人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リリィ「ジークフリートさん!!」

ジークフリート「大丈夫だ、心配かけてすまない・・・ぬぅっ!」

ブリュンヒルデの槍は、ジークフリートを突き刺しはしたが貫かなかった。不死身の肉体は、戦乙女の槍すら受け止める。背中でなければ何の問題もない。そのまま、ジークフリートは槍を押さえつける。

ジークフリート「君達!彼女は俺が引き受ける!シグルド殿を──」

ブリュンヒルデ「殺します・・・」

ポルクス「殺させません。私達が引き受けます」

ジークフリート「彼の要素がこの屋敷の何処かにある!探し出し、ここに持ってきてほしい!そうすれば・・・!」

イシュタル「解ったわ!手分けして探しましょう!」

リリィ「て、手分け!?来た事がない場所ですが・・・!」

イシュタル「大丈夫よ、信じなさい。私達はやれるわ!」

ヒロインX「信じますよ!では、散開!」

リリィ「は、はいっ!」

ブリュンヒルデ「何を・・・」

ジークフリート「今のシグルド殿は、あなたを愛せない。あなたへの愛を労働の生き甲斐にしていたシグルド殿にとってそれは何より残酷だ」

ポルクス「独善的な愛は悲劇しか呼びません。これギリシャの共通認識です。赤ちゃんに変えるなんて慈悲深くはありますが・・・」

ジークフリート「彼の同僚として、彼の願いを後押しする!それが共にブラック企業に勤めた者の誠意だ・・・!」

ブリュンヒルデ「・・・封印を?やめた方がいいです・・・」



スルーズ「ここまで、ですね」

ヒルド「あーあ、罰だね罰。イエスマンだったツケだなぁ」

オルトリンデ「・・・でも、無駄ではないです」

スルーズ「はい。償いを込め、あの人達を導きましょう」

ヒルド「うん。次のシーズンは、平和でありますように!」


シグルドを取り戻せ!

ヒロインXサイド

 

「迷いますねこの広さは!なんなんですか何を想定した広さなんですか!?」

 

こちらは三手に分かれた際のヒロインXサイド。封じられた記憶、魔剣、叡知の証を探すために疾走する内の一人。シグルドの構成要素を探す為に駆け抜けているのだが・・・

 

「仕方ありません、こういう場合は片っ端から壺割ってタンス開けてのしらみ潰しの総当たりが相場です!全ての部屋を探すつもりで行きますからね!セイバー的に!」

 

ブリテンの王、小賢しい細やかさは好きではない。探し、見つければ良かろうなのだと聖剣を抜き放ち屋内で魔力放出を準備する暴挙に出る。狩りに使うのに選ばれたのは勿論エクスカリバー。アッ君の胃はいつだって死んでいる。真正面から突撃しそれが出来るブリテンの赤き竜は躊躇わない。

 

「重火器を持っていながら扉一つ吹き飛ばせない警官や特殊部隊と同じと思わないことです!緊急時による!エクス──!!」

 

「止めてください、修繕もオートではないんですから」

 

「ぬっ!?」

 

放出寸前だったヒロインXをすんでで制止した声。根が真面目なのでとりあえず静止には従うヒロインXが後ろを見やると、其処には・・・金髪と赤瞳の麗しきワルキューレが立っていた。

 

「あなたは確か、スペシャルなんたらでしたか!名乗りが長いの!」

 

「スルーズです。・・・シグルド様の記憶構成要素」

 

「問答無用ッ!!」

 

「うぇあ!?」

 

話をする前のアンブッシュは一回なら有効。スルーズは話し出していたが自分は話してないのでセーフ。刺客となるワルキューレ殺すべし、な思考回路だったのだが・・・

 

「お、落ち着いてください!記憶の構成要素が安置されている場所の一つに案内しますから」

 

「なんですか今のダメージボイス。・・・案内?マジですか?」

 

