『ブリュンヒルデ殿からの弁当だ、シグルド殿』
『ありがたい。感謝する』
『たまには帰らないのか?心配していたぞ』
『当方は帰らない。この銀河警察を改革するその日まで』
『?』
『エレシュキガル殿が必ず銀河警察を改革する筈だ。ホワイト企業に生まれ変わり、毎日帰宅できるまで、犯罪者を撲滅するまで、妻にぬか喜びはさせたくない』
『・・・そうか』
『一度顔を見ると、決意が鈍る。全て終えるまで、我が愛には苦労をさせるが・・・』
『俺が説明しよう。あなたの夫は必ず帰ると』
『すまない、我が朋友よ。貴殿になら、我が妻を託せると言うものだ──』
~
X「集まりましたか!?」
リリィ「はい!オルトリンデさんに助けてもらいました!」
イシュタル「えぇ、そうね。助けて貰った、わね」
『羽根』
リリィ「それは・・・」
イシュタル「・・・悪趣味が過ぎるわよ、本当に・・・」
ヒロインX(帽子を被り直す)
リリィ「・・・?」
ヒロインX「・・・リリィ、あなたがやるんです。彼にこれを渡しなさい」
リリィ「私が、ですか・・・!?」
イシュタル「ちょっと!?」
「あなたがやるんです。いいですね」
リリィ「・・・はい!師匠!」
イシュタル「何を考えているのよ・・・!」
「大丈夫。リリィだからいいんですよ。リリィだから、ね!」
「ぬうぅ・・・っ。重い・・・愛する夫を護る為の覚悟なのか・・・この槍の重さはっ・・・」
「重さ?彼女の槍は重さが変わるのですか・・・!?」
館を壊さぬよう、ブリュンヒルデを傷付けぬよう、ポルクスを殺させぬよう彼女の槍を受け続けたジークフリートが遂に膝をつく。不死身の肉体を所有するジークフリートですら、槍の真正面からの直撃は無視できない鈍い痛みを覚えつつあり、消耗により肩で息をする。あの夫婦を見ていたが故に、その特性を彼は把握していた。その強さの秘訣をシグルドから聞いていたのだ。
「彼女の槍は、愛すれば愛するほどに重さを増す槍。彼女が愛する者と認識した者への槍は、御覧の通りに壮絶な威力を持つ。彼女は勇士を導くワルキューレ、勇士たる英雄全てを深く愛しているのだ。だからこれほど槍が重い・・・!」
「掠めた際に感じた重さはそういった理屈が・・・し、しかし。何故ジークフリートさんにはそれほどまでに疲弊するくらいに重いのでしょう・・・!」
「・・・俺とシグルド殿は同じ地域の極めて近しい出典の英雄だからだろう。言うなればあの槍に『もう一人のシグルド』扱いされているのかもしれん。勿論、そんな事は無いのだが・・・」
ジークフリートはとばっちりと勘違いで最重クラスにまで高まった槍を受け止めていたのだ。その誤解からくる理不尽な苦悩の不憫さと、文句一つ言わない高潔さにポルクスは涙が込み上げてくるのを制した。ブリュンヒルデは執拗にジークフリートを狙い、突き刺してきた理由が此処にあったのだ。
「似ています。凄く似ています。ありがとう、だから・・・殺しますね、ジークフリートさん。いいえ、シグルド・・・?どちらでしょう、どちらでもいいのです。愛して、殺しますから・・・」
ブリュンヒルデの纏う焔がますます強まる。それはまさに、愛する勇士をヴァルハラに導く壮絶極まる焔。ジークフリートを導かんと(とばっちり)高まり行く・・・!
