人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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最下層

マーラ【まだかな?まだかな・・・まだかなー?】

タケル「マーラ。待つのはいいが・・・少しは対策を練ったらどうだ。慢心が目に余るぞ」

マーラ【対策?するわけないじゃないですか。あるがままに、思うがままにしてもらわなくては困ります。だってそれが私の愛。皆様にもよく知ってもらわなくちゃいけませんし】

「堕落の焔、か。しかしその角のヒビ、手痛い授業料であったろう」

【こ、これはまぁ、ノーカウントです。徳川に仇なす刀とか、最悪の切り札ではありますが・・・それでも、私という『宇宙』をまるごと斬れるものではありません。最悪、徳川を私から切り離してしまえば只の刀。大丈夫、大丈夫ですよ。それより・・・】

タケル「解っている。・・・掃除を続ける」

【御願いしますね?・・・天下無双の大英雄に、誰でも出来る雑務をさせる。我ながら最高の尊厳破壊だと思いません?】

タケル「他者の評価など意に介さん。吾は日本を護るのみ。・・・重ね重ね言うが、堕落と甘やかしも程ほどにすることだ」

【はいはい。それではお元気でー。ゴミは彼等に押し付けてくださーい。・・・はやく来てください、楽園の皆さん。じゃれてくるだけはダメです。身も心も愛してあげますからね──いたた、リッカさんは、特に念入りに・・・】



はくのん「むむ、もしや」

シオン「どうしましたはくのんさん、何か発見が?」

はくのん「徳川の印籠、・・・ブラックボックスを喰われはしたけど礼装としては使える。もしかしたら、薙刀に付与できるかも」

シオン「!・・・あの刀、もしかして食べたのは『呪詛』だけ・・・!?」

はくのん「不良のヤンキーに見せかけて常識も道理もしっかり弁えた女の子ならめっちゃ人気出るやつ」

シオン「そ、それは良くわかりませんが!もしかしたら、部員さんとやらのプレゼントと合わせて、春日局さんを戦わせてあげられるかも・・・!」

はくのん(ゴソゴソ)

シオン「・・・何してるんです?」

「BGMプレイヤー」



春日局「しかしグドーシ殿、キアラ殿。あなた方の醸し出す風格はとても普通ではありません・・・さぞや名のある高僧ですね!見抜きました!」

グドーシ「キアラ殿は・・・そうですな。間違いなく菩薩でしょう。人類を救うために、躊躇いなく総身を投げ出せるもの」

キアラ「まぁ・・・!グドーシ様からの太鼓判をいただけるなんて!えぇ、私は救いたいのです。人類たる種を。人類の悩みや苦しみを取り払い、救いをもたらしたい。この身はただ、その為にあるのです・・・」

はくのん『人類、って字に。わたし、ってルビを振って読もう』

カーマ「頭がおかしくないあなたはそれはそれは綺麗なセラピストですよ?楽園の職員の皆さんでお世話になっていない方はいません。いやらしい事は全部抜きで」

リッカ「うんっ!私も、よく話を聞いてもらってるんだぁ。柔らかいし、いいにおひ(о´∀`о)」

カーマ「腹が立ちますが、其処は認めています。まぁグドーシさんには足許にも及ばないんですけど」

藤丸「そういえばグドーシさんは、剣を使わないね。セイバーのクラスなのに・・・」

グドーシ「えっ?」

藤丸「えっ?」

カーマ「・・・あの、藤丸さん。セイバー、じゃなくてセイヴァー、なんですよ?綴りが違います。救世主、の方なんです」

藤丸「・・・救世主ぅ!!?」

リッカ「勘違いしてたんだ!?ずっと!?」

春日局「まぁ・・・!聞きとうございます!あなたはどのように悟り、どのように解脱をなさったのでしょう!?僧侶や坊さまは皆悟る為に行を行うのですから!」

グドーシ「ふむ。・・・そうでござるな。皆様は『全』を救うために悟りの道を参られます。人類、世界、衆生、三千世界・・・。ですが拙者は、心から『一』を救いたいと願った」

春日局「全ではなく、一・・・」

「気がついたら動き出し、気がついたら命を燃やし、気がついたら死んでいました。・・・マーラ殿曰く人形であった身が行った済度はただそれのみ。ただ、愛する者を救いたいと願ったのみなのです。なんか気がついたら悟っていたみたいな感じですな」

