人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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伊吹『ねぇねぇ、早く皆にごめんなさいしたいの。まだかかりそう?』

温羅『待ってろ、今宴の準備と処遇の決定中だ』

『んー。悪いの私だと思うんだけど…』

『神様を誰が裁けるんだっつの。とりあえず謝るならアタシも謝るから、大人しく待っとけ。あとお前とアタシは宴の裏方。酒も飯も無しな』

伊吹『くすん。罰が重いなぁ…わがまま付き合わせて、ごめんね。温羅』

『…反省してくれるだけ上等だよ。ナミばあちゃんにもごめんなさいな』

伊吹『はぁーい…』


天邪鬼の流刑地

「幻想郷中現われてた影も消滅を始めているみたいね。正真正銘、私達の勝ち…って事でいいのかしら」

 

霊夢が言葉にした通り、グリーザ…更に言えば聖杯の魔力供給が絶たれた事により、聖杯で行われていた魔術の行使が終わりを告げた形で幻想郷に平穏が戻っていく。真の意味で、最大規模となった正邪の大騒動は終わりを告げた。そして、その元凶の中核も今そこに現れている。

 

「これが聖杯…散々引っ掻き回してくれたわね、たかがキンキラのコップの分際で」

 

霊夢の手には、虚無より引きずり出した聖杯が握られている。欠片を全て束ね、真なる姿になった願望機。莫大な魔力リソースがその手にある。今回の異変の原動力であるギミックそのもの。

 

「お、落ち着いてください霊夢さん…!どうか早まらないように!」 

 

「巫女さんが西洋の秘宝に願いを告げるのはなんだか非常に危ない絵面といいますかなんといいますか!おカネはコツコツ積み立てましょう!」

 

「失礼な奴等ね!使わないわよ別に、ただ拾っただけ!…持ち主がいる落とし物は、持ち主に。それが当たり前の話でしょうが」 

 

呆れながら、聖杯をギルへと渡す霊夢。早苗と文は報酬にせびり始めると踏んでいたのであんぐりと口を開け驚愕を隠さない。

 

「願いを叶えるアイテムなんて人には過ぎたものよ。とりあえず、自分で叶えられる願いを全部叶えてから使うかどうか迷うことにするわ。はい、王様。御約束の聖杯です」

 

「うむ。貴様もよく奮闘した。賽銭箱の改築を検討しておけよ?」

 

ガッツポーズを取る霊夢。巫女でありながら彼女は筋金入りのリアリストだ。不明な物体に、何かを託したりする事はないスレた少女。タダは信用しないタイプである。そして彼女には、狙いが別にある。

 

「さーてと、お楽しみの時間ね。確か賞金首でしょ、こいつ。掛かった首のお金は幾らくらいかしらね~♪」

♪」

 

賞金首が誰かなど、今更語るまでもない。幻想郷の転覆を二度に渡り画策した天邪鬼…鬼人正邪だ、彼女は縛られ、転がされている。

 

「力は弱者の部類な癖に、思想は誰よりも危険だなんて、改めてとんでもない頭痛の種よね…さて、どうしたものかしら…」

 

「幻想郷の管理者はお前さんだ。アタシは口をだすつもりは無いが…思想犯にテロリスト。処遇はよーく考えた方がいいぞ。どんなものでも受け入れるとしてもな」 

 

温羅は放浪の際、様々な角度で世界を見てきた。そんな中で最も平穏を破壊したのは今の正邪のような世界の理に反逆するものだということを理解している。力は弱くとも、そういった理念はやがて巨大な悪となり牙を剥くだろう。今、そうであるように。

 

「……やはり、幻想郷には置いておけないわね。追放処分が落とし所かしら。恩赦を与えるには、何もかもをやり過ぎてしまったわね」

 

「……」

 

正邪は何も答えない。むしろ、その答えを当然として受け入れている。が、今回の正邪は正気では無かった事も加味はされなければ公平では無いだろう。

 

「遅かれ早かれとはいえ、今回は聖杯の欠片をもたらしたアタシや、アタシの連れにも責任の一端がある。そこを加味してほしい…ってのは我儘かねぇ?」

 

「意外なところから助け舟が…。そもそもどうしてこんな事態になったのか。その元凶のお話、ちゃんとしてもらうわよ。温羅?」

 

