人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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――いつかあなたの物語を書くとしたら、喜劇か悲劇か、どちらがよろしいですかな?



――あー・・・そうだな


オレが駆け抜けたオレの人生だ。手前が勝手に解釈すりゃいいさ。ただまぁ――


大英雄――神話の再演

「――⬛⬛⬛⬛⬛!!」

 

無双の嵐のような剣戟が、海を揺るがし振るわれる!

 

 

「ははははは!!ははははは!!素晴らしい!素晴らしいぞヘラクレス!理性を失いながらもこの威圧、この風格!それでこそ大英雄、それでこそギリシャの神々の寵愛を受けた無双の大英雄!」

 

その嵐の具現を神業の槍捌きで捌ききりながら大英雄が尚笑う

 

「もはやその域に達すれば狂化こそが足枷になるだろうな!だが仕方ねぇだろう!!」

 

剣を回避した俊足で甲板の端から端へと瞬間移動し、ヘラクレスを翻弄し

 

「お前程の大英雄!理性を奪わなければ人理を焼く側になどけしてつくまい!当然――だが!このアキレウスの前に立つにはあまりにデカいハンデだぜ!!」

 

 

「⬛⬛⬛――」

 

ヘラクレスが防御体勢に移るより速く、飛び蹴りの要領で槍の柄を足の底で蹴り出した流星の刺突が、ヘラクレスの心臓を穿つ

 

 

「⬛⬛⬛⬛!!!」

 

 

「――心するがいい、ヘラクレス。オレはそんなお前をけして侮らず、けして驕らず。我が総てに懸けてお前を仕留めていこう」

 

 

――今の一撃にて、ヘラクレスは一つの命を失った。魔力の変化にて感じとる

 

 

「我が全霊と総てを、ギリシャの神々の威光に懸けて!今のは我が師、我が友、我が兄に賜った『武術』にてお前を仕留めた!」

 

「――⬛⬛⬛⬛」

 

 

「さぁ、命を取り戻し構えろヘラクレス!オレの『総て』を受け止めることができる数少ない英雄よ!」

 

「――⬛⬛⬛⬛!!」

 

「人理を滅ぼす側についたお前!縁あって人理を救う側についた俺!この邂逅の果てに何が待つのか――」

 

「――⬛⬛」

 

ヘラクレスが動き出す前に、アキレウスの飛び膝蹴りで大英雄の顔面がグシャグシャに潰される

 

 

「!!!!」

 

 

「オリュンポスの神々よ!!固唾を飲んで見守るがいい――!!」

 

 

――脳と霊核に達する不死の肉体の飛び膝蹴り。あの一撃にて確かに、ヘラクレスの生命が失われた

 

「フッ、俊足の名に違わぬ仕事ぶりよ。まぁ我は立て続けに奪うがな」

 

 

――あと、三つ。不味い、出番が案外早く来るかもしれない

 

 

「今の攻撃は我が母、我が父に賜りし『肉体』に懸けた一撃!その威光は、お前の祝福の肉体にさえ阻まれぬ輝きと知れ!」

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!」

 

「ハッ!その咆哮は憤慨か、それとも警戒か!何にせよ――」

 

 

甲板を抉り抜く渾身の一撃を超速の身のこなしにて回避し、これまた甲板を砕かんばかりの跳躍にて空中へ飛び立つ

 

 

「戦場にて笑顔を忘れた無粋な狂戦士に、空を駆ける鷲のごとき我が身を捉えることは叶わぬと思い知れ!」

 

指を加え、清らかな口笛を吹き鳴らす

 

 

「次は我が『(クラス)』に懸けた一撃をくれてやるッ!来い!俺が身体を預ける唯一無二の不死戦車よッ!!」

 

 

――号令に呼応して雷鳴と共に現れたるは『ライダー』たるアキレウスを象徴せし無双の戦車

 

海神ポセイドンより賜りし二体の神馬『クサントス』『バリオス』そして略奪せし名馬『ペーダソス』が脚となり、彗星がごとき速さで疾駆する古今無双の大戦車

 

 

「駆けろ!『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』――!!!」

 

 

アキレウスを搭乗させ、夜空の彗星がごとき翡翠の軌跡を描き、目で追うことすら困難な速度に瞬時に到達し空を駆け、また旋回し――

 

 

「いけないっ!!ヘラクレス!!」

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛――!!」

 

 

「回避せんとするか!試してみろ――ヘラクレス!!!」

 

 

アルゴー号の甲板に、空前絶後の突撃が襲い掛かる――!!