マシュ「・・・あ、あまりにもふわふわ、ふわふわです・・・」

グドーシ「ふふっ、そう。ふわふわなのですよ。拙者の悟りとは、そういうものでござる」

カーマ(・・・全に繋がる一を救う。人を完全に救い上げられる人間が、一体何人いるのか。いいえ・・・獣を人として思いやれる者が何人いるのか)

リッカ「えへへ・・・これからも一緒だよ!グドーシ!」

グドーシ「出来れば拙者が入滅するまでに結婚するでござるよリッカ殿。孫を抱かせてほしいでござる」

カーマ(あなたの救った一の輝きが、世界という全を照らす光となった。・・・そんな偉業を微塵も凄いと思っていない)

「そういうところが・・・私は大好きなんですよ。二人とも」

リッカ「?カーマ?」

カーマ「ふふ、なんでもありませーん♪」

キアラ(・・・出来るなら、禁欲の前に出逢いたかったものです。私の救いと、彼の救い。一体どちらが・・・ふふふ・・・)



不揄盗戒(持っていっていいんです)

『この階層・・・一言で言うと、鍵の掛かった部屋だらけ』

 

『なんですかコレ、進ませる気あります?ほぼ全部に鍵がかかってるんですけど!』

 

サポート組のスキャン結果を見た感想の通り、あまりにも鍵だらけの扉がお出迎えする第四階層。後半戦に入り、スムーズに進む一行を物理的に阻む様な階層へと降り立った。女中の反応もしっかり存在し、今回の戒めたるテーマを知らせる。

 

「わわ!?」

 

瞬間、龍哮の宿る左腕が超高周波の音をかき鳴らし、大奥内へと響き渡る。同時に、タブレットに左腕が叩き付けられ、マッピング情報が更新される。・・・女中の反応と同時に、其処には鉄の反応が一緒に点在している。これは、つまり。

 

「グドーシ様、この階層の戒は『不揄盗戒』と思われますわ」

 

「人のものを盗んではならない。身近にして当然の戒めでござるな。進みたくば女中の鍵を盗まねばならない、というコンセプトにござろう」

 

グドーシの言葉とキアラの見解は一致していた。扉の付近の女中には必ず鍵の反応があり、それを使うことにより進むことが出来る・・・守れば物理的に止まり、破れば進めない。そういう即物的な階層であるのだ。

 

「リッカさん、左腕の龍哮さんに尋ねてみたらどうです?愛の女神的に、段々懐いてくれているかもと睨んでいますよ」

 

「そだね!龍哮、あなたはどうすればいいと──」

 

尋ねた瞬間、リッカの目にも止まらぬ速さで左腕が変化した。左腕が刀と一体化したような形状、即ち本来の形態を腕と合成した姿。・・・刃渡りが超振動し、切れ味を高めている殺意の塊の意図をリッカは読み取る。

 

「あっこれ【全員ブチ殺せば誰のものでもない鍵が残る】と訴えてますね。遺品を回収しようって言ってます」

 

「鎮静!リッカちゃん鎮静して!盗まないために殺すとか本末転倒なヤツ!」

 

「うん!龍哮ステイ!落ち着いてどうどう!まだだ、まだ慌てるような時間じゃない・・・!」

 

リッカの静止が効いたか、或いは効率が悪いと踏んだか。シュンッと音を立て左腕は元に戻る。ほっと一息をつき、リッカは話を進め促す。

 

「んー、となるとどうしよっか。こっそり見つからないように盗むしかない?」

 

「借りただけ・・・なんて言い訳は通らないですよね。でも盗むなんて真似を藤丸殿二人にやってほしくはありません!私も育てる際はそこをバシバシ叩き込みますからね!」

 

「でも、やるしかないならやるべきです。どうでしょう、立香さんと私がこっそり盗む、というのは」

 

「オレも異論はない。何でもやるんだ、誰かを助けるためには」

 

(マシュ・・・藤丸君も甘さが感じられない戦士思考を・・・)

 

「刀を抜かずに勝てるならばそれでよし。盗むのならば我が歩法も御覧に入れよう」

 

「私の諜報スキルの出番かしら?相手のパスポートや機密を抜き取るの、十八番よ?」

 

