人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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塾星サジタリウス・上空

イアソン「ナイア、XX。ボーダーを護っておけ。すぐに戻るからな」

ナイア「了解しました!」

XX「お留守番とはご無体な!まぁいいです、カップ麺食べて待ってますからね!」

イアソン「悪いな。なんていうか・・・ギリシャ意識的に、お前らみたいなボディラインは近付けたら不味いと身に染みててな」

ダ・ヴィンチちゃん「解る!解るよ!絶世の美女だもんね!なら私も待ってようかな?誰がどうみても!黄金の肉体だからさっ!(キラン)」

ロマン「君中身おじさんじゃないか」

イアソン「さっさと支度しろよ」

ダ・ヴィンチちゃん「ムッかつくぅー!!」

マカリオス「き、緊張するな・・・ケイローン様の塾か・・・毎年入講倍率百倍な塾としか聞いてなかったけど・・・」

ラクシュミー「そんなにか・・・!?」

マンドリカルド(学校とか地獄じゃないっすかね・・・)

エレシュキガル(学園・・・憧れなのだわ・・・)

なんやかんやで、一同はケイローンの星へ降下する──


備えあれば、嬉しいものです

「・・・変わらないな。いや、変わらないのはアイツの性根や性格って事か。どこの世界でも、アイツは教える事を生き甲斐にしてたからな」

 

イアソンの言葉が、ケイローンの地である場所、塾星サジタリウスの景観を見た最初の所感となって消えていく。感慨深げに伝えられたその形容の通り、彼の知るケイローンの人となりと、皆がイメージする大賢者の在り方は寸分違わず残っていた。

 

「綺麗、っすね。どこもかしこも散らかってなくて、整理整頓の基本みたいな感じで。川も、教室も広場も、さっきまで人がいたみたいで」

 

そう、この場所は寸分違わず片付いていた。滅亡の憂き目にあったとは思えない程に整っていたのだ。河は汚れる事なく、星は陰る事なく、宿舎は壊れる事なく。誰かが訪れる事を見越していた様に整頓されている。誰かが手入れしているかの様な、ある種神秘的ですらある有り様だ。とても、誰もがいなくなったとは思えない風景。ただちょっと席を外しているだけ。そんな錯覚すら起こす程の、在りし日の風景が其処に健在だったのだ。

 

「これが、大賢者ケイローンの根城・・・噂に違わず、素晴らしい人・・・だったんだな。人って言われるの、あの御方は気に入らないかもしれないけど」

 

「気にするなマカリオス。あーと、リッカが読んでた漫画の二代目ジョジョの名前はなんだったか・・・とにかくソイツだソイツ。粗野で野蛮なケンタウロス、ひいては粗暴なギリシャの風土の数少ない例外だぞ、ケイローンはな」

 

ケイローンの種族、ケンタウロスは気性が荒く乱暴で酒飲みの大食らい。酔っ払うと暴れだすためにパーティーや宴では絶対に声をかけてはならないとされる種族だ。女性を見たら所構わず手を出し過ちをしようとするため、そういった意味でも女性が近付くことはサバンナに肉を巻き付けて歩き回る様なものである程に危険だ。ヘラクレスも試練の最中、このケンタウロスという種族といさかいを起こした過去がある。

 

「おーい皆!凄いぞ、文献や書斎が分かりやすく区分けされて、ギリシャの色んな図解や理解ができる書物が盛りだくさんだ!これが今の今まで手付かずだなんて、本当に信じられない程にね!」

 

ロマンの言う通り、彼が分かりやすく纏めた文献、歴史の編纂書もまた手付かずのままに保管、安置されている事が確認された。何処までも誰かを導き、誰かに教える事を生き甲斐としていたケイローンだ、もしくはこうなった瞬間に読み切っていたのかもしれない。誰かに希望を託すことが最適解であると。銀河警察の1日所長の様に。

 

「・・・よぉし!感傷はここら辺にして、俺達は此処にある物資を纏めていただいていくぞ!なぁに心配するな、もう持ち主は誰もいない筈だからな!」

 

「本当に、いいのね?」

 

「いいんだよ、ケイローンの蓄えたものは個人資産じゃなく、未来への遺産と研鑽だ。誰にも知られず忘れ去られる事こそが、歴史の死であり、知識の絶命である。・・・なーんて言ってたからな。きっとこれらも、反攻の役に立つように取り揃えたものなんだろ。アイツが考えるのは、いつだって遥かな未来の事だ」

 

彼はきっと、自身が戦うよりもその知識や叡知を誰かに託すことを選び、それを成し遂げ消えたのだ。その証拠に、様々な場所から様々なものが見つかる。宇宙船の強化設計図、保管式アルトリウムエネルギー。ワープシステムにスペースタイプライター・・・考える限り航海に役に立つものは、一通り全て取り揃えられていた。きっとこれは確信していたのだろう。人が一人では持てないものもある辺り、尚更である。

 

