虎千代「あはははは!兄上、大丈夫ですか!軽く叩いただけなのですが!」
二人の子供が、じゃれあっている。上の白髪の女子は笑顔で、下の男子は戦慄きながら血塗れで。顔の形が変わるほどに腫れ上がった顔になりながら。上の白髪の女子は、軽く叩いたつもりの力で。拳を振る度に鮮血が飛ぶ。
道一丸「ち、父上!それがしはもう嫌です!虎千代の相手はしとうございません!」
虎千代「兄上、そのような事を言わずに!もっともっと虎千代と稽古致しましょう!」
父「・・・もうよい。道一丸は下がっておれ」
息子を下げ、娘と対峙する父。大人の腕力で、ともすれば殺すつもりで木刀を振るう。
「あはははは!父上!どうなさいましたか!」
しかし娘は、傷一つ負わず父を滅多打ちにした。膝をつく父を、娘は笑顔で労った。
「・・・ええぃ下がれ虎千代!貴様の顔などみとうないわ!」
綾「あんまりでございます!虎千代は、ただ言いつけを護っただけではありませぬか!」
父「黙れ!こ奴の眼をよう見るがいい綾!これは人の目ではない!妖の目よ!」
力の限りに、父は娘の頬を打った。娘は唇を切り、血を垂らしながらも娘はただ笑うばかり。
「あはははは!父上!虎千代は妖ではありません!」
「ひっ!?これじゃ、この顔じゃ!こやつ、叩こうが殴ろうが何をしようと笑うばかり!得体が知れぬ、気味が悪い!」
「あはははは!父上!虎千代が何かしましたでしょうか!」
「もうよい!こやつは寺に預けよ!二度と儂の前に姿を見せるでないぞ!」
「あはははは!何故です兄上、父上!どうか本気で打ち込んでください!つまりませぬ、虎千代はつまりませぬ!」
綾「虎千代・・・」
憐れむ姉。・・・彼女は、何に怯えているのか理解できていない。蟻や虫が何を考えているかなど、解るはずもない。
全ての人、全てのものが・・・神に通ずる彼女には、つまらぬものでしか無いのだから。
~
豊久「分からんなら知ろうとせい」
景虎「はい?」
豊久「おい達は武士、さーヴぁんとだんゆ存在や。いつ野垂れけしんかも知れん存在じゃ。戦場ん外に未練抱えてけしんだや浮かばれん。明日待つは永遠の別れぞ。リッカは子じゃ、よき娘じゃ。悔い残して残すはいかん」
「・・・・・・」
豊久「腹割って話すが主従。それもせんで何処に忠義がうまるっもんじゃ。納得すっまで話せばよか。一緒におったぁ、ただ同じ空気を吸うことじゃなかぞ」
「・・・豊久さん」
「おう」
「すみません、何言ってるか解りません。何語ですか?」
「日ノ本の言葉じゃばかたれ!!」
~
リッカ「さぁて、帰ってきたぞ~!!ノッブーただげぅっ!!」
「リッカちゃん!稽古しましょう!今すぐ!」
「けい・・・げうっ、落ちる落ちるぅ!?」
そして中庭、鍛練場へ──
「あはははは!あははははははは!さぁリッカちゃん!まだまだ参りましょう!そぉれ右に左に前に後ろに上に下!」
【ッ、おぉおっ!!なんの、負けるかぁあーっ!!】
一揆を鎮圧、労働力大量ゲッツ!意気揚々と帰ってきたリッカを待っていたのは・・・軍神との稽古でした。武具を持ち、縦横無尽に襲い来る景虎の攻撃と襲撃を、今まで培った全てにて押し返し、打ち返し、拮抗し、対抗して見せる。
~
『リッカちゃん!私はあなたを知りたく思います!戦いましょう、凌ぎましょう!今すぐ!』
『ファッ?』
『いいからいいから!終わったら美味しいおつまみ奢りますから!いざ進め~!にゃー!』
『にゃー!?』
~
(ちょっと酔っ払ってるみたいなテンションから繰り出される、位と母上と刀無かったら十は死んでるこの全霊・・・!手合わせしただけで解る、『人間業じゃない』・・・!)