「勿論だ。だから…」

 

「…いや。恩赦なんて必要ない。2度も失敗した身だ。大人しく幻想郷から出ていくよ。追放、望むところだ」

 

裁定を真っ向から受け入れる意志を示したのは、なんと誰あろう正邪だった。追放処分を受け入れる。天邪鬼らしからぬ誠実さに一同は訝しむ。

 

「潔いじゃない。一度は針妙丸を捨てて逃げ出しておきながら。よっぽど虚無は堪えたわけ?」

 

「死刑じゃないだけ良しとする。気付いただけだ。どこへ行こうと、何をしようと。私が私である限りやることは変わらない。そもそも一箇所に定住していたのが間違いだったんだ。天邪鬼は災いをもたらす生き物だからな。そんな私が一つの居場所に留まるなどおかしい。だから、言われなくても出ていくさ。そして次の場所でも何度でも目指してやる。弱者を踏みにじらない強者と、そんな世界を作るためにな」

 

「…こんな再犯に前向きな犯罪者逆に尊敬できませんかこれ。よくあんな目にあって懲りませんねぇ…あ、今のインタビューで起用させていただきます」

 

自身を庇う針妙丸を起こすでもなく、ただ渡して正邪は立ち上がる。幻想郷を出ていき、神秘が消えた世界で弱き妖怪が辿る末路は野垂れ死にしかあり得ない。だが、それで正邪はいいと考えた。弱いのはせめて、力だけであるようにと。

 

「この世界は虹みたいなものなんだ。あんたらみたいな明るい強者も、私みたいな暗い弱者も。生き延びられる場所なんてどこにでもあるさ。だから、こんな先の無い箱庭で燻る日々はおさらばだ。穏やかな停滞を貪る集落より、私はもっと大きな世界をひっくり返してみせる!」

 

「こいつ腕の一本や二本折っといた方がいいんじゃないかしら?世界の敵よこういう無駄に壮大な思想のヤツ」

 

自身の原点を知った正邪は、見違えるほどに自身の在り方を捉えていた。長い目で考えれば、世界をひっくり返すのに幻想郷である必要はない。新たな可能性、大きなうねりを見定めて進む事を正邪は選んだのだ。霊夢の忠告も最もであるが──

 

「あのー。だったら楽園に来るのはどうかな?ほら、南極って流刑地っぽいし!」

 

「リッちゃん!?」

 

その判断に助け舟を出したのは、なんとリッカであった。正邪を楽園に受け入れる、即ちそれは仲間にするという事である。だが、奇しくもそれは彼の裁定を同じくしていた。

 

「流石は我等がマスター。我等も同意見だ。たかが聖杯の欠片のみ、助力する後ろ盾もいない単独で幻想郷を崩壊一歩手前まで追い詰めた工作員、諜報員としての手腕…野垂れ死にさせるには惜しい。世界を覆すというなら、その牙を我が楽園にて磨くがいい。その反骨心、世に疎まれるからこそ歓迎するぞ?」

 

「王様まで!?ちょっ、正気!?絶対裏切るわよこいつ!?」

 

──裏切りとは、同じ道を歩むものを背中から斬ること。元から見ている世界が違う者同士、取引という形で対立を条件に同じ場所にいることはきっと叶います。正邪さんは、敵に回すととても恐ろしいと解りましたから!あわわ…

 

 

王は一つの彼女の手腕と実績を評価し、姫は彼女の恐ろしさを受け止め仲間として受け入れたいと願った。そして、そのきっかけを口にしたのはリッカである。正邪は、目を白黒させて問いかける。

 

「…私を匿う、雇うと言うことか?」

 

 

「貴様は友誼に中指を立て、友好に嫌悪を抱くさもしい生き物だ。だが、悪逆や邪悪を不要と断じて何故至尊を謳えようか。楽園追放の目に遭うなど大いに良い。神に逆らいし天使が如き気概、実に痛快だ。レクリエーションも中々に骨があった。──世界が要らぬというのなら、我等が貰い受けよう。楽園にてその反骨心、大いに磨き上げるがいい。どうだ?それともやはり幻想郷が恋しいか?ならば残念だ。この話は…」

 

