人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リンボ【ンンン、何やら足掻いておりますが無駄ですね哀しいですね、哀れですねぇ。かの大魔縁、我が地獄界曼荼羅にて魔軍の皇となられし御方。即ち私の仕立てし王!有象無象に歯が立ちましょうか!】

道長「…」

【さて、ではこれより開花の儀式でも致しましょう。楽園カルデア、痛恨至極の敗北の王手をかけますれば──】

道長「リンボよ」

【ンン?】

「貴様、未来の棟梁なる娘を欲していたな。それとこの地獄をどう結ぶ。かの娘、振るう力は黒なれど貴様の如き外道を選ぶ女では無いぞ」

【ンンン…そう来ましたか。何故私がこの様な真似をするのかと!そうですねぇ端的に言えば…】

「…」

【愛、でしょうか】

「愛…」

【至高の天、至極の玉座を彼女に託したいのです。世界を、私だけの世界を差し上げたいのです。そう、彼女を【異星の神】に等しい存在に。地獄を統べる私だけの女王にしたいのです。そう、彼女に焦がれたその日から。まぁ、晴明にあれやこれやと計画は狂わされましたがそれはそれ。この様に半身喰わせるも彼女の為であるならば】

道長「…成程。しかし貴様に贈るとするならば…」

【?】

「貴様のそれは実らぬよ。貴様は人の愛のなんたるかを知らん。敗北の間際にそれを知るがいい」

【ふふ、ハハハハハ!左大臣も年貢の納め時ですなぁ!そのような負け惜しみしか吐けぬ程に困窮極めし姿!ンン、無様!!】

「……」

【では、望月が月食の遠吠えを肴に…いまこそ開花の時!リッカ殿の座す玉座よ、その威光を此処に!】


──地響きを立て、空想樹が揺れ、割れる。そしてそれは、人界終焉の前奏曲──


誉れも高き二柱

「ここ、は…?」

 

ソロモンフィールド、並びに全員の尽力を以て崇徳大魔縁より逃げ延びたリッカが目を開くと、そこは穏やかな草原が広がっていた。どこまでも駆け抜ける事が出来るような広き原、いつまでも其処にあるかの様な青空。それは先の波乱、死地にいた状況とはあまりに掛け離れた様相。リッカは困惑げに辺りを見回す。

 

「ここ…高天原!?」

 

そして思い至る。神が在り、神がおわす高天原。イザナミの固有結界の領地であり、神霊を負荷なく降臨させられる天孫が地。紛れもなき日本の熾天の座に、自らは立っている。

 

「マシュ!母上!金時兄ぃ!桃子!温羅ネキ!皆──!」

 

呼び掛けるも、答えは返ってこない。ここに招かれしは、自ら一人であるようで他の人影は見えない。その地は安寧なれど、いつまでもそこにはいられない。まだ何も終わっていない。かの大魔縁を鎮めなくては──

 

『怖がる必要は無い、此処はお借りした地にて時の狭間。未来の棟梁、和歌を詠むように気持ちを落ち着け楽にするのだ』

 

逸るリッカに掛けられる、優しげな人柄を感じさせる声。そこには微塵も敵意が感じられぬ、温厚さがあった。

 

「あな、たは…?」

 

『我…いや、僕は帝。かの時代の天皇。一条天皇…知ってるかな?道長の傀儡だよ、リッカちゃん』

 

素早く平伏し、頭を垂れるリッカ。天皇、即ち日本で最も尊きもの。道長が託すと言っていた、日本の象徴そのもの。無礼など働ける御方ではない。たとえそれが、フレンドリーであろうとも。

 

『そんなに畏まらないでくれ。今回は君に、活路と打開策になるものを持ってきたんだ。さぁ、こちらが未来の棟梁ですよ、『崇徳院』殿』

 

「…えっ!?崇徳院…!?」

 

崇徳院。先の大魔縁が、呪詛乗せられし真名。それをきっぱりと告げる一条天皇に、弾かれたように面を上げるリッカ。

 