「来るか・・・ッ。だが受けて立とう。君を正気に戻すため、我が同僚を元に戻す為、俺は喜んで布石となる・・・!」
「背中はお任せください。致命傷は防いでみせます・・・!」
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き・・・好き、好き、好き・・・」
肥大化していく魔力の高まり、最早屋敷が震撼するほどの魔力。不死身の肉体すら出血させるその槍の本懐が恐ろしくも開帳されんとした、その時。
「お待たせしましたジークフリートさん!ポルクスさん!探し物!キチンと見つけましたよ!」
扉を抉じ開け、やって来たのは白百合の騎士。リリィ、ヒロインX、イシュタルと続き、目論見を果たすために無事に合流を果たす。
「皆さん!シグルドさんの要素は!?」
「この通り持ってきましたよ!正直竜殺しの魔剣とか持ってたくないのでさっさと回収してほしいです!竜の因子的に私もリリィも天敵です!」
「・・・記憶も、此処にあるわ。ブリュンヒルデ!・・・この羽根が何を意味するか、解るでしょう?」
「・・・!それは・・・」
ブリュンヒルデの目に、僅かに光が戻る。三人が持つ羽根、そして記憶や要素が此処にあるその意味を。シリアス属性低めなX、犠牲の覚悟に無縁なリリィ。その羽根の意味を知るのは、イシュタルのみだ。
「そうです!あなたを心から慕うワルキューレの三人が、力を貸してくれた証!そのお陰で此処にあります!あなたの夫の全てが!」
「オルトリンデ、ヒルド、スルーズ。・・・何故、そのような無茶を・・・何故・・・?」
その封印を解いた意味。それを知り衝撃を受けたのかよろめくブリュンヒルデ。その隙が、まさに千載一遇のチャンスに他ならない。
「走れ、リリィ!君ならあの槍を恐れる必要は無いはずだ!何故なら君は──!」
言葉より早く、リリィは駆け抜けていた。ブロンズ装備のアンカー、シールド、アーマーを全て使用。近付き、魔力放出で勢いを増しシグルドへと接近する。ブリュンヒルデは呆然としつつも、自動的にリリィを打ち据える。
「そんな、どうして・・・駄目です、シグルド、愛しているから、護らなきゃ・・・!」
「うっ、くうぅっ!あ・・・!」
一撃、二撃。かすった程度のダメージ。しかしその威力は凄まじく、拵えたブロンズ装備がたった二発で粉々に砕け散る。ヒロインX手製のブロンズ装備が破砕するほどの一撃。・・・ブリュンヒルデは、動揺を隠せない。
(何故・・・彼女への当たりが『軽い』・・・?)
振るった力、槍の重さからしておかしい。装備は消し飛んだが、彼女の身には致命傷など刻まれていない。軽症・・・或いは無傷とも言っていい程の軽さだ。自身は英雄を愛する。何故、何故自身の槍はこんなにも軽いのか?何故?
「何故、槍がそんなにも軽いのかお悩みですか?」
「!」
「それは簡単です。それは私が『半人前』!勇士の資格を満たしていない未熟者だからです!ヴァルハラに行くにも値しない、へっぽこセイバーだからです!でも!」
そう、未熟で非力なセイバー、英雄であるリリィだからこそブリュンヒルデの愛は通りが悪く、非常に軽い。彼女は勇士ではなく、誉れ高き英雄ではない。だが、だからこそ。だからこそ彼女の槍を受け止める事が出来る。しかしそれは生半可な覚悟では出来ない。万が一、もしもを考えたなら未熟であるならば足がすくむ、体が強張る。それでもリリィは駆け出した。シグルドへ向かって。何故ならば。
「マーリンが、師匠が言っていました!実力を、不足を補うのは恐怖を乗り越える覚悟、そう!『勇気』!誰かのために、自分の殻を壊すことこそが王の道だと教わりました!」
「・・・!」
「私はまだ、恋愛はよくわかりませんが!ブリュンヒルデさんの愛は愛する人を縛り付けています!その愛、とても強引では無いでしょうか!心が繋がっているなら──互いに愛し!愛されてほしいです!」
その為に取り戻す。シグルドを取り返す。彼の尊厳を奪い返す。彼女もまた愛してもらうため。互いに通じ合うために。余計な世話でも、見てみぬふりは出来ないと。理屈を抜きにしたお節介こそが彼女の騎士道。
「だから──目を覚ましてください!シグルドさんっ!!」
魔剣、眼鏡、記憶をシグルドに返還していくリリィ。呆気に取られていたブリュンヒルデが、しかし自動的に宝具を発動してしまう。シグルドを視界に入れた事により、心の動揺により、自動的に宝具が放たれたのだ。
