人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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今年は激動、大変な時期でしたが。毎日この小説を応援してくださり本当にありがとうございました。

いつだって、この叙事詩はあなた無くては完成しません。

先行きが見えない昨今ですが。この小説が皆様の日々を輝かせる星になっていたのなら、これ以上ない喜びです。

来年も、変わらぬ皆様との触れ合いが続きます様に。どうか、よい御年を!


 
萃香『人間っていうのは本当にズルい!卑怯だ!汚い!』

温羅『また言ってらぁ。悪酔い始まってんぞー』

萃香『酔ってない!私は素面だ!人間は本当に卑怯で、弱くてズルくて・・・!』

温羅『まぁまぁ。人間は知恵と勇気が魅力なんだって。力が強いアタシらに力で合わせろってのは酷い注文だろ?解ってやれって。人間は弱いから強くなれるんだ』

萃香『いーや!伊吹を汚したやつは許さんぞ!温羅、肩を持つならお前もだ!』

温羅『全く、鬼の割に情が深いなぁお前さんは』

勇儀『ホントホント。酔ったら人間人間また人間だもんねぇ』

萃香『は?なんでだ?私は人間嫌いだぞ?』

勇儀『気付いてないのかい?いいかい、人間が嫌いだって言うのは──』


嫌いの反対、憎悪の裏側

「くうっ・・・!な、なんだ!?この光は!?」

 

紫がリッカにメダルを渡した瞬間。辺りを包む目映い輝き。辺りを塗り潰す、覇者の輝き。誰もが目を離せない程の煌めき。

 

「人間は卑怯。そう言ったわね。私から言わせてもらえば、自身の強靭さを棚に上げて対等の土俵へ引きずろうとする今の貴女は、傲慢よ」

 

「・・・!」

 

「弱き者がいるからこそ、強きものは真価を問われる。他者を慈しむか、虐げるか。奪うか、護るか。其処で略奪と暴虐を選んだからこそのあなたたち、鬼と呼ばれる種族。ならば、人は必ずあなたたちを退治しに来る。それをあなたたちは絆と称した。──遠きに人間は手放してしまったけれど。でも、その絆はやがて、巡りに巡って・・・」

 

──黄金の光の中から、リッカが現れる。しかし、その姿は先程の機械的かつ、近未来的な鎧ではない。その姿は、ガッチリと身体にフィットしたパワードアーマースーツ。黒きインナーの上に、四肢を強力にブーストするであろう白アーマー、鋭角的にして武骨極まる鎧姿に、頭部にはフェイスギアに額に一つ、側頭部四本、Lと」の字に折れた五本の角。

 

「あなたたちの力を受け止める程に高まったのよ。鬼が精強であったと同時に、人が脆弱であったのもまた、昔の話」

 

『──うぉおぉおぉおぉおぉお!!』

 

猛然と突撃する人鬼形態、グランドレッキングパワー。その力を受け止めたリッカが、萃香めがけて右の豪腕を振るう。その勢いは、風圧で空間を引き裂く程の唸りを上げている脅威的な剛力が込められていると本能に訴えかける。

 

「くっ!?」

 

慌てて萃香が防御を固めるも、リッカは構わずその豪腕を、微塵の減衰なく振るい、叩き付ける──!

 

『シャオラァアァアッ!!』

 

「ぐわぁあーっ!!?」

 

そのラリアットを受け止めた萃香の視界が何度となく反転する。強靭極まる鬼の、鬼神の力を束ねた力を込めたグランドレッキングパワー。なんの技も小細工もない肉弾戦の一手のみで、なんと萃香をその場で何回転もさせながら浮遊させたのだ。

 

「ラリアットーっ!!これにはスタン・ハンセンもニッコリのキレキレっぶりー!リッちゃんの背中に鬼神が見えますね!」

 

「あの河童は誰が使うことを想定して作ったのかが非常に気になりますが・・・まぁ勢いの前には無粋ですね!やっちゃってくださーい!」

 

(こ、この力・・・!人間が、こんな力を出せるようになったのか!?私達と同じ、それ以上の力を・・・!)

 

石畳に叩き付けられながら、驚愕に息を飲む萃香。かつて自身らが振るっていた、或いはそれを遥かに越える剛力無双、怪力乱神。

 

(こんな力を、人間が・・・!いかん!追撃が来る・・・!)

