出したロマニが次に向かった場所、それはアニメ、フュギュア、DVDやBlu-rayなどを扱う総合サブカルチャー店舗。夏草の中でも大手であり、多種多様な品揃えを誇るドルオタには歓喜の世界にロマンは鼻息荒く飛び込んでいた。既にラバーストラップはあらかた手に入れている辺り、成果は上々と言うやつである。シバを嫁にし、グッズは封印したものの、布教用やコレクション用には欠かさないし生きるためには欠かせないのである。

 

『コスプレ衣装などもございます、あなた。もしよろしければ私が着用するのも一向に構わない所存ですが〜…』

 

「あ、それは大丈夫だよ。シバはありのままが一番だと思うし、僕はそのままのシバが好きだから」

 

『ヒワァ!(バタン)』

 

『クソァ!!非モテの聖地みたいなところの中心で愛を叫ばないでくださいよドクター!!カルデアの目がまたぶっ倒れたでしょうがクソァ!!』

 

ご、ごめんよとシバとムニエルに謝るロマン。彼は基本、シバを喜ばせる言葉しか言わない。受肉したシバにゃんはぶっ倒れムニエルが叫ぶ。いつもの事である。

 

「お詫びに、皆にお土産を買っていくからさ!いいよね、憧れてたんだ!皆お揃いのストラップとかそういうの!リッカ君には特別にシークレットレアをあげちゃうぞぅ!」

 

『〜。まぁ、あなたに関しては羽目を外すなとは言わないわ。自分の為に、その時間を思う存分使いなさいね』

 

オルガマリーの苦笑混じりのため息を否定するものはいない。彼の自由は、まだ始まったばかり。人としての生命は、一年経ったばかりなのだから。ありがとう!もちろん君にもあるからね、と声を上げようとした瞬間、一人の女性に声を掛けられる。

 

「すみません、そこの優しげなあなた。今、リッカ君とおっしゃいましたか?」

 

ロマンが頷き振り返ってみればそこには桃色の長髪にピッチリとしたスーツを完璧に着こなす女傑を思わす淑女が、キュベレイのプラモデル入りの袋を持ち立っていた。風格溢れるその佇まいに、ロマンは思わず息を呑む。

 

「私、リッカちゃんの担任でありカウンセラーを務めていた榊原処凛と申します。その、もしよろしければ少しお話など如何でしょう…?」

 

「は、はは、はいっ!こ、こんなポニーテールおじさんで良ければ!」

 

突然の、形だけ見れば逆ナンにロマンはビビリのヘタレムーブ全開で誘い出を受けたのであった──。

 

 

「そうですか…リッカの留学先のドクターでしたか。彼女を気に掛けてくださり、ありがとうございます。彼女は色々な意味で、凄まじい娘ですから。驚かされた事、一度や二度じゃないでしょう?」

 

場所を変え、行きつけとされる上品なカフェルーム。専用席に案内され、二人共に紅茶や珈琲を嗜む。ロマンは自身より5か4の歳下の彼女の堂々とした振る舞いに、完全に圧倒されていた。

 

「は、はい。彼女の強靭さや優しさ、不撓不屈の決意と意志には僕達も何度も助けられました。それも納得です。こんな風格のある御方が担任だったなら、生徒も真っ直ぐ育つものですね」

 

「ふふ、ありがとう。でもこの周りを圧する術は、女である自分がこの男社会で生き抜く為に身に着けたもの。とても自らの魅力とは言い難いものです。いい歳して嫁の貰い手もおらず、こういったものに魅力を見出す女というのは、どうかと思うのですが」

 

そんな風に自嘲する榊原に、ロマンは否と力説する。

 

「そんな事はありません!あっ…、…好きなものはいつまでも好きでいいじゃないですか(小声)。人生を彩るものは人それぞれです。そしてそれを決めるのは自分自身。人は浪漫を追い求める者なのですから卑下をなさらずに。大丈夫、僕だってドルオタが全くやめられませんから!」

 

「…ふふっ。ありがとうございます。あなたの様な人がいる組織とは、きっと素晴らしい場所なのでしょうね。リッカが二周りも強く、魅力的になるのも理解できました。彼女は本当に、縁に恵まれたのね」

 

嬉しげに、安心したと珈琲に砂糖をいれる榊原。彼女はリッカを、生徒の未来と生活をいつも最優先に考えていたいと語る。

 