 

 

「ソイツはやべぇぞヘラクレス!!かわせ!!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛!!」

 

 

「――消し飛びやがれ――!!!!」

 

大爆発、そして大轟音

 

 

アルゴー号を貫いた戦車の軌跡は海へと至り、ヘラクレスの肉体を挽き肉以上の惨状へと変貌させる

 

 

――だが

 

「フッ、理性を失えど大英雄。やるではないか」

 

――殺せたのは『一度』だ。ヘラクレスは食らう瞬間、全霊の飛び退きと身体の捻りにより戦車の軌道から逃れた。余波にてヘラクレスは力尽きたのだ

 

――直撃していたなら、確実にまとめて三つの生命は削れたかもしれない。一つの攻撃に何度も生命が持っていかれるかどうかは解らないが

 

 

海より帰還し、颯爽と降り立つアキレウス

 

 

「――つくづく天晴れだぜヘラクレス。今のオレの必殺の突進を忠言でかわすとは。今ので決めるつもりだったんだが・・・」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛」

 

「ハハッ。ここが死地と定めたとは言え、少しはしゃぎすぎたか」

 

――!!

 

 

見ればアキレウスの身体、霊基が透け始めている。あれは、――まさか

 

 

「貴様、霊基を削りながら戦っていたか」

 

「ん?おう。バレちまったか」

 

ニカッとわらうアキレウス。それはまさに、悪戯好きの少年のものだった

 

「貯蓄した魔力じゃ、現界を保つのが精々だ。宝具を撃つにゃどーしても賄いがいる。アイツを殺すにはどうしても宝具がいるからな。だが俺ははぐれサーヴァント。誰に仕える訳でもなし――」

 

「成る程。英雄の一流所の貴様は、魂喰らい等万に一つも選ぶまい」

 

――ならば。残った魔力は一つ

 

「あぁ。自分の血肉になる霊基を削るしかねぇ。それでも戦車は一度きりしか出来なかったんだが・・・悪い、避けられちまった」

 

 

――自らを構成する魔力を総て、戦闘に回していたのか・・・

 

「興に乗りすぎだたわけめ。船ごと粉砕する気概ならば事は済んでいただろうに」

 

「ハハッ、悪い悪い!だけどな、英雄王」

 

「ん?」

 

「――お前さんの導いてるマスターと仲間たちの越えるべき試練、俺の無粋で灰塵に帰させる訳にもいかないだろ?英雄は人の道を切り開く生き物だ――人の輝かしき歩みを、邪魔してはいけない生き物だからな」

 

――本気を出せば、彼は容易くヘラクレスを下せたのかもしれない

 

マスターと契約すれば、更なる善戦を望めたのかもしれない

 

――はたまた、有り得ないことだが。イアソンの傘下につけば、此方の旅は終わっていたかもしれない

 

「――――」

 

 

でも、彼はそれを選ばず、ただひとりのはぐれサーヴァントとして・・・

 

「ま、これはケイローン先生の教えだけどな!――はははっ。俺は最期まで知略には長けてなかったなぁ」

 

 

「――孤高を貫いたか、大英雄」

 

――只、理不尽を打開する先達として散る道を選んだのか・・・

 

 

 

「おっと、湿っぽいのは止めてくれよな。俺が決め、俺が駆け抜けると決めた道だ。涙も同情も要らねぇよ」

 

「ふはははははは!!誰が涙なんぞくれてやるものか!――天晴れだ!アキレウス!!」

 

――大英雄の生きざまを、ここに確かに垣間見た

 

 

「そうだそうだ、笑ってくれ!マスターを見つけられずやりくりに失敗して消滅する大英雄なんざ最高の喜劇だ!髭の作家が飛び付くネタだろうさ!」

 

 

――笑わない、けして笑えない

 

 

――あまりにも尊く、あまりにも豪快、そしてあまりにも儚い英雄の一生に、涙を流さんばかりの敬服を

 

 

「――さて、俺のしくじりと交わした盟約とは別の話だ。あと・・・何個だったか」

 

 

「あと二つだ。あと二つで五つに達する」

 

 

「――なんだ。それならイケるな」

 

 

にやりと笑うアキレウス

 

 

「はは、はははっ!はははっ!!はははははははははは!!」

 

 

――響き渡るのは、無敵の英雄、イアソンの笑い

 

 

「バカの極みだなアキレウス!わざわざ討ち果たせるモノを自分を捨ててわざわざ消滅を選ぶのか!?これが大英雄の生きざまか!?愚図過ぎて笑いが止まらないなぁ!」

 

「――・・・」

 

「私の傘下に下れば、ヘラクレスと肩を並べる栄誉にすら預かれたというのにな!マスターを選ばず、ガラクタの寄せ集めに自らを捧げて犬死にを選択するなんて!はははははっ!同じギリシャの英雄として恥じ入るばかりだ!!大英雄?違うね!!お前は最高の愚か者だ、アキレウス!!」

 

――・・・・・・あの男は、本当に・・・

 

 

・・・やるせなさが沸いてくる。最期は非業であっても、彼は勇者を集め、英雄を指揮し、確かに歴史に名を残した。紛れもない英雄だ 

 

英雄王の庇護が無ければ存在すらできない自分より、ずっとずっと偉大な英雄な筈なのに・・・

 

――何故、彼はあそこまで捻れてしまったのだろう・・・?