 

咄嗟に顔を上げ、反撃に備え睨み付ける萃香の前に差し出されたのは──

 

『・・・』

「お、お前・・・」

 

助け起こす為に差し出された手。鬼の様に力強く、鬼神の様に強靭で・・・人のように、誰かに手を差し伸べられる。その合一を示す手を、萃香に差し出すリッカ。

 

『一方的じゃ意味が無い。萃香ちゃんが求めているのは、人と鬼のガチンコ勝負!でしょ?』

「そ、そうだけど・・・まさか・・・」

 

『言ったでしょ、付き合うって!さぁ手を取って──シャオラァ!来いオラァ!!』

 

一転、挑発を交え立ち上がれと鼓舞する。それは血が凍り肉がすくむ殺し合いではない。ルールとリスペクト、互いのフェアネスの上に成り立つ・・・

 

「──決闘!そう言うんだな、人間!いや、藤丸リッカ!ならば──見せてやる!!」

 

手を取ると同時にリッカに反撃で叩き込まれるラリアットの返礼。今度はリッカが何メートルも吹き飛ばされる番だ。萃香久方ぶりの、本気の一撃を直撃である。

 

『ぐはぁっ!!ぐぬうぅうっ!』

 

「リッカさんに渾身のラリアットが炸裂ゥ!大ダメージを受け吹き飛ぶも受け身を取り跳ね起きるリッカ選手!おっと大地を深く蹴って行くか!行くか!行くのか!?」

 

『ダァーーーーッ!!!』

 

「うぶぉおぉう!!?」

 

「行ったーっ!!全身全霊の飛翔体当たりーっ!!下は石畳!鬼じゃなければ確実に死んでいるガチガチのファイト!これは悲想天式の勝負!弾幕勝負であるのかぁ!?」

 

「・・・レスです・・・!」

 

「はい?どうしました早苗さん!?」

 

「プロレスです・・・!リッカちゃんは萃香さんとプロレスをやっているんです!互いのリスペクトの上に成り立つ!エンターテイメントバトル!それがプロレス!肉体と肉体のぶつかり合い・・・!!人と鬼が今!同じルールの下に戦っているんですよっ!これは歴史的!歴史的瞬間です!!」

 

早苗の言葉通り、それは相手を排除する戦いとはまるで違う。相手の攻撃を受け止め、避けない。膝をつかなければ掠り当たり(グレイズ)扱いにて、リッカが叩き込み、萃香が叩き込み、萃香が受け、リッカが受ける。それはまさに受け手とかけ手が織り成すバトルの姿。見るものを湧かせるファイト、プロレスの形式だったのだ。

 

「思えば弾幕もプロレスも、凄惨極まる殺し合いを清廉し、研鑽し、競技に昇華したという点では同じものね。鬼を排除するのではなく、リスペクトの下に鬼の力を束ねる。力の責任と使い方を理解している者にしか出来ない選択・・・」

 

『だらっしゃあぁぁあ!!』

「ぬわぁあぁあぁ!!」

 

バックドロップにて萃香を叩き付け、リッカの身体が美しいボディブリッジを描く。深々と突き刺さる、萃香の上半身。

 

「だから、なのね。頂点を極める力を有していたとしても、相手への思いやりを忘れない彼女だからこそ、温羅は自身の力を託し、二人の鬼の力を纏め上げた」

 

「うぉおりゃあぁあぁ!!」

『ふんぬぁあぁあぁあぁ!!』

 

萃香の行うジャイアントスイング。投げ飛ばされ、御柱に叩き付けられた全身の衝撃を耐え抜くリッカ。

 

「どんなに恨まれても、憎まれても。それが言い掛かりであっても・・・受け止め、鬼すらも愛するような善良な心を宿す真の『強さ』を持つ彼女になら、託してもいい。そんな思いを込めて・・・」

 

『だっ!だっ!ダァーーーーッ!!』

「しゃい!しゃい!しゃいやぁ!!」

 

足を止めてのチョップの打ち合い。余波にて嵐が巻き起こる程の、剛力無双の大激突。

 

「あなたは、力を託したのね。・・・鬼の傷を、癒すことの出来る存在として、彼女に。遥か過去の悔恨を癒すために、彼女に・・・」

 

「行けーっ!!リッちゃん!行け!行けーッ!!」

 

「あなたは大スクープを産み出す卵なんです!期待外れだったなんて記事、書きたくないんですからねーっ!」

 