「ワタシの語る物語の中には、名だたるシーフの物語も多数あります。皆様の為なら、喉が枯れるまで語りましょう・・・」

 

一同の意見が、どうあれ『盗む』との意見に合致したとき。

 

「いやいや、落ち着きましょうぞ皆様方。我等は世界を、未来を救う者達。どう盗むかなどとの場末の盗賊の様な題に頭を悩ませる事は相応しくありませぬ」

 

グドーシが、いつもと変わらぬ穏やかさで一同の思考を袋小路より救い上げる。並びに、その目には確信の光が宿っていた。

 

「此度の階層は、ある意味最も簡単単純にござる。どうか、此処は拙者に任せてはくださいませぬか?」

 

「グドーシさんがやる気・・・!皆さん、託してみませんか!愛の女神の名に懸けて、グドーシさんを推薦します!(フンスフンス)」

 

「えぇ。セイヴァーたる彼の天恵、無下にしてはあまりに勿体無いかと。救世主の力を宿す御方のお手並み、是非拝見したく存じます」

 

キアラ、そしてカーマの同調に異論は挟まれなかった。先程まではにこやかに皆の見守りに徹していたグドーシが挙手したのだ。それは拝見したくなるというもの。

 

「お願い、していい?グドーシ」

 

「任されよ。・・・と言っても、そう大層な事はしませぬよ。楽にして、拙者に続いてくだされ」

 

そう言い、タブレットをリッカから拝借するグドーシ。・・・そして、暢気かつのんびりと歩みを進める。

 

──其処で、一同は目の当たりにする。何故、救世主が末代まで語られる存在であるのか。そして、その力を託されし存在が見ている観点の有り様を・・・。

 

 

「もし、女中殿。よろしいですかな?」

 

「・・・?アナ、タは?」

 

グドーシは何でもないように、『女中に話し掛けた』。ただ、隣人に挨拶を交わすように。

 

「お務め、大変お疲れ様でござる。この迷宮が麗しき姿なのは、あなたの様な方々が維持してくださるお陰。心から敬服するでござるよ。ありがとうございまする」

 

「マァ、ソンな・・・コレが、お仕事ですカラ・・・」

 

「ふふ。そんな貴女にお願いでござる。どうか、先に進む鍵を渡してはくださらぬでしょうか?」

 

そして、ただ『誠実』に、『正直』に。目的を告げ頭を下げた。なんでもない、当たり前の御願いだった。

 

「拙者はマーラ殿に出逢いたい。彼女に伝えたい言葉と祈りがありまする。それをするために進みたいのですが・・・どうでしょう、聞き入れてはもらえませぬか?」

 

「エ、でも・・・それデは、お役目が・・・」

 

「無論、鍵は開き拙者は進みまする。ですがそれは拙者があなたに頼み、そなたが受けてくださった事。非はこちらにあるのです。そして・・・鍵は必ず返しに来ますれば。言うなれば、拙者に託していただきたいのです」

 

必ず返しに来る。責任を問われたなら自身が請け負い、もしもの際には自分があなたを護る。だからどうか・・・

 

「どうか、拙者を助けていただきたい。あなたを心から対等なる隣人として、またはこの大奥に働く女中として。敬意を払いし御願いにござる。どうか・・・」

 

静かに頭を下げ、嘘偽りなく願いを告げる。そのまま沈黙し、答えを待つ。なんの術も使わない、魔力もいらない。告げるは、嘘偽りない誠意だけ。

 

・・・そして、その願いは。

 

「・・・。わかり、ました。・・・どうぞ、お進みください」

 

機械仕掛けの女中は、そっとグドーシに鍵を託した。それは、組み込まれたプログラムに無い動作。ともすれば、致命的なエラーですらある。だが・・・

 

「あなたは、機械の私にも誠実に、してくださいました。・・・敵である私にも、誠実に。そんな、あなたを、信じたい」

 

「ありがとうございまする。・・・草木にも命は、心は宿ります。ならばそなたにも芽生えぬ筈はありませぬ。あなたはこの大奥の女中なのですから」

 

「ありがとう、素敵なる御方。どうか、この先も・・・お気をつけて」

 

鍵を託し、手を振る女中に深々と頭を下げ・・・グドーシは鍵にて扉を開ける。武力も、魔力も、スキルも、宝具も使わない。誠実な対話のみを行った行進。

 