「な?言ったろ?大賢者の名前はフカシでもなんでも無いんだよ。銀河警察の根暗女程じゃないが、災害が起きた時には誰よりも冷静に動くタイプだ。俺達みたいな命知らずのバカの襲来を予測出来ない筈がない」

 

「これが、ケイローン様・・・あらゆる英雄達の先生・・・」

 

「ヘラクレスも、オレも、ポルクスたちもアキレウスもアスクレピオスも皆この馬蔵で学んだんだぜ?まさか宇宙ケイローンも同じことをしてたとは、ブレなさすぎて笑っちまったけどな!」

 

「見事としか言い様の無い貯蓄技術だった・・・これなら当分物資に困ることは無いだろう。一人の指揮官として、尊敬を表したい程に素晴らしい方だな。ケイローン殿は」

 

人員、宇宙船、此処に来たものへの案内やユニバースの大まかな取り決め、ギリシャ神達の成り立ちといった物資、ケイローンの遺産を回収する一行。小難しいロック等もなく、簡単操作でラクラク回収といった所に驚く一同。どうやら本当に、希望を託す事に全霊を傾けていた様だ。彼はきっと理解していたのだ。人智の及ばぬスペース災害の際に役立つのは、憂いの無い準備と・・・立ち上がろうとする勇気のある誰かなのだと。

 

「アーチャーだったからな。直々に金ぴか野郎に仕留められたんだろうな。ヒュドラ毒も持ってるって言ってるしな金ぴかのヤツ。まぁ、それに勝てる奴等なんていないだろうなギリシャに。ヘラクレスもそれで死んだんだしな・・・」

 

ケイローンはヘラクレスのヒュドラ毒矢にうっかり触ってしまい、ヘラクレスは浮気の可能性を示唆され騙された妻に下着に毒を浸され死んだとされる。ヒュドラの毒は神経性の猛毒で、身体に一度入れば最後、激痛と共に即座に死に至らしめ殺す最悪のものだ。ケイローンは神であり不死身であったが、死しては再生しまた死ぬを繰り返し、アスクレピオスですら匙を投げ、最終的には神々に不死を返還し死を選んだ程のものだ。

 

「物凄く入念に記された書物に、ヒュドラ毒特集がされてたよ。『ヒュドラ毒は絶対に使用しようと思わないように。あれを人類や神が使いこなせる日は永遠に来ないでしょう』とまでね・・・そんなになんだ・・・ドクターとしてワンチャンなんとかできないかなって・・・」

 

「止めとけ止めとけ、十年其処らの命が無様に消えるぞ。ヘラクレスだって自殺を選んだんだ。堪えられるヤツなんぞいるか。・・・まぁ、色々言ったが、オレはケイローンに恨み言の一つも言ってやりたかったぜ、本当にな」

 

「?あなたがですか?恨み言って・・・」

 

「アイツの授業、解り安くてためになるのは認めるよ。だが、だがな・・・教えてくれなかったんだよ。一番教えて欲しいことを教えてくれてなかったんだよ」

 

イアソンは後悔しているという。逆恨みすらしていると言う。それは、凄く大事なもの。必須事項ですらあったもの。そう、それは──

 

「地雷女に引っ掛からない方法だよッ!或いは後腐れなく別れられる方法でもよかった!メディアに始まりメディアに終わったこのオレイアソンは声を大にして言うぞ!オレの人生のやらかしの二割くらいはあんたのせいなんだからなケイローンのバカヤロー!」

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

それは、不可抗力でありケイローンですらどうしようも無かったのでは・・・そして自業自得なのでは・・・

 

『イアソン・・・聞こえますかイアソン・・・夫婦円満の秘訣は教えたハズですよ・・・イアソン・・・』

 

沈黙し、心が一つになる一同。そして空の射手座が、何か言いたげに煌めいたように見えたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

「オレが実践できなかったからノーカンなの!メディアには気を付けろって教えてくれてたらさぁ!ちくしょぉーっ!」

 

ともあれ、一同はケイローンの遺産を回収、当初の目的は果たしたのだった──。




ダ・ヴィンチちゃん「キャプテン、どうするんだい?これでミッションクリアかな?」


イアソン「いいやまだだ、神々の連中のシークレットを教えてもらわなきゃな。ついてこい」



宿舎・馬小屋

イアソン「此処等だな・・・」

マカリオス「馬小屋じゃないか。ケイローン様の寝室なんじゃないかここ」

イアソン「エロ本はベッドの下に隠すだろ?」

そう言って、イアソンは託された馬具をベッドの下に取り付ける。これも多分、イアソンの習性を利用したものだ。

「流石に機密は秘密ってわけだな。いいや、もしかしたらさっきのみえみえな物資もカムフラージュか」

すると音を立て、壁が動き出し──

アナウンス『よく来ましたね。さぁ、奥へどうぞ』

ケイローンのアナウンスと共に、地下へと向かう階段が現れたのだった──

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