人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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騎士王『最終決戦ですか。勝算は如何程です?』

御機嫌王「随分とリラックスしているが故の緩き問いよな。我等がいるのだ、十割に決まっていよう」

『ふふ、そうでした。どうです?頼まれたものは渡してくださいましたか?』

「装備の新調と、寝ている際にな。後はヤツ次第だが・・・もう一押しが必要だ。だが、問題はあるまい」

『?』

「口先の魔術師ならば当てがある。よもや顔見せだけで楽園に参列できるとは思っておるまい。なぁ──夢魔よ」




マギ☆マリ「御馳走様!あー、食べたらお腹がむずむずしてきちゃった!店長!お手洗い借りるね!」

【早い消化ペースだな・・・】

「女性ならでは♪借りまーす!」

女子トイレ

「──小さな小窓が、此処には一つ──」




ギルガメス「──ふん。話にならん。エアの風圧を放っただけで跡形もなく消し飛ぶとはな」

風圧を放った先には、何も残っていなかった。イシュタルも、マンドリカルドも、リリィすらも。

「花嫁候補に最も近い見目であったが、死んだのであれば落第よ。手ずから調教してやる甲斐も無かったな。下らん・・・ならば終わらせるぞ。ジグラッド、主砲用意。天の理にて終わらせてくれる──」



マンドリカルド「あ、あれ・・・俺、俺らは・・・?」

ツクヨミ【だ、大丈夫・・・?】

ヘクトール「おいおい、若者がへばるにゃ早いって思うんだけどねぇ?」

「!」



イシュタル「・・・私は・・・」

スペース柳生【おや、一休みですかな?それなら一つ、舞は如何か】

「!?ダンサー柳生・・・!?生きてたの!?」


何のためか、誰のための夢か

「えっ、あれっ・・・ここは・・・?」

 

ギルガメスの渾身の一撃を受け、それでも作動しなかった理想郷の護り。直撃した自分が見ているのは座の光景・・・ではなく。花が咲き乱れ、暖かい陽射しが差し込むこの世の理想郷がごとき風景。リリィは今、自分が夢を見ているような錯覚を覚える。原則として、サーヴァントが夢を見ることは無いにも関わらずだ。それほど、目の前の風景は穏やかで暖かい。

 

「私は、ギルガメスと戦っていて・・・防ぐはずの一撃を防げなくて・・・それで・・・」

 

『それは、君の心が迷ったからだね。ギルガメスの紛れもない王の在り方を見て、自分もいずれ成るであろう『王』という存在に畏怖を懐いた。王の理想郷は、恐れた心では辿り着けない』

 

リリィの耳に、理想郷に響き渡る声がある。自分の声とそっくりなような、それでいて違うような・・・しかし声は、真理を衝いていた。

 

「私は・・・王を、未来を畏れた・・・王の選択一つで世界が、宇宙が滅ぶことを知って、それで・・・」

 

その心に、生じたもの。それが理想郷への道を曇らせた。王という存在の恐ろしさ、責任と言ったものが王へと至る道筋を歩むリリィを畏怖させた。戦う決断が僅かに鈍ったからこそ、王より託されし理想郷は応じなかったと声は言う。

 

『うん、まぁ解るよ。王が愚かなら国は滅ぶだろう。王が暗ければ国は迷うだろう。極論、国は王のものだからね。ギルガメス・・・というより英雄王は紛れもなく王の中の王。君はその王という存在そのものに畏れを懐いたんだね』

 

声に頷くリリィ。その声の主は見えないが、その声は静かに彼女の悩みを言い当てる。大義ではなく、癇癪や自らの失敗で宇宙を滅ぼせる程の力を持つ王の姿に、自分の行き着く未来と先を重ねてしまったが故に。

 

「未来や希望を掴むだけではなく、絶望と苦難ももたらす事が叶う王という存在・・・私に、なれるのでしょうか。或いは、なってしまうのでしょうか。ギルガメスのような、破壊と苦難をもたらすような暴君に・・・具体的にはジャンクフード食べてばかりな暴君に・・・」

 

『うーん、そうだなぁ・・・月並みだけど、それは君次第だ。選定の剣を握るあり得ざるifの君は、とても稀少な成長する未来を持っている。英霊でありながら、君には成長する未来があるし、選べる未来がある。君が見たギルガメスの王道は、孤高と慢心の究極の形というべきものだろう。当然、そんな未来もあるかもね』

 

そう。未来は定まっていない以上絶対はない。ギルガメスのような己のみを是とする絶対王者の道すらもリリィにはあるかもしれない。そんな未来をリリィが畏れたと言うのなら、無理なき事だ。

 

『しかし畏れたということは、そんな姿は嫌だと思ったということでもあるんだよ。私はならない、そうはならないと目をそらすことこそが危ない。その点なら、きっと君はまだ大丈夫さ』

 

「まだ、大丈夫・・・」

 

『君はこのユニヴァースに来てから、いや来る前から。たくさんの王、ifに触れ、見てきた筈だ。自分の行く末が解らなくなったら、恐ろしくなったならそっと思い返してごらん。君の旅路の道標は、きっと君の心が務めてくれる筈だよ』

 

