人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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寝室

リッカ「ん…ふわぁー…」

(物音一つしないなぁ、この家…スッゴく快眠できちゃった。そりゃ私とグドーシしかいないからそうなんだけど…)

「…あれ、そういえば寝室って一つだけ?グドーシは…」

座禅浮遊グドーシ『』

(う、浮いて瞑想してるー!?)

リッカ「!これ…」

『学生メンバーの卒業写真待受』

リッカ「…報酬のスチルかな?これ。私の年代どこら辺なんだろ?」

グドーシ「おや、起きましたか。おはようございます。朝御飯になさいましょうぞ。拙者が用意するでござる(すいー)」

「ありが…そのまま行くんだ!?」


善意の袋小路

「成程、当のマシュ殿を取り巻く環境はその様な事に。立場か、想いか。随分と難しい選択を迫るものですなぁ…」

 

グドーシが用意した朝御飯を共に囲い、昨日起こった事を説明、情報共有するリッカとグドーシ。グドーシは例によって、気がついたらここにいたようだ。ここが、拠点という事なのだろう。

 

「そうだよね。ちょっとマシュの人生の岐路過ぎて迂闊に答えられない問題だよね…例えこれが夢の世界であっても、マシュの将来なら半端な選択は御法度だと思うし」

 

父から見る、娘の幸福。そして大切な存在として祈る幸福を真摯に考えるリッカ。どちらも大切であることが解っているからこそ、思い悩み迷うのだ。

 

「グドーシはどう思う?この幸福、どっちが大事なのかな?」

 

リッカはまだ母ならざる身であり、同時に家族関係の問題にはやや弱い。本当に家族の温もりを知れたのはごく最近、ようやく一年が経つか否かの領域だ。まだ保護者の観点を持つには経験が不足していることを自認した彼女は、あらゆる物事を知るであろう相方に意見を仰ぐ。

 

「確かに、これは難しき問題。かのブッダことシッダールタ殿も初めは嫁と妻がおり、あらゆる幸福を甘受できる立場にいた訳ですからな。しかしそれらが平等で無いことを知り、世界を憂い苦行へと身をやつし答えを求めた。人の幸福に、明確な答えは存在し得ないのだとしても求めずにはいられなかったように。…それではまず、どの様な選択肢がどの様な幸福をもたらし影を落とすのか。一つ整理すると参りましょうぞ」

 

グドーシもまた答えを模索するものとしての思案に移り、共に思案する。考えること、思い悩む事こそ生きる証。その為に人は悩み、生と向き合うのだと教えながら。

 

「まず、マシュ殿が藤丸殿と添い遂げる事を選んだ場合。心の通った者と立場と身分を越え結ばれる。大変素晴らしくエモい選択ですな。個人的には大いに祝福したいものでござるが…藤丸殿には、一般的あるいはやや下流の立場の役割が与えられておりましたな」

 

グドーシの言葉に、リッカは頷く。藤丸はアパート暮らし、一人で生きていく分にはなんとか…といった様子であった事は伝えてある。勿論、その生活を否定するつもりは決してないが、グドーシは静かにその真意を問う。

 

「確かに、愛に満たされ、立場を越えて結ばれる事は素晴らしい、物語なら文句無しのハッピーエンドではありますが…人生というものにおいては結婚は往々にして始まりでありますからな。愛でなんとかなる、というには擡げた問題というものは山積みでありまする」

 

そう、結婚は幸福のピークであると共に人生の墓場と言う呼称も存在する。其処で人生は終わらない。家庭を持ち更に歩む必要があるのだ。そして、生きる為には必要なものが数多ある。

 

「ランスロットも言ってたよ。養育費とか、税金とか色々お金がかかるんだって。…流石に親の反対や身分を捨ててる手前、援助してもらうって選択は厳しそうだよね…」

 

「えぇ。そして本当に不滅の愛というものがあるならば、離婚などといった概念は存在しませぬ。生活水準といった現実的なハードルは確かにあり、それらは百年の愛も冷ますきっかけになり得るものです。力を合わせて乗り越えると言える間はよろしいですが、先の見えない不安と貧困は、ともすれば若き日の誓いすらも摩耗させるものでしょう。その果てに別居、離婚の三行半といった結末も見えてしまう。客観的には非常に危うい人生設計と言わざるを得ません。ランスロット殿が迷い、悩むのも必然と言うものでございましょうな」

 

貧困は心を荒ませ、懐いた愛すらも蝕む。そうとなればかの愛情に満ちた二人はやがて喧嘩が絶えなくなり、喧嘩別れになってしまう可能性も大いにあるとグドーシは分析する。愛という炎を燃やす事は、並大抵の努力では叶わないことを憂慮しているのだ。

 

「生活苦を何とかするために美人人妻が身体を張って援助を得る…同人誌におけるNTRの鉄板シチュエーションでもありますからな。オタクとしてみても大変危険と言わざるを得ません」