 

 

「応。解ってるじゃねぇか王擬き。――愚かじゃなきゃ、英雄になんてなるものか。頭に血が上って、宿敵を辱しめ、つまらん好奇心で女王を辱しめた俺は紛れもなく愚か者だ」

 

 

自嘲するように笑う

 

「だからこそ、胸に抱いた誇りは失わない。下劣、外道と罵られ正道を見失いかけたその時に。――その誇りが、『英雄たれ』と自らを律する」

 

「何ぃ――」

 

「お前には無いのか?アルゴノーツの船長よ。英雄と呼ばれたお前に、矜持は欠片も存在しないと?」

 

「黙れ!!黙れ黙れ黙れ!!!俺は王だ!俺は自分の国を手に入れるんだ!今度こそ!!」

 

 

「――」

 

 

「『誰もが幸せで、満ち足りた平和なオレの国』を今度こそ作り上げるんだ!!それを、それを邪魔するな!!お前らゴミグズごときが――!!」

 

――!!それが、イアソンの・・・

 

 

「――成る程。正しき願いを抱いた怨霊であったか。ますます救えんヤツよ」

 

 

「――まあ思うところはないこたぁ無いが。少なくとも、お前に引導を渡すのはオレじゃねぇ」

 

 

「何をしている、ヘラクレス!!お前の力はそんなもんじゃないだろう!!それでも、英雄達の頂点か!!」

 

「――⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!」

 

「そうだ!やれ!未来の王を護るんだ!怪物(えいゆう)ヘラクレス!!ははははは!!ははははははははははははははは!!!」

 

 

立ち上がるヘラクレス

 

 

「――英雄王」

 

「ん?」

 

「――ありがとうよ。人理を救う側に、オレを立たせてくれた事、我が父と母に誓って、感謝する」

 

そう言いながら、彼は盾を取り出す

 

 

――前面におぞましいほど精緻な意匠が施された、『世界』を象る大盾

 

 

「貴方の威光、定めし誓約に懸け、この身に代えてもあと二回ヤツを仕留める。――オレはここまでだ」

 

 

――アキレウス・・・――!!

 

 

「じゃあな、英雄王。人類最後のマスターと、ガキども、ちゃんと護ってみせろよ?」

 

「無論だ。――貴様の勇姿、けして忘れぬ」

 

 

「――こっちこそ。あんたの輝き、アポロンやゼウスのジジイにだって劣らぬだろうぜ!」

 

 

最後の疾走にて、ヘラクレスに肉薄する

 

 

「待たせたな大英雄!!これよりオレが掲げしは、オレが生き、オレが駆け抜けし『世界』の具現!!」

 

世界そのものを顕した盾を展開する

 

 

それは極小の『世界』となりて、超速の圧殺宝具となりて敵対者を粉砕する

 

 

――盾を『攻撃』に転用する――常識を凌駕するアキレウス最大最後の切り札!

 

 

「ギリシャよ、オリュンポスよ、神々よ!!総ての世界よ御照覧あれ!!これが我が誇り、我が矜持!我が駆け抜けた世界の具現――!!」

 

 

「――⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!」

 

アキレウスの『世界』が顕現する――!!

 

 

「混沌の檻に囚われしその眼を刮目させるがいい!!――テメェには、オレの総てをくれてやる!!」

 

 

「ヘラクレス――!!!」

 

 

「――――『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』――!!!!!!」

 

――放たれる世界。押し潰されるヘラクレス

 

 

『――じゃあな。英雄王』

 

 

――爽やかな笑顔が、こちらに向けられ

 

 

 

「――よもや『三度』生命を奪い去るとは。此れでは我の仕事が減るではないか、悪童(ワルガキ)め」

 

――最後の一撃で、ヘラクレスの生命は合計六個失われた

 

 

「――後は任せるがよい。人類が誇る俊足の大英雄、アキレウスよ」

 

――自らの総てを使い果たし

 

 

――アキレウスは、朗らかにこの世を去っていった




――喜劇にしてくれ。読んだ人間が、馬鹿馬鹿しいと笑ってくれるような。実際、踵だけが人間のままでそこを射抜かれて死んだなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある!


――いつぞやの時空で、そんなことを言った覚えがある



今回もまた、馬鹿馬鹿しい喜劇だったな。マスターを見つけられず、消滅まではしゃいで消えるなんざ、本当に笑える喜劇だ


――だから、お前らも笑ってくれ。笑って笑って、楽しく今日を生きてくれ


未来(あす)を守護するために散るは本望。――英雄の別れに、涙はいらねぇ


――縁があったら、またどこかで逢おうぜ

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