意外な事に、スルーズの提案は訣別ではなく協力だった。その言葉は一見、罠として聞こえかねるものであるが・・・

 

「それは助かります!じゃあ案内してもらいますからね!ホラホラお願いいたしますタケウチの趣味の化身!」

 

味方なら別にいいです!とさらりと受け入れる隠しきれない人の良さにてスルーズを受け入れる。彼女はセイバーと思い込んでいるアサシンな為、ランサーには優しいのだ。

 

「解りました。・・・まともに間取りも解らないのに手分けだなんて、迂闊では?」

 

「あぁ、それはですね!こちらの計算通りなんですよねー!」

 

ヒロインXの言葉に、首を傾げるスルーズ。そう、一見迂闊なこの散開も、キチンとした意味があるのだ──。

 

~イシュタルサイド

 

「敵地において散開は下策ではあるけれど、現地におけるナビゲーター、案内役がいるならその限りではないわ。あなたたちというワルキューレが来てくれさえすれば、効率的な探索になるって寸法よ」

 

こちらはイシュタルサイド、この散開探索を提案した張本人だ。廊下を歩く彼女の前には、ピンク色の髪をしたワルキューレ、ヒルドが先行している。

 

「私達が声をかけるって解ってたみたいな口振りじゃない。どういう事?」

 

「ワルキューレは真面目な遂行システムが元でしょう。館の主のワルキューレがアレだけバグってるんだから、まともなシステムはこの館では発揮されてないと先ずは踏んだわ。そう、案内役のワルキューレも出払っていたりするんじゃない?こんな広い場所なんだもの案内役やガイド先導担当くらいいるでしょ普通。でも、ブリュンヒルデがさっき出迎えた・・・そういう事でまずは一つ」

 

この館にはたくさん部屋があり、ワルキューレの寮でもあるのだろう。しかし、それらは今出払っていることが、内部から応対したのがブリュンヒルデであった事からその人員はいない、あるいは機能が麻痺しているとイシュタルは踏んだ。追っ手や追撃はない、今はブリュンヒルデとシグルドだけの空間であり探索の危険性は薄いものと予測した。

 

「そしてもう一つが、騒ぎを聞き付けたらやってくるワルキューレがいるということ。ここは最深部だから、隊長・・・指揮官クラスのワルキューレが来るだろうなって事で賭けた訳。今、確か爆発擬装でワルキューレの大半は出払ってるはずよね?これが二つ」

 

隊長格、指揮官クラスのワルキューレが騒ぎを聞き付けやってくるであろうとの見極めを兼ねたのが二つ。予測通り、ワルキューレ三人娘たる先ほどのメンバーがやってきた。そして、次が最後の一つ。

 

「あなた言っていたでしょう?ブリュンヒルデのやり方に難色を示していたわよね?ならそれを少しでも好転させる事が出来るメンバー達を見て、自意識に目覚めたワルキューレ三人がブリュンヒルデの為にしてあげられる事は?」

 

「・・・!シグルド様を元に戻す為の手伝い・・・!?」

 

「そういう事。あなたたちはもう無機質なシステムじゃない、一個の生命なんでしょう?ならあの夫婦の今の歪みっぷり、見てみぬふりは出来なくなっているのよ。なら、協力をしてもらえるかなってあえて分かれてみたわけ」

 

戦力分散の注意や、或いは各撃破のチャンスとして何等かの接触は働くと考えていたのだ。説得は自分はうまく出来ないだろうが、それでも問題ない。

 

「あなたたち、感覚は共有してるんでしょ?なら大丈夫。リリィに接触したワルキューレがいるなら説得の必要もない。あとはあなたたちの理性と良識を信じてついていくだけ。簡単でしょう?」

 

散開することで先ほどのワルキューレを招き寄せ、協力を持ちかける。了承すれば良し、出来なくても説得すればよし。先程の懐疑的な態度なら必ず叶うとイシュタルは踏んでいた。散開しようが固まろうがどちらでもいいのだ。こうして案内してもらうことにたどり着けさえすれば。