 

「私としては相手がいるってだけでもう応援案件なんだけどなぁ…じゃあ、ギャラハッドさんと結ばれた場合は?」

 

縁談を取り付けられているというギャラハッドとの婚約を選び、玉の輿に乗るという選択肢。その選択肢を以て過ごした場合は如何になるのかを、グドーシは振り返る。

 

「父の導きに従い、地位も血統も立場も恵まれた者と一生を過ごす。安定と盤石さで言うならばこれ以上の選択は無いでしょう。お父様が選ぶ選択肢としては納得しか無いものであると言わざるを得ません」

 

「世の中的に、偉くてお金がある人が強いのはよーく知ってるもんね。あんなに痛快な旅ができたの、何が何までギルのお陰な所あるし。王様が全力で私財を注ぎ込む強さが味方だったもんね」

 

「えぇ。まだギャラハッド殿とも出逢っていませんので何とも言えませぬが、恐らく物質面で苦労することは無いでしょう。名家の跡取りとして嫁ぐ…それは確かに幸福の約束された人生の一つの結末やもしれません。…しかし、心というものは理屈や物質面で埋まるかどうかは別問題なワガママさんであります故、こちらも苦労はあるでしょうなぁ」

 

そう、マシュがギャラハッドと結ばれるという事は藤丸との関係を諦めねばならないということだ。あの幸福に満ちた時間を。小さなアパートであること、立場などまるで気にもかけないあの幸福な時間を、かつての思い出として胸にしまい一度も会っていない男性と生涯の愛を誓わなければならない。

 

「共に過ごす間に新たな愛が生まれるやもしれませぬが、我々の知るマシュ殿と藤丸殿ならばまず間違いなく他人に目移りはあり得ぬでしょう。キアラ殿すら跳ね除け、世界すら救った恋なのですから。となるとマシュ殿がギャラハッド殿との未来を選んだ場合、心が伴わぬまま永遠の愛を誓い、世継ぎを身籠り、産みの苦しみに堪え、名家の妻として完璧な振る舞いをしなくてはならないということになりますな。女性的な観点からしてみてどうですか、リッカ殿」

 

「う、鬱い…!誰が悪いわけじゃ無いにしろマシュが死んだ目になるのは解りきってるよこれ!」

 

「その通り。いくら満たされ、恵まれていようと。文字通り藤丸殿との絆は唯一無二。それらの代わりなど存在しえない。マシュ殿はともすれば、心が死んでしまうやもしれません。彼女の幸福と考えた場合、こちらが最適解!とは言い切れないのが現状でしょう」

 

中立的な観点からものを見据え、グドーシは評価を下した。どちらも危うく、またどちらも理があり、非常に悩ましい袋小路。最適解は用意されていない意地の悪さである。

 

「うぅ、これがありがちな二人を引き裂く地位と名誉の為の父親の強要!金持ちのボンボンのフィアンセ狙い!とかだったらずっとずっと楽なのになぁ…!結婚式ブチ壊すとか駆け落ちとか…でもランスロットは間違いなくマシュの幸福を思ってたし…」

 

「それでは、次はマシュ殿、藤丸殿、そしてギャラハッド殿からお話を聞くのが良いでしょう。ご飯を食べたら早速行動にござる。我々、どうやら働く必要の無い立場な様なので」

 

預金通帳を見せるグドーシ。そこには数えるのも億劫な程の金額が預金として振り込まれていた。どうやら金稼ぎや労働は、今回すべきものではないらしい。

 

「我々に出来ることを行いましょう。愛の逃避行に至る前に、きっと後押しできる事があると信じて」

 

「うん!暴力封印でやっていこう!ごちそうさまでした!」

 

一人でなくて良かった。グドーシの存在が大いなる救いになっていることを満腹と同時に感じるリッカであった──。




リッカ「そういえばグドーシ、カーマやじゃんぬはどこ行っちゃったんだろうね?」

グドーシ「どうやらラウンドナイツ・コンツェルンとは別口の会社に務めているご様子でござったよ。社会人として、サーヴァントはカウントされている様ですな」

リッカ「…グドーシや私が働く必要ないのって…」

グドーシ「まぁ拙者は推して知るべしであり、リッカ殿の対話スキルや人心掌握の巧妙さを鑑みたとすれば…新たな教祖や国会議員、国を動かす立場にも容易くなれると考えられたのでしょう」

リッカ「一般社会からの隔離かぁ…覚者と人類悪に居場所は無いってことなのかなぁ」

グドーシ「ははは、そう腐らずに。拙者にもリッカ殿にも、こうして互いがいるではありませぬか」

リッカ「うん!なら何でもできるし、凹む必要ないよね!よーし!やるぞー!」

社会的地位はなくても、決して足りぬものはない。ある意味で最も自由な二人は、今日も苦界へと飛び込むのであった──

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