花吹雪が舞い上がる。そして空に光景が浮かぶ。其処には、彼女が見てきた旅路の数々が映し出された。

 

「皆さん・・・!」

 

物資を懸命に送るフランスのマリー、威光にて皆を鼓舞するロムルス。神々の祈りを束ね、祝福するイザナミ。ギリシャの未来を案ずる姉弟・・・この宇宙で出逢ってきた者たちが今、宇宙で懸命に戦っている。

 

『立場や名称は違えども、彼等は君が目指す場所にいる偉大な先輩方だ。そして何より、君は誰よりも痛快な旅路を進む王を知っている筈だよ?』

 

そして、その奮闘を愉しげに、誇らしげに見つめているは虹色の獣と白金の魂を侍らせし英雄王。ギルガメスと同じでありながら全く違う、世界の全てを愉しむ御機嫌王だ。彼の下に集う財宝たちは、誰一人絶望していない。ギルガメスと懸命に、奮闘し続けている。

 

『王道は確かに一人で歩まなくてはならないし、責任もとても重大だ。でもねリリィ、王とは孤高でなくてはならないという決まりは無いんだよ。そうだろう?皆と笑う王がいてもいい。自分の宝物の輝きを愉しみ、ついでに世界を救う王がいてもいい。何よりも正しく、人が人であるための規範そのものたる王がいてもいい。君が目指すべき道は、そういうものなんだよ』

 

絶対的に正しい王道はない。そんな王道があれば、人類の多様性は潰えるからだ。しかし、王道に間違いなども決してない。切り拓いた王の道は、今の世にも素晴らしき軌跡となって語り継がれている。

 

『未知なる困難に挑み、乗り越える猛る魂の道を『覇道』。人が美しく、絶望にも理想を失わない輝きの模範を『騎士道』。誰もが望み、誰もが魅せられ、誰もが納得し礼賛する問答無用を『王道』と呼ぶ。私が知る限り、こんなにも素晴らしい道があるんだ。ギルガメス一人で歩みを止めてしまうのはもったいないと思わない?君は、どんな王になりたかったんだい?』

 

あの日、選定の剣を抜いた日。自分はどんな王になりたかったのか。どんな未来を夢見ていたのか。それを問われしリリィ。

 

「・・・正直、具体的な王道は考えていませんでした。ただ、自分自身に出来るなら、とばかり。でも・・・今は」

 

『今は、どうかな?』

 

「今は・・・まだ、求めていたいです。私がどんな王になるのか、どんな未来に進むのか。その答えを、皆で一緒に探していきたい、この旅路を進んでいきたいです!私だけの旅路・・・マーリンが導いてくれた、花の旅路を!」

 

その決意を、理想郷に告げた瞬間。リリィの胸に託された(御機嫌王がこっそり入れておいた)理想郷──聖剣の鞘が輝きを放つ。彼女の決意が、王の意志を宿した証。高潔な未来へ進んだ証としての輝きをだ。

 

『うん。実に素晴らしい答えだ。解らないという事は希望だ。知りたいという想いは活力だ。その初心とがむしゃらさがあれば、きっと君は王となれる。もしかしたら・・・人の心に寄り添える、君だけの王様にね。ふふ、期待しすぎかな?』

 

「そ、それはまだ解りませんが・・・!とにかく、ありがとうございました!えっと、その、お名前は・・・!」

 

『どういたしまして。私の存在なんて知る必要はないよ。どこかのカレー屋のトイレの小窓で、君を見ているお姉さんかもしれないし。またいつ会えるかも解らないしね。ただ──』

 

声が遠下がっていく。夢が、終わる。

 

『君達の頑張りと旅路のファンになっちゃってね。こんなところでルート変更されたくないんだよね。気合い入れてよリリィ君。君にかかってるんだから!頑張って!かぶりつきで見てる私の為に!』

 

「その悪戯好きで傍迷惑な物言い!まさか、まさか貴女は──!」

 

『それはきっと言わぬが花さ!それでは麗しいリリィ君!私のあげた聖剣、うまく使ってくれ!もし期待外れな真似をしたら夢枕に毎日立ってやるつもりだから気合い入れて頑張るんだよー!』

 

「待ってください謎の声さん!マーリン!マーリン──!!」

 

最早秘匿の意味をなさない本名の絶叫と共に、優しい夢は終わりを告げる。なんのことはない、ただの白昼夢か走馬灯の類い。

 

──しかし、リリィの内に眠る理想郷には、確かに届いていたのである。無責任ながらも、確かな激励が──

 




「聞こえるかシドゥリ、直ちに──」

ギルガメスが最終裁定を下さんとした、その時だった。

リリィ「いいえ、まだ終わってなんかいません!」

ギルガメス「ぬ?」

リリィ「──戦いは、これからです!」

イシュタル「・・・(座禅)」

マンドリカルド「今の俺は──負ける気が、しねぇすよ・・・!」

ギルガメス「・・・何処の夢に惑っていたかは知らぬが・・・よい顔をするではないか」

瞬きの夢にて垣間見た景色に従い、決意を新たにした三人を再び目の当たりにし、ギルガメスは不敵に笑みを溢す。最終決戦にふさわしき面持ちの三人に向けて──

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