サーヴァントだから当たり前とか、そういう次元ではない。振るわれる武具、一つ極めたならば聖の称号を戴くに相応しき境地が武器の数だけ襲い来る。全ての近接武器を無茶苦茶な境地で振るう、まさにそれ人間に至らぬ業。即ち軍神。武蔵ちゃんのボジョレー・ヌーボー評価待った無しな武芸の極致である。それが今、稽古と手合わせならぬ本気の本気で自身に向けられている事となっているのだ。其処には、微塵も介在しない慈悲・・・そして、彼女の人となりを現すものが其処にある。
「あはははは!見事、見事!世界を救うに相応しき武勇!人々を護るに相応しき強さ!よくぞ只人の身で其処まで練り上げました!『どうやらあなたは、私と同じ様ですね』!」
【──その言葉の意味、きっと物凄い親愛が篭ってると受けとるから、ね!!】
「──!!」
軍神の刃を、天照、将門公、母の武勇以下総動員して迎え撃ち、槍と剣を振るい下ろした景虎の【首を掴み、投げ飛ばす】。敢えて得物を放してのパンクラチオン。遥か彼方に投げ飛ばされ岩壁に叩き付け、リッカは改めて構え直す。
「あはははは!なんとなんと、組手も得手でしたか!ますます精強、ますます気丈!あなたは本当に強いですね、リッカちゃん!」
首を掴まれ、投げられながらも絶やさぬ笑み。素早く立ち上がり構える景虎。此処に、リッカは彼女の本質を見抜いた。
(──笑う事しか出来ないんだ。知らないんだ。もしこの強さが、この凄まじさが生まれつきなら・・・『人間の世界で受け入れられる筈がない』)
それは、自身にも痛い程解る感情であり体験だ。グドーシに救われ、教えてもらった笑顔や感情。本当の意味で理解できたのはずっと後。ただ、『彼がそうしていたのが眩しかったから、教えてくれたから真似してみせた』類いの笑みと感情。一生懸命行ってみせた感情の模倣、グドーシの笑顔を思い浮かべながら、顔の筋肉を動かしていただけのあの頃。彼女はきっと、それを死ぬまで続けていたのだろう。あの笑みは喜怒哀楽ではない。人の世界に生きる上での『折り合い』でしかないのだ。
「おや、もう五分経ちましたか。楽しい時間はもうあっという間・・・休憩にしましょうか、リッカちゃん!」
【ん、ありがとうございました!】
・・・きっと、彼女と自分が出逢ったのには意味がある。恐らくとても・・・彼女と私は似た者同士だ。刃を置き、笑顔のままに駆け寄る景虎と縁側に向かう。
私に、グドーシみたいに出来るのかな・・・。そんな緊張を、胸に懐きながら。
~
「人と言うもの、良く解らないと思いません?」
昼間から熱燗を用意し、つまみを持ち出しながら景虎は、なんとなしにそんな言葉を口にした。天気を気にするような、献立は何か考えるような気楽さで空を眺めながら
「弱く、脆い筈なのに同じ人を恐れ、食い物にする。他者を憎み合い、恨み合い、殺し合う。なんなんでしょうね?増えたいのか、滅びたいのか・・・生まれてこの方、理解出来ないんです。というか今も解らないんです。リッカちゃんは解りますか?私と同じリッカちゃんに是非聞いてみたいと思っていたのです」
「人間かぁ・・・一つ解ることがあるよ。いっぱいいる」
「いっぱい・・・まぁそれは確かに・・・」
「肌の色が違ったりする」
「それも確かに・・・!あはははは!言われてみればそうでしたね!皆全て同じと、半ば本気で思ってました!」
人体的特徴を言われ、したりと笑う景虎。言葉に偽りは無いのだ、きっと。『彼女は本気で人間の区別を知らなかった』のだ。笑顔は浮かべど、その尊さは知らぬのだ。
「それでいて、強いものを恐れ、遠ざける。兄も、父も、みな私に言いました。『目が恐ろしい』『あやつに人の心など無い』と。何故でしょう?どうして人は弱いくせに、強きを疎んじ遠ざけるのでしょう?」
「そうだなぁ・・・きっと人間は相互理解の機能が備わってないんだよ。わからないものは怖い。怖いから嫌い。色々考えてても、根っこはシンプルな生き物なんだよ」
「成る程・・・人とは道理より情を優先するものなのですね・・・。あははは!リッカちゃんは物知りですね。私には、こうして対等に話せる人間は一人もいませんでした!皆怖いと、恐ろしいと離れていくもので、えぇ」