真っ正面から殴り合い、ぶつかり合い一歩も引かないその在り方に、滾る血を応援にぶつける人間に妖怪。今、この場にいる者の心は一つになっている。種族を越えて、理屈を越えて。

 

「これが、人類と鬼の『絆』。弱き人間、強き鬼が擦れ違った、袂を別かった遥か過去からついに結ばれた、本当の──」

 

『ぬぅうぅうぅうぅう!!』

「ぬがあぁあぁあぁあ!!」

 

真正面から、がっつり組み合う鬼と人。一歩も退かない両者に、声援を送る早苗に文。

 

(──あなたが楽園のマスターで、本当に良かったわ。あなたでなくては出来なかった)

 

其処に憎しみはない。恐れもない。敵意も無い。勇気と決意のみで、鬼に身を委ね、鬼と対峙し、鬼の傷を癒していく。

 

(温羅が認めた人間があなたで、本当に良かったわ。あなただから──こんなにも)

 

人、鬼。神、妖怪。其処には哀しみも憎しみも区別も差別も無い。確かな一体感が、絆が生まれている。

 

(こんなにも・・・素敵な光景を作り出せたのだものね──)

 

紫もまた、静かに俯く。自らが勧誘した鬼神への選択が、間違いでなかった事に深く安堵し、また感銘を感じながら。その光景を焼き付ける──

 

 




萃香(不思議だな・・・こんな日が来るとは思っていなかった。人は弱く、遠くにて私達を恐れるものだと思っていた)

リッカ『ぬぅうぅうぅうぅう!がぁあぁあぁあ!!』

(でも、今はこんなに近い。こんなに強い。鬼と、真っ正面から争えるくらいに人は強くなった・・・いや、違う)

温羅『ぉおぉお!!』
リッカ『うぉおりゃあぁあぁ!!』
勇儀『気張りなよ、人間!』

(温羅、勇儀。お前たちが支えてるんだな。人間を、優しく強く支えているんだな。人間を恨まず、憎まず。この女の子を。人間を)

萃香「く、ぅ・・・!」

(人間と鬼が今、こんなにも近い。・・・でも、私は馬鹿な事をした。昔の事を、彼女がしたわけじゃない事を八つ当たりしてしまった。こんな私は、もう鬼でいていい筈がない。私はもう──)

『ありがとう、ございます!!萃香ちゃん!』
「え・・・?」

『私に、温羅ネキと!勇儀さんと・・・!何より、あなたが!力を貸してくれたから!人間はやっと、あなたたちとこうして戦えるくらいにまで強くなれました!私達人間を・・・!弱い人間を・・・!』

「・・・!」

『愛してくださって・・・!!ありがとうございました!!!』

「・・・愛し・・・」

(・・・・・・あぁ、そっか。裏切られたと感じたのは。騙されて憎いとかんじたのは・・・そっか)

『ぬぅうぅうぅうぅうぉおぉおぉおぉおぉおぉおりゃあぁあぁあぁ!!!』

早苗「行けーーっ!!リッちゃん!!いけーっ!!」
文「押しきっちゃってくださーーい!!」



萃香『人間は卑怯者だ!私達を卑怯な手で!ゆるせん!ゆるせんぞー!』

勇儀『ははっ。ショックなのかい?なら、あんたはあれだね。人間の事、好きだったんだねぇ』

萃香『は?好きなわけないだろ!だって──』

勇儀『私よりずっと情が深いさ。温羅にそのうち教えてもらいなよ。嫌いだってことは、憎いってことは──』



萃香「───そうだな。うん、そうだ。やっぱり──」

『だぁあぁあらっしゃあぁあぁあぁぁ!!!』

押しきり、叩き込まれる。渾身の──ドロップキック。叩き込まれた御柱が粉々に砕かれる。

「私は──お前達人間が・・・」

弱く、騙し、蔑み、畏れ。そして今、敬い、戦い、挑み。乗り越える。そんな人間が何よりも──

「──好きだったんだなぁ。やっと気付いたぞ。勇儀。温羅──」

早苗「ワーーン!!!」

文「つー!!」

紫「──スリー!」


リッカ『ダァーーーーーーッッッッ!!』

仰向けに倒れ、晴れ晴れと空を見上げる萃香。同時に、リッカの勝鬨が高く高く、木霊した──

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