 

「あの一言二言でそこまで・・・!あなた、何者・・・!?」

 

「善の女神よ。相思相愛は善くても、あんな尊厳破壊は見逃せない系の、ね」

 

そしてヒルド、スルーズの協力を得て、最後の一人はリリィの下へと向かう──

 

~リリィサイド

 

「・・・・・・」

 

「あの、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」

 

「だ、大丈夫です!ちょっとびっくりしてしまっただけで・・・」

 

リリィはオルトリンデと一緒に屋敷の一室へと向かっていた。コウノトリを信じるような年頃精神のリリィにバブみは未知の概念過ぎたのだ。無理もない動揺である。

 

「・・・ブリュンヒルデお姉さまは苛烈な情愛を秘めた方です。銀河警察勤務でシグルド様が働いているのは自身のせいということも理解しています。だからお姉さまは我慢していたんです。でも・・・」

 

その我慢にも限界が来た。氷のような表情の下に隠した情愛は、宇宙の崩壊と共に帰還したシグルドを目の当たりにして暴走した。二度と離れないよう、愛する夫の全てを奪ったのだと。

 

「この機を逃せば、あとはいつ会えるかも解らない。お姉さまはそう考えたんです。シグルド様は宇宙を護ろうとしていました。でも、ブリュンヒルデお姉さまはシグルド様がいてくれれば良かったんです」

 

「御世話をしてくれたワルキューレの皆さんや、心配してくれたジークフリートさんの優しさよりも・・・何より、シグルドさん本人の決意よりも、シグルドさんが欲しかったんですか?」

 

「・・・はい。ブリュンヒルデお姉さまは、初めて人を愛したワルキューレ。彼女の情愛は炎のよう。けして誰にも止められないんです」

 

「──いいえ、間違っています。その愛は正しくても、夫への愛の示し方や、皆さんへの振る舞いが・・・今のブリュンヒルデさんの行いが正しいとは思えません!」

 

少なくともリリィの周りには、誰かを無理矢理自分のものにすることを『愛』とする人はいなかった。それがあったとしても、普通な事だと認めてはきっといけないんだと彼女は思ったのだ。

 

「止めましょう、オルトリンデさん!無理矢理押し込めるより、もっと夫婦として出来ることはある筈です!」

 

「・・・はい。そう、信じたいです」

 

そうして、リリィ達は別々の部屋へと辿り着く。其処には、封印されたシグルドの要素──




スルーズ「これが、封印されたシグルド様の要素の一つです」

『魔剣グラム』

ヒロインX「封印されてますね、解けるんですか?」

スルーズ「勿論。そのために私達がいるんですから」



『シグルドの記憶』

ヒルド「私達が封印を解くから、あとはよろしくね!」

イシュタル「えぇ、任せておきなさい。・・・、後は?」



『叡知の眼鏡』

オルトリンデ「封印解除、認証・・・。・・・こちらを、はやくシグルドさんに」

リリィ「はい!これは、眼鏡ですか?」

(シグルドさん!待っていてくださいね・・・!必ずあなたを取り戻します!)

「ありがとうございました!オルトリンデさ──」

・・・其処には、オルトリンデはいなかった。スルーズも、ヒルドも、姿を消していた。

「オルトリンデ、さん?」

・・・封印解除には、ワルキューレの認証が必要であり。その封印には、一人分の『死のルーン』が刻まれていた。

その封印を解く事が、見てみぬふりをしてきた三人なりの罪滅ぼし。

「これは、オルトリンデさんの羽根?どこに、行っちゃったのでしょうか・・・」

一言も伝えることなく、羽根を残して。ワルキューレ達は過ちを償い、次シーズンへ想いを託したのだ。

最愛の夫婦が、ハネムーンに行けるような穏やかなシーズンの到来を願って──



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