人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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イアソン「聞こえるかドゥン・スタリオン組!こっちに戻れ!船を繋げろ!普通じゃないぞこの嵐は!」

XX『やってます!やってますが・・・!ハデス神のクリロノミア強化して組み上げたドゥン・スタリオンでなかったらバラバラでした!』

ナイア『機動性を重視した小型さが仇になりましたか・・・』

ロマン「そもそもなんだいこの嵐!どうなっているのかな!?」

ロリンチ『泣き言は後にしてー!艦体がひっくり返りそうだ!オートにして乗り切るよー!』

オリオン「こいつぁ、親父の力に間違いねぇ!だがこの見境無しぶりはなんだ!どうなってる!?」

エレシュキガル「だわわわわわわわわわわわ」

マンドリカルド「げぇっ!ふ、船酔、うぉえ・・・!!」

イアソン「落ち着け!やるべき事をやるだけだ!ロマニどもはさっさと解析しろ!俺は──」

(──ヘルメス・クリロノミア・・・別動艦・・・ポセイドン神殿・・・魔獣・・・暴風雨・・・)

イアソン「───しゃあねぇ!面倒だが、やるしかねぇか・・・!!」



意地があんだよ!キャプテンには!

「計算結果からして、此処から出るにしても向かうにしても!僕たちはポセイドン神殿に行かなくちゃいけない!この嵐を起こしているのは海神ポセイドンの力だ!指向性は感じられないから防衛機構なんだろう!キャプテン、わかったかい!?」

 

荒れ狂うポセイドン神殿周辺にて嵐に巻き込まれるイアソン率いるゴージャス・アルゴノーツ。絶えず揺すられる暴風、耳を打ち付ける雨の音。それら気を緩めれば一瞬で轟沈するレベルの神威の嵐の中、スキャンを任せていたロマンが結果を導き出す。イアソンはそれを聞いて、自分の気合い入れ代わりに頬を叩く。

 

「要するに、引くにも進むにも覚悟を決めるしか無いって事だろ!なら──」

 

『こちらXX!イアソンキャプテン!私達が道を切り拓く!ドゥン・スタリオン組が先行しますか!?』

 

XXの言葉に、イアソンは不適に笑う。その通信を聞き、コンソールを叩き決断を下す。

 

「いいや!『ゴールで待ってろ!』すぐに──」

 

『え!?』

 

「追い付くからよぉッ!!」

 

イアソンがドゥン・スタリオンに向けたもの。授けたもの──それは『ヘルメス・クリロノミア』。ゴルドルフに渡す予定だったものだが、それをドゥン・スタリオンのワープ機能に転送し、使用する。天空や冥界を自在に駆け巡る伝令神。そのクリロノミアの効果とは即ち──『令呪行使クラスの転移』である。スタリオンは一瞬でワープする。渦中のポセイドン神殿に、そして──

 

「オリオン!お前もだ!万が一だがニャルにも伝えろ!ナイアにXX!非常にポセイドン好みだからな!護衛しろ護衛ィ!」

 

「あ、おい──!?」

 

オリオンにもクリロノミアを使用し、ドゥン・スタリオンに移した上でポセイドン神殿前に移行させる。此処には、イアソンがニャルより借り受けたアルゴノーツ船のみとなる。先に安全宙域に、自身がいない船の輩を転移させたのだ。お土産に使う筈であった物を使ったことに軽く笑う。

 

「悪いな、ゴルドルフ。贅肉と脂肪は自分の努力で落としてくれ。土産なしだが笑って許せよ」

 

「キ、キャプテン・イアソン!何をするつもりだ!?」

 

「慌てた姿を見せるなよラクシュミー。俺達の背中を見ている奴等がいるんだぞ?いいかラクシュミー、胸を張れ。お前の胸は薄めだが張りはあるだろ」

 

「何をするかと聞いているんだ!キャプテン・イアソン!」

 

「決まってるだろ。荒波、暴風雨の海を前にして、キャプテンがやることといったら──」

 

ゴキゴキと拳を鳴らし、アルゴノーツを率いるキャプテン・・・かつて英雄を纏め上げし英雄達のキャプテンは操舵を行うために──

 

「──船を操り!荒波を越える以外にやることなんざ無いだろうがぁーーーッ!!」

 

全艦操縦をマニュアルにし、あえて──あえて海神が荒れ狂う荒波の領域に自らの腕を頼りに突っ込んでいく──!