リッカは一つ一つ、景虎に人間のありのままを説いていく。それが正解か、間違いかは大切じゃない。『こういった対話など一度も体験したことがないから、全て初めて知ることなのだ』。景虎にとっては。だから、リッカの見てきた人間の観点が新鮮で、愉快なものに聞こえる。対話自体が楽しいのだ。軍神ではなく、一人の人間として話せる──世界を救えるほどに強いと認識している──リッカだけが、自身に対等と確信しているからだ。
「リッカちゃんとのお話は楽しいですね。私、妹が出来た気分です。お酒飲みます?」
「未成年!未成年です!」
「ありゃ、残念。今日は付き合ってくださりありがとうございました。私、見ての通り軍神ですので、人間という生き物がさっぱり理解出来ないのです。意味不明なのです。だから──リッカちゃんがまた、私にこうして教えてくれませんか?あなたが命を懸けて護った人間という生き物は、さぞや素晴らしい生き物なのでしょうし!」
景虎の言葉は『あなたが護った生き物ならきっと立派なのだろう』という、理解の本質とは真逆にいる見解だ。彼女は未だ、人という種がどういうものなのかを実態すら理解していない。
「~。それは勿論!でも、私も仲良くするのは得意技だけど、救ったり導いたりはからきしだしなぁ・・・ん~・・・」
説法はグドーシに、救いは聖人たちに、尊ぶ事は姫様に。自身だって与えられた側だから、間違っても得意だなんて言えない。そんな自分が、なにかを教えられるのだとしたら。
「・・・解った!じゃあ虎さん、私から目を離さないで!私の生きざま、生き方、戦い、よーくその綺麗な目に焼き付けて!」
「は、はい?」
「私が誇れるもの、胸を張って示せるもの。それがあるんだとしたら。神様にも知って貰える、誇れるものがあるとしたら──それはきっと、私自身の生き様だけだと思う。お虎さんに伝えられるものは、私自身の生き方と生き様で伝えてみせる!」
がっしりと肩を抱き、真っ正面から景虎の目を見つめるリッカ。奥に澱みきった神の緑瞳と、獣の紋様刻みし金眼が交錯し合う。
「見てて、お虎さん!あなたが同じと呼ぶ
「──、その生き様で、ですか?」
「うんっ。あなたに伝えてみせる・・・!人間が抱く強さがなんなのか!私はきっと、その強さを誰よりも知ってる
「──あははははっ!良いでしょう、期待していますよ!リッカちゃん!私に見せてください、人のなんたるか!」
それではもう一本行きましょうか!いつになく上機嫌な虎さんに、リッカは再び究極の組み手に付き合わされるのでしたのさ──
(・・・正直な話、酔狂な話だとは思います)
リッカ「そういえば虎さん、トイレでいきんで死んだってホント?」
景虎「んなっ!?だ、誰がそんな事を!?」
リッカ「ノッブが言ってた!」
「あのうつけ・・・下剋上の時間ですかね・・・!」
(これ程強く、気高いものが。これ程真っ直ぐで、誇り高いものが。何故、人間などに必死になるのか。それほどまでの価値が、はたして自身が護ってきた人間にあったのか?)
リッカ「虎さんってランサーだよね?なんでお馬さん?」
「軍神ですので!」
(解らない、解りません。ですが──『だからこそ、知りたい』。彼女が見て、知った答え。人を護るに足る何かを。彼女が受け取った何かを。私と同じで、でも違う何かを。彼女を見て知りたいと思います)
「あははははっ!では帰りましょうか、リッカちゃん!」
(それは、リッカちゃんの人徳なのでしょうか?・・・解るまで、彼女と約束を果たすまで、彼女をただ護りましょう。・・・何より・・・)
リッカ「はーい!稽古はその、1日十分で・・・」
~
長尾晴景「綾・・・わしは、わしは景虎が恐ろしい・・・寺に入り、物の道理を学んだというが、あやつは幼き頃より何も変わっておらぬ・・・」
綾「何を・・・景虎は仏に帰依し礼節に厚い・・・」
「あやつに人の心など無い!あやつは人とはこうあるべしという範をなぞっているだけに過ぎぬ・・・。あの目、あの目は人の目ではない・・・人の身を越えた、得体の知れぬ化け物の目よ・・・」
綾「・・・兄上、もう、お休みください」
「恐ろしい・・・わしは神仏よりも、景虎の目が恐ろしい・・・」
~
──綺麗な瞳のお姉さん!
──その綺麗な目に、焼き付けて!
「──あははははっ!考えておきますよ!」
(・・・彼女に眼を綺麗と言って貰えると、なんだかいつもより笑い声が遠くに響く気がするのです。そして、そのいつもと違う笑い声が・・・なんだか、心地よい気がするのです──)
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