「彼女は一年間、この夏草を空けていました。その間の経験は、きっとかけがえのないものであったのは明白です。声を聞いて、わかりましたもの。それに負けないよう私も、この夏草も、生徒達も。皆が皆頑張ってきたと自負しています。たゆまぬ発展、そして進歩。彼女がいつでも帰ってきて安心できるような場所をと、懸命に」

 

「僕達もそれは感じています。リッカ君の故郷の進歩の仕方はいっそ怖いくらいに速い。モデルがいたとはいえ、人間の様なAIと、それをかけがえのない隣人として受け入れている市民達のモラルの高さ。重ね重ね、驚くばかりですよ」

 

「えぇ。本当に誇らしいです。彼女…うたうちゃんは卒業生達が創ったAI。彼等が故郷を飛び出しても、感謝の気持ちを忘れないようにと…いつか、異なる誰かとも人が手を取り合えるようにと創り上げられた『希望のAI』。それが、彼女の創られた意味。そして私はそれを、素晴らしいと感じています。…先生として」

 

その目には、穏やかな光と…揺るぎない、鉄の様な決意があった。

 

「だからこそ、その輝ける目を、希望を絶やしてはならない。子供たちが健やかに過ごせる場所を、空間を整えてあげなくてはならないと、私は思っています。…こう見えて、教師を始めてからは6年なのですが…中学生から高校生は大なり小なり、悩みを懐いています。未来や将来が解らない、自分が社会に適合できるかの不安を。私には、それが手にとるように分かってしまうのです」

 

「感受性が、お高いのですね」

 

「えぇ。ですが…人はそう簡単にわかり合えない。私には余さず悩みや苦しみが伝わっていても、相手には私の言葉が嘘にしか聞こえない。…心はそう簡単に、繋がるものではないと何度も痛感した経験がありますから。嘘つきと、気持ち悪いと言われた事も何回も」

 

どれだけ理解力が優れていても、相手に自身の意志が伝わらなくては意味がない。相手の気持ちが手にとるようにわかっても、自分の気持ちはまるで伝わらない。その齟齬に、自身は苦しんできたと吐露する榊原。

 

「だからこそ、私は誰とも友誼を結ぶ彼女を気に掛けたし、本当の意味で笑顔を理解してほしいからと彼女を留学に出しました。彼女はまだ、もっと輝けるからと。この都市においても、『人生の未来の不安を覆せる』ような、楽しく強い都市に進化していきました。彼女が帰ってくる事を、待っていたかのように」

 

「榊原先生…」

 

「ロマンさん。リッカにいつか、尋ねてみてください。この都市は、この街は…あなたが帰ってくるに相応しい場所になっているかと。また、その答えを教えてください。その時を私は…楽しみにしています」

 

「はい、約束します。でも、聞くまでも無いと思いますよ。だって、あなたの様な素敵な教師や、素敵な街並み、何より素晴らしい学友の皆がいるんですからね!」

 

ロマンの屈託ない太鼓判に、優しげに微笑む榊原。その後もロマンは、オタクやアイドルトークで大いに盛り上がるのだった──

 




ロマン「いやぁ、楽しかったなぁ!ありがとうございました、榊原さん!どうかお気を付けて!」

榊原「こちらこそ。是非昇陽学園にいらしてください。来賓案内、謹んでお受けさせていただきますわ」

ゴルドルフ『ロマニ君!美女とお茶しばいて終わりとはボンドかね君は!情報!情報を聞きなさいよ!』

ロマン「あっ…!す、すみません!この夏草で、なにか変わった事はありませんか!?」

榊原「…残念ながら、様々にあります。夕方からの時間は、夏草の評判や景観、市長への嫌がらせにより雇われた反社会的勢力、半グレや不良グループ…弁えのつけない観光客、俗物達が顔を多く魅せる様になりました。朝と昼、夕方と夜でこの夏草はまるで違う顔を見せます。お気を付けくださいね。夏草役場でボディガードを雇用できますよ」

ホームズ『まるでヨハネスブルグか裏路地の無法地帯だ。法治国家たる日本でありえるのか、そんな事が…』

「そして…夜には出歩かない事をお勧めします。この都市は、穢が浄められるのを待っていますから」

「え…?」

「それでは、また」

凛々しく背を伸ばし、去っていく榊原。

「穢が浄められるのを、待っている…?」

ロマンはその言葉の意味を反芻しながら、榊原の表情を思い出す。凛々しく嫋やかな仕草に隠れた…

深い、不安の色を。本音を胸に秘めるその在り方を、彼は誰よりも知っているのだから──

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