 

「うわぁあぁあぁあぁ!!?」

 

「落ち、落ちる!?上がる!?落ちるぅうぅ!?」

 

衝撃と振動、巨人にシェイクされるような圧倒的なダメージ。船内にいるクルーがあわや船内のあらゆる場所に叩きつけられるといった瞬間、神殿たる『竈』に祈りを捧げたことによる報いが、此処に結実する。

 

「大丈夫よ~。皆の安全は保証するからぁ~」

 

ヘスティア・クリロノミア。効果範囲内にいる者達の生命活動を保証する絶対安全圏を作り出す神の柔らかな威光。イアソンの船とクルー達の突然死を、女神の慈愛が遠ざける。

 

「この為にヘスティア神をこっちに乗せていた!あっちの船はハデス神から貰って組み上げたXXのドゥン・スタリオン!そいつをいざとなりゃヘルメスのクリロノミアで強制転移させて安全圏に!そうすりゃぁ護るのは自分達だけでいいわけだ!それならヘスティア神にクルーの安全を護ってもらえば!」

 

「キャプテン・イアソン・・・初めからそのつもりで──!?」

 

「後はオレの!操舵の腕前次第だからなぁーッ!!

 

クルーの無事を保証されたなら、後はキャプテンの仕事。そう確信したイアソンは猛烈に荒れ狂う大海に船を飛び込ませた。一刻一刻と変化していく波や風の算出を見切り、読み取り、船体を安全圏たるポセイドン神殿へと直進させていく。

 

「無茶だキャプテン!こんな荒れ狂う波を補助も無しに向かうと言うのか!?確かにヘルメス・クリロノミアは少量で、片方の宇宙船しかワープさせられないのは解る!だが、だがしかし・・・!」

 

一瞬でも気を抜けば粉々に吹き飛ぶ程の猛烈な嵐。魔獣達は直接死にはせずとも波に沈んでいく程の神威。そんな暴風雨と嵐、荒れ狂う神の領域に、イアソンは今自分の腕だけで挑んでいる。ラクシュミーからしてみても自殺行為、あまりに分の悪い賭け。ワープも出来ない以上、自身の操舵で向かうしかないのだ。だが、それを行うイアソンの顔に、前方を睨むキャプテンに恐れはまるで無い。彼が見ているものは、かつての自身の醜態だ。

 

「黙って見てろラクシュミー!お前は知らないかもだが、パチモンのオケアノスで俺は恥を晒した!思い出すだけで死にたくなる程のガチなヤツだ!サイコの嫁に持ち上げられ、うまい棒の集合体みたいなバケモンに魂と誇りを売った!ヘラクレスにいらん黒星をつけさせた!あぁいや、あの金ぴかとプラチナ姫のコンビとアキレウスとアーチャーヘラクレスだったから仕方無いのか!?まぁそれにしてもだ!オレはなぁ!最悪の第二の生を刻んじまったんだ!やるせなくて、ゲロ吐くくらいに胸糞な生をな!」

 

『イアソン・・・』

 

「だから今度こそ!今度こそオレは英雄でなくっちゃあならないんだ!アルゴノーツを纏め上げた大英雄イアソン様として!加えて此処は未知の宇宙!未知の領域!ならアルゴノーツ全ての看板を背負うこのオレが──!」

 

目の前を覆う巨大な津波。一際高い高波だ。艦を丸々覆う程の巨大な高波。だが、イアソンは一瞬たりとも目を離さない。

 

「ヘマして泥を塗るような真似をする筈が無いだろうがよぉ──!!」

 

神業のセイル操りと操舵の技術にて高波を越え、瞬時に安定を取り戻す。イアソンは戦闘能力は低い。皆無といっていい。それと調子に乗りやすい性格から、彼を侮るものもいる。

 

しかし、彼は英雄だ。いや、ギリシャの古今東西の英雄を弁舌でその気にさせ、カリスマで纏め上げた押しも押されぬ大英雄だ。そんな彼は追い詰められなくては本気を出さず、調子に乗ったら必ず破滅する性分だ。だがしかし、そんなイアソンがレジスタンス側で追い込まれた側にいたとしたら。自身を正しく評価し、更にアルゴノーツ全ての看板を背負い困難に挑むとしたら。即ち、今の状況のような『落ち着いて挑めるピンチ』に出逢う職場にいられたのだとしたら。

 

「す、凄い・・・!嵐の中、光も星も見えないのにただ、勘で進んでる・・・!?」

 

「いやいやなんだいそれ!?正解のルートが無いのに正解に進んでる!?バカな、千里眼でしかそんな真似──!」

 