「誰が恋しいものか!良いだろう行ってやる!楽園とやらで、強者になる為の全てを学んで恐ろしき妖怪の首領となってやるぞ!見ているがいいさ、いつかその楽園とやらが、世界の全てをひっくり返す瞬間をな!」

 

あっという間に乗せられる正邪。これで幻想郷随一の危険人物、正邪は楽園預かりとなった。犯罪者を野放しにすることなく、かといって死なせる事もなく。楽園にて有用に自身を活用する道を彼女は選んだのだ。いつか世界を転覆するために。ひっくり返す為に。

 

「…お前さん、これを見越して追放処分にしたわけか?だとしたら大したもんだ」

 

「えっ?え、えぇもちろん。妖怪賢者は、なんだってお見通しよ。御迷惑をかけた補填としてはあまりに小汚いけれどねおほほほ」

 

(予想外だった訳か…)

 

「よろしくね、正邪ちゃん!」

 

「馴れ馴れしくするなよ!私はお前達との取引を行ったに過ぎん。仲良くするつもりはない!」

 

「ベジータかな」

 

「良かったね、正邪…」

 

「ねぇ賞金は?賞金!無いとか言わないわよね?やっぱ殺さないと貰えないの?なら今ここで殺すわよこらぁ!」

 

「落ち着いて!落ち着いてください!?」

「こんなのが主人公なんですよねぇ…」

 

こうして、幻想郷最悪の犯罪者鬼人正邪は楽園預かりとなった。彼女はきっと、世界を変えるトリックスターとなって成長していくだろう。いつか、虹のごとき世界を目指して──




???

正邪「あいたた、早速護送だって?私に振り当てられた部署ってどこだ…?」

ニャル【やぁ。君かい?世界を変えるトリックスターを目指す跳ね返りは】

「誰だ!?」

モリアーティ「怖がらなくても大丈夫サ。私はちょっと愉快なおじさん。こちら遊び盛りのお父さん。これから君をコーチしていく先生みたいなものだ」

正邪「ふん。枯れ葉みたいな爺に焼き芋みたいな肌色の人間がなんだって?私は天邪鬼!生まれながらの悪党だ!お前らなんぞ一捻りの悪知恵と頭脳を持っているんだぞ!」

ニャル【悪知恵wそれはそれはw将来有望ですなぁ教授w】 
モリアーティ「実にわからせ、失礼。教鞭の振るい甲斐のあるガールだねェ。私達そういうの大好きなんだ。一緒に悪く、強くなって行こうね」

正邪「ふん、誰だか知らんが私の悪逆無道ぶりに腰を抜かすなよ?貴様らなんぞ一瞬でバラバラにできる程の悪知恵を持っている天邪鬼!幻想郷を滅ぼしかけた私にな!」

ニャル【あー可愛い。粋がってるクソガキが折れる瞬間ってなんであんなに可愛いんだろうね。ガビちゃん大好き。じゃあこれにサインね。よろしく】

「なになに…?これより楽園の一員、暗部となり世界の全てを玩弄する野望と共に歩むことを誓い署名します。裏切り、クーデターも楽園は赦してくださります。但し…」

──楽園に対する敵対、反逆、裏切り行為の全てを行った瞬間、私は自身の『肉体』と『精神』と『魂』、並びに『尊厳』と『知的生命体としての生命』の全てを【邪神・ニャルラトホテプ】に譲渡する事を承諾します。

「────」

この契約が履行された場合、契約に則りあなたの全てをニャルラトホテプは手に入れ、自身の考えたプランに従いあなたを弄びます。楽園に敵対する際は、自身の全てが無価値であると判断した際のやけっぱち以外は推奨できません。熟考の上、決断なさる事を推奨します──

「………………」

ニャルラトホテプ【どうした?】

「!!」

【皆書いてるんだぜ。サインしなよ。天邪鬼ちゃん】

「……わ、わかった…」

【確かに。なぁに、そんなに怖い目にはあわないさ。私達と悪い子をやっている間はね】

モリアーティ「テロの仕方、革命の煽動、工作技術…教えがいがあるぞぅ!オルガマリー君をまでとは言わないが有望だイヤッホー!」

「……………」

【さ、仲良くしようじゃないか。いつまで仲良くしていたいかは君次第だけどね。正邪ちゃん】

「…よ、よろしくお願いします…」

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