「・・・『
極限まで肥大化した槍、一行の制止も効かぬベクトルと巨大なる槍が、シグルドとリリィに向けられる。
「困ります。またシグルドが・・・護らなきゃ、愛さなきゃ、殺さなきゃ・・・!」
「う、っ・・・!こ、こうなったら、全開のカリバーンで・・・!」
それでも受けて立とうと身構えるリリィ。・・・しかし。──最早、戦う理由は何処にも無かった。
「──皆、本当に無様を晒した。心より謝罪と感謝を示す。そして・・・もういい、もういいのだ、我が愛。ブリュンヒルデ」
「・・・!」
「当方は甦った。お前の想いも確かに受け取った。これ以上、戦いは無意味である。・・・当方は、何処にも行くことはない」
叡知の眼鏡、魔剣グラム、そして威風堂々とした立ち振舞い・・・オムツ一丁の勇姿。真正面から、ブリュンヒルデの最重の槍を受け止めているその姿。
「皆の尽力により、当方・・・シグルドは正気に戻った。我が愛のやり過ぎな情、心より謝罪する。もう、いいのだ。ブリュンヒルデ」
「・・・あなた・・・」
「あわ、あわわ・・・」
リリィを庇うように立つシグルド。リリィはその圧倒的な威風の後ろ姿と共に──
「お・・・オムツ・・・!」
筋骨隆々なるオムツ姿を、目に焼き付ける。──叡知の竜殺し(オムツ)の、復活にして誕生の瞬間を、目に焼き付けたリリィであった─
屋敷・客間
ジークフリート「どうやら、無事になんとかなった様だ・・・シグルド殿が今、ブリュンヒルデ殿を説得している。心配はないはずだ」
ポルクス「疲れました・・・人の恋愛に首を突っ込むのは嫌なのです。ドロドロですから・・・」
X「セイバーの素晴らしさは勇気の素晴らしさ!やりましたねリリィ、お手柄!お手柄です!」
リリィ「い、いえ!皆さんが頑張ってくださったからです!イシュタルさん、師匠、ジークフリートさん、ポルクスさん。本当にお疲れ様でした!」
イシュタル「・・・礼はいらないわ。だって、私は・・・あなたたちの旅路に傷をつけてしまったのだもの」
X「?なんの話です?」
リリィ「?さっきシグルドさんに渡した羽根と、何か関係が?」
イシュタル「・・・・・・」
ジークフリート「・・・イシュタル殿、その件だが・・・」
シグルド「皆、すまない。意見が合致した。これからは我等一同、総出で協力する。ワルキューレ達も、我が愛も共にだ」
ブリュンヒルデ「本当にごめんなさい・・・私も、夫の仕事を手伝えば良いだけの話を、こんな・・・」
ジークフリート「それがいい。それなら離ればなれにはならないだろう」
ポルクス「未亡人なんてギリシャには以下略」
イシュタル「・・・虫が良すぎるんじゃないかしら。死のルーンなんて仕掛けておいて、あなたは・・・ワルキューレ達にどの面下げて・・・!」
スルーズ「私達が何か?」
イシュタル(椅子から転げ落ちる音)
ヒルド「あはは、ごめんごめん!心配させちゃった!確かにルーンで死んじゃったけど、私達ワルキューレだから!」
オルトリンデ「バックアップの羽根さえあれば、別の鋳型で再起動が可能です。見てみぬふりをしていたワルキューレ達は死にました。これからは、宇宙を護るワルキューレとして頑張ります」
イシュタル「な、なな、なななな・・・」
X「何を大袈裟な。シーズン待ちで復活するサーヴァントユニヴァースにおいて死亡確認なんてあるわけ無いでしょう。『死んだくらいじやシリアスにならない』。ユニヴァースの社会問題ですよこれ。ワルキューレなんてシステムなら尚更です」
イシュタル「気付いてたの!?あなた!?」
ヒロインX「直感、舐めないでくださいよ?」
リリィ「???羽根がバックアップだったのですか?」
ブリュンヒルデ「私達ワルキューレは、システムの一環ですから・・・」
スルーズ「そもそもユニヴァースで完全消滅は無いですから」
ヒルド「心配させちゃった?あはは、ありがと!」
オルトリンデ「だから死のルーンに触れたのです。ヒルドは甦れると期待していなかったみたいですが」
ヒルド「だってどうなるかわかんないじゃーん!」
イシュタル「な──なによそれー!?」
シグルド「北欧は、焼き払われるまで、不死身なる」
ブリュンヒルデ「ごめんなさい・・・紛らわしくて」
別に失ったものはなく。シグルド以下北欧組が仲間に加わった!
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リリス(汎人類史)