「舐めるなよロマニ!確かにオレは武力じゃヘボい、頭も良くないし魔術とか知らん!終わりはそりゃあダサいもんだ!部員のやつらにも金ぴかにも下敷きとバカにされてきた!だがなぁ!」

 

魔獣達が行く手を阻む。だがその攻撃や触手、突撃を波や風を盾にする形で完全に回避する。それはまさに、船を自分の身体として漸く至る操舵の極致。

 

「オレをどこぞのワカメ高校生みてーないいとこなしの屑と侮るんじゃあねー!!ただのクズの下に!ヘラクレスその他大勢が集まるかよォ!!」

 

跳ね上げられた瞬間、遠くに在る僅かな影を見る。篝火の火。針の穴より小さいそれをキャプテンの視力が捉え、それに向かい突き進む。

 

「カリスマ!弁舌!操舵!そして何より!『困難を乗り越える知恵と勇気』!そいつだけは!そいつだけはヘラクレスにも負けてねぇし負ける気もねぇ!オレはイアソン!未来の王イアソンなんだぜ!たかが神の起こした試練なんぞ──!」

 

「──!!」

 

大口を開けた魚の魔獣が進路に待ち受ける。しかしイアソンは怯まない。アクセルを全開にし──!

 

仲間達(ばかやろうども)と越えていくんだよ!何度でも!これまでも!!これからもなぁーーッ!!!」

 

バリア前面展開によって真っ正面からぶち当たり粉砕する──!これこそがアルゴノーツ船長、これこそが知恵と勇気の大英雄──

 

『──えぇ、お見事です。イアソン』

 

ヘラクレスの親友・・・──キャプテン・イアソンである──!




マカリオス「す、すげぇ・・・!」

アデーレ「ポセイドン様の嵐をものともしない・・・これが、スペース・アルゴノーツ船長の本当の力・・・!?」

マンドリカルド(酔った)

エレシュキガル(気絶)

イアソン「他人だ他人!いいかラクシュミー!俺達は英雄だ!こいつらみたいな一般人が憧れる存在だろうが!アタフタしてんじゃねー!どーんと構えてろ!俺達がこうしてサーヴァントやってるのはどんな形であれ!頼りにされてるって事なんだからなぁ!!」

ラクシュミー「・・・あぁ。そうだ。その通りだ!」

「解りゃあいい!このまま──何ぃ!?」

瞬間、魔獣達の群れが眼前に立ちはだかる。そしてその群れを排除するため、連鎖的に最悪の事態が起こる──

(何千メートルあるんだこの津波は!?や、やべぇ!押し潰される・・・!!)

艦と魔獣を押し潰す巨大な津波。それが神殿の目と鼻の先で巻き起こる。知恵と勇気ではどうにもならない、絶対的な神威。イアソンは──死を覚悟する。

(死んでたまるかよ!!楽園のバカどもの痛快な旅路に泥を塗るのだけは──マトモになったヘラクレスの顔に泥を塗るのだけはゴメンだぜ──!)

せめて目線だけは、魂だけは屈さずに津波を睨み付けるイアソン。魔獣達も飲み込まれんとした、その時──

XX「ダブル!ダイナミーーーーック!!!!!」

蒼銀の軌跡が閃いた。世界の秩序を担う一閃が閃いた。それは、同じ神──『女神』のアーテファクト。ならば、そんな奇跡すら起きる。

ロマン「な、波が!津波がX字に!?」

ナイア『御心配なさらず、私もXXも本気です』

そして輝くは、光の一閃。宇宙そのものたる輝きの一端がその聖約を果たし、魔なる獣を瞬時に消し去る。

ダ・ヴィンチちゃん「シャ、シャイニングトラペゾヘドロン・・・!」

オリオン『そこにいるな!よーし、錨で引っ張ってやるよ!』

船に投げられる鎖と錨。オリオンの剛力で巻き付けられたそれは、イアソンらの船を強引にゴールへと引き寄せる。──辿り、ついたのだ。

イアソン「・・・なんとか、なったか。死ぬかと、思った・・・」

ラクシュミー「・・・計算、していたのか・・・?」

ヘルメス・クリロノミアで先にワープさせることも。ポセイドン神殿から脅威を挟み撃ちすることも、こうして、オリオンに回収してもらうことも。全て計算していたのかと。ラクシュミーは問うた。それに対し、イアソンはただ一言。

「──クルーをアテにしない船長がいるか、バカ」

呆然とするラクシュミーにそれだけを告げ、イアソンは腰を砕き倒れ込んだのだった──。

場所

ポセイドン神殿

犠牲者

無し


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