・・・この行いを、グドーシは最短にて必須の部分のみに実行した。女中の仕事を肩代わりし、或いは対等の隣人として扱い、または労り、励ました。

 

「お気をつけて、素敵なる御方・・・」

 

「どうぞ、貴方のような方こそがお殿様に・・・」

 

誰も行いはしないだろう。機械を対等の命として扱うことを。敵に首を差し出す礼をする事を。これ見よがしに示される手段を行わず、煩わしく言葉を交わすことなど。盗んだ方が最も早い中、一人一人に対話を行う事など。・・・だが、躊躇わずグドーシはそれを行った。

 

誠実に、真摯に。丁寧に、嘘偽りなく。ただ、誰もが出来ることを行っただけ。グドーシはただ、人として当たり前を行っただけ。

 

「そもそも、禁など決める必要など無いのです。人として、当たり前に胸を張ればそれが正しき道。どう悪事を働こうなど、前を見ていれば考えずとも良いのでござるよ」

 

ただ、人としての当たり前を行い、グドーシは第四階層を踏破した。──只の一滴も血を流すことなく。会話を行った女中の心を、ただ動かしただけ。

 

「どうでござるかな?ははは、回りくどくて申し訳なし。しかし、少しはセイヴァーらしい事が出来ましたかな?」

 

・・・──一同はただ、言葉もなく。照れ臭そうに笑うグドーシの背後に後光を、そして・・・

 

──紛れもなき、救世主の器量と才覚を垣間見た。




第四階層最奥

タケちゃん「随分と静かな踏破だったな。上手くやったのか?」

グドーシ「いいえ、回りくどく面倒と言われるも仕方無しな遠回り。時間をかけてしまいました。皆様には申し訳なく・・・」

「?何処へ行く?」

グドーシ「女中殿の皆様に、借りた鍵を返して来るでござる。どうか皆様はゆるりとお休みくだされ。それでは、タケル殿。また」

タケル「あ、あぁ。・・・どうした、お前達」

立香「ぐすっ、っく・・・うぅ・・・」

マシュ「ひっく・・・っ、っ~・・・」

カーマ「あ~、すみません。私も含めてグドーシさんの徳の高さに恥じ入るばかりの状態なんです。そっとしておいてあげてください」

春日局「一瞬でも・・・一瞬でも盗まねばならぬと自分を甘やかした自身を恥じております・・・!ただ真っ直ぐ信じるだけで良かったのです!」

柳生「救世の、主か」

マタ・ハリ「・・・汚れちゃってたわね、私達・・・」

シェヘラザード「夢中で、物語を読む楽しさを思い出させてくださいました・・・感謝しかありません・・・」

キアラ「・・・あれが、私達聖職者の目指すべき境地。なんてことのない『正しい道を歩く』。遅くとも、穏やかでも・・・ただ、ぶれないだけでいい」

シオン『それが出来れば!って話をあんなに簡単に・・・ちょっと唖然です・・・』

ザビ『流石はリッカのししょー。・・・間違いなく、彼はセイヴァーだった』

リッカ「でしょぉ・・・(ドッヤァアァアァ・・・)あ、待ってグドーシ!私も行くー!」

カーマ「あ、二人とも!置いていかないでくださーい!」

タケル「・・・そうか。ならば・・・受けとれ」

『印籠』『花札・白』【花札・黒】

「心強い光を、逃すな。そして、もうひとつ」

『徳川慶喜の印籠』

「隠されていた扉の奥を掃除したら見つけてな。──上手く使え。終わりの徳川の力を」

春日局「終わりの、徳川・・・?」

「──知らぬ筈は無かろう。春日局。終わらぬものはない。天皇の治世、神の威光。同じように──徳川の世も、終わるのだ」

春日局「───」

パールヴァティー『ああっ、皆が伏せていたものを・・・!』

タケル「・・・伏せていたのか。それは・・・」

春日局「・・・いいえ。バッサリとありがとうございます。むしろ、目を逸らさず受け入れなくては進めませぬ。栄枯盛衰、なのですから」

キアラ「うふふ・・・ちなみに、その印籠も本来なら隠しておくものだったのではないでしょうか?」

タケル「・・・醜態を晒した。すまぬ・・・」

タケちゃんの親しみやすさが大きく上がった。

徳川汚染度 0/100

龍哮満腹度 変化なし

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