『…こんにちは』

 

一条天皇の傍らには…三歳児、即ち彼が即位した年齢の少年の姿が在った。まだ無垢とあどけなさを残しつつ、尊き衣装に袖を通せし貴人が御方。彼こそ、悲嘆と非業の生を送った崇徳院であると言う。先の大魔縁とは似ても似つかぬ愛らしさ…そして瞳の奥にある哀愁は、無害であると示すに足るものであった。

 

『サーヴァントシステム、聖杯戦争、並びにキャスターリンボの叛乱。総て聞き及んでいるよ。道長、晴明、そして道満によりね。歌を詠むよりは容易い事象で助かったよ』

 

一条天皇は紫式部、清少納言などを重用し女流文化を花開かせた傑物であり、その人柄は後世に良きものと示されている。そしてそれが、彼に繋がったのだ。

 

『未来の帝、即ち崇徳院殿。彼も文化に聡き歌人であると彼自身から聞き及んでいる。故にこそ私の傍に彼が招かれたのだろう。崇徳大魔縁の異なる姿、即ち和御魂・崇徳天皇がね』

 

「そ、そうなんですか…!やっぱり、あの御方は直接下す相手ではないんですね!?それと一条天皇陛下、なんだか見目が若々しい様な…!?」

 

『天皇は基本不老だよ。我等は二十歳やそこらで見た目を自在に変える法を修めるからね。今はこの姿、若者を選んでいる。君が話しやすいように』

 

そうだったんですか!?リッカの驚愕に、和御魂…即ち崇徳天皇は語る。

 

『あのね、あの大魔縁は倒すものじゃないの。鎮めて、鎮めてほしいの。あれは、僕の未来の姿でもあり、民の願いでもあるから』

 

「民の願い…?」

 

『無辜の怪物、というらしいね。かの大魔縁はそれを含めて起動した大怨霊だ。【これ程虐げられしかの御方は、日本に仇なす大魔縁となる祟を遺したに違いない】、とね。そもそも我等天皇は日の本の象徴、日の本に仇なす翻意を本気で懐く筈は無い』

 

『うん。ぼくは…少なくとも、今のぼくは望んでない。あんなおそろしい姿を、のぞんでない』

 

或いは、全盛期の姿がこれなのだろう。即位した前は父に疎まれ、即位した後は根も葉もなき噂に翻弄された崇徳院、即ち即位した瞬間のみこそ。それこそが、彼の人生の絶頂。

 

「アヴェンジャーであり、バーサーカーなのが、かの大魔縁という事なんですか!?」

 

『うむ。かの大魔縁は祟を撒き散らすと同時に、必ずカウンターとしてこの側面を顕す英霊であると彼より聞き及んだ。単純な武力や力では、かの大怨霊を調伏叶わぬと』

 

『うん。かの怨霊は…鎮めなくちゃいけない。怨霊は、鎮まる日を待ち望んでいる』

 

崇徳院、そして一条天皇はリッカにそれぞれあるものを託す。それは、帝がもたらす起死回生の妙手。

 

『私は腹芸も武芸もからきしの天皇ではあるが、文化の傾倒は自信がある。ここに、和歌を記した。崇徳院殿より直接聞き及んだ、彼が詠った和歌達だ。これを紫式部、清少納言に託してほしい』

 

「!──彼自身が詠んだ歌を、彼の御方自身への鎮魂歌にするという事でしょうか!?」

 

『君は聡い。流石は未来の棟梁だ。そして──崇徳院殿』

 

『うん。──これを』

 

一条天皇の次に、崇徳院はソレを託す。──それは、無念と悔恨、怨恨、憎悪が血となり記された写本であった。

 

『これは、ぼくが未来で書いた写本。大魔縁に転ずる呪詛に染まったけれど…それでも、これはぼくが書いた写本』

 

血染めにて【この経を魔道へ回向す】【我、日本国の大魔縁となり皇を取って民とし民を皇となさん】と書かれた写本、リッカに差し出されたそれは、呪詛に満ち溢れていた。

 

「……」

 

しかし、それをリッカは受け取った。呪詛に満ち溢れ、誰にも触れぬ瘴気を齎せど、それは初めから呪怨を満たしたものではない。突き返される前は、極楽浄土の往生と供養を願い記したものであるのだと理解しているから。

 

『ありがとう、うけとってくれて』

 

それを理解していながら、写本を受け取ったリッカに、崇徳院は花のような笑顔を見せる。イザナミと同じく、日の本でかの呪物を受け取れる人物など片手で数えられよう。

 

『その写本は、余りにも強き呪いそのものだ。故にこそ、あらゆる呪いや呪詛を弾き、呪いや怨念、術から受け取りし者たる君を護るだろう。それが、崇徳院殿の宝具なのだ』

 

そう、大魔縁回向写本。受け取らざれば大魔縁と化し、受けとらば和御魂が守護を果たす。あらゆる呪詛より、魔道より。

 

『君を我等が天皇が、何より崇徳院殿が護るだろう。──かの空想樹、呪いが樹木へ至りなさい。藤丸龍華。世の総ての呪詛、悪を担えた君だからこそ、道満は望みを賭けたのだ』

 

「道満さんが、ですか!?」

 

『うん。あの樹に、君が至る。それが道満の、最後の一押し。君が、あの樹と一つになる。これを持って』

 

崇徳院、そして一条天皇の言葉に虚威は無い。この状況の最後に、リッカはかの地獄曼荼羅たる空想樹へと至らなければならないという。それこそが、活路であるという。

 

『恐ろしく、無茶で、それでいて最大限の綱渡りだ。だが、天皇は決して民を見捨てず、また欺く事は無い』

 

『どうか、どうか…ぼくたちを、信じて』

 

二人の天皇の言葉と、視線に見つめられるリッカ。日本国の最高峰に託されし願い。それに、決して押し潰される事なく。

 

「──解りました。道満さんを、皆を、一条天皇陛下を…そして、崇徳院様を信じます!かの大魔縁を鎮めて、リンボの企みを潰します!」

 

その力強い宣言と同時に、意識が遠退く感覚を覚える。高天原の風景が、二人が遠く離れていく。

 

『直接助けられず、すまない。…日本国を頼む、子孫よ。清少納言、紫式部によろしくね』

 

「──はい!崇徳天皇陛下!行ってきます!!」

 

一条天皇、並びに確かなる天皇である崇徳院にも勝利を願い、勝利を近い親指を立てるリッカ。

 

『うん。信じてくれて、ありがとう──』

 

一縷の恐れも、迷いもなく自身を信じたリッカに、幼き日の崇徳院は歓喜と安堵と共に、一条天皇と手を振りリッカを見送るのだった──




源氏屋敷

マシュ「…ぱい、先輩!先輩っ!」

リッカ「はっ…!?」

桃子「起きましたかリっちゃん!皆!我が姉が目覚めました!」

そこは、ロマンが一度転移させし拠点、源氏屋敷。そして外には、開花を始めし空想樹が姿。田村夫婦大明神に、温羅、四霊、サブマスター、伊吹に鬼が戦う戦場。

金時「よっく寝てたな、リッカ!大丈夫か?」

リッカ「う、うん!…!」

夢、かと思えば否。確かにそこにはある。一条天皇が認めた、和御魂歌人崇徳院が詠んだ和歌集、並びに大魔縁回向写本。

「──母上!紫式部さんと清少納言さん、そして皆を集めてください!」

頼光「ど、どうしたのです?…もしや、道長様が仰っていた…」

リッカ「はい!日本を救う、最後の一押しです!」

リッカはそれらを握りしめ、顔を上げる。二人の天皇に託された希望を、皆で繋げんが為に──

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